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第五部 六章「友人A」
「腐れ縁」
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――ニーズヘッグとフレズベルグ。二体の魔界での日常は波乱万丈が主だった。
魔王の悪戯により招かれた後。色々吹っ切れたフレズベルグに当初の心の弱さは減り、自分の力にしっかり自信を持つことができた。
それからの二体は、魔界のあらゆるところで名をあげてゆく。
時には友として、時には強敵として……。お互いにぶつかり合う事もあった。
「……おい、フレズベルグ。話が違うじゃねーか? 此処は俺を勝たせるって流れじゃないのか?」
「何を言っているニーズヘッグ? お前こそ、ボクに勝ちを譲るべきだ。ボクの方がニーズヘッグより強いのだからな」
「いやいやいや。ついこの前までよく泣いてたフレちゃんが冗談言うなって~。無理すんなよ。俺お前の前で泣いたことねーし」
「ほう? じゃあボクの知らぬところでは泣いたことがあるのか。そうやって一度もないかのように言うとは愚かだなぁ。お前はそこまで狭い心の持ち主ではないと思っていたが?」
「あははは、はぁ……。なんだったら此処はガチでいくか? 泣いてもしらねぇぞ~?」
「それはこっちのセリフというものだな」
お互い意が合わない事もある。子供らしく喧嘩などもよくあった。
どれだけ力を行使しても、暴言を吐こうとも、両者の間にできた絆が消える事はない。
最後には互いを認め、いつもの様に【友人A】と呼び合う。
◆
ニーズヘッグとエリーは進路を決め進む。
ソフラが与えた魔族の街。そこに行けば目当ての物が見つかる……らしいという。
正直、ニーズヘッグはソフラの情報に半信半疑であり、騙されたと思って言われた街を目指す。
もちろん。道中で例のマカツ草が見つければなんの問題もないのだが、ソフラの「絶対にあり得ない」という言葉がいつまでも頭に残っていた。
……案の定。目当ての物は見つからないまま、ウサギの言葉通り街に着いてしまう。
「……マジでなかった。なんか腹立つ」
負けた気にもなってしまう。
無性に苛立ってどうして発散してやろうかと物騒なことまで浮かんでくるほどだ。
それに比べ、エリーは着いた街を物珍しそうに眺める。
「これが……魔族さんたちのいる街なんですね。……なんだか、不思議な感じです」
常に夜の魔界。街灯ははっきりと明るいわけではなく、ぼんやりと淡いもので彩られている。
建物もあり、人間の代わりに魔族たちが充満していた。
魔界の中ではまだ大きな街らしく、住人の数も多い。どれも種族が様々であるも、活気としており分け隔てなく関わっている姿もある。
建物の外装も少し人の世とは異なるものだ。岩か粘土でできているのか、歪な形だったり不思議な感覚もある。
外で店を開いているところもあり、見た事ないモノがずらりと……。
どれもこれもがエリーの目を引く。
「……知らないモノばかりですね」
「すんげー興味津々な姫君、マジで可愛いっ。一応低級魔族どもとはいえ、普通人間ならそんなふうにはできねーと思うけどな」
「でも……こっちでは普通なんですよね? いる人と周りがちょっと違うだけで、やっぱり変わらない感じもするというか……。もっと怖いものだと思ってました」
「うんうん。姫君ってマジで心広くて受け入れ容量半端ないよな。……でもな姫君。姫君可愛いから、あんまり目立った行動しない方がいいぞ~? じゃないと――」
エリーは「ん?」と首を傾けてニーズヘッグを見る。
ニーズヘッグの皮衣が、何処かに伸びている。そして何処か炎蛇の笑みが引きつっている様な。
気になった羽衣の先には……
「こーんな感じで、姫君襲われそうになっちまうから、マジで気をつけろー。…………燃やすか?」
皮衣は少し離れた位置でエリーを狙おうとしていた数体の魔族を捕らえて縛り上げていた。
エリーの様な子供は良くない魔族に狙われる事がある。特に、今のエリーはアルミラージ族の姿をしている。……それもレアな垂れ耳だ。狙うには条件が揃いすぎている。
そんな邪な気配を逸早く察知したニーズヘッグは、こうやって見せしめの様に晒上げていたのだ。
縛られた者たちは、それはもう失態に酷く喚いている。
正当防衛にあたるのだろうが、エリーはあたふたとしてニーズヘッグの極刑を却下した。
「だ、ダメですよニーズヘッグさんっ。そんな事したら、可哀そうですっ」
「え~~。姫君狙ったら……それはもう死刑っしょ?」
「そんな事頼んでませんっ。おろしてあげてください。そういうのは……え~っと、めっ! なんですから!」
――ズキューン!!!!?
ニーズヘッグの脳内で、そんな効果音がこだまする。
エリーの叱るような言葉と、ぴしっと向けられた人差し指。その愛らしい怒り方が、ニーズヘッグのハートを意図もたやすく射抜いてしまう。
「ひーめぎみ、可愛いぃ~!! もう結婚しよ! 末永く俺と添い遂げよ!!」
「け、けけ……ッ!? しませんからー!!」
気づけば炎蛇の腕の中。ハイテンションなまま抱かれて振り回される。
まさかそんな告白までされるとは思っておらず、エリーは目を白黒とさせながらも、その告白を拒否。
それがニーズヘッグに届いているかいないかは……絶好調な機嫌をみればなんとなくわかる。
「とーりーあーえーずー。ウチのに感謝しろ雑魚どもっ。次ちょっかい出そうとしたら、秒で炭な?」
その死刑宣告は、恐ろしくも清々しい笑顔で告げられる。
恐れをなさない者などおらず、その後は予想できる逃げ出しっぷりであった。
エリーとしては、何処か既視感もある。
――なんだろう……。クロトさんの時も似たようなのを見た事ある気が……。
クロトもクロトで似た事をよくしている。
懐かしさもあれば、安堵が一寸ほど……。
「……」
しかし、クロトのことを頭がよぎれば、しだいに不安な気持ちが増してしまう。
クロトの姿を見なくなってどれだけ経つだろうか?
それは魔界に来た時からずっとである。
数日が酷く長く感じてしまい、忘れてしまいそうな感覚に心細くなってゆく。
「……大丈夫だって姫君」
考えている事が表情にでも出てしまったのか。ニーズヘッグはエリーの頭をそっと撫でる。
「とりあえず、この街の商人を探すか。ウサギ野郎の名もあるし、ちゃっちゃと話を通してマカツ草をゲットするからよ。薬の調合もそいつらにさせればなんとかなるから、安心しろって」
そう。この街で全てが解決する。そういう算段となっている。
それを信じ、エリーは不安そうな顔からなんとか笑みを形作った。
しかし。そんな希望を砕くようなことがあるとは、この時どちらも思っていなかった。
「……もういっぺん聞くぞ? ……なんだって?」
商業施設らしき建物にへと入り、ニーズヘッグはソフラの名を出し、商人の魔族にへと話を通す。
そうすることで一番の問題を解決するという流れだったのだが……。
ニーズヘッグは後の発言に耳を疑い、憤怒を堪えつつ、もう一度商人にへと問いかける。
だが、返ってきたのは同じ言葉だ。
「悪いが旦那。……それは今ないんだよ。いくらソフラ様んとこの頼みでも、ないもんは出せないのが商人だ。取り寄せも不可と思ってくれ」
「ちょ……っ、ま、待て! こっちは急ぎなんだよ!! あのウサギがこの街でなんとかなるって――」
「冗談言っていられるほど命知らずでもなくてな……。ないもんはないんだよ……」
恐る恐ると、ニーズヘッグの怒気を感じつつも商人は両手を合わせて頭を下げる。
愕然としてしまい、怒気などかき消されるほどの衝撃的転回。ニーズヘッグは予想外の事態に言葉を失い、後退る。
「……ニ、ニーズヘッグさん。大丈夫……なんですよね?」
つい先ほどまでの自信と信頼は何処へやら。
不安とエリーは問いかけるが、事の深刻さには困惑とさせられてしまう。
そんな少女の視線がニーズヘッグの胸を痛く刺す。どんな言葉を返してよいのか、青ざめた表情のまま振り向く。
「は、ははは……。姫君、……大丈夫だ!」
大丈夫。そうニーズヘッグは口にした。
そして、エリーの肩をがしっと掴む。
「――もしアイツが無理でも、俺が姫君の責任をとる!!」
「――責任ってなんですか!? なんの責任ですかぁ!?」
ニーズヘッグまでも気が動転としてしまい、わけもわからぬ事を言い出した。
だが、エリーが思っている以上に状況が悪い事は痛感させられる。
失望すら感じ取られている事に、ニーズヘッグの気は更に乱れてゆくのみ。
「ああぁっ!! 姫君ぃ!! 頼むからそんなに俺を拒絶しないでくれよぉ! 俺マジで泣いちゃう! 蛇はなぁ、寂しいと死んじゃうんだぞ!?」
「えぇ!? そ、そうなんですか……?」
それを言うなら、蛇ではなくウサギである。
言いたげな商人は、みっともなく少女に駄々をこねる悪魔を申し訳ないという気持ちでいてしまう。
大の大人が、纏う羽衣をビシビシと地に叩きつけて、これでもかと喚いている姿はどうしたものか。
「……すまないが、騒ぐなら外で頼めないか? でないと――」
商人は困った顔で用のない炎蛇たちに退場を願う。
忠告もしようとするが、言い切られる前にそれは姿を現す。
「――ああぁああああ!!! っもう! 野郎が騒いでんじゃないわよ、鬱陶しい!!」
と。怒号が騒いでいた者たちに飛ばされる。
エリーは目を見開き、ニーズヘッグも、ぴたっ止まれば無意識に同じ方にへと目を向けてしまう。
突如怒号を飛ばされた事に驚いたという事もあるが、それ以上にその声には何処か聞き覚えがあった。
店の奥から姿を出したのは、見栄えのあるスタイルをした黒髪の女性。瞳はアメジストかの様な美しい紫。
「こっちは仕事でそこら辺走り回って疲れてんのよ! 騒ぐんならその口塞いで二度としゃべれなくして…………、って、エリーちゃん?」
よくよく見れば。騒ぎを止めたのは、レガルに着いてから別れたはずのネアだった。
エリーたちが驚くのと同様、ネアも「何故此処に?」と言わんばかりの表情。
それはそうだろう……。半魔のネアとは違い、こちらは人間なのだから。魔界に居る事すらおかしく思える。
「ネア、さん? ……どうして此処に?」
「やっぱりエリーちゃん。エリーちゃんこそどうして魔界に? こんな危ないところ……で…………」
ネアはエリーを再確認するも、徐々に声量を失い、最後には衝撃を受けた様に硬直。
いったい何がネアをそこまで追い込んだのか。首を傾けるエリーにはわからない。
ネアは声を震わせ、エリーからはえているウサギの耳を指さす。
「か……かか、か…………っ」
「……か?」
「――可愛すぎるー!! なにそれなにそれ、本物!? お姉さんによく見せてぇ♪」
どうやらエリーのウサギ耳に興味津々であり、ネアは許可が下りずとも触れようと手を伸ばす。
触れそうになった瞬間、その魅力的な獣耳がネアの手から遠ざかる。
つられて見上げた先には、エリーを抱き上げて威嚇する様な視線を放つニーズヘッグの姿が。
これには思わずネアも反応が遅れてしまう。
あの炎蛇が完全な己の姿で表に出てきてしまっているのだから。
「……あ、アンタっ、ニーズヘッグ!?」
「そうだよっ、炎蛇様だ! 文句あっか!?」
反発の言動に、ネアの目元がピクッと動く。
「あるわよ! 大ありだわ!! なんでアンタが出てきてんのよ!? エリーちゃんを返しなさい、この獣!」
「俺をそこらの獣野郎と一緒にすんな! 俺だって触ると怒られるのに、なんで電気女なんかに容易く触らせにゃならんのだ!?」
ニーズヘッグとネアでエリーの取り合いが勃発する。
ネアが素早く取ろうとするも、ニーズヘッグは羽衣でそれを邪魔し、お互いに嫌悪感を漂わせている。
「あ、あのぉ……」
「エリーちゃんに触れるなクソ野郎! クロトはどうした!?」
「事情があんだよ! 知らねーやつがでしゃばってくんな!!」
「お……落ち着いてくださいぃ……っ」
「ある程度くらいは予想着くわよ! アンタが姑息な事してないか問いただしてるだけだっての!」
「誰が姑息だ!? 頭ん中百合畑の半端もんが、この俺様から姫君奪おうとはいい度胸だ! 燃やすぞ!?」
「あ~、やだやだ。こんなキモイ蛇とずっと一緒だったなんて、エリーちゃん可哀そう! 私にぶっ飛ばされた記憶すらないわけ? 思った以上に低能な輩なのね、クロトの方がマシに見えてきた……。まっ、結局野郎だからどっちもどっちだけどね!」
「これだから電気女は嫌いなんだよ! せっかく姫君と二人っきりだったのに、ハネムーンの邪魔してんじゃねーよ! 空気読んでください、マジでぇ!!」
ついにはエリーも目を回してしまい、割り込む余裕がなくなってしまう。
仮にも店の中だというのに、お構いなしに暴れられ、さすがの商人も止めずにはいられない。
「アンタら、頼むから騒ぐんなら他所で――」
「「――うっさい! 黙ってろ!!」」
と。息ぴったし告げられ、そこからは両者の行動を見守るのみとなってしまう。
この騒動が止まったのは、それから数分後の事だった。
おかげで店の外には野次馬が集まるばかり。
魔王の悪戯により招かれた後。色々吹っ切れたフレズベルグに当初の心の弱さは減り、自分の力にしっかり自信を持つことができた。
それからの二体は、魔界のあらゆるところで名をあげてゆく。
時には友として、時には強敵として……。お互いにぶつかり合う事もあった。
「……おい、フレズベルグ。話が違うじゃねーか? 此処は俺を勝たせるって流れじゃないのか?」
「何を言っているニーズヘッグ? お前こそ、ボクに勝ちを譲るべきだ。ボクの方がニーズヘッグより強いのだからな」
「いやいやいや。ついこの前までよく泣いてたフレちゃんが冗談言うなって~。無理すんなよ。俺お前の前で泣いたことねーし」
「ほう? じゃあボクの知らぬところでは泣いたことがあるのか。そうやって一度もないかのように言うとは愚かだなぁ。お前はそこまで狭い心の持ち主ではないと思っていたが?」
「あははは、はぁ……。なんだったら此処はガチでいくか? 泣いてもしらねぇぞ~?」
「それはこっちのセリフというものだな」
お互い意が合わない事もある。子供らしく喧嘩などもよくあった。
どれだけ力を行使しても、暴言を吐こうとも、両者の間にできた絆が消える事はない。
最後には互いを認め、いつもの様に【友人A】と呼び合う。
◆
ニーズヘッグとエリーは進路を決め進む。
ソフラが与えた魔族の街。そこに行けば目当ての物が見つかる……らしいという。
正直、ニーズヘッグはソフラの情報に半信半疑であり、騙されたと思って言われた街を目指す。
もちろん。道中で例のマカツ草が見つければなんの問題もないのだが、ソフラの「絶対にあり得ない」という言葉がいつまでも頭に残っていた。
……案の定。目当ての物は見つからないまま、ウサギの言葉通り街に着いてしまう。
「……マジでなかった。なんか腹立つ」
負けた気にもなってしまう。
無性に苛立ってどうして発散してやろうかと物騒なことまで浮かんでくるほどだ。
それに比べ、エリーは着いた街を物珍しそうに眺める。
「これが……魔族さんたちのいる街なんですね。……なんだか、不思議な感じです」
常に夜の魔界。街灯ははっきりと明るいわけではなく、ぼんやりと淡いもので彩られている。
建物もあり、人間の代わりに魔族たちが充満していた。
魔界の中ではまだ大きな街らしく、住人の数も多い。どれも種族が様々であるも、活気としており分け隔てなく関わっている姿もある。
建物の外装も少し人の世とは異なるものだ。岩か粘土でできているのか、歪な形だったり不思議な感覚もある。
外で店を開いているところもあり、見た事ないモノがずらりと……。
どれもこれもがエリーの目を引く。
「……知らないモノばかりですね」
「すんげー興味津々な姫君、マジで可愛いっ。一応低級魔族どもとはいえ、普通人間ならそんなふうにはできねーと思うけどな」
「でも……こっちでは普通なんですよね? いる人と周りがちょっと違うだけで、やっぱり変わらない感じもするというか……。もっと怖いものだと思ってました」
「うんうん。姫君ってマジで心広くて受け入れ容量半端ないよな。……でもな姫君。姫君可愛いから、あんまり目立った行動しない方がいいぞ~? じゃないと――」
エリーは「ん?」と首を傾けてニーズヘッグを見る。
ニーズヘッグの皮衣が、何処かに伸びている。そして何処か炎蛇の笑みが引きつっている様な。
気になった羽衣の先には……
「こーんな感じで、姫君襲われそうになっちまうから、マジで気をつけろー。…………燃やすか?」
皮衣は少し離れた位置でエリーを狙おうとしていた数体の魔族を捕らえて縛り上げていた。
エリーの様な子供は良くない魔族に狙われる事がある。特に、今のエリーはアルミラージ族の姿をしている。……それもレアな垂れ耳だ。狙うには条件が揃いすぎている。
そんな邪な気配を逸早く察知したニーズヘッグは、こうやって見せしめの様に晒上げていたのだ。
縛られた者たちは、それはもう失態に酷く喚いている。
正当防衛にあたるのだろうが、エリーはあたふたとしてニーズヘッグの極刑を却下した。
「だ、ダメですよニーズヘッグさんっ。そんな事したら、可哀そうですっ」
「え~~。姫君狙ったら……それはもう死刑っしょ?」
「そんな事頼んでませんっ。おろしてあげてください。そういうのは……え~っと、めっ! なんですから!」
――ズキューン!!!!?
ニーズヘッグの脳内で、そんな効果音がこだまする。
エリーの叱るような言葉と、ぴしっと向けられた人差し指。その愛らしい怒り方が、ニーズヘッグのハートを意図もたやすく射抜いてしまう。
「ひーめぎみ、可愛いぃ~!! もう結婚しよ! 末永く俺と添い遂げよ!!」
「け、けけ……ッ!? しませんからー!!」
気づけば炎蛇の腕の中。ハイテンションなまま抱かれて振り回される。
まさかそんな告白までされるとは思っておらず、エリーは目を白黒とさせながらも、その告白を拒否。
それがニーズヘッグに届いているかいないかは……絶好調な機嫌をみればなんとなくわかる。
「とーりーあーえーずー。ウチのに感謝しろ雑魚どもっ。次ちょっかい出そうとしたら、秒で炭な?」
その死刑宣告は、恐ろしくも清々しい笑顔で告げられる。
恐れをなさない者などおらず、その後は予想できる逃げ出しっぷりであった。
エリーとしては、何処か既視感もある。
――なんだろう……。クロトさんの時も似たようなのを見た事ある気が……。
クロトもクロトで似た事をよくしている。
懐かしさもあれば、安堵が一寸ほど……。
「……」
しかし、クロトのことを頭がよぎれば、しだいに不安な気持ちが増してしまう。
クロトの姿を見なくなってどれだけ経つだろうか?
それは魔界に来た時からずっとである。
数日が酷く長く感じてしまい、忘れてしまいそうな感覚に心細くなってゆく。
「……大丈夫だって姫君」
考えている事が表情にでも出てしまったのか。ニーズヘッグはエリーの頭をそっと撫でる。
「とりあえず、この街の商人を探すか。ウサギ野郎の名もあるし、ちゃっちゃと話を通してマカツ草をゲットするからよ。薬の調合もそいつらにさせればなんとかなるから、安心しろって」
そう。この街で全てが解決する。そういう算段となっている。
それを信じ、エリーは不安そうな顔からなんとか笑みを形作った。
しかし。そんな希望を砕くようなことがあるとは、この時どちらも思っていなかった。
「……もういっぺん聞くぞ? ……なんだって?」
商業施設らしき建物にへと入り、ニーズヘッグはソフラの名を出し、商人の魔族にへと話を通す。
そうすることで一番の問題を解決するという流れだったのだが……。
ニーズヘッグは後の発言に耳を疑い、憤怒を堪えつつ、もう一度商人にへと問いかける。
だが、返ってきたのは同じ言葉だ。
「悪いが旦那。……それは今ないんだよ。いくらソフラ様んとこの頼みでも、ないもんは出せないのが商人だ。取り寄せも不可と思ってくれ」
「ちょ……っ、ま、待て! こっちは急ぎなんだよ!! あのウサギがこの街でなんとかなるって――」
「冗談言っていられるほど命知らずでもなくてな……。ないもんはないんだよ……」
恐る恐ると、ニーズヘッグの怒気を感じつつも商人は両手を合わせて頭を下げる。
愕然としてしまい、怒気などかき消されるほどの衝撃的転回。ニーズヘッグは予想外の事態に言葉を失い、後退る。
「……ニ、ニーズヘッグさん。大丈夫……なんですよね?」
つい先ほどまでの自信と信頼は何処へやら。
不安とエリーは問いかけるが、事の深刻さには困惑とさせられてしまう。
そんな少女の視線がニーズヘッグの胸を痛く刺す。どんな言葉を返してよいのか、青ざめた表情のまま振り向く。
「は、ははは……。姫君、……大丈夫だ!」
大丈夫。そうニーズヘッグは口にした。
そして、エリーの肩をがしっと掴む。
「――もしアイツが無理でも、俺が姫君の責任をとる!!」
「――責任ってなんですか!? なんの責任ですかぁ!?」
ニーズヘッグまでも気が動転としてしまい、わけもわからぬ事を言い出した。
だが、エリーが思っている以上に状況が悪い事は痛感させられる。
失望すら感じ取られている事に、ニーズヘッグの気は更に乱れてゆくのみ。
「ああぁっ!! 姫君ぃ!! 頼むからそんなに俺を拒絶しないでくれよぉ! 俺マジで泣いちゃう! 蛇はなぁ、寂しいと死んじゃうんだぞ!?」
「えぇ!? そ、そうなんですか……?」
それを言うなら、蛇ではなくウサギである。
言いたげな商人は、みっともなく少女に駄々をこねる悪魔を申し訳ないという気持ちでいてしまう。
大の大人が、纏う羽衣をビシビシと地に叩きつけて、これでもかと喚いている姿はどうしたものか。
「……すまないが、騒ぐなら外で頼めないか? でないと――」
商人は困った顔で用のない炎蛇たちに退場を願う。
忠告もしようとするが、言い切られる前にそれは姿を現す。
「――ああぁああああ!!! っもう! 野郎が騒いでんじゃないわよ、鬱陶しい!!」
と。怒号が騒いでいた者たちに飛ばされる。
エリーは目を見開き、ニーズヘッグも、ぴたっ止まれば無意識に同じ方にへと目を向けてしまう。
突如怒号を飛ばされた事に驚いたという事もあるが、それ以上にその声には何処か聞き覚えがあった。
店の奥から姿を出したのは、見栄えのあるスタイルをした黒髪の女性。瞳はアメジストかの様な美しい紫。
「こっちは仕事でそこら辺走り回って疲れてんのよ! 騒ぐんならその口塞いで二度としゃべれなくして…………、って、エリーちゃん?」
よくよく見れば。騒ぎを止めたのは、レガルに着いてから別れたはずのネアだった。
エリーたちが驚くのと同様、ネアも「何故此処に?」と言わんばかりの表情。
それはそうだろう……。半魔のネアとは違い、こちらは人間なのだから。魔界に居る事すらおかしく思える。
「ネア、さん? ……どうして此処に?」
「やっぱりエリーちゃん。エリーちゃんこそどうして魔界に? こんな危ないところ……で…………」
ネアはエリーを再確認するも、徐々に声量を失い、最後には衝撃を受けた様に硬直。
いったい何がネアをそこまで追い込んだのか。首を傾けるエリーにはわからない。
ネアは声を震わせ、エリーからはえているウサギの耳を指さす。
「か……かか、か…………っ」
「……か?」
「――可愛すぎるー!! なにそれなにそれ、本物!? お姉さんによく見せてぇ♪」
どうやらエリーのウサギ耳に興味津々であり、ネアは許可が下りずとも触れようと手を伸ばす。
触れそうになった瞬間、その魅力的な獣耳がネアの手から遠ざかる。
つられて見上げた先には、エリーを抱き上げて威嚇する様な視線を放つニーズヘッグの姿が。
これには思わずネアも反応が遅れてしまう。
あの炎蛇が完全な己の姿で表に出てきてしまっているのだから。
「……あ、アンタっ、ニーズヘッグ!?」
「そうだよっ、炎蛇様だ! 文句あっか!?」
反発の言動に、ネアの目元がピクッと動く。
「あるわよ! 大ありだわ!! なんでアンタが出てきてんのよ!? エリーちゃんを返しなさい、この獣!」
「俺をそこらの獣野郎と一緒にすんな! 俺だって触ると怒られるのに、なんで電気女なんかに容易く触らせにゃならんのだ!?」
ニーズヘッグとネアでエリーの取り合いが勃発する。
ネアが素早く取ろうとするも、ニーズヘッグは羽衣でそれを邪魔し、お互いに嫌悪感を漂わせている。
「あ、あのぉ……」
「エリーちゃんに触れるなクソ野郎! クロトはどうした!?」
「事情があんだよ! 知らねーやつがでしゃばってくんな!!」
「お……落ち着いてくださいぃ……っ」
「ある程度くらいは予想着くわよ! アンタが姑息な事してないか問いただしてるだけだっての!」
「誰が姑息だ!? 頭ん中百合畑の半端もんが、この俺様から姫君奪おうとはいい度胸だ! 燃やすぞ!?」
「あ~、やだやだ。こんなキモイ蛇とずっと一緒だったなんて、エリーちゃん可哀そう! 私にぶっ飛ばされた記憶すらないわけ? 思った以上に低能な輩なのね、クロトの方がマシに見えてきた……。まっ、結局野郎だからどっちもどっちだけどね!」
「これだから電気女は嫌いなんだよ! せっかく姫君と二人っきりだったのに、ハネムーンの邪魔してんじゃねーよ! 空気読んでください、マジでぇ!!」
ついにはエリーも目を回してしまい、割り込む余裕がなくなってしまう。
仮にも店の中だというのに、お構いなしに暴れられ、さすがの商人も止めずにはいられない。
「アンタら、頼むから騒ぐんなら他所で――」
「「――うっさい! 黙ってろ!!」」
と。息ぴったし告げられ、そこからは両者の行動を見守るのみとなってしまう。
この騒動が止まったのは、それから数分後の事だった。
おかげで店の外には野次馬が集まるばかり。
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