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第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ
4 陛下が幽体離脱!
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「どこへ行くの? そっちに行ってはだめよ。戻ってきて」
寝台の横に赦鶯陛下の幽体が立っていたのだ。
「私は死んだのではないのか?」
赦鶯は寝台で眠る自分の姿を見下ろす。
「まだ死んでないから。だけど、早く自分の身体に戻らないと、どうなるか分からない」
赦鶯はくつくつと肩を震わせて笑う。
「本当におまえは肝の据わった女だ。皇帝に向かってあんたとは、私を恐れないのだな」
「今のあんたは幽霊みたいなもんだから」
赦鶯が側に寄ってくる。
「おまえが側にいてくれると、こちらの気力もみなぎってくるようだ。元気がわいてくる」
赦鶯の指先が蓮花の頬に触れた。その指先が口元へと落ち、ゆっくりと唇の輪郭をなぞる。
身をかがめた赦鶯が蓮花のあごに指先をかけ、口づけをしようと顔を寄せる。しかし、思う相手の唇に自分の唇を重ねることはできない。
実体がないのだから仕方がない。
本体は今は寝台で眠っているのだから。
「もどかしいものだ」
「バカなことやっていないで、さっさと身体に戻りなさい」
「今度は皇帝に向かって命令口調か。皇后でさえ、そのような物言いはしないぞ」
「まあ、あたしは後宮を出て行く身だからね」
「おまえは行こうと思えばどこへでも行ける。自由でいいな」
「なに? いきなりそんなこと言って」
「このまま楽になるのも悪くないと正直思うのだ。煩わしいことから解放され、自由になるのはどうだろうかと」
「バカ言わないで。皇帝の座をみすみす誰かに渡すの? あんたを殺そうとした奴に」
「そうか。やはり私は何者かに殺されたのか」
「まだ完全に死んでいないけどね。どうしても死んで楽になりたいって言うんならとめないよ。でも、きっと心残りであの世にも行けず、ずっとこの世をさまようことになるだろうけど」
「そうしたら、おまえの手で私を成仏させてくれるか?」
「成仏じゃなくて、除霊ね」
「それは手厳しい」
赦鶯ははは、と笑った。
「とにかく早く自分の身体に戻って。さっきも言ったけど、あまり本体から魂が離れると本当に戻れなくなっちゃうの」
「蓮花、このまま宮廷に残って私の妃にならないか? そうしたら自分の身体に戻ろう。どうだ?」
「何度も言うけど、それはお断り」
「厚遇するぞ」
「けっこう」
「はっきり言うのだな」
「そういう性分なので」
赦鶯はふっと笑った。
「だが、どうやって自分の身体に戻ればいいのか分からないのだ」
「ほんともう……しかたがないわね」
蓮花はため息をつき、懐から数珠を取り出し、手を合わせ、目を閉じる。すると、蓮花の身体から魂が抜けた。
幽体となった蓮花は赦鶯の元に歩み寄り、手を差し出す。
「ほら、あたしの手をとって」
赦鶯の手が蓮花の手に重なり握り返す。
「このまま、自分の身体に重なるようにイメージしてみて。そうすれば戻れるはず」
「分かった。やってみよう」
赦鶯はあらためて蓮花を見る。
「蓮花、ありがとう。この恩は忘れない。礼は必ずする」
「礼とか恩とか、そんなことどうでもいいから、早く戻りなさい」
赦鶯の幽体が本体に重なるのを見届け、蓮花も自分の身体に戻った。
目を開けると、赦鶯のまぶたが小刻みに震えている。そして、ゆっくりと目を開いた。
よかった。
目を覚ました。もう大丈夫ね。
「来てください! 陛下が目覚めました!」
蓮花の声に、外で控えていた者たちが部屋に流れ込むようにやって来た。
「おお! 陛下が目を覚まされた!」
自分を呼ぶ声に、赦鶯の目がさまよう。まだ意識がはっきりしないようだ。
「私は……生き返ったのか」
「ああ、陛下。よかったです。本当に……」
皇后が、涙を流しながら赦鶯の側にひざまずいた。赦鶯の手をとり、その手を自分の頬に押しあてる。
「皇后……心配をかけたようだな」
次に、赦鶯の目が誰かを探すように動いた。
「蓮花はどこだ?」
赦鶯の言葉に、皇后は蓮花の姿を見つけ、こちらにくるよう手招きをする。
赦鶯は側に寄ってきた蓮花を見上げ笑った。
「蓮花、感謝する」
「あたしは別に何も。陛下が強運の持ち主だっただけ」
不意に赦鶯の目が蓮花が握っている数珠にとまった。
「その数珠?」
「ああ、これ。これは……」
「緑幽霊幻影水晶だな今思い出した。昔、それと同じ数珠を持つ者を見た気がする」
「え? この数珠は母の形見なの。母のことを知っているの?」
蓮花は身を乗り出した。隣では皇后が気が気ではない顔をしている。目覚めたばかりの陛下の身体を心配しているのだ。
「確か……」
誰が持っていたのかと、記憶を辿りながら赦鶯が言葉を紡いだその時。
「大変です! 将軍が大変なことに!」
部屋の中に、一人の兵が飛び込んできた。
一颯の部下の者だ。
「一颯がどうしたのだ?」
皇后の手を借りながら半身を起こした陛下は、かすれた声で兵士に問う。
「今回の件は自分のせいだと言って死でもって責任をとると。我々がとめても、聞く耳持たずという状況で! どうか将軍をとめてください! このままでは将軍が!」
「まったく、あいつ何を考えてるのよ!」
と、吐き捨て蓮花は足を踏みならすと、くるりと赦鶯に背を向けた。
「それで、一颯将軍はどこにいるの?」
蓮花は駆けつけてきた一颯の部下に尋ねる。
「自宅です」
「蓮花、これを使え!」
赦鶯が何かをこちらに向かって投げつけてきた。
目の前に飛んできたそれを受け取る。
赦鶯陛下の玉佩であった。これがあれば宮廷を出ることも、それ以外のどんなことでも融通が利く。
「一颯を頼んだ」
「分かってる。任せて!」
皇帝にため口をきく蓮花に、周りの者はぎょっとした顔をする。
「一颯の屋敷に行くよ!」
兵士とともに馬に乗り、蓮花は宮殿の門を出て一颯の屋敷へと向かった。
寝台の横に赦鶯陛下の幽体が立っていたのだ。
「私は死んだのではないのか?」
赦鶯は寝台で眠る自分の姿を見下ろす。
「まだ死んでないから。だけど、早く自分の身体に戻らないと、どうなるか分からない」
赦鶯はくつくつと肩を震わせて笑う。
「本当におまえは肝の据わった女だ。皇帝に向かってあんたとは、私を恐れないのだな」
「今のあんたは幽霊みたいなもんだから」
赦鶯が側に寄ってくる。
「おまえが側にいてくれると、こちらの気力もみなぎってくるようだ。元気がわいてくる」
赦鶯の指先が蓮花の頬に触れた。その指先が口元へと落ち、ゆっくりと唇の輪郭をなぞる。
身をかがめた赦鶯が蓮花のあごに指先をかけ、口づけをしようと顔を寄せる。しかし、思う相手の唇に自分の唇を重ねることはできない。
実体がないのだから仕方がない。
本体は今は寝台で眠っているのだから。
「もどかしいものだ」
「バカなことやっていないで、さっさと身体に戻りなさい」
「今度は皇帝に向かって命令口調か。皇后でさえ、そのような物言いはしないぞ」
「まあ、あたしは後宮を出て行く身だからね」
「おまえは行こうと思えばどこへでも行ける。自由でいいな」
「なに? いきなりそんなこと言って」
「このまま楽になるのも悪くないと正直思うのだ。煩わしいことから解放され、自由になるのはどうだろうかと」
「バカ言わないで。皇帝の座をみすみす誰かに渡すの? あんたを殺そうとした奴に」
「そうか。やはり私は何者かに殺されたのか」
「まだ完全に死んでいないけどね。どうしても死んで楽になりたいって言うんならとめないよ。でも、きっと心残りであの世にも行けず、ずっとこの世をさまようことになるだろうけど」
「そうしたら、おまえの手で私を成仏させてくれるか?」
「成仏じゃなくて、除霊ね」
「それは手厳しい」
赦鶯ははは、と笑った。
「とにかく早く自分の身体に戻って。さっきも言ったけど、あまり本体から魂が離れると本当に戻れなくなっちゃうの」
「蓮花、このまま宮廷に残って私の妃にならないか? そうしたら自分の身体に戻ろう。どうだ?」
「何度も言うけど、それはお断り」
「厚遇するぞ」
「けっこう」
「はっきり言うのだな」
「そういう性分なので」
赦鶯はふっと笑った。
「だが、どうやって自分の身体に戻ればいいのか分からないのだ」
「ほんともう……しかたがないわね」
蓮花はため息をつき、懐から数珠を取り出し、手を合わせ、目を閉じる。すると、蓮花の身体から魂が抜けた。
幽体となった蓮花は赦鶯の元に歩み寄り、手を差し出す。
「ほら、あたしの手をとって」
赦鶯の手が蓮花の手に重なり握り返す。
「このまま、自分の身体に重なるようにイメージしてみて。そうすれば戻れるはず」
「分かった。やってみよう」
赦鶯はあらためて蓮花を見る。
「蓮花、ありがとう。この恩は忘れない。礼は必ずする」
「礼とか恩とか、そんなことどうでもいいから、早く戻りなさい」
赦鶯の幽体が本体に重なるのを見届け、蓮花も自分の身体に戻った。
目を開けると、赦鶯のまぶたが小刻みに震えている。そして、ゆっくりと目を開いた。
よかった。
目を覚ました。もう大丈夫ね。
「来てください! 陛下が目覚めました!」
蓮花の声に、外で控えていた者たちが部屋に流れ込むようにやって来た。
「おお! 陛下が目を覚まされた!」
自分を呼ぶ声に、赦鶯の目がさまよう。まだ意識がはっきりしないようだ。
「私は……生き返ったのか」
「ああ、陛下。よかったです。本当に……」
皇后が、涙を流しながら赦鶯の側にひざまずいた。赦鶯の手をとり、その手を自分の頬に押しあてる。
「皇后……心配をかけたようだな」
次に、赦鶯の目が誰かを探すように動いた。
「蓮花はどこだ?」
赦鶯の言葉に、皇后は蓮花の姿を見つけ、こちらにくるよう手招きをする。
赦鶯は側に寄ってきた蓮花を見上げ笑った。
「蓮花、感謝する」
「あたしは別に何も。陛下が強運の持ち主だっただけ」
不意に赦鶯の目が蓮花が握っている数珠にとまった。
「その数珠?」
「ああ、これ。これは……」
「緑幽霊幻影水晶だな今思い出した。昔、それと同じ数珠を持つ者を見た気がする」
「え? この数珠は母の形見なの。母のことを知っているの?」
蓮花は身を乗り出した。隣では皇后が気が気ではない顔をしている。目覚めたばかりの陛下の身体を心配しているのだ。
「確か……」
誰が持っていたのかと、記憶を辿りながら赦鶯が言葉を紡いだその時。
「大変です! 将軍が大変なことに!」
部屋の中に、一人の兵が飛び込んできた。
一颯の部下の者だ。
「一颯がどうしたのだ?」
皇后の手を借りながら半身を起こした陛下は、かすれた声で兵士に問う。
「今回の件は自分のせいだと言って死でもって責任をとると。我々がとめても、聞く耳持たずという状況で! どうか将軍をとめてください! このままでは将軍が!」
「まったく、あいつ何を考えてるのよ!」
と、吐き捨て蓮花は足を踏みならすと、くるりと赦鶯に背を向けた。
「それで、一颯将軍はどこにいるの?」
蓮花は駆けつけてきた一颯の部下に尋ねる。
「自宅です」
「蓮花、これを使え!」
赦鶯が何かをこちらに向かって投げつけてきた。
目の前に飛んできたそれを受け取る。
赦鶯陛下の玉佩であった。これがあれば宮廷を出ることも、それ以外のどんなことでも融通が利く。
「一颯を頼んだ」
「分かってる。任せて!」
皇帝にため口をきく蓮花に、周りの者はぎょっとした顔をする。
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