64 / 76
第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ
9 呪詛
しおりを挟む
皇弟は謀反の罪で処刑。そして、皇弟の正室であった翆蘭と息子も、処刑されるはずであったが、翆蘭に密かに恋心を抱いていた皇帝陛下は翆蘭に貴妃の位を与え自分の側室として迎え、彼女の息子も己の子として育てることにした。
一方、皇弟に玉座簒奪をそそのかした張本人である氷妃は、突然気が触れ、何を問うてもまともに答えられず、以来、自分の宮殿に引きこもり、滅多に外に出ることがなくなった。
皇帝暗殺の罪から逃れるため、氷妃は気が触れた振りを演じたのだ。
事件はいったん収まったかのように思えたが、そうではなかった。
当時、皇帝陛下には四人の皇子がいたが、そのうち二人が急死した。
自分の息子を太子にたてようと翆蘭が企んだのだ。
かくもそのように欲深く邪悪な女だったとは、と陛下は激怒し、翆蘭から貴妃の位を剥奪。庶人に落とし、彼女を冷宮に送った。そして、翆蘭の息子も皇族としての身分を廃し、宮廷から追い出した。
息子は臣下にあずけられた。
おそらく、翆蘭は氷妃の仕掛けた罠にはめられたのだ。
「私は何度も氷妃を処刑するよう陛下に進言したが、結局、今もあの女はこの後宮で生きている」
氷妃……なんて恐ろしい女なのだろう。
「このままでは私自身もあの毒婦によって陥れられ、皇后の座を奪われるかもしれないと恐れた。何故なら、私には陛下との間に子が出来なかったから。いつか、氷妃によってこの座を引きずり落とされるかもしれないと思った私は、翆蘭の子を引き取り、我が息子として育てた」
ん? と蓮花は首を傾げる。
皇帝の母は皇太后だ。
「え? じゃあ、翆蘭の息子というのが赦鶯陛下?」
そうだった、確か一颯は陛下と皇太后は血が繋がっていないと言っていた。
「そう。私があの子を引きとり、太子にたて皇帝にした」
そこで、皇太后はこめかみの辺りを手で押さえた。
「皇太后さま、いつもの頭痛ですか? もうお休みになったほうが」
側にいた侍女が皇太后の体調を気遣う。
皇太后は苦しそうに胸を押さえ込んだ。これ以上、今日はお話を聞くのは無理だろう。
皇太后の身体が心配だ。
「蓮花、真実を知りたいと思うなら、冷宮にいる翆蘭に会いなさい」
蓮花は無言で頷いた。
母が仕えていた妃を訪ねれば、もっと詳しいことを聞き出せるかも。
「ありがとうございます。皇太后さま、母のことを教えてくださり感謝いたします」
礼を言い、皇太后が住む宮を出た蓮花は、侍女に呼び止められた。
「芙答応さま」
呼ばれて蓮花は振り返った。
ちょうどこちらも話があったので侍女の方からやって来てくれて助かった。
皇太后さまがいる前で、こんな話はしたくなかったから。
「芙答応さまには、あれが何に視えましたか?」
「もしかして? あなたも視える人?」
「いえ、私には芙答応さまのような力はございません。ですが、何かよくない気配を皇太后さまの周りから感じるのです。何か視えたのなら、どうか教えてください」
「何者かが皇太后さまを狙っていた」
「狙う? それは命ですか……誰が……まさか氷妃?」
蓮花は口元に指を立て、黙ってというように侍女の言葉を遮る。
「呪詛はあたしが祓ったけど、誰が皇太后さまに呪いをかけたかまでは突き止めることはできなかった。また呪いを仕掛けてくるかも。それを回避するためにも、皇太后さまの部屋に花をかかさずに置いて。皇太后さまの代わりに、生きた花を身代わりにたてるの。呪詛を向けられた花はすぐに枯れるから、そのたびに新鮮な花を活けて」
「かしこまりました」
「あたしのほうでも、呪詛を向けた者を調べてみる。でもすぐ分かるわ。はね返った呪いは必ず術者に戻るから。それも、倍になってね」
侍女が言った通り、皇太后と寵愛を競っていた氷妃の仕業なのだろうか。
彼女が今でも皇太后に恨みを抱き呪っているのか。
一方、皇弟に玉座簒奪をそそのかした張本人である氷妃は、突然気が触れ、何を問うてもまともに答えられず、以来、自分の宮殿に引きこもり、滅多に外に出ることがなくなった。
皇帝暗殺の罪から逃れるため、氷妃は気が触れた振りを演じたのだ。
事件はいったん収まったかのように思えたが、そうではなかった。
当時、皇帝陛下には四人の皇子がいたが、そのうち二人が急死した。
自分の息子を太子にたてようと翆蘭が企んだのだ。
かくもそのように欲深く邪悪な女だったとは、と陛下は激怒し、翆蘭から貴妃の位を剥奪。庶人に落とし、彼女を冷宮に送った。そして、翆蘭の息子も皇族としての身分を廃し、宮廷から追い出した。
息子は臣下にあずけられた。
おそらく、翆蘭は氷妃の仕掛けた罠にはめられたのだ。
「私は何度も氷妃を処刑するよう陛下に進言したが、結局、今もあの女はこの後宮で生きている」
氷妃……なんて恐ろしい女なのだろう。
「このままでは私自身もあの毒婦によって陥れられ、皇后の座を奪われるかもしれないと恐れた。何故なら、私には陛下との間に子が出来なかったから。いつか、氷妃によってこの座を引きずり落とされるかもしれないと思った私は、翆蘭の子を引き取り、我が息子として育てた」
ん? と蓮花は首を傾げる。
皇帝の母は皇太后だ。
「え? じゃあ、翆蘭の息子というのが赦鶯陛下?」
そうだった、確か一颯は陛下と皇太后は血が繋がっていないと言っていた。
「そう。私があの子を引きとり、太子にたて皇帝にした」
そこで、皇太后はこめかみの辺りを手で押さえた。
「皇太后さま、いつもの頭痛ですか? もうお休みになったほうが」
側にいた侍女が皇太后の体調を気遣う。
皇太后は苦しそうに胸を押さえ込んだ。これ以上、今日はお話を聞くのは無理だろう。
皇太后の身体が心配だ。
「蓮花、真実を知りたいと思うなら、冷宮にいる翆蘭に会いなさい」
蓮花は無言で頷いた。
母が仕えていた妃を訪ねれば、もっと詳しいことを聞き出せるかも。
「ありがとうございます。皇太后さま、母のことを教えてくださり感謝いたします」
礼を言い、皇太后が住む宮を出た蓮花は、侍女に呼び止められた。
「芙答応さま」
呼ばれて蓮花は振り返った。
ちょうどこちらも話があったので侍女の方からやって来てくれて助かった。
皇太后さまがいる前で、こんな話はしたくなかったから。
「芙答応さまには、あれが何に視えましたか?」
「もしかして? あなたも視える人?」
「いえ、私には芙答応さまのような力はございません。ですが、何かよくない気配を皇太后さまの周りから感じるのです。何か視えたのなら、どうか教えてください」
「何者かが皇太后さまを狙っていた」
「狙う? それは命ですか……誰が……まさか氷妃?」
蓮花は口元に指を立て、黙ってというように侍女の言葉を遮る。
「呪詛はあたしが祓ったけど、誰が皇太后さまに呪いをかけたかまでは突き止めることはできなかった。また呪いを仕掛けてくるかも。それを回避するためにも、皇太后さまの部屋に花をかかさずに置いて。皇太后さまの代わりに、生きた花を身代わりにたてるの。呪詛を向けられた花はすぐに枯れるから、そのたびに新鮮な花を活けて」
「かしこまりました」
「あたしのほうでも、呪詛を向けた者を調べてみる。でもすぐ分かるわ。はね返った呪いは必ず術者に戻るから。それも、倍になってね」
侍女が言った通り、皇太后と寵愛を競っていた氷妃の仕業なのだろうか。
彼女が今でも皇太后に恨みを抱き呪っているのか。
18
あなたにおすすめの小説
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜
天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。
行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。
けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。
そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。
氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。
「茶をお持ちいたしましょう」
それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。
冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。
遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。
そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、
梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。
香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。
濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる