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◇22 END.
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「瑠奈っ!!!」
彼の大きな声が、耳に入ってきた。声のする方に視線を向けると、先ほど別れた彼の姿が見える。けれど、佐々木先輩に乱暴に胸ぐらを掴み起こされ、廊下に兼ねているキッチンの収納扉が強引に開く。扉の内側に仕舞ってある包丁が抜かれようとしていたけれど……
「確保っ!!」
私から離され、包丁を握る手を掴み、床に押さえつけられいた。そして、佐々木先輩の手首に手錠がかけられる。そこに至るまでが早すぎて、私はこの状況に理解出来たのは他の人達が玄関から入ってくる頃だった。
「瑠奈っ!」
「あ……」
警察に佐々木先輩を渡した湊さんは、私に駆け寄り抱きしめた。それまで生きた心地がしなかったのに、ようやく息が出来たように感じた。
「悪い、遅くなった。ごめん……ごめんな」
「う……」
言葉が出てこない。その代わり、無意識ではあったけれど、抱きしめてくる彼に手を回し、強く抱きしめ返した。
先ほどまで目元に溜まっていた涙が、一気に流れ出る。湊さんが謝るようなことは全くないはずなのに、悪いのは私のはずなのに。でも、それを訂正する言葉は出てこない。その代わり……
「湊、さん……」
「あぁ、瑠奈」
何度も何度も、彼の名前が口から出てきた。彼がここにいる事を、確認するかのように。
怖かった。
豹変した、自分が知っているはずの人の姿を見て。私に近づいてきて、触れてくることが怖かった。
会いたかった。
さっきまで、自分を安心させてくれていた、私を助けてくれた人に。
もう、離したくない。
……言わなきゃ、ダメだ。
そう思うと、回す手に力が入った。
「……湊さん」
「ん?」
「……大好き」
「っ!?」
「ずっと、一緒に……いてください……」
さっきまで、ちゃんと伝えられるか不安ばかりだった。
好きだって言ってもらえたのに。
けれど、今伝えなきゃダメだって思ったら、すぐに口から出てきた。
彼は、どう返してくれるだろうか。
「あぁ、ずっと一緒にいる」
「っ……」
この人は……私の欲しい言葉ばかりくれる。本当に、これでいいのかな。
……と、思っていた時だった。
いきなり離されたと思ったら立ち上がり私を持ち上げて抱えてきた。
そして、歩き出して玄関を出た。
「事情聴取は明日だ」
「はいっ」
部下のような人にそう伝えつつもそのまま一階に降りる階段の方に。
そ、そっか、事情聴取か……さっきのコンビニでの事情聴取もあったっけ……
でも……
「いいんですか?」
「ん? 俺には仕事が残ってるからな」
し、仕事?
「高木瑠奈、失踪に浮気にその他諸々の容疑で逮捕だ」
「……えぇえ!?」
た、逮捕!? 失踪に、浮気!?
「これからウチでお仕置きだ。もし抵抗するのであれば公務執行妨害罪も追加されるぞ」
お、お仕置き……!? 湊さんの家で……?
わ、私、これからどうなっちゃうの……?
「お仕置きを延長されたくないのであれば、大人しく連行される事をお勧めする」
「……はい」
い、一体どんなお仕置きが待ってるんだろう……お、恐ろしい。
――嘘から始まった私達の関係。
「黙秘も嘘も禁止だからな」
「嘘なんて言いませんよ……!」
「ならいい」
――偽りを本物に。
今までの3ヶ月間。ずっと、嘘をついてしまっているという気持ちで苦しかった。とてもいい人達ばかりだったから、余計苦しかった。
湊さんへの気持ちも、この関係は3ヶ月で終わるのだからと蓋をしてきた。
けれど、そんな事はもうしなくていい。
苦難は待っていると分かっているけれど、湊さんと一緒であれば怖いものなしだ!
しいていえば、真紀ちゃんになんて言えばいいか、くらい?
だから、大丈夫だよね。
「あの、湊さん、お手柔らかに……」
「それはお前の態度次第だ」
……湊さんのいじわる。
END.
彼の大きな声が、耳に入ってきた。声のする方に視線を向けると、先ほど別れた彼の姿が見える。けれど、佐々木先輩に乱暴に胸ぐらを掴み起こされ、廊下に兼ねているキッチンの収納扉が強引に開く。扉の内側に仕舞ってある包丁が抜かれようとしていたけれど……
「確保っ!!」
私から離され、包丁を握る手を掴み、床に押さえつけられいた。そして、佐々木先輩の手首に手錠がかけられる。そこに至るまでが早すぎて、私はこの状況に理解出来たのは他の人達が玄関から入ってくる頃だった。
「瑠奈っ!」
「あ……」
警察に佐々木先輩を渡した湊さんは、私に駆け寄り抱きしめた。それまで生きた心地がしなかったのに、ようやく息が出来たように感じた。
「悪い、遅くなった。ごめん……ごめんな」
「う……」
言葉が出てこない。その代わり、無意識ではあったけれど、抱きしめてくる彼に手を回し、強く抱きしめ返した。
先ほどまで目元に溜まっていた涙が、一気に流れ出る。湊さんが謝るようなことは全くないはずなのに、悪いのは私のはずなのに。でも、それを訂正する言葉は出てこない。その代わり……
「湊、さん……」
「あぁ、瑠奈」
何度も何度も、彼の名前が口から出てきた。彼がここにいる事を、確認するかのように。
怖かった。
豹変した、自分が知っているはずの人の姿を見て。私に近づいてきて、触れてくることが怖かった。
会いたかった。
さっきまで、自分を安心させてくれていた、私を助けてくれた人に。
もう、離したくない。
……言わなきゃ、ダメだ。
そう思うと、回す手に力が入った。
「……湊さん」
「ん?」
「……大好き」
「っ!?」
「ずっと、一緒に……いてください……」
さっきまで、ちゃんと伝えられるか不安ばかりだった。
好きだって言ってもらえたのに。
けれど、今伝えなきゃダメだって思ったら、すぐに口から出てきた。
彼は、どう返してくれるだろうか。
「あぁ、ずっと一緒にいる」
「っ……」
この人は……私の欲しい言葉ばかりくれる。本当に、これでいいのかな。
……と、思っていた時だった。
いきなり離されたと思ったら立ち上がり私を持ち上げて抱えてきた。
そして、歩き出して玄関を出た。
「事情聴取は明日だ」
「はいっ」
部下のような人にそう伝えつつもそのまま一階に降りる階段の方に。
そ、そっか、事情聴取か……さっきのコンビニでの事情聴取もあったっけ……
でも……
「いいんですか?」
「ん? 俺には仕事が残ってるからな」
し、仕事?
「高木瑠奈、失踪に浮気にその他諸々の容疑で逮捕だ」
「……えぇえ!?」
た、逮捕!? 失踪に、浮気!?
「これからウチでお仕置きだ。もし抵抗するのであれば公務執行妨害罪も追加されるぞ」
お、お仕置き……!? 湊さんの家で……?
わ、私、これからどうなっちゃうの……?
「お仕置きを延長されたくないのであれば、大人しく連行される事をお勧めする」
「……はい」
い、一体どんなお仕置きが待ってるんだろう……お、恐ろしい。
――嘘から始まった私達の関係。
「黙秘も嘘も禁止だからな」
「嘘なんて言いませんよ……!」
「ならいい」
――偽りを本物に。
今までの3ヶ月間。ずっと、嘘をついてしまっているという気持ちで苦しかった。とてもいい人達ばかりだったから、余計苦しかった。
湊さんへの気持ちも、この関係は3ヶ月で終わるのだからと蓋をしてきた。
けれど、そんな事はもうしなくていい。
苦難は待っていると分かっているけれど、湊さんと一緒であれば怖いものなしだ!
しいていえば、真紀ちゃんになんて言えばいいか、くらい?
だから、大丈夫だよね。
「あの、湊さん、お手柔らかに……」
「それはお前の態度次第だ」
……湊さんのいじわる。
END.
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