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第一部 一章「辺境の呪い星」
「炎の魔銃」
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それはまだ彼女が町でエリーを捜していた時のことだ。
日が暮れ夜になろうと、それでもマーサはエリーを必死になって捜していた。
町からも徐々に離れ近くの茂みの置くにへと進む。
「エリーちゃーんっ。何処にいるの? お願いだから出てきて!」
いつになっても戻ってこない。姿も見当たらない。
それに付け加え昼間の銃声もあり不安で仕方がなかった。
もしそれと関係しているとなると焦る気持ちが冷静な判断を鈍らせていく。
「誰か……、神様ぁ。お願いですから、あの子を……」
泣きながら神に祈る。
きっとあの子も寂しくて泣いているに違いない。あの子を一人にしたくない。
出会ってからしばらくの間、彼女は一人でいると時おり何かに怯え夜は悪夢にうなされることもあった。
内容は覚えていなくても恐怖だけはハッキリと覚えていた。
そんな少女はマシになったとはいえ心配でしかない。
「お願い……、誰か……!」
震えた声に誰も気付いてくれない。
そう思ってい途端、不意に背後から鈍い声が響いてきた。
◆
「……マーサさん?」
現状をこの中で一番理解していないエリーは震えた声で目の前のマーサの名を呼んだ。
人形のような顔をカクンと振り向き、次に不気味と笑みを浮かべていくる。
『あぁ、……ああ! 私のエリーちゃん。可愛い私の、私だけの【厄災の姫】!』
そう歓喜の声をあげエリーに寄りかかる。同時に、彼女に憑いている目玉がギョロリとして顔にへと近づいた。
マーサの声は先ほどの禍々しい声とが合わさったかのようである。愛でるように触れられた彼女の手はとても冷たく、混乱するエリーは身をカタカタと震わせた。
『怖かったでしょ……? こんな危ないのと一緒にいて』
「……っ、っ」
違う。今更になって全てが違うことに気付き、浅く首を横にへと振る。
これはマーサじゃない。姿はそれでも、彼女というものが欠片も感じられない。
「……おい、クソ野郎っ。――お前、その女を喰っただろ?」
唐突に投げられた言葉にエリーはハッとした。
するとマーサは口元を歪め笑い出す。
『喰った……? 喰った! この娘が願った、『会いたい』とっ。だから叶える代わりに喰った!』
狂った声にエリーは愕然として考えたくもないことを頭に思い浮かべてしまった。
「はっ! 適わないと思ってそんなくだらないことで力付けたのかよ! 滑稽だなぁ、おい!」
その発言の直後、クロトの右脚を鋭くした澱みが貫く。
熱が体内にまで侵入し骨すら溶かす高熱が襲う。
「……ぐっ、がぁ!」
『黙れ! 黙れ、黙れ黙れ、黙れぇええ!!!』
クロトの右脚は大量の血を流し床にへと滴らした。
その光景はなにもできないエリーの心を傷つけていく。
「……めて。……やめて」
少し前までさんざん彼には酷いことをされた。
だがその報いだと、誰が笑えようか。
少なくともエリーは笑えない。
例え誰であろうと、人が傷つくところなど見たくはなかった。
それが冷酷な人間だろうと。自分を傷つけた酷い彼だろうと。
大事な人の姿でされれば尚更心が痛んだ。
『でも、もう大丈夫』
突然、先ほどまでの叫びをピタリとやめて言葉を切り替える。
再びエリーにへと寄り添い手を伸ばす。
『だってエリーちゃんと一つになるんだもの。可愛くて、美味しそうなご馳走……』
酷い寒気を感じ、エリーは咄嗟にマーサの手を払って逃げ出す。
しかし、その足には鎖がまだ繋がれていたままだった。
床に転がりすぐに起き上がろうとしたが繋がれた脚をマーサが絡め取って放そうとしない。
『ちょうだい……エリーちゃん』
「ぁ……っ、いや……」
脚に澱みが纏わり付いてくる。じわりとした熱が脚を覆い、動きを封じていく。
『その体も、血も全て……』
大きな影が覆い被さるように広がりエリーの全てを呑み込もうとしていく。
逃げようにもどうすることもできない。
絶望すら抱き、星の瞳が陰りを見せた時、
「――いぁああぁあああッ!!!」
エリーは恐怖の限界を超え悲鳴をあげた。
「――【爆ぜろ。ニーズヘッグ】ッ」
刹那に訪れた静寂にクロトはそう唱えた。
そうして銃を自身を押さえ込んでいる澱みに向けトリガーを引く。
銃弾を撃ち込まれた澱みはしだいに膨れ上がり爆炎を起こし破裂した。
解き放たれたクロトに危機感を抱いた澱みは動きを止めて振り返る。視界にへと入った時には既にむき出しになった眼球に銃口が向けられていた。
動揺に身動きが取れず硬直とする。
あまりにも行動が早すぎる。その疑問を抱くのも無理はない。
クロトの片脚は使い物にならないはずなのだから。
しかし……
『馬鹿な……!? 貴様……、脚、は!?』
確かに貫いたはずの脚を見るも、そこには一切傷がない。
代わりに淡い炎が灯り、揺らぎ消えていった。
「――ああ。とても痛かったぞ、クソ野郎」
驚愕に見開いた目。光の球が銃口から放たれその眼球を貫く。
潰れた眼球は黒い液体を巻き散らし奇声をあげる。今までとは違い急所だったのか傷は塞がらずある。
ひと一人を喰ったことで大きく膨れ上がった澱みの身はグチャグチャに崩れ、爆炎を起こした箇所から炎が広がり澱みは異臭を放って少しずつ燃やしていく。
『アァッ、熱いぃ……っ。ただの、炎じゃ、ない……!? 馬鹿な……、その銃……まさか……っ』
「俺の魔銃は特別製でな。ただの魔銃じゃなく悪魔【ニーズヘッグ】が宿った代物だ。そこらのと一緒にするな」
その名に潰れた目玉はまたしても狼狽として揺れ動く。
同時に、声をひきつらせ怯えた様子でもあった。
『……ッ!? ニーズ、ヘッグ……!? 業火の蛇っ、あの大悪魔、炎蛇が……な、ぜ……っ、なぜ貴様のような人間、がぁ……ッ!』
疑問を抱いたまま、異形の魔の者は姿を消滅させて消えていく。
残ったのは生気のないマーサの肉体だけだ。
それは力なく床にへと崩れ落ちた。
「……マ、マーサさん?」
目の前で倒れ動かなくなったマーサの手をエリーは取る。
その手は先ほどと変わらず冷たいまま。よくよく見ると彼女の肌の色も青白くある。
半開きの目は虚ろで。
まるで……
「見ればわかるだろうが。そいつはもう死んでる」
――死んでいる?
動くことも、話すことも、今朝のように笑うことも、なにももうできない。
エリーは呆然と彼女を見下ろし頬にへと触れる。
「嘘……ですよね? なにかの間違い、ですよね?」
受け止められない。そんな現実。
否定したくもあり、間違いだと何度も問いかける。
「悪い夢なんですよね……? きっと、覚めたら……っ、マーサさんも」
「現実を受け入れろ。これがお前の現実だ」
慰めや哀れみの言葉すら、彼はかけてくれなかった。
そしてマーサの肉体は砂のように崩れエリーの手からこぼれ落ちていく。
「……私の……せい、なんですか?」
「……」
「私のせいで、マーサさんを巻き込んだんですか……?」
「……お前はそういう存在だろうが。お前は厄災をもたらす、呪われた奴なんだからな」
「…………」
こんな別れがくるなんて思ってもみなかった。
こんな現実など知りたくもなかった。
ずっと、なにも知らずにいたかった。
それでも、いつかこうなっていたかもしれない。
現実というなの真実を刻めば、一気に視界が揺らいで涙が溢れてくる。
「ぁ……、あぁ――……」
エリーはその時心の底から悲しみに涙を流し泣きじゃくった。
認めるしかない現実に涙が止まらない。
「ごめ、なさいぃ……っ。ごめんなさい、ごめんなさい――」
何度も謝った。
今まで迷惑をかけたこと。自分のせいでこんなことになってしまったこと。巻き込んで死なせてしまったこと。
どれだけ謝っても彼女は帰ってこない。
その自然の摂理に抗えず、エリーにはただそうやって言葉にして言うことしかできなかった。
――本当に、ごめんなさい。
◆
夜が明けた時には何事もないかのように朝が来る。
廃墟の近くには夜通しで掘った穴にへとマーサだった砂を納め墓を建てた。
未だにエリーの目元には泣いた跡が残っており赤い。ショックに気だって楽になれず、ちょっとしたことでまた泣いてしまってもおかしくはない。
うつむくエリーはその後両頬を軽く叩く。
悲しみを堪え、彼女は笑顔を必死に作った。
墓に向かって頭を下げる。
――お世話になりました。ありがとうございました。
そう心で呟いて。
そして、
「ごめんなさい……」
最後に謝って顔を上げる。
廃墟をぐるりと回るとクロトの姿が見えた。
仏頂面で空を眺めている。
ずっと待っていたのか、エリーが近づくと不機嫌そうに振り向いてくる。
「おせーよクソガキ。いつまで俺を待たせる気だ?」
「……その、ごめんなさい」
「ふんっ。じゃあとっとと――」
「――ッ」
強引に腕を引かれるとエリーは苦痛に顔を歪めた。
咄嗟にクロトは手を放す。
「……お前、脚」
「え、っと……」
昨夜の纏わり付いた熱のせいか、エリーの片脚にはうっすらと火傷の跡がある。
酷くはないが歩く度に少し痛みを感じてしまう。
言い出しづらく、エリーはそっとその片脚をクロトの視界から逸らした。
「~っ、ああ、うぜぇっ。……行くぞっ。遅いと承知しないからな」
「あっ、はい……!」
少し早いペースにエリーは合わせクロトの後を追った。
痛みはあるが付いていけないほどではなく、エリーは文句もなくいる。
「……あの! クロトさんは、平気なんですか……? 夜中の、こと……」
初めて名を呼び恐る恐る問いかける。
知る限りでは確かに大怪我をしていたはずだ。
それなど歩くことすらままならないような……。
だが彼にそんな傷は何処にもなく衣服だって問題ない。不思議そうにまじまじとエリーは彼の脚を確認する。
見間違いだったのだろうか。
いつまでも視線を集中させているとクロトはそう心配そうにするエリーを叱る。
「あっ? そんなことお前に言われる筋合いはないんだよ。俺の傷の心配するくらいなら自分の身でも気にしてろっ。お前が死ぬのが一番の迷惑だ」
「……は、はい」
今のエリーはクロトにへと付いていく。
帰る場所はもうない。それに、これ以上関わった人たちに迷惑もかけたくない。
仕方なくエリーはクロトという男と共に行くことを選んだ。
それはクロトにとって好都合でもあり、それならと余計なことをしない。
「これから、何処へ行くんですか……?」
「知らん。とりあえず同じ場所にいつまでもいるつもりはないからな」
「はあ……」
「あと、余計なこと聞いたら容赦しないからな?」
「……」
渋々エリーはそう言われると頷く。
少し進むと木々の隙間から自分のいた町がわずかだが見える。
何事もなかったかのように来る朝日が差し込み、住人たちの日常が始まるのだろう。
切ない思いで眺め、ほんの少し脚を止めて町に向かい頭を下げた。
別れの挨拶代わりをし、再びエリーはクロトの後を追う。
――さて。これで条件は揃った。
クロトはただひたすら前にへと進む。後戻りなどせず、彼にあるのは進むということだけだ。
――いらぬ手間をとったが、問題のガキは見つけた。あとはあの女を引きずり出すだけ。
――待ってろよ魔女。必ず見つけ出して、――お前をこの手で殺す。
そう明確な目的を胸に刻み付ける。
冷酷なまでにある魔銃使いの少年――クロト。
呪われた星を宿したとされる厄災の少女――エリー。
二人は共に前にへと踏み出す。
********************
『やくまが 次回予告』
エリー
「どうも、エリーです」
クロト
「クロトだ」
エリー
「ついに始まっちゃいましたねぇ、クロトさんとの二人旅」
クロト
「無駄に馴れ馴れしくないか? 二人旅言うな」
エリー
「でも事実ですよね? 現実は受け止めないと」
クロト
「お前にだけは言われたくないな……」
エリー
「ところで気になってたんですけど、クロトさんって幾つなんですか?」
クロト
「なぜ今此処でそれを聞く?」
エリー
「ちょっと気になっちゃいまして。私の予想ですと私より五つほど上ですか? 十五歳くらい」
クロト
「……違う」
エリー
「え? ひょっとして十四でしたか?」
クロト
「下げるなっ。俺はもう十七だ!」
エリー
「え!? そうなんですか? でも町にいたお兄さんでクロトさんと同じ年の人いましたけど、もっと背が高かったので」
クロト
「……お前。ひょっとして喧嘩売ってるのか?」
エリー
「そんなことありませんよ。普通の感想です」
クロト
「OK。黙って俺に従ってろクソガキ」
エリー
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第一部 二章「殺せる者・殺せない者」。ところでクロトさん。こちらの部屋、どうして一つしかベッドがないんですか?」
クロト
「一つあればじゅうぶんだろうが」
エリー
「……え?」
日が暮れ夜になろうと、それでもマーサはエリーを必死になって捜していた。
町からも徐々に離れ近くの茂みの置くにへと進む。
「エリーちゃーんっ。何処にいるの? お願いだから出てきて!」
いつになっても戻ってこない。姿も見当たらない。
それに付け加え昼間の銃声もあり不安で仕方がなかった。
もしそれと関係しているとなると焦る気持ちが冷静な判断を鈍らせていく。
「誰か……、神様ぁ。お願いですから、あの子を……」
泣きながら神に祈る。
きっとあの子も寂しくて泣いているに違いない。あの子を一人にしたくない。
出会ってからしばらくの間、彼女は一人でいると時おり何かに怯え夜は悪夢にうなされることもあった。
内容は覚えていなくても恐怖だけはハッキリと覚えていた。
そんな少女はマシになったとはいえ心配でしかない。
「お願い……、誰か……!」
震えた声に誰も気付いてくれない。
そう思ってい途端、不意に背後から鈍い声が響いてきた。
◆
「……マーサさん?」
現状をこの中で一番理解していないエリーは震えた声で目の前のマーサの名を呼んだ。
人形のような顔をカクンと振り向き、次に不気味と笑みを浮かべていくる。
『あぁ、……ああ! 私のエリーちゃん。可愛い私の、私だけの【厄災の姫】!』
そう歓喜の声をあげエリーに寄りかかる。同時に、彼女に憑いている目玉がギョロリとして顔にへと近づいた。
マーサの声は先ほどの禍々しい声とが合わさったかのようである。愛でるように触れられた彼女の手はとても冷たく、混乱するエリーは身をカタカタと震わせた。
『怖かったでしょ……? こんな危ないのと一緒にいて』
「……っ、っ」
違う。今更になって全てが違うことに気付き、浅く首を横にへと振る。
これはマーサじゃない。姿はそれでも、彼女というものが欠片も感じられない。
「……おい、クソ野郎っ。――お前、その女を喰っただろ?」
唐突に投げられた言葉にエリーはハッとした。
するとマーサは口元を歪め笑い出す。
『喰った……? 喰った! この娘が願った、『会いたい』とっ。だから叶える代わりに喰った!』
狂った声にエリーは愕然として考えたくもないことを頭に思い浮かべてしまった。
「はっ! 適わないと思ってそんなくだらないことで力付けたのかよ! 滑稽だなぁ、おい!」
その発言の直後、クロトの右脚を鋭くした澱みが貫く。
熱が体内にまで侵入し骨すら溶かす高熱が襲う。
「……ぐっ、がぁ!」
『黙れ! 黙れ、黙れ黙れ、黙れぇええ!!!』
クロトの右脚は大量の血を流し床にへと滴らした。
その光景はなにもできないエリーの心を傷つけていく。
「……めて。……やめて」
少し前までさんざん彼には酷いことをされた。
だがその報いだと、誰が笑えようか。
少なくともエリーは笑えない。
例え誰であろうと、人が傷つくところなど見たくはなかった。
それが冷酷な人間だろうと。自分を傷つけた酷い彼だろうと。
大事な人の姿でされれば尚更心が痛んだ。
『でも、もう大丈夫』
突然、先ほどまでの叫びをピタリとやめて言葉を切り替える。
再びエリーにへと寄り添い手を伸ばす。
『だってエリーちゃんと一つになるんだもの。可愛くて、美味しそうなご馳走……』
酷い寒気を感じ、エリーは咄嗟にマーサの手を払って逃げ出す。
しかし、その足には鎖がまだ繋がれていたままだった。
床に転がりすぐに起き上がろうとしたが繋がれた脚をマーサが絡め取って放そうとしない。
『ちょうだい……エリーちゃん』
「ぁ……っ、いや……」
脚に澱みが纏わり付いてくる。じわりとした熱が脚を覆い、動きを封じていく。
『その体も、血も全て……』
大きな影が覆い被さるように広がりエリーの全てを呑み込もうとしていく。
逃げようにもどうすることもできない。
絶望すら抱き、星の瞳が陰りを見せた時、
「――いぁああぁあああッ!!!」
エリーは恐怖の限界を超え悲鳴をあげた。
「――【爆ぜろ。ニーズヘッグ】ッ」
刹那に訪れた静寂にクロトはそう唱えた。
そうして銃を自身を押さえ込んでいる澱みに向けトリガーを引く。
銃弾を撃ち込まれた澱みはしだいに膨れ上がり爆炎を起こし破裂した。
解き放たれたクロトに危機感を抱いた澱みは動きを止めて振り返る。視界にへと入った時には既にむき出しになった眼球に銃口が向けられていた。
動揺に身動きが取れず硬直とする。
あまりにも行動が早すぎる。その疑問を抱くのも無理はない。
クロトの片脚は使い物にならないはずなのだから。
しかし……
『馬鹿な……!? 貴様……、脚、は!?』
確かに貫いたはずの脚を見るも、そこには一切傷がない。
代わりに淡い炎が灯り、揺らぎ消えていった。
「――ああ。とても痛かったぞ、クソ野郎」
驚愕に見開いた目。光の球が銃口から放たれその眼球を貫く。
潰れた眼球は黒い液体を巻き散らし奇声をあげる。今までとは違い急所だったのか傷は塞がらずある。
ひと一人を喰ったことで大きく膨れ上がった澱みの身はグチャグチャに崩れ、爆炎を起こした箇所から炎が広がり澱みは異臭を放って少しずつ燃やしていく。
『アァッ、熱いぃ……っ。ただの、炎じゃ、ない……!? 馬鹿な……、その銃……まさか……っ』
「俺の魔銃は特別製でな。ただの魔銃じゃなく悪魔【ニーズヘッグ】が宿った代物だ。そこらのと一緒にするな」
その名に潰れた目玉はまたしても狼狽として揺れ動く。
同時に、声をひきつらせ怯えた様子でもあった。
『……ッ!? ニーズ、ヘッグ……!? 業火の蛇っ、あの大悪魔、炎蛇が……な、ぜ……っ、なぜ貴様のような人間、がぁ……ッ!』
疑問を抱いたまま、異形の魔の者は姿を消滅させて消えていく。
残ったのは生気のないマーサの肉体だけだ。
それは力なく床にへと崩れ落ちた。
「……マ、マーサさん?」
目の前で倒れ動かなくなったマーサの手をエリーは取る。
その手は先ほどと変わらず冷たいまま。よくよく見ると彼女の肌の色も青白くある。
半開きの目は虚ろで。
まるで……
「見ればわかるだろうが。そいつはもう死んでる」
――死んでいる?
動くことも、話すことも、今朝のように笑うことも、なにももうできない。
エリーは呆然と彼女を見下ろし頬にへと触れる。
「嘘……ですよね? なにかの間違い、ですよね?」
受け止められない。そんな現実。
否定したくもあり、間違いだと何度も問いかける。
「悪い夢なんですよね……? きっと、覚めたら……っ、マーサさんも」
「現実を受け入れろ。これがお前の現実だ」
慰めや哀れみの言葉すら、彼はかけてくれなかった。
そしてマーサの肉体は砂のように崩れエリーの手からこぼれ落ちていく。
「……私の……せい、なんですか?」
「……」
「私のせいで、マーサさんを巻き込んだんですか……?」
「……お前はそういう存在だろうが。お前は厄災をもたらす、呪われた奴なんだからな」
「…………」
こんな別れがくるなんて思ってもみなかった。
こんな現実など知りたくもなかった。
ずっと、なにも知らずにいたかった。
それでも、いつかこうなっていたかもしれない。
現実というなの真実を刻めば、一気に視界が揺らいで涙が溢れてくる。
「ぁ……、あぁ――……」
エリーはその時心の底から悲しみに涙を流し泣きじゃくった。
認めるしかない現実に涙が止まらない。
「ごめ、なさいぃ……っ。ごめんなさい、ごめんなさい――」
何度も謝った。
今まで迷惑をかけたこと。自分のせいでこんなことになってしまったこと。巻き込んで死なせてしまったこと。
どれだけ謝っても彼女は帰ってこない。
その自然の摂理に抗えず、エリーにはただそうやって言葉にして言うことしかできなかった。
――本当に、ごめんなさい。
◆
夜が明けた時には何事もないかのように朝が来る。
廃墟の近くには夜通しで掘った穴にへとマーサだった砂を納め墓を建てた。
未だにエリーの目元には泣いた跡が残っており赤い。ショックに気だって楽になれず、ちょっとしたことでまた泣いてしまってもおかしくはない。
うつむくエリーはその後両頬を軽く叩く。
悲しみを堪え、彼女は笑顔を必死に作った。
墓に向かって頭を下げる。
――お世話になりました。ありがとうございました。
そう心で呟いて。
そして、
「ごめんなさい……」
最後に謝って顔を上げる。
廃墟をぐるりと回るとクロトの姿が見えた。
仏頂面で空を眺めている。
ずっと待っていたのか、エリーが近づくと不機嫌そうに振り向いてくる。
「おせーよクソガキ。いつまで俺を待たせる気だ?」
「……その、ごめんなさい」
「ふんっ。じゃあとっとと――」
「――ッ」
強引に腕を引かれるとエリーは苦痛に顔を歪めた。
咄嗟にクロトは手を放す。
「……お前、脚」
「え、っと……」
昨夜の纏わり付いた熱のせいか、エリーの片脚にはうっすらと火傷の跡がある。
酷くはないが歩く度に少し痛みを感じてしまう。
言い出しづらく、エリーはそっとその片脚をクロトの視界から逸らした。
「~っ、ああ、うぜぇっ。……行くぞっ。遅いと承知しないからな」
「あっ、はい……!」
少し早いペースにエリーは合わせクロトの後を追った。
痛みはあるが付いていけないほどではなく、エリーは文句もなくいる。
「……あの! クロトさんは、平気なんですか……? 夜中の、こと……」
初めて名を呼び恐る恐る問いかける。
知る限りでは確かに大怪我をしていたはずだ。
それなど歩くことすらままならないような……。
だが彼にそんな傷は何処にもなく衣服だって問題ない。不思議そうにまじまじとエリーは彼の脚を確認する。
見間違いだったのだろうか。
いつまでも視線を集中させているとクロトはそう心配そうにするエリーを叱る。
「あっ? そんなことお前に言われる筋合いはないんだよ。俺の傷の心配するくらいなら自分の身でも気にしてろっ。お前が死ぬのが一番の迷惑だ」
「……は、はい」
今のエリーはクロトにへと付いていく。
帰る場所はもうない。それに、これ以上関わった人たちに迷惑もかけたくない。
仕方なくエリーはクロトという男と共に行くことを選んだ。
それはクロトにとって好都合でもあり、それならと余計なことをしない。
「これから、何処へ行くんですか……?」
「知らん。とりあえず同じ場所にいつまでもいるつもりはないからな」
「はあ……」
「あと、余計なこと聞いたら容赦しないからな?」
「……」
渋々エリーはそう言われると頷く。
少し進むと木々の隙間から自分のいた町がわずかだが見える。
何事もなかったかのように来る朝日が差し込み、住人たちの日常が始まるのだろう。
切ない思いで眺め、ほんの少し脚を止めて町に向かい頭を下げた。
別れの挨拶代わりをし、再びエリーはクロトの後を追う。
――さて。これで条件は揃った。
クロトはただひたすら前にへと進む。後戻りなどせず、彼にあるのは進むということだけだ。
――いらぬ手間をとったが、問題のガキは見つけた。あとはあの女を引きずり出すだけ。
――待ってろよ魔女。必ず見つけ出して、――お前をこの手で殺す。
そう明確な目的を胸に刻み付ける。
冷酷なまでにある魔銃使いの少年――クロト。
呪われた星を宿したとされる厄災の少女――エリー。
二人は共に前にへと踏み出す。
********************
『やくまが 次回予告』
エリー
「どうも、エリーです」
クロト
「クロトだ」
エリー
「ついに始まっちゃいましたねぇ、クロトさんとの二人旅」
クロト
「無駄に馴れ馴れしくないか? 二人旅言うな」
エリー
「でも事実ですよね? 現実は受け止めないと」
クロト
「お前にだけは言われたくないな……」
エリー
「ところで気になってたんですけど、クロトさんって幾つなんですか?」
クロト
「なぜ今此処でそれを聞く?」
エリー
「ちょっと気になっちゃいまして。私の予想ですと私より五つほど上ですか? 十五歳くらい」
クロト
「……違う」
エリー
「え? ひょっとして十四でしたか?」
クロト
「下げるなっ。俺はもう十七だ!」
エリー
「え!? そうなんですか? でも町にいたお兄さんでクロトさんと同じ年の人いましたけど、もっと背が高かったので」
クロト
「……お前。ひょっとして喧嘩売ってるのか?」
エリー
「そんなことありませんよ。普通の感想です」
クロト
「OK。黙って俺に従ってろクソガキ」
エリー
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第一部 二章「殺せる者・殺せない者」。ところでクロトさん。こちらの部屋、どうして一つしかベッドがないんですか?」
クロト
「一つあればじゅうぶんだろうが」
エリー
「……え?」
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