21 / 71
那須隼人3
夢
しおりを挟む
美月の白い肌が、薄暗い部屋の中でぼんやりと浮かび上がっていた。
彼女は、知らない男の腕の中にいた。
男の顔はよく見えなかった。ただ、逞しい腕が彼女の背に回され、筋張った指先がなめらかな肌の上を滑っていくのがわかった。淡い月光が彼女の頬と肩を照らしていた。
男がそっと美月の髪をかき上げる。美月は細く息を吐きながら、男の胸に身を預けるようにして顔を埋める。唇と舌が肌をむさぼる微かな音が室内に響き、美月も積極的に男を求めていることに否が応でも気付かされる。
隼人の心臓が早鐘を打つように激しく脈動している。
再び顔を上げた美月は、いつもの穏やかな表情ではなかった。熱を帯びたまなざしで男を見つめ、かすかに唇を震わせて何かを囁いている。彼女の指が男の肩を掴み、求めるように引き寄せた。
――これは本当に美月なのか。
喉の奥が焼けるようにひりついていた。唾を飲み込むこともできない。胸が苦しい。目を逸らしたいのに、身体が動かない。
美月の白い足がゆっくりと男の腰に絡まる。細い指先が男の背中を撫でる。
男に押し倒され、床の上に美月の艶やかな黒髪が扇のように広がった。
布がわずかに擦れる音が、静かな夜の中に溶けていく。
目を逸らしたい。
大声を上げたい。
割って入って男を殴りつけたい。
様々な衝動で隼人の心が覆いつくされた。
それでも、それらを行動に移すことはできなかった。
これまでに聞いたことのないような美月の艶めかしい声が聞こえ始めたとき、隼人は涙を流していた。
……気がつくと、自分の部屋の布団の中で天井を見上げていた。
全身がぐっしょりと汗に濡れていた。たった今までいた夢の中と変わらない速度で心臓が激しく動いている。
すぐには状況が理解できなかった。美月と知らない男の情交が夢であったことを理解するのに、たっぷり三十秒ほどは必要だった。
涙こそ流してはいなかったが、胸が震えていた。打ちひしがれた心とは裏腹に、体の一部が硬く屹立していることに気付き、悲しくなった。
――六守谷に行ってから、俺はどうかしている。
美月が失踪してからこれまでの間、彼女が他の男と関係を持っているなど、想像したことすらなかったのだ。
――ありえない。
写真に写った森の影が、辰巳氏から聞いた六つの森の話が、自分をおかしくさせているのだ。
隼人は布団から身を起こすと、ふらつく足取りで洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗った。
少し頭がすっきりしてくると、身支度を始める。
今日はまた六守谷に行く予定だった。目的は郷土資料館だ。
先日は町の写真を撮るだけで夕方までかかってしまい、辰巳氏に教えてもらった郷土資料館に行く時間までは取れなかったのだ。
再び六守谷に向かうことに、理由の分からない不安を感じながらも、身支度を終えた隼人は自分の部屋を後にした。
彼女は、知らない男の腕の中にいた。
男の顔はよく見えなかった。ただ、逞しい腕が彼女の背に回され、筋張った指先がなめらかな肌の上を滑っていくのがわかった。淡い月光が彼女の頬と肩を照らしていた。
男がそっと美月の髪をかき上げる。美月は細く息を吐きながら、男の胸に身を預けるようにして顔を埋める。唇と舌が肌をむさぼる微かな音が室内に響き、美月も積極的に男を求めていることに否が応でも気付かされる。
隼人の心臓が早鐘を打つように激しく脈動している。
再び顔を上げた美月は、いつもの穏やかな表情ではなかった。熱を帯びたまなざしで男を見つめ、かすかに唇を震わせて何かを囁いている。彼女の指が男の肩を掴み、求めるように引き寄せた。
――これは本当に美月なのか。
喉の奥が焼けるようにひりついていた。唾を飲み込むこともできない。胸が苦しい。目を逸らしたいのに、身体が動かない。
美月の白い足がゆっくりと男の腰に絡まる。細い指先が男の背中を撫でる。
男に押し倒され、床の上に美月の艶やかな黒髪が扇のように広がった。
布がわずかに擦れる音が、静かな夜の中に溶けていく。
目を逸らしたい。
大声を上げたい。
割って入って男を殴りつけたい。
様々な衝動で隼人の心が覆いつくされた。
それでも、それらを行動に移すことはできなかった。
これまでに聞いたことのないような美月の艶めかしい声が聞こえ始めたとき、隼人は涙を流していた。
……気がつくと、自分の部屋の布団の中で天井を見上げていた。
全身がぐっしょりと汗に濡れていた。たった今までいた夢の中と変わらない速度で心臓が激しく動いている。
すぐには状況が理解できなかった。美月と知らない男の情交が夢であったことを理解するのに、たっぷり三十秒ほどは必要だった。
涙こそ流してはいなかったが、胸が震えていた。打ちひしがれた心とは裏腹に、体の一部が硬く屹立していることに気付き、悲しくなった。
――六守谷に行ってから、俺はどうかしている。
美月が失踪してからこれまでの間、彼女が他の男と関係を持っているなど、想像したことすらなかったのだ。
――ありえない。
写真に写った森の影が、辰巳氏から聞いた六つの森の話が、自分をおかしくさせているのだ。
隼人は布団から身を起こすと、ふらつく足取りで洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗った。
少し頭がすっきりしてくると、身支度を始める。
今日はまた六守谷に行く予定だった。目的は郷土資料館だ。
先日は町の写真を撮るだけで夕方までかかってしまい、辰巳氏に教えてもらった郷土資料館に行く時間までは取れなかったのだ。
再び六守谷に向かうことに、理由の分からない不安を感じながらも、身支度を終えた隼人は自分の部屋を後にした。
30
あなたにおすすめの小説
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」
運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。
不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!!
アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。
2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。
2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。
2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。
2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。
2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。
2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
これはあくまでフィクションですが、私がみた夢の話を誰かきいてくれませんか?
芝 稍重
ホラー
私は子供の頃の夢日記を書いています。
この話には続きがありますが、ここでは書きません。この話でピンときた人は、コメント欄で知らせてほしいです。
(※このあらすじは、本文にでてくる「夢日記」投稿当時のものを復刻した内容です)
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる