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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
17 因縁がついた簪
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「皇后さま!」
侍女たちが皇后の身体を支えた。
「大丈夫よ。少し目眩がしただけ」
「無理をするな。もう休め。永明宮まで私が送ろう」
陛下が皇后の手を取る。
皇后は頬を赤らめた。
一方、目を細めて皇后の様子を窺っていた景貴妃は、側に控える侍女の華雪を手招いた。
「華雪、今日からおまえが皇后の側でお仕えしなさい」
「はい」
「景貴妃さま! 姉が皇后の元で仕えるのなら私も……」
しかし、華雪は妹、春雪の言葉を遮るように首を振る。
いきなり他の主に、それも敵対する皇后に仕えろと言われて戸惑う顔をするものの、侍女にいっさいの拒否権はない。
景貴妃の古参の侍女、美月が華雪の腰に香り袋を下げた。
「皇后さまの侍女としてお仕えできるなんておまえは幸せ者ね。景貴妃さまは、おまえのこれまでの忠誠心と働きに感謝している。たとえ主が変わってもしっかりとお仕えしなさい。大丈夫。おまえの妹のことはちゃんと景貴妃さまが面倒をみるから。それと、この香り袋は景貴妃さまが特別におまえに賜るそうよ。ありがたく頂戴しなさい。そして、必ず肌身離さず持つこと。必ずね」
景貴妃は行け、というように、虫でも払うかのごとく華雪を払った。
「皇后、身体の具合は大丈夫か?」
「はい陛下、ご心配をおかけしました。少し目眩がしただけなので、もう大丈夫です」
「それならばよかった。では、今宵はこのまま皇后の宮で泊まろう」
「ちょうどよかったですわ。夜の膳に陛下の好物を用意しておりますの」
二人仲良く並んで歩く姿を、離れた場所から蓮花は微笑ましい気持ちで見つめていた。
それにしても、まじで死ぬところだった。
あらぬ疑いをかけられ、弁解することも許されず殺されるなんて、本当に冗談ではない。 高貴な者たちにとって、自分たちの命など虫けら同然なのだということを思い知らされた気分だ。
蓮花はこっそりと、隣を歩く凜妃に簪を差し出した。
「凜妃さま、これを」
「見つけてくれたのね。でも、これは蓮花のものよ」
あの場で陛下が言ったのは、皇后の侍女である自分を助けただけのこと。それもあたし自身を哀れんでではなく、皇后の体面を保つためだ。
あ、そういえば、陛下や皇后にお礼を言うのを忘れていた。だが、仲睦まじく歩く二人の邪魔をするのは無粋な気がした。
「凜妃さま、こんな高価なものは私には不相応です。いただけません」
何しろ皇帝陛下から下賜されたものだ。
そんなものを持っていたら後で何を言われるか分からない。それに、因縁がついたような気がして正直いただいても嬉しくない。
そもそも、装飾品など興味がない。
くれるなら甘くておいしい点心がいい。
「私の命を救ってくれたお礼よ。だから受け取って。それに皇后さまの義妹だというなら私にとっても大切な妹だわ。可愛い妹に贈り物をしたいという姉心よ」
「はあ……」
そうそれだ。
凌家の族譜に加えられたとかまったく理解できない。てか、たった今知ったし。
ついこの間まで貧しい村で、森の中を走り回りながら薬草を集めていたあたしだよ。
「ありがとうございます。凜妃さまのお気持ち、嬉しく思います」
「ふふ、堅苦しいのは嫌いよ」
蓮花は凜妃から貰った簪を持ち上げ、夕陽の光にかざして見つめた。
さすが珍しい石をわざわざ取り寄せ、職人に作らせたという貴重な簪だ。
「ん?」
蓮花は目を細めた。
石の中に何かが混じっている。
花びら? へえ、こんな珍しい石もあるのだ。
蓮花が持つ緑幽霊幻影水晶の数珠も、石が成長する過程で苔などの含有物が付着したものだ。それと、同じたぐいなのかも。
こんな貴重な物、本当にあたしが貰っていいのだろうか。
侍女たちが皇后の身体を支えた。
「大丈夫よ。少し目眩がしただけ」
「無理をするな。もう休め。永明宮まで私が送ろう」
陛下が皇后の手を取る。
皇后は頬を赤らめた。
一方、目を細めて皇后の様子を窺っていた景貴妃は、側に控える侍女の華雪を手招いた。
「華雪、今日からおまえが皇后の側でお仕えしなさい」
「はい」
「景貴妃さま! 姉が皇后の元で仕えるのなら私も……」
しかし、華雪は妹、春雪の言葉を遮るように首を振る。
いきなり他の主に、それも敵対する皇后に仕えろと言われて戸惑う顔をするものの、侍女にいっさいの拒否権はない。
景貴妃の古参の侍女、美月が華雪の腰に香り袋を下げた。
「皇后さまの侍女としてお仕えできるなんておまえは幸せ者ね。景貴妃さまは、おまえのこれまでの忠誠心と働きに感謝している。たとえ主が変わってもしっかりとお仕えしなさい。大丈夫。おまえの妹のことはちゃんと景貴妃さまが面倒をみるから。それと、この香り袋は景貴妃さまが特別におまえに賜るそうよ。ありがたく頂戴しなさい。そして、必ず肌身離さず持つこと。必ずね」
景貴妃は行け、というように、虫でも払うかのごとく華雪を払った。
「皇后、身体の具合は大丈夫か?」
「はい陛下、ご心配をおかけしました。少し目眩がしただけなので、もう大丈夫です」
「それならばよかった。では、今宵はこのまま皇后の宮で泊まろう」
「ちょうどよかったですわ。夜の膳に陛下の好物を用意しておりますの」
二人仲良く並んで歩く姿を、離れた場所から蓮花は微笑ましい気持ちで見つめていた。
それにしても、まじで死ぬところだった。
あらぬ疑いをかけられ、弁解することも許されず殺されるなんて、本当に冗談ではない。 高貴な者たちにとって、自分たちの命など虫けら同然なのだということを思い知らされた気分だ。
蓮花はこっそりと、隣を歩く凜妃に簪を差し出した。
「凜妃さま、これを」
「見つけてくれたのね。でも、これは蓮花のものよ」
あの場で陛下が言ったのは、皇后の侍女である自分を助けただけのこと。それもあたし自身を哀れんでではなく、皇后の体面を保つためだ。
あ、そういえば、陛下や皇后にお礼を言うのを忘れていた。だが、仲睦まじく歩く二人の邪魔をするのは無粋な気がした。
「凜妃さま、こんな高価なものは私には不相応です。いただけません」
何しろ皇帝陛下から下賜されたものだ。
そんなものを持っていたら後で何を言われるか分からない。それに、因縁がついたような気がして正直いただいても嬉しくない。
そもそも、装飾品など興味がない。
くれるなら甘くておいしい点心がいい。
「私の命を救ってくれたお礼よ。だから受け取って。それに皇后さまの義妹だというなら私にとっても大切な妹だわ。可愛い妹に贈り物をしたいという姉心よ」
「はあ……」
そうそれだ。
凌家の族譜に加えられたとかまったく理解できない。てか、たった今知ったし。
ついこの間まで貧しい村で、森の中を走り回りながら薬草を集めていたあたしだよ。
「ありがとうございます。凜妃さまのお気持ち、嬉しく思います」
「ふふ、堅苦しいのは嫌いよ」
蓮花は凜妃から貰った簪を持ち上げ、夕陽の光にかざして見つめた。
さすが珍しい石をわざわざ取り寄せ、職人に作らせたという貴重な簪だ。
「ん?」
蓮花は目を細めた。
石の中に何かが混じっている。
花びら? へえ、こんな珍しい石もあるのだ。
蓮花が持つ緑幽霊幻影水晶の数珠も、石が成長する過程で苔などの含有物が付着したものだ。それと、同じたぐいなのかも。
こんな貴重な物、本当にあたしが貰っていいのだろうか。
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