厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第四部 四章 「無明華の面影」

「悪魔狩りの魔女:前編」

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 その日の山は、荒れていた。
 焼ける地には複数の獣人が転がっている。
 それらから溢れた鮮血は、火山の熱で蒸発し異臭を漂わせる。
 肉の焦げたもの。中には肉食の魔物によって捕食され……。
 そんな日々が続いた頃には火精霊サラマンディーの姿は火山から消えてしまっていた。
 
「……っ、このっ。悪魔めっ」

 煮え立つマグマの穴。そこで追い詰められていた者は、切羽詰まった憤怒と共に言葉を放つ。
 獣の毛皮を被る獣人。元魔界の住人だ。
 人種が消え去った火山周辺の森を縄張りとしていたが、日も経たずに彼らは竜種の悪魔を敵にしてしまった。
 切っ掛けは単純。その森ですら、火山の竜の目の届く所だったから。
 喚く獣に、炎蛇は喉を鳴らす。

「悪魔だが、それがどうした? 獣くせぇのが俺の視界に入るなよ……。目障りなんだよ」

 赤白の羽衣を揺らし、【炎蛇のニーズヘッグ】は追い詰められた生き残りを嘲笑う。
 にじり寄れば、震えた足で後退る。一歩一歩、死の落とし穴へ自ら進む滑稽な生き物。
 弱い弱者を嬲る事で、自身が強者であると実感できる。
 
「ほらほら、もう後がねーぞぉ? 落ちたら、てめぇらなんか溶けるだけだもんなぁ。どうする?」

「……っ」

「マグマの中で死ぬか、それとも俺に刻まれて業火で魂すら燃やされるか……」

 死の選択。どちらもまともな最後を迎えることはできない。
 
「よえーよなぁ。魔界でもこっちでも、弱い奴は惨めに理不尽に狩られる。それくらい知ってるだろ?」

 炎蛇の皮衣は、その形を鋭利な刃にへと変える。
 
「それとも、弱いなりに許しを請うかぁ? 人間もそうやって死に際に言うんだぜ? みっともなくても、命は惜しいもんなぁ。だからさぁ、お前もそうしてみろよ? もしかしたら見逃すかもしれないぞ?」

 そんな気は、毛頭ない。
 どんな風にこの場を過ごした所で、弱い者の未来など決まっている。
 ただ、ニーズヘッグは見たかったのだ。
 無様に死を恐れ、弱者として振る舞う様を。
 死を恐れるのは生き物として当然のこと。
 ……それなのに。


「誰が……っ、お前のような奴にッ!」


 返ってきたのは、反抗する発言。
 直後、優位と不敵に笑っていた炎蛇の表情が凍る。
 刹那。獣人の体を真っ二つに切り裂き、肉体は炎に包まれながらマグマの中にへと落ちていった。
 
「……弱い奴が、なに言ってんだよ。弱いくせに……、強い奴の前に立つなよ」

 白けた炎蛇は不満を呟く。
 弱肉強食。それこそが全ての理。
 弱い者は強い者に狩られる。弱い者はそれから逃れるために命乞いをする。
 それすらせず、抗おうとするのは馬鹿のすることだ。
 これこそが正しい。そうニーズヘッグは信じる。

   ◆

 
「――エンジャガ、ニンゲンヲコロシタヨ」

 その噂は、何故か王の間で語られた。
 それを呟いたのは九番席魔王――【霊王のオリジン】だった。
 耳に聞こえるオリジンの声は言葉ではない。その王の声は直接脳内に響くものである。

「……だ、そうだな。あの炎蛇が……と思うが、私はそんな未来わかりきっていた」

 二番席魔王。クロノスは時計を弄りながら、特にといった興味は示さない。
 だが、席に着いていた王たちは意外と声を出す。

「マジかっ。あの小僧がっ。人間界に行ったとは聞いていたが、まさか人間を殺るとはなっ」

 大口を開けて笑い出すのは十番席魔王――【戦乱王のバルバトス】だ。
 屈強な巨体と。その身だけで周囲を圧倒するもの。
 
「バルバトス、うるさっ。まあ、でもさ~、オリジン。それってどうでもよくない?」

 続いて言葉を発するのはセーレだ。

「ボクたちは魔族。人間の尊き命が幾ら消えようと、ボクとしてはなんの問題もない。……そうでしょー? ドラゴニカ」

 更に、セーレは上の席を見上げる。
 四番席魔王のドラゴニカはクロノスの隣で黙り。
 セーレに声をかけられれば、深いと下を睨む。

「お前に同意するわけではないが、それは言えている。アレは我が魔力の一部を受け継いでいながら、妙な思考をしている。……お前の奴とも、親しそうにしており気分が悪い」

「ああ、フレズベルグぅ? べつに気にしないけど。ボクはニーズヘッグの羽衣は好きだよ? 美しいもん。……あと、フレズベルグとはボク仲悪いし、どうでもいいや~」

「下等な席の悪魔となど。同じ竜種としては不快だ」

「その辺にしておけドラゴニカ。命それぞれ、魂の数だけ思考など多種多様だからのぉ」

 三番席魔王のハーデスは書物を開きながら割り込む。
 分厚い書物に記された魔界文字。それはハーデスが指でなぞると消えていく。

「……また消えた。ちなみに、ニーズヘッグが焼き払った人間の魂は冥府に来ることなく消滅しとるぞ。そういうのは、ワシは好まんのだが? 魂の換えなどないのだ。そこら辺、ドラゴニカから言ってもらえぬか?」

「はぁ? 下等な人間、どれだけ魂が消滅しようが知ったことかっ」

「ぬぅ……。なあ、クロノス」

 ハーデスは頭を悩ませ、今度はクロノスにへと目を向ける。
 だが、

「うるさい、黙れ」

「まだ要件を言っとらんのだが!?」

 毛嫌いした様子でクロノスはハーデスを足蹴にする。
 ハーデスが言わずとも、クロノスには彼が何を言おうとしているのかわかりきっている。

「ここしばらくの魂の流れがおかしい。……そう言いたいのだろ? 原因はわかっている」

「……と、いうと。どうなのだ?」

 クロノスは懐中時計の蓋をパチンと閉める。
 数秒の間を開け、原因を彼女はこの場に集う王全員に伝えた。


「――人間界でとあるが動いている。……悪魔狩りの魔女だ」

   ◆

「――悪魔狩りの魔女?」

「そうだ。どうも最近、そういった者が人間界で名のある悪魔を狩っているらしい。鳥たちが知らせてきた」

 しばらく顔を出さなかったフレズベルグが、ニーズヘッグにその事を伝える。
 情報では人間界を中心にその魔女は姿を現し、名のある悪魔を狩っているというもの。
 詳細は多くなく、神出鬼没とも捉えられている。
 唯一あるとすれば。それはであるということ。
 
「……それにしても、また殺ったのか? そこら中酷い匂いがするぞ、愚か者」

 袖で鼻と口を覆い、フレズベルグは翡翠の瞳を細める。
 悪臭はするが、ニーズヘッグはお構いなしだ。

「べつに。俺のテリトリーに入ってくる奴が悪い。お前だってそうだろう?」

「……確かに。縄張りに部外者が踏み入るのは不快だ」

「だろう? じゃあ――」

「だが、……殺しはしない。そこまでする理由はないからな」

 ニーズヘッグの金の瞳が、ふと丸くなる。
 それはフレズベルグの発言を不思議と聞いていた。
 
「……いや、面倒だから殺すだろ?」

「しない」

「なんでだよ、友人Aっ。じゃあ、お前の縄張りで、人間が鳥を殺したらどうするっ? さすがのお前も、そんな奴許せねぇだろうが!」

 フレズベルグの縄張りには幾多もの鳥が住み着いている。
 それはフレズベルグが許しているからこそだ。
 そして、鳥に害を与える者をフレズベルグは酷く嫌う。
 
「その例えなら、確かに私は潰すだろうな……」

「そうだろっ? だったら――」

「しかし、それは場合による。……ニーズヘッグ。人間は我らと違う。あれらは食わねば死ぬ生き物だ。そのために鳥を殺す事もある。それは確かに残酷なことだが、仕方ないとも受け止める。それなりの罰は下すだろうが……悪意を持ってでない行為で、私にはその命を奪う権利などない」

「……なん、だよっ。それ」

「これも自然の摂理だ。……むやみに命は奪うものではない。…………お前にも、できればそうしてほしいと思っている。昔のお前は、そうだっただろうが。人里まで焼きおって」

「俺は……、俺たちは悪魔だっ。魔界でも、強者が決める世の中だろうがっ」

「私の記憶が正しければ、お前はそういうのに興味がなかったはずだが?」

「うっせー! ……そういえば、話がそれたが。なんだったけか?」

 途端に、ニーズヘッグは話を戻そうとする。
 血相を変えた様子を落ち着かせ、気落ちすらしていた。
 フレズベルグは追求することもできた。しかし、ニーズヘッグの様子から仕方なく話を戻すこととする。

「悪魔狩りの魔女のことか」

「ああ、それ……。名のある悪魔っていうと、こっちでも何体か見かけたな」

 ニーズヘッグとフレズベルグは己の縄張りを探すにあたり、人間界の至る所に足を運んだ。
 その最中。同等か、それ以上の力を持つ悪魔を見てきた。
 思い出そうとするよりも早く、悲報の様にフレズベルグは伝える。

「九の王に属する【水霊鬼のルサルカ】。十二の王に属する【強欲獣のメフィストフェレス】。この二体は既に狩られているらしい。これだけで魔女の危険度は相当のものだ。魔界へ戻る者も多々いるらしい」

「……マジかよ。あのルサルカがやられたのかよ。それにメフィストフェレスって……。まあ、アイツは強くてもろくに動かないか。……でも、そうか。どうあれ、つまりは弱かったから狩られたってことか。はは、ウケる」

「この二体が狩られているのだ。遅かれ早かれ、名を上げてしまった我らも対象となる。特にお前はこちらで悪評を稼ぎすぎた。……どうするのだ? 魔界にでも帰るか?」

 魔界に一時避難する方法もある。
 だが、ニーズヘッグはその選択を笑い飛ばした。

「なに言ってんだよフレズベルグ。魔女って確か、魔力を宿した心臓を持ってんだろ? 魔界でも魔女の心臓は最高の食材。狩りに来たなら、逆に仕留めればいい。ルサルカやメフィストフェレスを相手にしたんなら、それを喰えば相応の力が手に入る。またとないチャンスじゃねぇかっ」

「……私は必要ない。そういうのは口に合わんし、力など今のままでじゅうぶんだ」

「そうかよ。まあ、そういうことだ。お前も狩られたくなければ、一人で魔界に帰ってもいいんだぞ?」

「ほざけ愚か者。お前が帰らぬのなら私も帰らん。……お前こそ、危険だと思ったら逃げるのだぞ?」

  
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