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第九部 四章「そして終わりはやってくる」
「否定の熱」
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魔女は……己を魔女と認めている。
冷徹で、残忍で、【願い】のためなら手段を選ばない。人も魔も恐れを抱かせる災厄にして厄災の元凶。絵本などで語られる魔女などかすむほど、彼女は恐ろしい魔女なのだ。
それを言葉として宣言しようとした魔女。だが、それを言い切る前にクロトは声を割り込ませた。
「……ああ。お前は魔女だよ。最悪でどうしようもない」
「クロトはよくわかってくれているわ」
「ああ。そして、どんだけお前がこの世界嫌ってるのか鬱陶しいほど理解できたよ」
己を理解された事は、魔女にとって喜ばしい事だ。
こんな時でもまだ笑みを浮かべていられるのだから。
彼女の受けてきた仕打ち。彼女が抱えてきた【怒り】。確かに魔女も世にある不平等がもたらした被害者の一人なのだろう。
……が。
「――で? だからなんだよ?」
意図もたやすく、クロトはその彼女の辛い人生をどうでもいいと吐き捨てた。
「何度も言うが、俺は何言われようが同情しない。他人の悲劇なんて興味ねぇし、理解したくもない。それはお前もよく理解しているはずだ」
「……そうね。そういうクロトが私は好きなのだから。……そして、私の【願い】を理解し同意してもらわなくても……本当はいいの。だって、愛おしい子たちには何も知らず、この終焉は私たちだけで終わらせるものだったのだから」
全てを理解されるなど、それは行き過ぎた願いであると魔女も薄々感じてはいた。
同じ境遇だろうがなんだろうが、それでもクロトは魔女を否定する。それこそが魔銃使いの生き方であり、魔女も望んだ魔銃使いの在り方だ。
それをこれ以上否定したところで無意味。
「さんざん喚いて。さんざん訴えて。……だからこそ、俺はわかんねぇんだよ」
「まだ何か疑問があって?」
クロトは頷く。
「お前にはもっと他に選択肢があったんじゃないかって……。なのに、お前はこの道を選んだ。世界が嫌いだから、それを壊すって道を」
「嫌いなものを排除しようとするのは、人間でもよくある事だわ」
「正論だな。俺も不愉快な奴は排除したくなる。お前を捜している間に、俺の手はどうにもならないくらい血に濡れている」
「貴方は貴方の正義を全うした。ただそれだけよ。私は罪と咎めないわ」
「俺に正義があるわけねぇだろうが……。今更になって思う事があるんだよ。俺たちは、出会うべきじゃなかった、ってな……。お前も、そんな【願い】なんて考えもせず、誰とも関わらない選択もあったんじゃねーのかよ?」
「……私に、生まれた地でひっそりと、この不平等な世界に強いられながら生きていればよかった。……とでも言うの? 私は魔女よ? 【怒り】こそ私の力。なら、この世界に対する【怒り】をどうしろというの? 私にずっと抱え続けろと? クロトを見捨てろと? 可哀想な貴方たちを救おうとする私の心は、そんなに間違っているとでも?」
魔女にとっては慈悲だった。クロトも、そしてイロハも救われた事に変わりはない。
しかし、それらは魔女が道を決めた後付けのものでしかない。
「自分の不幸を重ねてしまっただけだろうが。人を哀れんで救って、優越感に浸ってんじゃねぇよっ。……お前は魔女だ。そして、なんでいつまでも押し付けられた肩書のままで居座ってんだよっ」
「……っ」
魔女。それは種族を意味する名称。彼女は魔女だ。そして、魔女というもの以外に名乗る名がない。
名がなく、己を示すものが、彼女にはそれしかなかった。
「名じゃない肩書がずっと嫌なんじゃなかったのかよ? 意地になってそんなもん引きずって、魔女だからってだけで悪役ぶって、周りが言う魔女として開き直ってんじゃねーよ!!」
魔女という肩書が嫌いなら、それをいつまでも名乗る必要などない。
魔女はいつだって悪者にして、誰もが恐怖を抱く存在。それを全うする必要もない。
「不平等が嫌いかよ? じゃあ、お前が望むのは不平等の一切ない世界かよ?」
「……そうよ。貴方たちのような可哀想な子はいない。異端なんてない。誰しもが同じで、差別もなにもない。魔女なんてない! 種族の境目もない! 全てが等しく同じなら、争いもなにもない」
魔女の欲した平等。魔女だからと非難されない。全てが等しくある世界。
感情も、魂も。それが全て、誰もが寸分違わず同一であれば。そこに争いはなく、誰もが同じ思考でいられる。
誰もが誰も咎めない世界だからこその平穏な世界。
争いが差別のない世界を誰もが望むだろう。
しかし、……魔銃使いは平穏なその世界を望みはしない。
「やっぱ、お前の【願い】には同意できねーよ。差別も、嫌悪も一切ない……。そんな世界なら確かに平和だろうな。……だが、本当にそんな世界は平和なんて言えるのかよ? 争って、意見が食い違って、誰もが一緒じゃねーから、世界は……俺は此処にいるんだよ!!」
「……」
「お前の世界に俺はいない。いてもそれは、他となんもかわんねぇだけの、ただ生きているだけの誰かだ。そこにイロハも、ネアも、……誰もいねぇんだよ。もちろん、アイツも」
全てが平等な世界にいるのは、寸分違わない者である。ひと一人、個人というものは存在しない。そこにあるのは、1でしかない。同一人物
が何億といるだけの世界だ。
「人はな、どいつもこいつも……、ぶつかって、傷つけあって、それでも生きてんだよ! 俺やお前みたいに、甘えて生きてんじゃねーんだよ!!」
不平等が嫌いだから平等のみを求める。不平等から魔女は逃げようとした。
クロトも逃げた。母親の愛を受け止めきれず、母親を絶つことで【願い】に縋った。
向き合うことから……二人は逃げている。
「この世界は不平等で、理不尽で……それでも、……それでも救いがあるって生きる奴だっているんだよ。ただ傷つけるだけの世界じゃないって、わかってんだよ! 傷つける事も、殺す事も楽だ……。だが、それを懸命にやらない奴もいる。御人好しとか、馬鹿だとも思う。そして、そう貶す俺は…………ただ楽な方に逃げてるだけの、自己防衛してるだけの愚か者だ」
感情が欠けているからだとか、ただ不快だったからだとか。そんなものは、ただの言い訳だ。
殺すのも、傷つけるのも。自分の手を地に染めたのも。全て自分が逃げてきた証だ。
だからこそ、正義なんて言葉が似合わない。
クロトは知っている。真っ当に生きている人間を。差分の多い魔族ですらそうしている者がいる事を。それらに自分が劣っている事なども。心の底では認めていた。
だからこそ、自分の血に濡れた手を取る、あの温かな手に抵抗があった。
なんの汚れもなく、こびりついた罪を拭い落すような。真っ当を通り越して、度が過ぎた御人好しで。
そんな仕草の少女の姿を思い出すと、無意識に馬鹿らしいと笑ってしまう。
――ああ……そうだ……。そうだよな……。
「それに、アイツがこの先の終焉を望むわけ……ないんだよ」
視線は魔女の奥を見る。
この終焉に欠かせない呪われた少女を。
冷徹で、残忍で、【願い】のためなら手段を選ばない。人も魔も恐れを抱かせる災厄にして厄災の元凶。絵本などで語られる魔女などかすむほど、彼女は恐ろしい魔女なのだ。
それを言葉として宣言しようとした魔女。だが、それを言い切る前にクロトは声を割り込ませた。
「……ああ。お前は魔女だよ。最悪でどうしようもない」
「クロトはよくわかってくれているわ」
「ああ。そして、どんだけお前がこの世界嫌ってるのか鬱陶しいほど理解できたよ」
己を理解された事は、魔女にとって喜ばしい事だ。
こんな時でもまだ笑みを浮かべていられるのだから。
彼女の受けてきた仕打ち。彼女が抱えてきた【怒り】。確かに魔女も世にある不平等がもたらした被害者の一人なのだろう。
……が。
「――で? だからなんだよ?」
意図もたやすく、クロトはその彼女の辛い人生をどうでもいいと吐き捨てた。
「何度も言うが、俺は何言われようが同情しない。他人の悲劇なんて興味ねぇし、理解したくもない。それはお前もよく理解しているはずだ」
「……そうね。そういうクロトが私は好きなのだから。……そして、私の【願い】を理解し同意してもらわなくても……本当はいいの。だって、愛おしい子たちには何も知らず、この終焉は私たちだけで終わらせるものだったのだから」
全てを理解されるなど、それは行き過ぎた願いであると魔女も薄々感じてはいた。
同じ境遇だろうがなんだろうが、それでもクロトは魔女を否定する。それこそが魔銃使いの生き方であり、魔女も望んだ魔銃使いの在り方だ。
それをこれ以上否定したところで無意味。
「さんざん喚いて。さんざん訴えて。……だからこそ、俺はわかんねぇんだよ」
「まだ何か疑問があって?」
クロトは頷く。
「お前にはもっと他に選択肢があったんじゃないかって……。なのに、お前はこの道を選んだ。世界が嫌いだから、それを壊すって道を」
「嫌いなものを排除しようとするのは、人間でもよくある事だわ」
「正論だな。俺も不愉快な奴は排除したくなる。お前を捜している間に、俺の手はどうにもならないくらい血に濡れている」
「貴方は貴方の正義を全うした。ただそれだけよ。私は罪と咎めないわ」
「俺に正義があるわけねぇだろうが……。今更になって思う事があるんだよ。俺たちは、出会うべきじゃなかった、ってな……。お前も、そんな【願い】なんて考えもせず、誰とも関わらない選択もあったんじゃねーのかよ?」
「……私に、生まれた地でひっそりと、この不平等な世界に強いられながら生きていればよかった。……とでも言うの? 私は魔女よ? 【怒り】こそ私の力。なら、この世界に対する【怒り】をどうしろというの? 私にずっと抱え続けろと? クロトを見捨てろと? 可哀想な貴方たちを救おうとする私の心は、そんなに間違っているとでも?」
魔女にとっては慈悲だった。クロトも、そしてイロハも救われた事に変わりはない。
しかし、それらは魔女が道を決めた後付けのものでしかない。
「自分の不幸を重ねてしまっただけだろうが。人を哀れんで救って、優越感に浸ってんじゃねぇよっ。……お前は魔女だ。そして、なんでいつまでも押し付けられた肩書のままで居座ってんだよっ」
「……っ」
魔女。それは種族を意味する名称。彼女は魔女だ。そして、魔女というもの以外に名乗る名がない。
名がなく、己を示すものが、彼女にはそれしかなかった。
「名じゃない肩書がずっと嫌なんじゃなかったのかよ? 意地になってそんなもん引きずって、魔女だからってだけで悪役ぶって、周りが言う魔女として開き直ってんじゃねーよ!!」
魔女という肩書が嫌いなら、それをいつまでも名乗る必要などない。
魔女はいつだって悪者にして、誰もが恐怖を抱く存在。それを全うする必要もない。
「不平等が嫌いかよ? じゃあ、お前が望むのは不平等の一切ない世界かよ?」
「……そうよ。貴方たちのような可哀想な子はいない。異端なんてない。誰しもが同じで、差別もなにもない。魔女なんてない! 種族の境目もない! 全てが等しく同じなら、争いもなにもない」
魔女の欲した平等。魔女だからと非難されない。全てが等しくある世界。
感情も、魂も。それが全て、誰もが寸分違わず同一であれば。そこに争いはなく、誰もが同じ思考でいられる。
誰もが誰も咎めない世界だからこその平穏な世界。
争いが差別のない世界を誰もが望むだろう。
しかし、……魔銃使いは平穏なその世界を望みはしない。
「やっぱ、お前の【願い】には同意できねーよ。差別も、嫌悪も一切ない……。そんな世界なら確かに平和だろうな。……だが、本当にそんな世界は平和なんて言えるのかよ? 争って、意見が食い違って、誰もが一緒じゃねーから、世界は……俺は此処にいるんだよ!!」
「……」
「お前の世界に俺はいない。いてもそれは、他となんもかわんねぇだけの、ただ生きているだけの誰かだ。そこにイロハも、ネアも、……誰もいねぇんだよ。もちろん、アイツも」
全てが平等な世界にいるのは、寸分違わない者である。ひと一人、個人というものは存在しない。そこにあるのは、1でしかない。同一人物
が何億といるだけの世界だ。
「人はな、どいつもこいつも……、ぶつかって、傷つけあって、それでも生きてんだよ! 俺やお前みたいに、甘えて生きてんじゃねーんだよ!!」
不平等が嫌いだから平等のみを求める。不平等から魔女は逃げようとした。
クロトも逃げた。母親の愛を受け止めきれず、母親を絶つことで【願い】に縋った。
向き合うことから……二人は逃げている。
「この世界は不平等で、理不尽で……それでも、……それでも救いがあるって生きる奴だっているんだよ。ただ傷つけるだけの世界じゃないって、わかってんだよ! 傷つける事も、殺す事も楽だ……。だが、それを懸命にやらない奴もいる。御人好しとか、馬鹿だとも思う。そして、そう貶す俺は…………ただ楽な方に逃げてるだけの、自己防衛してるだけの愚か者だ」
感情が欠けているからだとか、ただ不快だったからだとか。そんなものは、ただの言い訳だ。
殺すのも、傷つけるのも。自分の手を地に染めたのも。全て自分が逃げてきた証だ。
だからこそ、正義なんて言葉が似合わない。
クロトは知っている。真っ当に生きている人間を。差分の多い魔族ですらそうしている者がいる事を。それらに自分が劣っている事なども。心の底では認めていた。
だからこそ、自分の血に濡れた手を取る、あの温かな手に抵抗があった。
なんの汚れもなく、こびりついた罪を拭い落すような。真っ当を通り越して、度が過ぎた御人好しで。
そんな仕草の少女の姿を思い出すと、無意識に馬鹿らしいと笑ってしまう。
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