視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子

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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!

19 凜妃の贈り物

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 椅子の肘掛けに肘をつき、こめかみを押さえる皇后に蓮花はすかさずお茶を差し出す。
茉莉龍珠モーリーロンジユをどうぞ」
 皇后はふっと口元に儚い笑みを浮かべた。
 茉莉花茶は美容や健康、リラックス効果があり、不安や緊張を和らげ、気持ちを落ち着かせる作用がある。
 皇后は蓮花から茶器を受け取り茶を飲む。
「あまり体調がよくなさそうですが、大丈夫ですか?」
 蓮花が後宮に来た時から皇后の体調はあまりよくなかったが、ここ最近、さらにひどくなっているような気がした。相変わらず食は細く、好物を出してもほとんど手をつけない。めまいやふらつきは日に何度も起こすし、つねに眠そうでこっそりとあくびをしている。気持ちが不安定なことも多い。
 これもすべて景貴妃のせいだ。
 あんな我がまま放題の妃がいたら、誰だって精神が参ってしまう。
 皇后って、案外大変な仕事なんだな、と蓮花は同情をする。
「侍医を呼びますか?」
「大丈夫よ。いつものように休んでいれば治るわ」
 そうは言っても、やはり辛そうな顔をしているから心配だ。
「それにしても、景貴妃さまはいつもあんな態度なんですか?」
 なんだかんだ言っても皇后だし、後宮の中で一番偉い立場にいるのだから、がつんと言ってやればいいのに。
「景貴妃の実家の勢力は無視できないわ。陛下の寵愛も深い」
「だけど、横柄な態度ですよね」
「仕方がないわ。後宮での立場は私の次なのだから」
 この場に残った凜妃も、皇后の身体を気遣い側にやってきた。
「皇后さま、よろしければこれをどうぞ」
 凜妃は己の侍女に目配せをする。それを合図に、侍女は皇后の前に小箱を差し出した。
「ぜひ皇后さまにと思って、よろしかったら受け取ってください」
 皇后は小箱を受け取り蓋を開ける。そこには棒墨が入っていた。
「とてもいい香りね」
 墨独特の香りに、皇后は息をつく。
「趣味の書道で、少しはお気持ちも和らぐといいのですが」
 墨を磨ることで、漂う微かな香りに心を落ち着かせ、磨る音を楽しむのだ。
「ありがとう、凜妃」
「いいえ、この間いただいた反物のお礼ですわ。では、私も失礼いたします」
 あまり長々とお喋りしては、皇后を疲れさせてしまうだろうという凜妃の配慮だ。
「蓮花、凜妃をお見送りして」
「はい」
 凜妃を見送るため、蓮花も外に出る。
 中庭を歩きながら、凜妃は声を落とし蓮花に話しかけた。
「この間は助かったわ。でも、あなたには迷惑をかけてしまった」
「いいえ、誤解も解けたし、問題ありません」
「あなたみたいな気の利く侍女がいれば皇后も安心ね。だけど、気をつけて、景貴妃があなたに目を付けているから心配よ」
「大丈夫です。この間は油断したけど、注意しますから」
 凜妃は本当に優しい人だ。妃なのに偉ぶることもなく、他人への気遣いも半端ない。
「凜妃さまこそ、あの時あたしのことを庇ったりしたから、景貴妃に目の敵にされるんじゃないですか?」
「気にしないわ。そもそも、私では家柄も、陛下の寵愛も、容貌も何もかも景貴妃の相手にはならないもの」
 自虐的になったわけではないにしても、返事に困って蓮花は黙り込む。
「そうだわ。これをあなたにあげようと思ったの。雪花酥シェーフアソーよ」
 凜妃は蓮花の手に菓子の入った包みを渡した。
「わあ、おいしそう!」
 瞳を輝かせる蓮花を見て凜妃は笑った。
「甘い物が好きなのでしょう。一颯将軍から聞いたわ」
 凜妃は口元に人差し指をたてた。
「でも、他の人には内緒にして。これは蓮花にだけよ」
 後宮に来て良かったことといえば、こうして村にいた時では口にすることのない珍しくておいしい菓子が食べられることくらいだ。
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