厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第二部 六章「託された想い」

「目覚めの星」

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 一方、壊滅的なダメージを受けた第三城下街ではドワーフ族と共に修復作業が行われていた。
 建物の修復よりも先に白色した結晶と魔物の残骸を片付け外壁の外にへと運び込まれる。背丈は小さくも力のあるドワーフ族はせっせとそれらを移送。
 忙しさの中、一人が一部集まるドワーフをまとめ指示を出す。

「……そう。一応こっちの方でも素材の調達を頼んでみるわ。魔界にいい行商人がいてね、そっちにも連絡とったから直ぐに届くはずよ。ちゃんと貴方たちが確認して修理の方に使ってね。これでもこっちとあっちとではいざこざも多いの。そこは信頼されてるからよろしくね」

 ドワーフ数人が一同になって敬礼し作業に戻る。
 
「あの、すいません。建物に使う木材が足りないのですが。あとそれと……」

「わかってるわ。そっちの件は別で頼んであるから大丈夫。ある程度片付いてきた頃合いには到着する予定よ。……あと、質問とかそういうの男にされても邪魔になるだけだわ。とりあえずは我慢するけどなるべく話しかけないでっ」

 修復に携わっていた建築側の人間だろう。物資の不足などを問いかけてきたのだがこの扱いである。
 キツくあしらうのはネアだ。彼女は今数個の通信機器をぶら下げ事あるごとに出る。

「ああ、アキネ? そう、頼んでたのどう? 悪いわね急ぎの用事で。でもそれなりに稼げるからお互い頑張りましょ」
「ハイハイっ。……そうそう、例のね。そっちの方が調達しやすいでしょ? ええ、よろしく」
「……だからー、そこをまけてって言ってるの! じゃないともう手助けしてやんないんだからねっ」

 人間界から魔界。ありとあらゆる場所と繋がり復興の手助けをしていく。
 これまでの情報屋としての交流もあるネアの顔は広くありいろんな場所と精通している。時にはその有力さを武器に交渉もおてのもの。これには周囲で眺める兵たちも頭が下がる一方だ。

「――そこ! ぼさっとしている暇あったら働きなさい!」

 そして容赦のない指導も入る。
 それは兵士だけでなく別の者にも飛ばされた。バレたことにビクリと肩を跳ね上がらせ物陰に隠れていたイロハは渋々姿を出す。

「アンタ飛べるんだからちゃんと働きなさいよっ。アンタので壊れたのだって多いんだからっ」

「うぅ……。お姉さん、勝手に羽出したらダメって言ってなかった?」

「いいから手伝いなさい!」

「……~っ。それに、なんか周りの人が変な目で見てくる。知らない人ばっかで、なんかやだ」

「仕方ないでしょ。アンタって端から見たら魔族なんだもの。普通の人間は羽生えてないんだから。それに、周りなんて知らない人間がほとんどって、それ当たり前でしょ。少しは人に慣れる努力しなさい」

 イロハの翼を不審に思う者は多い。その視線は今でも周囲からあった。
 ネアはそれら視線全てに向け睨みつけ追い払う。度々聞かれ続けるのも負担でしかなく、こちらの方が手っ取り早い。

「……うーん。よくわかんない」

「いいから働く! ……それにしても、エリーちゃん大丈夫かしら? 特にクロトも。馬鹿してなければいいんだけど……」

 ふと、ネアは城を見上げた。手伝うからには責任を持って行動するが、気がかりで仕方がなくある。
 目を覚ましたクロトが第一にどんな行動をとるか。直前に記憶を思い出して暴れないか。はたまた城から抜け出すために善良な王を人質にとっていないか。最悪無礼な振る舞いで極刑か……。
 考えれば考えるほど不安になってしまう。一緒にいるエリーにまで影響が及ぼうなら……。

「……今すぐ城に行くべきかしら? クロトはともかくエリーちゃんが心配でしかたないわ。せっかくあの王様が言いくるめてくれたってのに、アイツそういうの問答無用で台無しにしそうだし。礼儀もないしガサツだし口は悪いし甲斐性なしだし……。ダメなとこしか出てこないじゃない!? ヤバい……、本当になんかしでかすんじゃないわよあの馬鹿」

「ねーねー、なんでボクは行っちゃダメなの? ボクも姫ちゃんと一緒にいたい」

 図々しく考えなしでいるイロハの頭にネアはゴンッと拳をぶつけた。
 一緒にいられるならネアだってそうしたいというのに。

「私だって我慢してんだからアンタも我慢しなさいよ!」

「なんでお姉さん殴るの!?」

「うるさい! べつにクロトが羨ましいって訳じゃないんだからっ。羨ましくないんだから!!」

 この場かエリーのもとか。どちらか選ぶならエリー一択のネアにとってクロトの現状がどうであれそれは羨ましくもあった。その思いをグッと堪え、苦し紛れに仕事に専念する。

   ◆

 頭の中にはぼんやりと複数の会話が残っている。
 内容は覚えてなどいない。ただ深い海に沈むように意識が遠のき、深淵の中に消えていく。それがいつまで続き、どれだけ時間が経過したのか。
 クロトは目を覚ました時、最初に見たのは知らない天井だ。
 白とアクセントのある赤で飾られた天井。どこか品のあるものでも、ただ「何処だ?」としか頭に浮かばない。
 まだぼんやりとする頭のまま体を起こしてみれば上着を着ていない。触れる寝床は上質であり無駄に柔らかく、よくこのような物で眠れたなとすら思えた。おまけに室内は広くあり。壁には絵画。上等な壷などが飾られており、妙に居心地が悪い。
 自分の目を疑った。目を凝らし、何度か擦る。しかし、内装が変わる事などなく。
 
「……マジで、何処だ此処?」

 頭を悩ませれば、ふと、痛みが蘇ってくる。
 躊躇なく蹴り飛ばされたような痛みだ。
 思い出そうとすれば記憶が徐々に浮かび上がり……。クロトは途端に血相を変え周囲を見渡した。
 弾みで動いた手が柔らかなモノに触れ視線をずらす。
 自分が眠っていたベッドには一緒になって金髪の少女――エリーがすやすやと眠っていた。
 ふんわりとした柔らかなネグリジェ。見える微かな肌に特にといった傷はない。
 よく見れば二人か三人は横になれる大きな幅のベッドであり広々としている。すぐ近くに探していたモノが見つかったことにはホッと胸を撫で下ろす。
 どれだけ時間が経過したのか。エリーの顔には涙の跡もすっかり消えている。垂れ下がる細かな髪を掻き分けてまでそれを確認する必要などあったのか。手を払い除けてから不思議と疑問が出てしまう。
 
 ――なんで余計なことを気にしてるんだ、俺は……。

 ここ最近の言動などにいらぬ変化が現れ始めている。原因は必要不可欠なこの道具だ。死ななければいいというだけのはずが妙に気を遣うようになってしまった。
 そんな自分などバッサリ切り捨てればいいのに、筋が残っているかの如く早々断ち切れない。
 らしくない。と、苛立ちながら頭をかく。
 うだうだと唸っていると、隣で寝ていたエリーの目元が微かに動いた。
 重い瞼をゆっくりと開き、しばらくぶりとも感じられる星の瞳が露になる。エリーにとっても日光をその目に拝むのは久しぶりと眩しくあったらしい。しっかりと目が慣れ体を起こすのに時間がかかった。
 
「……私……いったい……。此処……は……?」

 それはこっちが聞きたいものだ。
 例の一件の後で拘束されていないところを見るに状況は悪くはないだろう。
 おぼつかない視界のエリーはまだぼんやりとして再び寝こけてしまいそう。その前にクロトに顔を向け何度か瞬きを繰り返す。

「…………クロト、さん?」

「ああ。ようやく起きたなクソガキ」

 いつものように呼んでやる。
 左右へゆっくり目を向け周囲を確認するエリーはまだ寝ぼけている様子。
 ふと、エリーはぼーっと再びクロトを眺め……。
 途端に目を大きく見開いて顔を青くした。
 
「わ……私っ。私……っ、あんな……」

 記憶がフラッシュバックでもしたのか、身を抱えガタガタと震えだす。脳裏に焼き付いた自身が犯した災厄の光景が蘇り頭を混乱させる。 
 自身を責め始めたエリーの頭をクロトはコンッと叩いた。

「落ち着け。あんなのはただの幻だ。現に王都は崩壊してないしな」

 窓から見える景色はヴァイスレット王都だ。一望できる辺り現在地は第一階層である王城だと推測。下層の戦場跡も見えたがあえてエリーには見せないようにする。
 また自身を責め始めれば例の星を呼び寄せる切っ掛けにも成りうるからだ。
 エリーの負の感情による暴走こそがあの黒星――【厄星】の発動条件であるのだと思われる。臆測でしかないが、その辺は今後気を付けなければならないだろう。
 叩かれたエリーは目を丸くする。

「……本当、ですか?」

「なんで俺が一々お前にそんな面倒な嘘言わなきゃならねぇんだよ」

「…………そう、ですよね。私、クロトさんが助けてくれたの覚えてます。――ありがとうございます」

 また、溢れそうになった涙を拭い、エリーは微笑む。
 この表情も数日間見ていないと錯覚してしまう。危うく忘れかけていたが、やはりその態度と表情は気に食わず直ぐに顔を反らす。
 
「礼を言われるようなことはしてない。俺は俺のためにお前を生かしているだけだからなっ」

 他人からの謝礼は受け取らない主義。それをエリーも理解してか「はい」と頷いた。
 エリーも目覚め話も一段落ついた。後は詳細な状況を確認したいといったところ。城内であるなら此処まで招き入れた者がいるはず。最後の光景からして兵やあのロウグスでもあるまい。
 あの状況下でエリーを生かし城へ連れてこれるような人物。
 それを考えた時、思い当たる人物が二人の前に現れた。

「おおっ。目が覚めたのか――エリシアっ」

 部屋の扉を開き入ってきたのは現王であるアヴァローだ。
 親しげに彼は寄りエリーの手をとる。

「よく生きててくれた。……本当に、よかった」

「……あ、あの。えっと」

 不安としてエリーはクロトに目を向ける。

「ヴァイスレット王だ。やっぱそうなるか……」

 クロトもさすがの初対面であるがその身なりとエリーへの接し方で判断はつく。
 教えられればエリーは驚いてしまい急いで頭を下げた。

「す、すみませんっ。――エリーですっ。私のせいで、本当にごめんなさい!」

「そう謝らなくてもいいさ。……しかし、話は本当だったか。キミたちを一緒にするよう伝えてくれた女性から聞いたのだが……、そうか、記憶がないのだね」

 おそらくネアのことだ。そういえば、頭を蹴り飛ばしたのもネアだった気がする。相も変わらず余計なことを……。再会しても礼など言うわけもない。
 
「兵たちが無礼をしたね。だが責めないでやってほしい。彼らはこの国のためにと必死だっただけなのだからな」

「そんなことないですっ。私がいけないんです。……私が、あんな星を」

「過ぎたことだ。それに、結果この国は救われた。まさかあの魔王を君のような少年が倒すとはね」

「……べつに。邪魔だったからな」

 軽く流すが実際とんでもないことをクロトはしている。それも魔銃による力なのだろう。思わずエリーも苦笑してしまう。
 





 エリーの汚れた衣服などは洗浄されているらしく、とにかく出歩けるようにと衣服が貸し出された。令嬢が纏うドレスを着慣れない様子で鏡の前に立つ。

「ど、どうですか? 変じゃないですか?」

「べつに」

 部屋の椅子に置かれていた上着に手を伸ばすもクロトは今はやめておこうとそのままに。まだ体力も全開ではなく少しでも体を楽にしていたい。
 エリーの戸惑いにも無関心であくびまでしている。
 仕方なく自分で何度も回って違和感がないか確認。

「似合っているよエリシア。……ではなくて、エリーか。早速で悪いのだが少し付き合ってくれないかい?」

「は、はいっ」

「緊張しなくていいよ。キミたちが此処で長居するのは些か問題があるのでね。手短に済ませたい」

 事の状況はエリーが着替えている間に聞かされている。
 エリーが【厄災の姫】として虚言に晒された被害者であるということにされ穏便に事は運ばれている。だがそれでも長く関わることは国内で不審を抱く者が増える。仮にも国王がその隠蔽を企てているのだから問題も大きくなる。
 落ち着いてはいるがアヴァローも切羽詰まった状況に間違いはない。
 
「少年、キミもきたまえ。なるべく一緒にするようにと約束もしているのでな。それに、この子も不安にならずに済むようだ」

「……とりあえず、見張りはする」

「心配ないよ。この辺は今誰も立ち入らぬようにロウグスにさせているからな」

 エリーを連れアヴァローが扉を開く。通路に出れば噂の一番槍こと――ロウグス・ランスロットがいた。
 エリーとしては初対面なことにキョトンとし。実際に武器を交えたクトロとは目が合うなり火花を散らす。
 
「なんだよ石頭。文句あんのかよ?」

「それはこちらの台詞だな。陛下に無礼なことをしてみろ? 今度こそ裁く」

「二人とも、若いが此処で喧嘩はしないでくれよ。騒動になればせっかくの時間が無駄になってしまう」

「ほら犬。主人の命令だぞ」

「……クロトさん」

 口の悪さは何処でも変わらない。ロウグスは悪態になんとか堪え大人としてこの場をやり過ごした。
 
「とにかく私も付き添います。よろしいですね?」

「……まあ、お前も共犯のようなものだからな。構わんがもめるなよ」

 命令を胸に刻みロウグスは「はっ」と返答。しかし、内心では「共犯」の言葉が深く突き刺さっていた。
 クロトも不快ではあるがそれは渋々了承。
 一同はアヴァローを先頭として部屋を移動する。

   ◆

 しばらく続く廊下をエリーはアヴァローと共に並んで歩く。
 手を繋いでいると不思議と落ち着く感覚があった。まるで親のような感覚だろうか。逆にアヴァローはエリーを娘のように優しく見てくる。

「あの……、何処へ行くんですか?」

「もうすぐだよ。……この部屋だ」

 アヴァローは一つの扉の前で立ち止まる。それは先程までいた客室と変わらないもの。しかし、あまり使われた形跡がなく綺麗な扉だ。
 小首を傾けるエリー。その頭にそっと手を乗せられ撫でられた。

「すまないが少年。少しばかり彼女と話をさせてもらえないかい?」

「……」

「警戒しなくてもなにもしないさ。少し……、ほんの少しだけさ。この子にはどうしても伝えておきたいことがある」

「……クロトさん」

 エリーは戸惑いながらクロトを見上げた。エリーもその話が気になっているのだろう。
 
「……まあ、アンタみたいなのが今更それをどうこうするとはおもえないからな。行ってこい」

「はいっ」







 パッと雲が晴れたように笑顔を作るエリーはそにまま二人で部屋にへと入って行く。
 扉が閉まればクロトの気配は遮断されてしまう。途端にエリーは目を丸くさせ室内を見渡した。
 壁には本棚が置かれぎっしりと並べられている。この部屋を利用している者は本が好きなのかと連想してしまう。窓際には数人が利用できる大きな席。花瓶に添えられている花は少ししおれてしまっていた。
 
「少々ホコリっぽくてすまない。普段なら清掃をしているのだがここしばらくは私以外誰も入ってなくてね」

 ホコリの着いたテーブルを撫でる。入ってから立ち止まっていたエリーを手招きで呼ぶ。急に二人っきりになったせいか戸惑いつつエリーは部屋の奥にへと進み、再び部屋を見渡した。
 内装を再度確認すれば不思議と初めて訪れたという感覚はなかった。本棚。テーブル。椅子。家具の配置から装飾まで、目に映る光景はどこか見覚えがある。混乱し、それがどういうことかなど深く考えるよりも、答えはすぐに聞き取ることとなる。

「此処は親友……、キミの父、ザイアと母君のカシミア、そしてキミのためにあった部屋だ」

 その言葉にエリーはハッとした。見覚えのある部屋の正体は自分と、顔の知らない両親が利用するために用意された部屋。
 今更だがヴァイスレットとクレイディアントとの関係を思い出す。ネアはとても仲の良い国だったと……。だがその関係は王同士によるものでしかなかったと。
 その幅のみとなった原因は考えるまでもなく自分にある。
 厄災を抱える存在が両国の関係に亀裂を作った。頭に残る周囲からの蔑みの言葉がしっとりと蘇ってくる。
 ――ああ。あの言葉は本当だったのだ。
 全ては自分がまいた種。今はあの時ほどの絶望感はない。支えが今はあるからだ。
 ただ……、負い目は感じている。
 
「そう……なんですか……」

 気落ちした声で、されどなんとか笑みを作ろうと苦笑いをしてしまった。それが逆に相手に気を遣わせてしまうこととなる。
 
「そう気を落とさないでくれ。今回のことでキミにもまた嫌な思いをさせてしまった。だが、キミが生きていてくれて私は心の底から嬉しかったよ。崩壊のことを聞いた時はなにもできずにいた自分を恨みたくもなったものさ」

 話ながらアヴァローは壁に掛けてあった額縁を手に取ると、ふと微笑む。そこに何があるのか、エリーは引かれてしまい彼の傍にへと歩み寄る。
 
「キミは今回のことで自分のことをそれなりに知ったはずだ。記憶がないキミにも色々思うところはあるだろう。その呪いで知らぬ過去に自分がどうあったか……。これだけはキミに伝えたかったのだよ」

 手にしていた額縁をエリーにへと手渡す。受け取ってエリーはゆっくりと視界をそれに向け、目を見開く。
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