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第二部 一章「暗躍の魔女」
「憎みきれないアイツ」
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「話してもらうぞ。今度はお前の知っている魔女のこと、――全てだ」
「……ああ。そんなこと言ってたよね」
どこか白けた様子。怯えていた表情は瞬時に消え、イロハは緩く巻き付いていた荒縄をのかし、床にへと座り込んだ。クロトも貸していた上着を羽織り直しついでにソファーにへと腰掛ける。
両者が話のできる体勢になったとき、クロトは本題として口を開こうとした瞬間、割って入るように再びネアが扉を激しく開け放った。
緊迫とした途端にクロトとイロハは目を丸くして扉にへと顔を向けてしまった。
ネアの表情。その形相は鬼のような憤怒を滲ませている。
「……な、なんだよ?」
「この馬鹿っ! エリーちゃんお風呂に入れてないっていったいどういうことなのかしら!? 変な液体に浸けられてたのに最低ッ!」
どうもほぼ寝たきりで動けるようになったエリーのことで文句を言ってきている様子。
そこまで考えてなどいなかった。やってやる道理もなく、ほぼ無茶振りなそれに言い返そうかとも思ったが、
「仕方ないからお姉さんがエリーちゃんをお風呂に入れてあ・げ・る。今回はこれくらい許してやるんだからねっ」
怒りながら、それでも嬉しさを顔に滲ませる。
言いたいことだけを言い終わるとこちらのことなど気にせずネアはバンッと扉を閉めていった。
恩着せがましいような言い分だが、実のとこネアも嬉しいのではないのだろうか。そう理解できてしまうというネアに慣れてきた自分が無性にムカついてしまう。
「……あの野郎」
「なんでお姉さん怒ってたの? ボクなにもしてないけど?」
「もう気にするな。気にするだけ無駄だ」
首を傾けたイロハ。だがネアには本人も関わりたくないらしく、クロトの言うとおりに頷いた。
そして、ようやく本第にへと話を進める。
「――あの魔女は何処だ? 何処にいる」
一番の情報。それは魔女が今現在何処にいるかだ。居場所がわかればそれを追うことも多少は可能である。地道に当てもなく探すよりも特定の場所を把握し待たずにこちらから攻め込む。そうクロトは予定をたてるつもりだった。
しかし、イロハは即座に
「え? 知らない」
と、答えた。
その回答に対しクロトは魔銃を向け脅しをかける。
「正直に言え。撃ってロクな効果がないなら燃やす。人肉が焼け焦げる様はさぞ視界に毒だぞ?」
銃口からはボッと火が吹き出て威嚇する。
さすがのイロハも燃やされるということには抵抗があったのか眉をひそめ更に述べていく。
「んーっ、だってホントに知らないもん。ちょっと前にマスターの声が聞こえて、それで此処まで飛んできたんだから。先輩たちがこの辺にいるって……。それにボクが先輩たちを探すことになったのって先輩たちが飛ばされたすぐ後だから、結構前だし。それからはマスターには会ってないもん」
「……飛ばされたすぐ後? つまり――」
イロハが魔女の命令を受けたのはひと月前。あのクレイディアント崩壊事件の後ということだ。それならば正確な居場所はイロハにもわからない。
さすがの魔女もそこまでボロは出さないときたものだ。その抜かりのなさは本当に腹立たしく不愉快だ。
「なんかぁ、先輩たちが予定の場所から一気に離れたからってマスターが~……」
どうやら向こうでも予想外のことだ起こっていたらしい。
あの転送装置が元々何処に繋がっていたかはクロトでも不明。正常に作動していなかったということは薄々思ってはいた。
クロトは飛ばされた時のことを思い出す。最初に見たのは晴れ晴れとした青い空。そしてぽっかり開いた穴。しばらく経ってからそれは自分が空から落ちてきたのだと理解できた。
飛ばされた行き先が西の空の上。欠陥品だと何度あの装置を恨んだことか……。今となってはそうなった理由もなんとなくはわかる。
「当時はいろんなモンが攻めていたからな。……そのせいで狂わされたのか。なんせあの時は魔王もいたらしいからな。そんな大物がいれば、ある程度の乱れもある」
とにかく。今のイロハに魔女の居場所を聞いても仕方がない。当てが外れたことには正直悔しくもある。
「……わかった。あとはあの魔女の目的でも聞いておこうか」
もはやクロトに脅しや脅迫などをする気迫もなにも感じられない。とりあえず程度である質問に、イロハは首を傾け目を丸くさせ……
「……知らない」
の一言だ。
思わず呆れてため息しか出てこない。この魔女の送ってきた輩は魔女のことを全くもって知らないと思い知らされ、心の底から失望してしまう。
「やべぇ……。コイツ本当に頭の中なんにも詰まってねーわ」
「んー。なんとなく先輩がボクのこと悪く言ってるのだけはわかるよ?」
「あーそうだよ。お前のこと悪く言ってんだよ……。だってそうだろうが。お前よくそんなんでアイツに従ってるな……」
他人を哀れみたくもないが、ここまで酷いと冷めた目を送る。呪いなどもなく強制されているわけでもないはず。貶されるもイロハは誇らしげに胸をはった。
「だってマスターは恩人だからね」
……恩人。
それだけでイロハは魔女に絶対的な信頼を寄せている。
何度も聞いてきたこの理由に、クロトはこの時その少年から目をそらし黙り込む。
◆
「……なんだかすみませんネアさん。私、まだちゃんと体動かしにくくて……」
生活できる環境のため浴室などもしっかり完備されていたのは幸運だった。
まだ冷め気味なエリーを暖かな浴槽に入れ、ネアは最低限の衣類を着たまま髪を洗ってやる。他所ではクロトたちの前で鬼の形相を作っていたネアもエリーと二人っきりになれば顔を緩めニヤけが止まらないでいる。
「いいのよエリーちゃん。お姉さんはしたくてしてるんだから。女心のわかんない野郎ばっかいて大変よねぇ。しばらくはお姉さんも一緒にいてあげるから安心してね」
「そ、そうなんですか? ……でも、イロハさんも悪い人じゃないですよ? クロトさんも私が全然動けないからいろいろと気を遣わせてしまってますし、私の方が皆さんに迷惑をかけてるので」
「あ~、エリーちゃんってホント良い子だわぁ。お姉さん、エリーちゃんとずっと一緒にいたい~」
「……ネアさん。あまりひっつかれると濡れちゃいますよ?」
抱かずにはいられないのだろうか。ネアは濡れてもいいというようにエリーにへとへばり付いてくる。
豊満な胸が後頭部にへと押し当てられ、エリーも戸惑って頬を赤らめてしまう。
艶やかな髪に頬ずりをし、ネアはふと嬉しげに呟いた。
「ホント……、アイツってそういうところが憎めないのよねぇ……。嫌な奴なのに、どっかは抜けてわずかな優しさがあって……。だからお姉さんもつい手を貸しちゃうのよねぇ。これだから男ってのは…………」
「……優しい」
それを本人に言えば、きっとまた怒るのだろう。
普段とは違う。心の底のなにかを抉られたかのような……。
――あの時のクロトさん、すごく辛そうだった……。
あんなクロトは初めてだったため、エリーも罪悪感で今も思い返せば胸を痛める。しっかり謝りたいが、そうするとまた怒られてしまう気もしてしまい戸惑ってしまう。
思い悩むエリーをそっとネアは覗き込み、軽く苦笑して、くすっとして耳をかすめてくる。
「な、なんですか?」
「え~。やっぱエリーちゃんってアイツの苦手要素なんだな~って。そこが心配だったのよねぇ」
「……心配?」
「アイツ、他人に優しくされるのを嫌うような奴だから。ああいう奴に優しさは毒なの。だから、そういう接し方はしないのがいいのよね~」
「……じゃあ、ネアさんがクロトさんに対してああいう風にされるのって――」
もしかしたら、普段からクロトのことを嫌いながら話しているのはその接し方が理由なのでは。
「ううん。男なんて死ねばいいのにね♪」
もしやとはと思っていたのだが、ネアがクロトやイロハのことが嫌いなのは完全に素である。しかも、爽やかな笑顔であっさりと言った発言が重い。
そういう発言は冗談であっても言ってはいけないものなのだが、エリーは聞かなかったこととして流すこととする。
「それでエリーちゃん。お姉さんの持ってきた服、なにか気に入ったのあったかしら?」
クロトに頼まれたらしいエリーの衣服。この家にはエリーのサイズに合うものがなく、わざわざ彼女にへと連絡がいったのだとか。
何着も用意されており様々。シンプルなものからやたらとフリルを飾ったかのようなものまで。
あまり着慣れないものには抵抗があり、残念だがエリーは以前着てたものに似たシンプルなものを選んだ。
「はい。ありがとうございますネアさん。これで、クロトさんに少しは迷惑がかからなくてすみます」
「エリーちゃんって本当に良い子すぎ~。私も一緒にいてあげるけどあんな野郎たちには気をつけてねぇ」
「……は、はい。……たぶん大丈夫かと」
エリーの髪を洗い終えるとネアは脱いでいた分を着用し浴室の扉を閉めようとする。
「じゃあ、エリーちゃんはゆっくりしててね。お姉さんはあの馬鹿どもが騒がないように見張っててあげるから。のぼせないようにねぇ」
「はーい」
しっかり返事をする。
ネアは浴室に響いたエリーの愛らし声に胸を撃たれつつ、ニヤけた顔で手を振ってその場を後にした。
◆
浴室から移動したネアは機嫌を治してクロトたちのいる部屋にへと戻ってくる。
案の定、自分がこの敷地内にいるというだけでクロトも余計な騒動は起こさず、動揺にイロハもおとなしいものだった。
「お話は終わったかしら?」
「お前には関係ないだろうが。……それより、アイツはどうした?」
「お風呂で休憩中。アンタに頼まれてた通りエリーちゃんに似合うの持ってきてあげたし、着替えとして置いてあるわ。お姉さんって気が利くでしょ? ありがた~く思うことね」
「……一々うるさい。じゃあ帰っていいぞ? どうせそれでしか呼んでないんだからな」
用が済めばクロトにとってネアは邪魔でしかない。
口うるさくお節介。これ以上彼女に付き合わされるのは迷惑であった。
「そういうところって先輩らしいよね。なんか」
「残念でしたぁ。えーっと、そこの新参野郎のぉ…………クズ?」
「イロハだよっ。ちゃんと名前あるもん」
「で。そのクズなんだけど――」
速効で名前呼びを断るネア。ショックのせいかイロハは喚こうとするも、ネアから鋭く睨まれ床にへと伏せる。
この時点でイロハがネアに逆らえない器だということだよく理解できた。
「そんな妖しいのが増えて、私エリーちゃんが心配で仕方ないのっ。だからしばらくアンタと一緒に、不本意だけどいてあげる。すっごいありがたいでしょ? 感謝なさい」
「いらねーよ。お前がいる方が迷惑だ」
クロトもクロトであっさりとしている。
しかし、ネアにはなにか策でもあるらしく更に続けた。
「あ~ら、いいのかしら? 実はアンタ用の情報もあったりするのよ?」
「……またガセじゃないだろうな?」
得意げに笑っていたネアにクロトも今回の件で疑いの目を向ける。
しかし、途端にネアは気乗りしない様子で、間を開けて真剣とクロトにへと向き直る。その様子からネアはなにかしら明確な情報を得ているのではと、クロトも彼女と目を合わせた。
突如緊張がはびこる。ネアは一呼吸した後にその情報を口にした。
「――私、昨日王都で魔女に会ったのよね」
「……っな!?」
まさかの言葉にクロトも驚きを隠せない。それはイロハも同じだ。
噂や情報、というよりもネアは直に会ったと言った。
「どういうことだよっ! なんでお前が……っ」
思わず立ち上がろうとするも、言葉を詰まらせ動きを止める。
まだクロトの追っている魔女かどうかは定かではない。
その確信が付くまでは別人の可能性もあると気付けばクロトは動揺しきった頭を落ち着かせ冷静さを取り戻す。
「……ネア。何処の王都で魔女と会った?」
王都といえば今は大きく四カ所存在している。
北のアイルカーヌ。東のレガル。西のサキアヌ。南のヴァイスレット。この大国のどれかだろう。
取り乱そうとするのも無理はない。クロトにとって魔女の情報というのはとても重要なことなのだから。
ネアも落ち着きを保ち、瞬時に答える。
「南の、盾の国――ヴァイスレット王都よ」
「……ああ。そんなこと言ってたよね」
どこか白けた様子。怯えていた表情は瞬時に消え、イロハは緩く巻き付いていた荒縄をのかし、床にへと座り込んだ。クロトも貸していた上着を羽織り直しついでにソファーにへと腰掛ける。
両者が話のできる体勢になったとき、クロトは本題として口を開こうとした瞬間、割って入るように再びネアが扉を激しく開け放った。
緊迫とした途端にクロトとイロハは目を丸くして扉にへと顔を向けてしまった。
ネアの表情。その形相は鬼のような憤怒を滲ませている。
「……な、なんだよ?」
「この馬鹿っ! エリーちゃんお風呂に入れてないっていったいどういうことなのかしら!? 変な液体に浸けられてたのに最低ッ!」
どうもほぼ寝たきりで動けるようになったエリーのことで文句を言ってきている様子。
そこまで考えてなどいなかった。やってやる道理もなく、ほぼ無茶振りなそれに言い返そうかとも思ったが、
「仕方ないからお姉さんがエリーちゃんをお風呂に入れてあ・げ・る。今回はこれくらい許してやるんだからねっ」
怒りながら、それでも嬉しさを顔に滲ませる。
言いたいことだけを言い終わるとこちらのことなど気にせずネアはバンッと扉を閉めていった。
恩着せがましいような言い分だが、実のとこネアも嬉しいのではないのだろうか。そう理解できてしまうというネアに慣れてきた自分が無性にムカついてしまう。
「……あの野郎」
「なんでお姉さん怒ってたの? ボクなにもしてないけど?」
「もう気にするな。気にするだけ無駄だ」
首を傾けたイロハ。だがネアには本人も関わりたくないらしく、クロトの言うとおりに頷いた。
そして、ようやく本第にへと話を進める。
「――あの魔女は何処だ? 何処にいる」
一番の情報。それは魔女が今現在何処にいるかだ。居場所がわかればそれを追うことも多少は可能である。地道に当てもなく探すよりも特定の場所を把握し待たずにこちらから攻め込む。そうクロトは予定をたてるつもりだった。
しかし、イロハは即座に
「え? 知らない」
と、答えた。
その回答に対しクロトは魔銃を向け脅しをかける。
「正直に言え。撃ってロクな効果がないなら燃やす。人肉が焼け焦げる様はさぞ視界に毒だぞ?」
銃口からはボッと火が吹き出て威嚇する。
さすがのイロハも燃やされるということには抵抗があったのか眉をひそめ更に述べていく。
「んーっ、だってホントに知らないもん。ちょっと前にマスターの声が聞こえて、それで此処まで飛んできたんだから。先輩たちがこの辺にいるって……。それにボクが先輩たちを探すことになったのって先輩たちが飛ばされたすぐ後だから、結構前だし。それからはマスターには会ってないもん」
「……飛ばされたすぐ後? つまり――」
イロハが魔女の命令を受けたのはひと月前。あのクレイディアント崩壊事件の後ということだ。それならば正確な居場所はイロハにもわからない。
さすがの魔女もそこまでボロは出さないときたものだ。その抜かりのなさは本当に腹立たしく不愉快だ。
「なんかぁ、先輩たちが予定の場所から一気に離れたからってマスターが~……」
どうやら向こうでも予想外のことだ起こっていたらしい。
あの転送装置が元々何処に繋がっていたかはクロトでも不明。正常に作動していなかったということは薄々思ってはいた。
クロトは飛ばされた時のことを思い出す。最初に見たのは晴れ晴れとした青い空。そしてぽっかり開いた穴。しばらく経ってからそれは自分が空から落ちてきたのだと理解できた。
飛ばされた行き先が西の空の上。欠陥品だと何度あの装置を恨んだことか……。今となってはそうなった理由もなんとなくはわかる。
「当時はいろんなモンが攻めていたからな。……そのせいで狂わされたのか。なんせあの時は魔王もいたらしいからな。そんな大物がいれば、ある程度の乱れもある」
とにかく。今のイロハに魔女の居場所を聞いても仕方がない。当てが外れたことには正直悔しくもある。
「……わかった。あとはあの魔女の目的でも聞いておこうか」
もはやクロトに脅しや脅迫などをする気迫もなにも感じられない。とりあえず程度である質問に、イロハは首を傾け目を丸くさせ……
「……知らない」
の一言だ。
思わず呆れてため息しか出てこない。この魔女の送ってきた輩は魔女のことを全くもって知らないと思い知らされ、心の底から失望してしまう。
「やべぇ……。コイツ本当に頭の中なんにも詰まってねーわ」
「んー。なんとなく先輩がボクのこと悪く言ってるのだけはわかるよ?」
「あーそうだよ。お前のこと悪く言ってんだよ……。だってそうだろうが。お前よくそんなんでアイツに従ってるな……」
他人を哀れみたくもないが、ここまで酷いと冷めた目を送る。呪いなどもなく強制されているわけでもないはず。貶されるもイロハは誇らしげに胸をはった。
「だってマスターは恩人だからね」
……恩人。
それだけでイロハは魔女に絶対的な信頼を寄せている。
何度も聞いてきたこの理由に、クロトはこの時その少年から目をそらし黙り込む。
◆
「……なんだかすみませんネアさん。私、まだちゃんと体動かしにくくて……」
生活できる環境のため浴室などもしっかり完備されていたのは幸運だった。
まだ冷め気味なエリーを暖かな浴槽に入れ、ネアは最低限の衣類を着たまま髪を洗ってやる。他所ではクロトたちの前で鬼の形相を作っていたネアもエリーと二人っきりになれば顔を緩めニヤけが止まらないでいる。
「いいのよエリーちゃん。お姉さんはしたくてしてるんだから。女心のわかんない野郎ばっかいて大変よねぇ。しばらくはお姉さんも一緒にいてあげるから安心してね」
「そ、そうなんですか? ……でも、イロハさんも悪い人じゃないですよ? クロトさんも私が全然動けないからいろいろと気を遣わせてしまってますし、私の方が皆さんに迷惑をかけてるので」
「あ~、エリーちゃんってホント良い子だわぁ。お姉さん、エリーちゃんとずっと一緒にいたい~」
「……ネアさん。あまりひっつかれると濡れちゃいますよ?」
抱かずにはいられないのだろうか。ネアは濡れてもいいというようにエリーにへとへばり付いてくる。
豊満な胸が後頭部にへと押し当てられ、エリーも戸惑って頬を赤らめてしまう。
艶やかな髪に頬ずりをし、ネアはふと嬉しげに呟いた。
「ホント……、アイツってそういうところが憎めないのよねぇ……。嫌な奴なのに、どっかは抜けてわずかな優しさがあって……。だからお姉さんもつい手を貸しちゃうのよねぇ。これだから男ってのは…………」
「……優しい」
それを本人に言えば、きっとまた怒るのだろう。
普段とは違う。心の底のなにかを抉られたかのような……。
――あの時のクロトさん、すごく辛そうだった……。
あんなクロトは初めてだったため、エリーも罪悪感で今も思い返せば胸を痛める。しっかり謝りたいが、そうするとまた怒られてしまう気もしてしまい戸惑ってしまう。
思い悩むエリーをそっとネアは覗き込み、軽く苦笑して、くすっとして耳をかすめてくる。
「な、なんですか?」
「え~。やっぱエリーちゃんってアイツの苦手要素なんだな~って。そこが心配だったのよねぇ」
「……心配?」
「アイツ、他人に優しくされるのを嫌うような奴だから。ああいう奴に優しさは毒なの。だから、そういう接し方はしないのがいいのよね~」
「……じゃあ、ネアさんがクロトさんに対してああいう風にされるのって――」
もしかしたら、普段からクロトのことを嫌いながら話しているのはその接し方が理由なのでは。
「ううん。男なんて死ねばいいのにね♪」
もしやとはと思っていたのだが、ネアがクロトやイロハのことが嫌いなのは完全に素である。しかも、爽やかな笑顔であっさりと言った発言が重い。
そういう発言は冗談であっても言ってはいけないものなのだが、エリーは聞かなかったこととして流すこととする。
「それでエリーちゃん。お姉さんの持ってきた服、なにか気に入ったのあったかしら?」
クロトに頼まれたらしいエリーの衣服。この家にはエリーのサイズに合うものがなく、わざわざ彼女にへと連絡がいったのだとか。
何着も用意されており様々。シンプルなものからやたらとフリルを飾ったかのようなものまで。
あまり着慣れないものには抵抗があり、残念だがエリーは以前着てたものに似たシンプルなものを選んだ。
「はい。ありがとうございますネアさん。これで、クロトさんに少しは迷惑がかからなくてすみます」
「エリーちゃんって本当に良い子すぎ~。私も一緒にいてあげるけどあんな野郎たちには気をつけてねぇ」
「……は、はい。……たぶん大丈夫かと」
エリーの髪を洗い終えるとネアは脱いでいた分を着用し浴室の扉を閉めようとする。
「じゃあ、エリーちゃんはゆっくりしててね。お姉さんはあの馬鹿どもが騒がないように見張っててあげるから。のぼせないようにねぇ」
「はーい」
しっかり返事をする。
ネアは浴室に響いたエリーの愛らし声に胸を撃たれつつ、ニヤけた顔で手を振ってその場を後にした。
◆
浴室から移動したネアは機嫌を治してクロトたちのいる部屋にへと戻ってくる。
案の定、自分がこの敷地内にいるというだけでクロトも余計な騒動は起こさず、動揺にイロハもおとなしいものだった。
「お話は終わったかしら?」
「お前には関係ないだろうが。……それより、アイツはどうした?」
「お風呂で休憩中。アンタに頼まれてた通りエリーちゃんに似合うの持ってきてあげたし、着替えとして置いてあるわ。お姉さんって気が利くでしょ? ありがた~く思うことね」
「……一々うるさい。じゃあ帰っていいぞ? どうせそれでしか呼んでないんだからな」
用が済めばクロトにとってネアは邪魔でしかない。
口うるさくお節介。これ以上彼女に付き合わされるのは迷惑であった。
「そういうところって先輩らしいよね。なんか」
「残念でしたぁ。えーっと、そこの新参野郎のぉ…………クズ?」
「イロハだよっ。ちゃんと名前あるもん」
「で。そのクズなんだけど――」
速効で名前呼びを断るネア。ショックのせいかイロハは喚こうとするも、ネアから鋭く睨まれ床にへと伏せる。
この時点でイロハがネアに逆らえない器だということだよく理解できた。
「そんな妖しいのが増えて、私エリーちゃんが心配で仕方ないのっ。だからしばらくアンタと一緒に、不本意だけどいてあげる。すっごいありがたいでしょ? 感謝なさい」
「いらねーよ。お前がいる方が迷惑だ」
クロトもクロトであっさりとしている。
しかし、ネアにはなにか策でもあるらしく更に続けた。
「あ~ら、いいのかしら? 実はアンタ用の情報もあったりするのよ?」
「……またガセじゃないだろうな?」
得意げに笑っていたネアにクロトも今回の件で疑いの目を向ける。
しかし、途端にネアは気乗りしない様子で、間を開けて真剣とクロトにへと向き直る。その様子からネアはなにかしら明確な情報を得ているのではと、クロトも彼女と目を合わせた。
突如緊張がはびこる。ネアは一呼吸した後にその情報を口にした。
「――私、昨日王都で魔女に会ったのよね」
「……っな!?」
まさかの言葉にクロトも驚きを隠せない。それはイロハも同じだ。
噂や情報、というよりもネアは直に会ったと言った。
「どういうことだよっ! なんでお前が……っ」
思わず立ち上がろうとするも、言葉を詰まらせ動きを止める。
まだクロトの追っている魔女かどうかは定かではない。
その確信が付くまでは別人の可能性もあると気付けばクロトは動揺しきった頭を落ち着かせ冷静さを取り戻す。
「……ネア。何処の王都で魔女と会った?」
王都といえば今は大きく四カ所存在している。
北のアイルカーヌ。東のレガル。西のサキアヌ。南のヴァイスレット。この大国のどれかだろう。
取り乱そうとするのも無理はない。クロトにとって魔女の情報というのはとても重要なことなのだから。
ネアも落ち着きを保ち、瞬時に答える。
「南の、盾の国――ヴァイスレット王都よ」
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