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◇11
しおりを挟む目が覚めた。大きな、着信音が耳に入ってきたからだ。
……目が覚めた?
そして、着信音?
一気にサァァ……と寒気がし、勢いよく電話に出た。
「申し訳ございませんでしたっ!!」
『さっさと開けろ』
「かしこまりましたっ!!」
玄関に走って、解錠し、ドアを勢いよく開けたのだ。そこには、不機嫌顔を浮かべる湊さん。
あっ、絶対怒られるやつだ。と、覚悟を決めたのに。
「ドアを開けるなら最初に誰が来たか確認しろ」
「あ、はい……」
と、私を押して部屋に入ってきたのだ。
冷ややかな視線は、なかった。
「悪い、遅くなって」
「あ、いえ、すみません、寝ちゃって……」
「だろうなと予測は付いてた」
今何時だろう、と思いつつ二人でリビングに。壁掛けの時計を見ると……時刻は21時20分を指していた。
確か、20時になると言っていたような気がする。
「……私、一時間以上、待たせちゃいました……?」
「いや、たったの5分だ」
……マジか。じゃあ、この時間になるまで仕事して戻ってきたという事か。大変だな、警視さんも。
湊さんは、リビングに荷物を置き洗面所に消えていった。手を洗ってくるらしい。
さて、それでは私は帰り支度を……
「食ってくか?」
「えっ?」
「腹、減っただろ。待たせたお詫びと言っては何だが、食ってけ」
と、戻ってきていた湊さんはそのままキッチンに向かっていった。冷凍うどんでいいか、と言われたので同じくキッチンに向かうと、冷凍庫を開けた湊さんが視界に入った。
冷凍庫の中には、結構多く入っているようだ。けれど……作り置きだろうか。料理をするらしいから、作れる時に一気に作る、と言ったところか。と言っても、うどんはさすがに作り物ではないらしい。
「あっ、私、手伝います!」
「言ったろ、お詫びって」
「私寝ちゃいましたし、待たせちゃいましたし、なので何かやらせてください!」
「そうか。じゃあ……」
と、クッキングが始まったのだ。と言っても、初めてのキッチンなので勝手が分からず、そこに入っている菜箸を取ってくれ、くらいしか手伝えなかった。
対する湊さんはというと……慣れた手さばきでねぎを切り、と素晴らしい手作業を披露してくれた。つい見入ってしまったけれど、ちゃんとお手伝いはした。
簡単に出来てしまったシンプルなうどんは、私が居眠りしてしまっていたテーブルに並べられた。そして、二人揃って「いただきます」と食べ始めたのだ。
「どうだ」
「お、美味しいです……!」
一応私も料理をするけれど、ここまで美味しく作れるだろうか。警察官としても優秀で、料理も上手とは……レベルが高すぎる。
あればかまぼこも乗せたいところだな、と言っているけれど……もう十分美味しいです。
美味しいうどんは、すぐにぺろっと完食してしまった。あぁ、美味しかった。
作ってもらったのだから片付けは私が、と言い出したけれど却下され、せめてお皿拭きは、と仕事をゲットした。
「このまま泊まってくか?」
「えっ?」
キッチンに二人並んで片づけていた時、湊さんから意外な言葉が出てきた。泊まる、という事は湊さんの家に泊まらせていただく、という事だろうか。
「もうこんな時間だしな。俺も別にいい」
「……いえいえいえ!! これ以上ご迷惑をおかけするのは!!」
「いや、迷惑をかけたのは俺の方だろ。こんなに遅くなってしまったんだ。明日の予定は?」
「……午後から、大学です」
「ならいいだろ。まだ眠いだろ?」
確かに、眠いけれど……流石に雇用主の家に泊まらせていただくのは、どうかと思うのだが。
「服も貸すし、近くにコンビニがあるから必要なものは調達出来る。ソファーもデカいから俺でも寝られる」
「え……あ……」
これは、本気なのだろうか。それとも、冗談なのだろうか。一体どっちだ。私は今、試されているのか? じゃあ、何故?
混乱していた時、耳元で囁かれてしまった。
「何、いやらしいことでも考えたか?」
「湊さんっ!!」
「ははっ、冗談だ。だが、泊まっていってもいいし、嫌なら家に送る。どうする?」
「……帰らせて、いただきます」
「分かった」
冗談が過ぎる。そして心臓に悪い。しかも耳元で言わないでほしい。
いやらしい事なんて……湊さんの意地悪!!
心臓が騒がしいが、さすがに手に持っている皿を誤って落として割ってしまうのは冗談じゃないから平然を装った。落ち着け、と心臓に言い聞かせつつも静かにお皿をキッチンの台に置いた。
そして、ようやく湊さんの家から退散することが出来た。
「おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
……今日は、早くお風呂に入って寝よう。うん、それがいい。
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