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第六部 六章 「最終局面」
「悪夢の終わり」
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「……」
呆然と空を見上げる。
黒く澱んで、朝日など訪れない魔界の空。雲すら流れない止まった空を見上げ、フレズベルグは呆れ気分でため息を吐く。
「さて。そろそろ気が変わったか?」
問いに、わずかながらフレズベルグは反応する。
目線を声に向ければ、あちらも呆れ様子でいた。
銀の君。時の管理者。二番席魔王――クロノス。
彼女の手により静止した世界で、フレズベルグの身は既にボロボロだ。
四肢を失い、身動きすらとれない状態で横たわっている。不死で痛覚がないのはありがたいが、これが本来の姿ならどれだけ発狂しただろうか。イロハの姿でも不快感はあるが、相手が相手なため無駄な抵抗ができずに、ただただ彼女の望む答えを出せぬままこの有様。
……そろそろ面倒にもなってきた。
もう一度。呆れのため息を吐いてから、フレズベルグは応答する。
「わかった。私は姫を起こさないよ。……それで満足かクロノス?」
ようやく。その言葉を待っていたクロノスは「ふんっ」と鼻を鳴らす。
クロノスも同様で面倒になってきたのだろう。たかが一個体の悪魔に彼女が動くなど、本来は有り得ない話だ。
彼女の居場所は常に王の間。一番席共々、早々その身を動かさずにいるのだから。
静止した時間の中、時間がかかったというのもおかしな話だが、クロノスは散らばったフレズベルグの四肢の時間を戻す。
すぐにフレズベルグの肉体は回復し、その身をゆっくり起こした。
「わかればいいのだ。私とて暇ではないのでな」
「時間を操れる魔王が言うのはおかしな話ではないのか?」
「……私とて、止められない時間もあるのでな。先ほどの言葉、忘れるなよ? これ以上、厄災の娘を起こすような事はするな」
「二度も言わすな。……私は起こさん。…………私は、な」
繰り返された言葉。その言葉に、クロノスが目を細めフレズベルグを睨んだ。
「私はこれ以上関与しないが。……もしも。仮にもだ。姫が自力で目覚める……という可能性もあると忠告だけはさせてもらう」
「……」
フレズベルグはこれ以上の関与はしない。それは大前提だ。
しかし、その関与の術を借りず、少女が自身の意志で目を覚ますという結果も有り得る。フレズベルグが言いたいのはその事だ。
もちろん。その可能性も否定はできない。だが、呪いを抱える非力な少女に何ができるのか。クロノスはわずかな可能性である懸念混じりの目で、ふと問題の少女を見る。
……その時。有り得ないものを目にしてしまった。
時の止まった世界で、クロノスが見たのは、動くはずのない少女の指先が、ほんのわずかでも動いたというもの。
途端に。クロノスは少女を警戒し、瞬時に距離を取った。
双眸を見開き。驚きと焦りを滲ませた、彼女の意外な表情で、息を飲んだ。
「……そういうわけだクロノス。私はお前の意見を呑むが、本当にそれだけで望む未来にたどりつけるのか?」
「…………っ」
「変わってないのだろ? この程度で変わるくらいの未来なら、お前が姿を出す事もないからな」
「何が言いたい?」
冷静を保ちながら、なんとか返答をするクロノス。
それに対し、フレズベルグは静かに彼女を見た。
「――八つ当たり感覚で来られても迷惑だ。早急に玉座に戻るのだな」
――……
フレズベルグの言葉に、クロノスはカッと目を見開く。
不快感が限界を超えたのか、発言後にフレズベルグの首が宙を舞う。
すぐに戻りはしたが、その間にクロノスの姿はなく、周囲の時間も戻っていた。
どうも図星だったらしい。最後に首を飛ばしてから帰っていった様子。
「……本当に八つ当たりではないか。…………まったく。それだけクロノスにも焦りがある、という事か」
首の調子を整えていれば、闇精霊が悲鳴をあげた。
徐々に治るものだが、周囲に激しく散りばめられた鮮血に驚いている。
一瞬にして周囲が血まみれなのだ。何も知らなければこの反応も当然である。
『ギャァアアア!! 何してんのよアンタ!? 首が一瞬飛んでたし、意味わかんない!!』
「やかましい。……気にするな」
『気にするわ!!』
首が宙を舞った瞬間を見てしまったらしい。血の跡と異臭が消えるのにそう時間はかからなかった。
騒ぐ闇精霊を冷たくあしらい、フレズベルグは眠る二人にへと向き直る。
……と。ニーズヘッグの首が、かくんっ、と揺れて目を覚ます。
「……はッ! やべー! 此処まで追い出された!!」
「戻ったかニーズヘッグ。状況はどうだった?」
どう見ても朗報が聞けなさそうな状況だが、聞かないわけにもいかない。
「いや、姫君見つけてギリギリラインで夢ん中入れたんだが、ウチの主を起こすのに必要で余力使い切ったらこの様ですわ! もう一回行ってきます!!」
ギュッとエリーを抱きながら焦り口調でニーズヘッグはもう一度行こうとする。
フレズベルグは特になにもしない。これはニーズヘッグの行動なため、クロノスとの契約に該当しないからだ。
何も言わず。ただ炎蛇を見守ろうとするのみ。
……が。
「……んんっ」
力の加わる腕の中で、ふと少女のうめく声が聞こえた。
途端に周囲は静まり、誰もが少女にへと目を向ける。
同時に、星の瞳が再び開かれた。
厄災の少女が、再び悪夢から帰還を果たし、此処にいる。
安堵はあっただろう。しかし、それを超える驚きもあった。
本当に少女が、他者の悪夢から無事に帰還したのだから。
「姫君! 無事か!? 荒い方法で悪かった!!」
「……だい、じょうぶですよ? でも、ちょっと苦しいです」
無意識に抱きしめられ、エリーは苦しさを訴えた。
解放されるには時間がかかった。ニーズヘッグの言い分が多く、フレズベルグが強引に引きはがして治めた。
「無事でなによりだ姫。……様子からして、ニーズヘッグよりは良き知らせが聞けそうだ」
「やめてフレちゃん! 俺頑張ってます! 役立たずじゃないもん! ――あだっ!!」
声をあげるニーズヘッグの頭をフレズベルグの握りこぶしが振り下ろされる。
「誰もそこまで言ってないだろうが。黙ってろ愚か者」
エリーとしては、二人のやり取りは中身が違うだけで外見はクロトとイロハである。
やはり不思議な光景でしかなく困惑に押し負けてしまいそうだ。
報告をしようにもタイミングが必要を見図ろうとするが、この状況で黙り続けていた闇精霊がようやく口を開く。
「……嘘っ。また一つ悪夢が消えたっ。もうわけわかんない! なんなのよコイツら!」
有り得ない。想定外と、苛立つ闇精霊。
その様子からでも事の進展は確かなものだ。
「……マジだ。さすが姫君! ちゃんとクロト戻ってきてるぞ!」
「ほ、本当ですか!? ……よかったぁ」
安堵に気が抜ける思いだ。
ニーズヘッグが確認したのなら、クロトも悪夢から帰還したことになる。
半数が悪夢から解放されれば、他も薄れが見えてくる。
「では、こちらも探りなおそう。解放させれば、異端者も起きるだろうからな」
「おお、頼んだ!」
ようやく、この悪夢の呪縛から全員が解放される。
フレズベルグの調査が終われば、イロハも目覚め、ネアも自力でどうにかできるという流れ。
待つだけの少しの時間潰しとしてちょっとした会話が二人の間で行われた。
「……つーか。姫君マジですげーのな」
「私は特に……。ニーズヘッグさんがいなければ、きっと何もできませんでしたよ」
「お褒めの言葉マジでありがたい! ……たぶん、クロトは姫君にあの光景を見られたくなかっただろうな。アイツにとっては一番の後悔の記憶だし」
「クロトさんもそう言われてました。でも、私の気持ちはなにも変わりませんよ。だってクロトさんですから」
その姿勢に、ニーズヘッグはエリーの頭を撫でてやる。
「頼りになるよ、姫君。……やっぱアイツには――」
最後は空気に溶けるように、すーっと消えていく。
ニーズヘッグが何を言いたかったのか。それを確認するように顔を覗き込むと、ゆっくり開かれた瞼にあるのは金の瞳ではなかった。
それは、クロトの瞳であり。星の瞳がつい丸くなってしまった。
「……ん?」
不思議と、仏頂面で首を傾げる魔銃使い。
ようやく目覚めたクロトに、数秒遅れてからエリーは呟く。
「……おはよう、ございます。クロトさん」
「は? ……俺、寝てたのか?」
本人に眠っていたという自覚がないのか、周囲を確認する。
眠るネアとイロハ。それと同時に自分も寝ていたなど、いったいどういう状況なのか。
理解しようにも頭が混乱する。
「覚えてないんですか?」
「…………」
深く考え込む。
エリーはどちらの夢を覚えていたのだが、やはりそれは夢でしかないのかもしれない。
夢とは起きてしまえば忘れてしまう事が大半だ。泡沫の如き夢をクロトが覚えていなくてもおかしくはない。
例えそれが、最も苦悩した悪夢だったとしてもだ。
「――ぷはっ! え!? ボク寝てた!?」
飛び上がる勢いでイロハが目を覚ます。
どうやらフレズベルグがイロハを見つけ、そのまま戻ったのだろう。
「なんか……っ、なんか嫌な夢見た気がする! すっごい嫌なの!!」
こちらは夢の事を少しばかり覚えているらしい。
しかし、曖昧で詳細がつかめないという。
悪夢は終わる。
その夢は泡沫と消えるも、心の何処かにはあるもの。
過ぎ去りし過去に捕らわれるも、それは夢でしかない。
夢はいつか覚めるもの。どのような夢でも、覚めて前へ進む。
例え、その先が更なる過酷な未来だとしても。それを知るすべは今の彼らにはないのだから。
******************************
『やくまが 次回予告』
エリー
「おはようございますクロトさん! ……って、これ前回にもニーズヘッグさんがクロトさんにも言われてた気がします。具体的には前章の予告で」
クロト
「いや、どうでもいいんだが……。今回俺いたかってレベルで記憶がねーんだが?」
エリー
「大丈夫です! ちゃんといましたよ。もうクロトさん、すごく可愛らしかったんですから」
クロト
「……やめろ。すげー寒気しかない」
エリー
「それに、こういった予告が本当に久しぶりなんですよ! ふざけてられないって状況なんですよね。ずっとシリアス展開ばっかみたいでしたし」
クロト
「……つまりお前はこの茶番を茶番と認めてるんだな」
エリー
「そういえばクロトさん。魔界に来てから睡眠がほとんどですよね。寝疲れとかないんですか? たぶん前の章と合わせて七割近くは睡眠ですよ?」
クロト
「気にはしてないつもりだったが、立場的にそろそろやべーって事は感じてきたな。なら次回からはその分発散する気分でいくしかねーか」
エリー
「そろそろお日様が見たいですよね」
クロト
「面倒事がなければいいんだがな」
エリー
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第七部 一章「紫電の記憶」。思えばネアさんも全然出てませんでしたよね」
クロト
「アイツの存在感ないのも不穏だな」
エリー
「うーん。波瀾の予兆でしょうか?」
呆然と空を見上げる。
黒く澱んで、朝日など訪れない魔界の空。雲すら流れない止まった空を見上げ、フレズベルグは呆れ気分でため息を吐く。
「さて。そろそろ気が変わったか?」
問いに、わずかながらフレズベルグは反応する。
目線を声に向ければ、あちらも呆れ様子でいた。
銀の君。時の管理者。二番席魔王――クロノス。
彼女の手により静止した世界で、フレズベルグの身は既にボロボロだ。
四肢を失い、身動きすらとれない状態で横たわっている。不死で痛覚がないのはありがたいが、これが本来の姿ならどれだけ発狂しただろうか。イロハの姿でも不快感はあるが、相手が相手なため無駄な抵抗ができずに、ただただ彼女の望む答えを出せぬままこの有様。
……そろそろ面倒にもなってきた。
もう一度。呆れのため息を吐いてから、フレズベルグは応答する。
「わかった。私は姫を起こさないよ。……それで満足かクロノス?」
ようやく。その言葉を待っていたクロノスは「ふんっ」と鼻を鳴らす。
クロノスも同様で面倒になってきたのだろう。たかが一個体の悪魔に彼女が動くなど、本来は有り得ない話だ。
彼女の居場所は常に王の間。一番席共々、早々その身を動かさずにいるのだから。
静止した時間の中、時間がかかったというのもおかしな話だが、クロノスは散らばったフレズベルグの四肢の時間を戻す。
すぐにフレズベルグの肉体は回復し、その身をゆっくり起こした。
「わかればいいのだ。私とて暇ではないのでな」
「時間を操れる魔王が言うのはおかしな話ではないのか?」
「……私とて、止められない時間もあるのでな。先ほどの言葉、忘れるなよ? これ以上、厄災の娘を起こすような事はするな」
「二度も言わすな。……私は起こさん。…………私は、な」
繰り返された言葉。その言葉に、クロノスが目を細めフレズベルグを睨んだ。
「私はこれ以上関与しないが。……もしも。仮にもだ。姫が自力で目覚める……という可能性もあると忠告だけはさせてもらう」
「……」
フレズベルグはこれ以上の関与はしない。それは大前提だ。
しかし、その関与の術を借りず、少女が自身の意志で目を覚ますという結果も有り得る。フレズベルグが言いたいのはその事だ。
もちろん。その可能性も否定はできない。だが、呪いを抱える非力な少女に何ができるのか。クロノスはわずかな可能性である懸念混じりの目で、ふと問題の少女を見る。
……その時。有り得ないものを目にしてしまった。
時の止まった世界で、クロノスが見たのは、動くはずのない少女の指先が、ほんのわずかでも動いたというもの。
途端に。クロノスは少女を警戒し、瞬時に距離を取った。
双眸を見開き。驚きと焦りを滲ませた、彼女の意外な表情で、息を飲んだ。
「……そういうわけだクロノス。私はお前の意見を呑むが、本当にそれだけで望む未来にたどりつけるのか?」
「…………っ」
「変わってないのだろ? この程度で変わるくらいの未来なら、お前が姿を出す事もないからな」
「何が言いたい?」
冷静を保ちながら、なんとか返答をするクロノス。
それに対し、フレズベルグは静かに彼女を見た。
「――八つ当たり感覚で来られても迷惑だ。早急に玉座に戻るのだな」
――……
フレズベルグの言葉に、クロノスはカッと目を見開く。
不快感が限界を超えたのか、発言後にフレズベルグの首が宙を舞う。
すぐに戻りはしたが、その間にクロノスの姿はなく、周囲の時間も戻っていた。
どうも図星だったらしい。最後に首を飛ばしてから帰っていった様子。
「……本当に八つ当たりではないか。…………まったく。それだけクロノスにも焦りがある、という事か」
首の調子を整えていれば、闇精霊が悲鳴をあげた。
徐々に治るものだが、周囲に激しく散りばめられた鮮血に驚いている。
一瞬にして周囲が血まみれなのだ。何も知らなければこの反応も当然である。
『ギャァアアア!! 何してんのよアンタ!? 首が一瞬飛んでたし、意味わかんない!!』
「やかましい。……気にするな」
『気にするわ!!』
首が宙を舞った瞬間を見てしまったらしい。血の跡と異臭が消えるのにそう時間はかからなかった。
騒ぐ闇精霊を冷たくあしらい、フレズベルグは眠る二人にへと向き直る。
……と。ニーズヘッグの首が、かくんっ、と揺れて目を覚ます。
「……はッ! やべー! 此処まで追い出された!!」
「戻ったかニーズヘッグ。状況はどうだった?」
どう見ても朗報が聞けなさそうな状況だが、聞かないわけにもいかない。
「いや、姫君見つけてギリギリラインで夢ん中入れたんだが、ウチの主を起こすのに必要で余力使い切ったらこの様ですわ! もう一回行ってきます!!」
ギュッとエリーを抱きながら焦り口調でニーズヘッグはもう一度行こうとする。
フレズベルグは特になにもしない。これはニーズヘッグの行動なため、クロノスとの契約に該当しないからだ。
何も言わず。ただ炎蛇を見守ろうとするのみ。
……が。
「……んんっ」
力の加わる腕の中で、ふと少女のうめく声が聞こえた。
途端に周囲は静まり、誰もが少女にへと目を向ける。
同時に、星の瞳が再び開かれた。
厄災の少女が、再び悪夢から帰還を果たし、此処にいる。
安堵はあっただろう。しかし、それを超える驚きもあった。
本当に少女が、他者の悪夢から無事に帰還したのだから。
「姫君! 無事か!? 荒い方法で悪かった!!」
「……だい、じょうぶですよ? でも、ちょっと苦しいです」
無意識に抱きしめられ、エリーは苦しさを訴えた。
解放されるには時間がかかった。ニーズヘッグの言い分が多く、フレズベルグが強引に引きはがして治めた。
「無事でなによりだ姫。……様子からして、ニーズヘッグよりは良き知らせが聞けそうだ」
「やめてフレちゃん! 俺頑張ってます! 役立たずじゃないもん! ――あだっ!!」
声をあげるニーズヘッグの頭をフレズベルグの握りこぶしが振り下ろされる。
「誰もそこまで言ってないだろうが。黙ってろ愚か者」
エリーとしては、二人のやり取りは中身が違うだけで外見はクロトとイロハである。
やはり不思議な光景でしかなく困惑に押し負けてしまいそうだ。
報告をしようにもタイミングが必要を見図ろうとするが、この状況で黙り続けていた闇精霊がようやく口を開く。
「……嘘っ。また一つ悪夢が消えたっ。もうわけわかんない! なんなのよコイツら!」
有り得ない。想定外と、苛立つ闇精霊。
その様子からでも事の進展は確かなものだ。
「……マジだ。さすが姫君! ちゃんとクロト戻ってきてるぞ!」
「ほ、本当ですか!? ……よかったぁ」
安堵に気が抜ける思いだ。
ニーズヘッグが確認したのなら、クロトも悪夢から帰還したことになる。
半数が悪夢から解放されれば、他も薄れが見えてくる。
「では、こちらも探りなおそう。解放させれば、異端者も起きるだろうからな」
「おお、頼んだ!」
ようやく、この悪夢の呪縛から全員が解放される。
フレズベルグの調査が終われば、イロハも目覚め、ネアも自力でどうにかできるという流れ。
待つだけの少しの時間潰しとしてちょっとした会話が二人の間で行われた。
「……つーか。姫君マジですげーのな」
「私は特に……。ニーズヘッグさんがいなければ、きっと何もできませんでしたよ」
「お褒めの言葉マジでありがたい! ……たぶん、クロトは姫君にあの光景を見られたくなかっただろうな。アイツにとっては一番の後悔の記憶だし」
「クロトさんもそう言われてました。でも、私の気持ちはなにも変わりませんよ。だってクロトさんですから」
その姿勢に、ニーズヘッグはエリーの頭を撫でてやる。
「頼りになるよ、姫君。……やっぱアイツには――」
最後は空気に溶けるように、すーっと消えていく。
ニーズヘッグが何を言いたかったのか。それを確認するように顔を覗き込むと、ゆっくり開かれた瞼にあるのは金の瞳ではなかった。
それは、クロトの瞳であり。星の瞳がつい丸くなってしまった。
「……ん?」
不思議と、仏頂面で首を傾げる魔銃使い。
ようやく目覚めたクロトに、数秒遅れてからエリーは呟く。
「……おはよう、ございます。クロトさん」
「は? ……俺、寝てたのか?」
本人に眠っていたという自覚がないのか、周囲を確認する。
眠るネアとイロハ。それと同時に自分も寝ていたなど、いったいどういう状況なのか。
理解しようにも頭が混乱する。
「覚えてないんですか?」
「…………」
深く考え込む。
エリーはどちらの夢を覚えていたのだが、やはりそれは夢でしかないのかもしれない。
夢とは起きてしまえば忘れてしまう事が大半だ。泡沫の如き夢をクロトが覚えていなくてもおかしくはない。
例えそれが、最も苦悩した悪夢だったとしてもだ。
「――ぷはっ! え!? ボク寝てた!?」
飛び上がる勢いでイロハが目を覚ます。
どうやらフレズベルグがイロハを見つけ、そのまま戻ったのだろう。
「なんか……っ、なんか嫌な夢見た気がする! すっごい嫌なの!!」
こちらは夢の事を少しばかり覚えているらしい。
しかし、曖昧で詳細がつかめないという。
悪夢は終わる。
その夢は泡沫と消えるも、心の何処かにはあるもの。
過ぎ去りし過去に捕らわれるも、それは夢でしかない。
夢はいつか覚めるもの。どのような夢でも、覚めて前へ進む。
例え、その先が更なる過酷な未来だとしても。それを知るすべは今の彼らにはないのだから。
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『やくまが 次回予告』
エリー
「おはようございますクロトさん! ……って、これ前回にもニーズヘッグさんがクロトさんにも言われてた気がします。具体的には前章の予告で」
クロト
「いや、どうでもいいんだが……。今回俺いたかってレベルで記憶がねーんだが?」
エリー
「大丈夫です! ちゃんといましたよ。もうクロトさん、すごく可愛らしかったんですから」
クロト
「……やめろ。すげー寒気しかない」
エリー
「それに、こういった予告が本当に久しぶりなんですよ! ふざけてられないって状況なんですよね。ずっとシリアス展開ばっかみたいでしたし」
クロト
「……つまりお前はこの茶番を茶番と認めてるんだな」
エリー
「そういえばクロトさん。魔界に来てから睡眠がほとんどですよね。寝疲れとかないんですか? たぶん前の章と合わせて七割近くは睡眠ですよ?」
クロト
「気にはしてないつもりだったが、立場的にそろそろやべーって事は感じてきたな。なら次回からはその分発散する気分でいくしかねーか」
エリー
「そろそろお日様が見たいですよね」
クロト
「面倒事がなければいいんだがな」
エリー
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第七部 一章「紫電の記憶」。思えばネアさんも全然出てませんでしたよね」
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