イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫

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◇14

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 少しずつ浮上してくる意識を感じ、少しずつ重たい瞼を開いた。

 おかしいな、こんなにふかふかな布団は初めてだ。枕の高さもいつもと違うような気がする。

 ようやく目が使いものになったと思った次の瞬間、目を疑った。目の前に、眠っている湊さんがいたからだ。

 数十秒、頭の機能が停止した。そして、一言。


「……やっちまった……?」


 とりあえず、服は乱れてない、大丈夫。……いや、大丈夫ではないんだが。

 けれど、私の一言で起こしてしまったらしい。湊さんの目が開かれた。


「おはよう」

「お……はよ、ございます……」


 いや、のんきに朝の挨拶をしている場合じゃないのでは?

 すぐに理解した。これ、湊さんの家のベッドだ。そして、一緒に寝てしまっていて、何故だかぎゅっと抱きしめられている。


「……やらかしました?」

「やらかすようなほどではないから安心しろ。頭、痛いか」

「……いえ、正常です」

「そうか」


 いや、正常なのかどうかは疑ってしまいそうだが。でも、何故こんな事になってしまっているのだろうか。昨日、同僚の皆さんと食事をして、お酒飲んで……あぁ、お酒か。

 やっぱり、昨日の焼酎がマズかったのか。飲ませてきた海さんを恨んだほうがいいのか、それを回避できなかった私を罵ったほうがいいのか。いや、アルコールの匂いに気が付かなかった私が悪い。


「あの、皆さんは……?」

「生きてる奴に全員任せてタクシーに突っ込んだ」


 い、生きてる奴は……


「そ、ですか……あの、すみませんでした……」

「別にいい。話は聞いた。あれは広山が悪い」

「……」


 私は何と返せばいいのだろうか。

 いや、待てよ? そういえば昨日、湊さんは誰かにベッドを使われると大激怒すると聞いたような気がする。けれど、私ベッドにいません? しかも、本人と一緒に。抱きしめられてるし。

 見たところ、湊さんは怒ってない様子だし。

 昨日早瀬さん、泊まりたいって言ってたけれど、生理的に無理って返してたよね。

 ……どゆこと?

 さてと、と身を起こした湊さん。すると、何かに気が付いたような素振りをし、私に顔を近づけてきた。耳元で囁いてきて……


「手は出してないから安心しろ」

「……」


 時間が止まったかのように、固まった。そんな様子を見てクスクス笑いつつもベッドから出ていた。


「ここで着替えていいか?」

「……」


 そう言って、着ていたTシャツの裾を少しめくって見せてきた。

 その言葉と、チラッと見えたお腹で、ぶわっと顔が熱くなり火照ってしまった。今、何と言った? ここで着替えるですって……!?

 面白がっているのか、冗談だと笑って出ていった。


「……心臓、やば」


 しばらくは、顔の火照りと心臓が収まらなかった。布団から湊さんの匂いがするから余計だ。……私は断じて変態ではない。そこは勘違いしないでほしい。

 最近、冗談が過ぎる気がする。あの人って結構冗談言う人だったんだ、というよりもこのままじゃ心臓がもたない。あの人は顔が整ってるから余計だ。

 アルバイトはあと残り1ヶ月。けれど、終了まで私が無事でいられる事を祈っていたほうがいい気がする。


 あの後、湊さんが朝食を作ってくれていたようで、とても美味しそうな匂いがリビングに漂っていた。


「今日は仕事だから朝飯食ったら家に送ってやる」

「あ、いえ、自分で帰れますので……」

「別に気にするな」


 先ほどの事もあるから、目が合わせられない。さっきのTシャツからいきなり仕事姿にチェンジしているから、というのも新鮮すぎているけれど。

 ちらりとお腹を見てしまって、警察官さんなんだから腹筋バキバキなんだろうなぁ、と思ってしまいそうになったけれど、アホかそんな事考えるなと自分に言い聞かせた。

 全く、なんて事してくれてるんだこの雇用主は。

 それよりも、とっても美味しい料理に集中しよう。お邪魔する機会はもうないかもしれないから、食べられるのはもしかしたら今日で最後かもしれない。

 寂しい気がするのは、それだけ湊さんに胃袋を掴まれてしまっているという事だろうか。役得ではあったけれど……悲しいな。

 とにかく、美味しそうな朝食は味わって食べよう。いただきます。

 ……うん、二日酔いにはこの味噌汁はだいぶ効くな。美味しい。

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