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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
11 噂の景貴妃
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宮廷内にある花園を、皇后と凜妃の散歩に付き添い蓮花は歩いていた。
天気もよく庭園内に咲く花は目を奪われるほど美しい。けれど、蓮花の表情は浮かない。
ああ、ここにもいる……。
たくさんの霊が、何かを訴えたそうにこちらを見ている。
蓮花はあえて、それらすべての視線を無視することに徹した。
蓮花が視える者だと知ったら、こぞって群がって来るだろう。
霊たちはこの世に残した未練のせいで、あの世に行けずにここに止まっている。それらの願いをいちいち聞いていたら、こちらの身がもたない。
気の毒だが自分でこの世への未練を断ち切り、あの世へと旅立ってもらうしかないのだ。
「ご覧になって皇后さま、今年も牡丹の花が見事に咲きましたわ。牡丹はまさしく皇后さまに相応しい花」
「褒めすぎよ、凜妃」
「いいえ、花園にはたくさんの美しい牡丹の花が咲いているけれど、永明宮の庭に咲く牡丹は格別。今年も希少な牡丹の花を陛下より下賜されたと聞きましたわ。これも皇后さまが陛下に特別愛されている証し」
確かに、皇后の住まう宮には立派な牡丹の花が咲き誇っている。
毎日牡丹に水やりをしながら、蓮花は花に見とれていた。
「ああ、いやだわ。せっかく花を愛でに花園にやって来たというのに、こうもうっとうしい蝶が飛び回っては、ろくに花を鑑賞することもできない」
あれが噂の景貴妃? と、蓮花は息を飲む。
美しい花園に、まるで毒花が咲いたかのようであった。
景妃と視線を合わせないよう、蓮花は目を伏せる。
「景貴妃娘娘、ごきげん麗しゅう」
皇后以外の者はお辞儀をし、突如現れた景貴妃に挨拶をする。
景貴妃はわざとらしく、飛んでもいない蝶を払うように手を左右に振り、嘲る笑みを口元に浮かべた。
「今年は我が宮にも陛下より牡丹を下賜されたわ。それも希少な牡丹を。もしよろしければ皇后さまに差し上げましょうか」
「せっかく陛下より賜ったのだから、そなたが枯らさずお世話をするとよいでしょう」
景貴妃は結い上げた髪に指先を添えた。
「そうね。珍しい牡丹は私にこそ相応しいと思ったのでしょうから」
すると、凜妃は眉根を寄せ、景貴妃に問う。
「それはどういう意味でしょう、景貴妃さま。牡丹は百花の王。ご自分が皇后の地位に相応しいと言いたいのかしら」
綿菓子のようにふんわり穏やかな凜妃が、怖そうな相手に食ってかかっているのが意外すぎて蓮花はぎょっとする。
ひー、怖い怖い!
「ずいぶん飛躍しすぎではなくて。牡丹の花言葉には〝恥じらい〟という意味があるのを知らないのかしら」
「まさに、景貴妃さまに相応しい花でございます」
景貴妃の侍女たちが口を揃えて己の主を褒め称える。
「凜妃は無知なのね。でも、そのことを恥じることはなくてよ。だって、あなたと私とでは受けた教育が違うのだから」
家柄の低い凜妃を皮肉っているのだ。そこへ、すかさず皇后が景貴妃を諫める。
「およしなさい景貴妃。心ない言葉で他人を貶めるのは、無知より恥ずべきことよ」
うわー、なにこのやりとり。
火花が飛び交っている。
幽霊を視るよりも怖い!
それに、なんか景貴妃の視線を感じるんだけど、なんであたしのこと見るの。
まじで怖い。
蓮花が景貴妃と視線を合わせたくないのには、理由があった。
彼女の背後に渦巻くどす黒い靄のせいだ。
景貴妃に恨みを抱く多くの霊が、寄り集まり塊となって景貴妃の背に蠢いているのだ。
どうすればあれだけの怨念を引き寄せられるのか、ある意味すごい。
恨みを抱く霊たちを身体にまといながらも、平然といられる景貴妃の身体から放たれる生気の凄まじさ。
多分、景貴妃は何も感じていないのだろう。
「ふん、興が削がれた」
景貴妃は手巾で口元を覆い、薄笑いを浮かべて去って行った。
黒い塊を引き連れて。
天気もよく庭園内に咲く花は目を奪われるほど美しい。けれど、蓮花の表情は浮かない。
ああ、ここにもいる……。
たくさんの霊が、何かを訴えたそうにこちらを見ている。
蓮花はあえて、それらすべての視線を無視することに徹した。
蓮花が視える者だと知ったら、こぞって群がって来るだろう。
霊たちはこの世に残した未練のせいで、あの世に行けずにここに止まっている。それらの願いをいちいち聞いていたら、こちらの身がもたない。
気の毒だが自分でこの世への未練を断ち切り、あの世へと旅立ってもらうしかないのだ。
「ご覧になって皇后さま、今年も牡丹の花が見事に咲きましたわ。牡丹はまさしく皇后さまに相応しい花」
「褒めすぎよ、凜妃」
「いいえ、花園にはたくさんの美しい牡丹の花が咲いているけれど、永明宮の庭に咲く牡丹は格別。今年も希少な牡丹の花を陛下より下賜されたと聞きましたわ。これも皇后さまが陛下に特別愛されている証し」
確かに、皇后の住まう宮には立派な牡丹の花が咲き誇っている。
毎日牡丹に水やりをしながら、蓮花は花に見とれていた。
「ああ、いやだわ。せっかく花を愛でに花園にやって来たというのに、こうもうっとうしい蝶が飛び回っては、ろくに花を鑑賞することもできない」
あれが噂の景貴妃? と、蓮花は息を飲む。
美しい花園に、まるで毒花が咲いたかのようであった。
景妃と視線を合わせないよう、蓮花は目を伏せる。
「景貴妃娘娘、ごきげん麗しゅう」
皇后以外の者はお辞儀をし、突如現れた景貴妃に挨拶をする。
景貴妃はわざとらしく、飛んでもいない蝶を払うように手を左右に振り、嘲る笑みを口元に浮かべた。
「今年は我が宮にも陛下より牡丹を下賜されたわ。それも希少な牡丹を。もしよろしければ皇后さまに差し上げましょうか」
「せっかく陛下より賜ったのだから、そなたが枯らさずお世話をするとよいでしょう」
景貴妃は結い上げた髪に指先を添えた。
「そうね。珍しい牡丹は私にこそ相応しいと思ったのでしょうから」
すると、凜妃は眉根を寄せ、景貴妃に問う。
「それはどういう意味でしょう、景貴妃さま。牡丹は百花の王。ご自分が皇后の地位に相応しいと言いたいのかしら」
綿菓子のようにふんわり穏やかな凜妃が、怖そうな相手に食ってかかっているのが意外すぎて蓮花はぎょっとする。
ひー、怖い怖い!
「ずいぶん飛躍しすぎではなくて。牡丹の花言葉には〝恥じらい〟という意味があるのを知らないのかしら」
「まさに、景貴妃さまに相応しい花でございます」
景貴妃の侍女たちが口を揃えて己の主を褒め称える。
「凜妃は無知なのね。でも、そのことを恥じることはなくてよ。だって、あなたと私とでは受けた教育が違うのだから」
家柄の低い凜妃を皮肉っているのだ。そこへ、すかさず皇后が景貴妃を諫める。
「およしなさい景貴妃。心ない言葉で他人を貶めるのは、無知より恥ずべきことよ」
うわー、なにこのやりとり。
火花が飛び交っている。
幽霊を視るよりも怖い!
それに、なんか景貴妃の視線を感じるんだけど、なんであたしのこと見るの。
まじで怖い。
蓮花が景貴妃と視線を合わせたくないのには、理由があった。
彼女の背後に渦巻くどす黒い靄のせいだ。
景貴妃に恨みを抱く多くの霊が、寄り集まり塊となって景貴妃の背に蠢いているのだ。
どうすればあれだけの怨念を引き寄せられるのか、ある意味すごい。
恨みを抱く霊たちを身体にまといながらも、平然といられる景貴妃の身体から放たれる生気の凄まじさ。
多分、景貴妃は何も感じていないのだろう。
「ふん、興が削がれた」
景貴妃は手巾で口元を覆い、薄笑いを浮かべて去って行った。
黒い塊を引き連れて。
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