厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第九部 六章「願いのその先へ」

「新たな先へ」

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 早朝。朝日がちょうど顔を出し、柔らかな光を世界に届ける。
 昨晩の流星群などが嘘かのように、いつも通り。
 役所では、綺麗に折りたたまれた祭り用の装束がズラリと並び、またひとつ新たにやってくる。
 返却の際、少女はとても穏やかな笑みを浮かべていた。

「ありがとうございました。お返ししますね」

 ロビーでは着付けてくれた女性がいた。少女の前に立ち、白の衣を受けとる。

「あらぁ。ありがとうねぇ」

 祭りの片付けもあるためか、周りの役員はバタバタと忙しそうだ。その様子に目を配りながら、女性は少女を手招き。更に歩み寄り、女性はこっそり耳打ちをしてくる。

「それで。例のお兄さんとはいい時を過ごせましたか?」

 問いに、少女は恥ずかしそうに顔を赤らめ、照れた顔で微笑んで答えた。

「――はい。とっても、素敵な時間でした」

 少女は幸せそうな笑みを浮かべる。
 その時目に映ったのは、まるで恋が叶ったような、そんなふうに見えたとか…………。






 役所の前では祭りの屋台や飾りつけを片付ける住人を眺めつつ、三人が少しばかり遠い目をしながら会話を交わす。

 一人はせっかくの美人に包帯と残念な様子。
 一人は隣の女性を超える包帯で巻かれ、重傷な様にも関わらずけろっとしている姿。
 一人は特に外傷はないが……一番披露しているかのように気だるさを漂わせている。

 通りかかる人の目が自然と向いてしまうような、そんな三人だ。
 
 白の空間から放り出され、気付けば周囲は崩壊寸前。焦ったクロトに駆けつけたネアが疲弊したクロトとエリーを連れ、最初の場所にまで避難。待っていたイロハと共に、ネアは我武者羅になってわずかな空間の歪をこじ開け、あの丘にへと戻ってきた。
 外は既に日の出と共に夜の終わりを告げていた頃だった。

「……まさかお前もいたとはな…………」

「ねっ。ビックリだよね。ボクもビックリした~」

「こっちを指差すなっ。でも、私の功績もあってこそでしょ今回は。大いにありがたく思いなさい、野郎ども」

「状況がよく飲み込めてない……。手短に話してくれ…………」

「そこの馬鹿の様子がおかしいのに気付いた私がアンタらの様子を見に行くと明らか~になんかあったみたいで空間の歪みあってこじ開けたら魔女さんの根城に到達して運よく馬鹿と合流してお姉さんのおかげで魔女さんの本体叩けれたってこと」

 とても早口にネアは誇らしげと鼻高々に語ってみせた。
 上からの発言にクロトは返す気力もなく、「へー……」と、ネアの無茶ぶりなものを強引に受け入れて納得しておいた。
 イロハの姿は見ればすぐにわかること。自分の魔銃で負傷したのだろう。治りが遅いだけでそれが容易に理解できた。
 とりあえず、「お前はよく頑張った……」と、褒めておく。

「えへへ~。先輩が褒めてくれた~」

「急に褒めだすと気持ち悪いもんがあるわね……。まあ、あれね。って感じかしら?」

 にやついた顔でネアが見てくる。
 反論はするつもりはない。正にそれなのだから。
 ネアにはエリーと抱き合っていたところを目撃すらされている。今更妙な言い訳もできず、それを何かの間違いだと否定してしまえばいろんなものが崩壊してしまう気もした。
 どう反応すればよいのか。そう思うだけで似合わなく顔に熱が帯び、手でそれを隠そうとする。
 だが視線が痛い。ネアの視線が痛い。
 ついでに精神の中でニヤニヤしながら見てくる炎蛇の視線も痛すぎる……。

『俺はさ~、べつにいいんだぜ~? 正直になるのって勇気いるよな。頑張ったウチの主は~』

「……おかしいな。お前はあの空間にいなかったはず」

『気づいたら姫君戻ってきてて。あ、なんかあったんだな~っとは思って、ついでにお二人で仲良く抱き合っちゃって、羨まし爆ぜてほしいくらいなんだよな~。今爆ぜてみるぅ?』

「俺を殺す気かよ……?」

『そんだけ羨ましいの~。結果ハッピーなら俺はいいっていうか~。いいじゃん、青春ってやつしちまえよ若いんだからさ。……俺もまだ若い部類だけど』

「とりあえず……しばらく黙ってろ…………」

 ベッドがあるならすぐに寝てやりたい。そんな気分にさせられるほど疲労で体に力が入りづらい。しまいには座り込んでいたベンチで横にもなる。
 そんな情けない様に、ネアは苦笑してため息。
 あまり長く付き合わせるのもどうかと悟ったネアは、急に話題を別の方向にへとふる。

「……で? これからどうすんの?」

「……」

「街に戻る前に、粗方話聞いたけどさ。例の魔女さん、やっと倒したんでしょ? アンタの旅も、これで終わりって事なのかしら? だとしたら、私も仕事終わりって感じでいいわけ?」

 一人の魔銃使いの旅の目的。それは呪いをかけた魔女を倒す事。そのためにこれまで旅を続けてきた。
 そして、それも終わりとなる。
 魔女との因縁に決着はつき、魔女を探すこともない。なら、これまで利用してきたネアとの関係もここまでだ。
 イロハも同様。魔女がいなくなった今、同行する理由もない。
 なら……クロトにとって、この二人とも別れる時なのだろう。
 疲れを深呼吸で堪え、ネアの問いに応えねばと身を起こす。
 
「…………正直、お前らとは長い様で短い付き合いだったな」

 およそ、2ヵ月近くだっただろうか。
 それがクロトには妙に長くも感じた。

「なんつーか。今更こう言うのもなんだが、鬱陶しい中で世話になったつーか。…………まあ……、悪かったな」

 クロトが頭を少し下げる。それだけでも以前とは違うというのが容易に見受けられる。
 それだけでも不意に呆気に取られてしまうほどだ。

「俺は体力回復させたら、今度はアイツの【呪い】を解く方法を探すつもりだ。……一番付き合わせたのはアイツだからな。それくらいは責任とるつもりだ」

「責任というか、普通にそうしてあげたいってことでしょ? まだ素直になり切れてないとこが残るわねぇ~」

「……っ」

「じゃあ、お姉さん仕事をしつつ、その辺の情報も探しといてあげる」

「……まだ関わるのか?」

「その方がアンタとしても嬉しいでしょ? お姉さんも、エリーちゃんの【呪い】はなんとかしてあげたいからね。あ、お金とかはもういいわよ? お姉さんが自主的にしてあげたいだけだから」

「……まあ、好きにしろ。…………それで? お前はどうすんだイロハ?」

 ネアの今後の方針は決まった。
 次に二人の視線はイロハにへと向く。
 当の本人は、キョトンとして小首を傾けていた。

「お前の恩人殺しておいてなんだが……、お前も無理して俺に付き合うことはもうない」

「うーーん。ボクは~……どうしよ?」

「お前のことだ。お前が決めろ」

「…………じゃあ、お姉さんと一緒にボクも姫ちゃんのこと探してみる! ボクはよくわかんないけど、フレズベルグならそれっぽいのあったら教えてくれるしね」

『見つかれば言ってやる。お前がそうしたいなら、そうするのだな』

「うん。それに、せっかくだしいろんなとこにも行ってみたいしさ。いっぱいいろんなの見たい!」

「人様に迷惑はぜったいにかけんじゃないわよ?」

「はーい」

「あ。……あと、これどうすんの?」

 ネアは麻袋を持ち上げる。
 中には、回収したメフィストフェレスの宿った魔武器が入っている。
 
『なら、こちらで預かろう……。中の悪魔は面倒な奴でな、人も魔族も触れられないところに捨てるのが一番だろう』

「フレズベルグが、ボクらで預かって捨てる場所探すって」

「あっそ。ちゃんと管理しときなさいよ?」

 再び、イロハは「はーい」と返事。
 
「私も、一度里に戻ろうかしら。カーナとアキネも気になるし。……それに、もうアンタたちは大丈夫って確信持てるものね」

 ネアの同行は、クロトとエリーの仲に不安もあったことから始まったが、その心配は必要ないと確信。
 ならばと、また二人だけの時間も作るべきと考えた。
 
「じゃあね、クロト。何かあったら連絡しなさいよ。……ほらっ。せめて街の外までは送ってやるから、ありがたく思いなさい」

「はーい。じゃあね先輩。またね~」






 ネアに引きずられながら、イロハは麻袋を片手に手を振って遠ざかっていく。
 その姿を見送る最中、気付けばクロトも手を振り返していた。
 不思議と自分の手を見下ろす。少し前まではそんな素振りなどしなかったというのに。

「…………変わったな、俺も」

 思わず苦笑すらしてしまう。
 
「すみません、クロトさんっ。待ちましたか……?」

 急いで駆け寄ってくるエリー。思ったよりも時間をかけてしまったためか、少々戸惑った様子でもいた。
 不安に眉を八の字にしてい顔をしばし眺め、エリーの頭にぽんと見下ろしていた手を乗せる。

「べつに、そこまで待ってねーよ」

「……えへへ。クロトさん、なんだか嬉しそうですね」

「……?」

「顔。笑ってますよ?」

「そうか? 疲れて筋肉が緩んでんじゃねーのか?」

「……? そういえば、ネアさんとイロハさんは……?」

 エリーはキョロキョロと辺りを見渡す。
 二人の姿を探しているが、一足遅かっただけにすぎない。

「アイツらはしばらく別行動だ。……またその内どっかで会うだろうな」

「そうですか。……お礼、言っておけばよかったです」

「街に戻るまでにお前何回も言ってたぞ?」

「そ、そうでしたっけ!?」

 それに、言わずとも二人ならそう言うエリーの姿が容易に頭に浮かんだことだろう。
 ベンチから立ち上がると、エリーが顔を覗き込んでくる。

「これからどうしますか?」

「とりあえず、宿に戻る。そんで、寝る」

「お疲れですもんね。…………あの、クロトさん。…………本当に、ありがとうございました。私のこと……助けてくれて」

 エリーは深々と頭を下げる。
 よく見る光景でもあった。
 エリーは何かやらかしてしまうと、こうやって誠意を込めて頭をちゃんと下げる。
 以前まで感じていた鬱陶しさも、もう今となっては微塵も感じられない。
 むしろ、礼であったとしても、その様に振舞うことなどしなくてよい。
 
「言っただろ。俺は俺と、お前のためにああしたんだ。だから、そんな頭下げんな」

 まだ顔を下に向けていたエリーに、クロトはそっと手を差し出す。
 エリーは双眸を丸めてクロトにへと向き直る。

「行くぞ、――エリー」

 そうやって、エリーの名を呼ぶ。
 未だ慣れていないのか、エリーは不意を突かれたかのように呆気に取られてしまい、嬉しさがこみあげて止まらない。
 少女は魔銃使いの差し出した手に自分の手を重ねる。
 強引なものではない。優しさと温もりのある手に、エリーは頷く。

「はいっ。クロトさん」

 そうして、二人は手を繋いだまま歩みだす。
 これからという、未来に向けて……。
 【願い】の先の……更なる先へ…………。
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