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那須隼人3
再会
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高梨と待ち合わせていた居酒屋へ向かった。
東矢隈駅の駅前にあるチェーン店で、住所は六守谷ではなく隣町になる。六守谷には居酒屋らしい居酒屋がなかったため、一駅移動したのだが、東矢隈にしてもそれほど店が多いわけではなかった。
店内に入ると、高梨はすでに二人掛けのテーブル席についていた。
中学の頃の、どこかぽってりとした丸顔の印象とはまるで違っている。顎のラインが引き締まり、精悍な雰囲気になっていた。市役所勤めだと聞いていたが、スーツ姿ではなくラフなシャツに腕まくりをしていて、その印象がさらに引き締まって見える。
「早かったんだな。やっぱり役所勤めは定時で上がれるんだな」
向かいに座ると、挨拶より先にそんな軽口を叩く。高梨は苦笑いをしてみせた。
「バカ言うなよ。今がたまたま落ち着いてるだけだ。特に意味もないような仕事で残業させられることなんか、しょっちゅうだぞ」
メールや電話ではやり取りをしていたが、実際に顔を合わせるのはかなり久しぶりになる。それでも、昨日も会っていたかのような軽口を叩ける気安さが感じられて、隼人は少し嬉しくなった。
「それにしても久しぶりだな、隼人」
呼び方も中学の時のままだ。中学の頃、なぜか隼人は下の名前で呼ばれることが多かった。きっと覚えやすかったのだろう。
「中学の時以来だもんな」
「いや、高校の時、一回合コンしただろ?」
高梨の言葉に、隼人は自分の記憶の底をさらう。
「ああ、そんなことあったな。久しぶりに連絡がきたかと思えば合コンの誘いだったんだよな。あれ以来だから……じゃあ、十年ぶりか」
運ばれてきたビールを受け取りながら言う。
「とりあえず、再会ってことで」
高梨はそう言って、ジョッキを持ち上げた。
「乾杯」
軽くジョッキを合わせると、高梨は喉を鳴らしてビールを半分ほど空けた。
隼人も口をつける。冷たい炭酸と苦味が喉を刺激し、ほどよく乾いた体に染み渡る。
「それで、取材の調子はどうだ?」
「まあまあ順調かな。今日は郷土資料館に行ってきたよ」
「へえ」
高梨は、お通しで運ばれてきたきんぴらごぼうに箸を伸ばしながら、隼人の顔に視線を向けた。
「行くようには言われてなかった場所だけどさ」
「そうだな」
「建物はすごく良いんだけどな」
隼人が言うと、高梨は頷いてみせた。
「そうなんだよな。展示に見るべきものがないんだよ」
「矢隈市にも歴史がないはずはないのに」
郷土資料館で見つけた『六守谷の信仰』には、モリサマへの信仰のことだけでなく、古代から中世、近世にかけての六守谷の歴史についても触れられていた。資料の貸し出しは行っていなかったので、拾い読みではあるが最初から最後まで目を通した。熟読とは言えなかったので、後日また読みに行くつもりでいた。
「それにしても、よく郷土資料館なんて知ってたな」
高梨はラミネート加工されたメニューをめくりながら言う。
「ああ、取材しろと言われてたKUUKIで、地元のおじいさんに教えてもらったんだ」
写真に写った森の影について、高梨に話すことにためらいがあった。彼がオカルト話を快く思っていなさそうなこともあるが、それよりも美月に対する未練をおおっぴらにしたくない気持ちが強かった。
「KUUKIか。葵さん、何か言ってたか?」
隼人は手を挙げて店員を呼び、高梨の分もまとめて料理の注文をした。ビールを一口飲んでから、高梨との会話に戻る。
「あの人、お前の知り合いなんだな」
「美人だろ? あの店をオープンするにあたって、役所に何度も来てたから印象に残ってたんだ。それで近くまで行った時に店に寄ってみたんだよ。いい店だからな。常連とまでは言わないけど、たまにランチを食べに行ってるよ。それでまあ、軽い世間話ぐらいはするようになってさ」
あの店に高梨が通っているのなら、美月とも顔を合わせたのだろうか。しかし、それを聞いて何になるのだろう。そして、どう訊けばいいかも分からなかった。
しかしひと呼吸の間の後に、高梨の方から言及があった。
「あの店で、何度か藤原にも会ったよ」
高梨はカウンターの方に目を向けて言った。
歯切れの悪いその言葉に、隼人も曖昧に頷いてみせた。
「そうなんだな」
「……藤原のことは、残念だったな」
「うん」
説明のしようがなかった。説明をすべきかどうかも分からなかった。
短い沈黙の後、高梨は口を開いた。
「そういえば、電話で話したオカルト話だけどな――」
話題を変えようとしているのが丸わかりだった。不器用なやつだなと隼人は思ったが、その気遣いはありがたかった。
「何か噂話があるんだったか?」
続きを促すと、高梨はジョッキを口に運び、喉を湿らせた。
「むつもりヒルズにある火事で焼けた家に、侵入したYouTuberがいたんだ。で、その生配信中に、心霊現象が映ったとかで、かなり話題になったんだ」
「なるほど」
SNSや配信動画の拡散力は、隼人も分かっているつもりだ。
人気YouTuberの動画ともなれば、タウン誌などの地味な広報活動の効果など一瞬で霞んでしまう影響力があるだろう。
「しかも、生配信の後にそのYouTuberが行方不明になってる」
「なんだって?」
思わず声を上げていた。
それは事件ではないのか。
「市としても、動画を削除するようにいろいろ働きかけたし、その家の所有者であるデベロッパーは、YouTuberの所属する事務所に対して不法侵入と信用毀損、業務妨害などで訴訟を起こして、動画の削除請求を通してる」
「行方不明になったYouTuberは見つかってないのか?」
「ああ、まだ見つかっていない。行方不明になったことも、公表されてない」
東矢隈駅の駅前にあるチェーン店で、住所は六守谷ではなく隣町になる。六守谷には居酒屋らしい居酒屋がなかったため、一駅移動したのだが、東矢隈にしてもそれほど店が多いわけではなかった。
店内に入ると、高梨はすでに二人掛けのテーブル席についていた。
中学の頃の、どこかぽってりとした丸顔の印象とはまるで違っている。顎のラインが引き締まり、精悍な雰囲気になっていた。市役所勤めだと聞いていたが、スーツ姿ではなくラフなシャツに腕まくりをしていて、その印象がさらに引き締まって見える。
「早かったんだな。やっぱり役所勤めは定時で上がれるんだな」
向かいに座ると、挨拶より先にそんな軽口を叩く。高梨は苦笑いをしてみせた。
「バカ言うなよ。今がたまたま落ち着いてるだけだ。特に意味もないような仕事で残業させられることなんか、しょっちゅうだぞ」
メールや電話ではやり取りをしていたが、実際に顔を合わせるのはかなり久しぶりになる。それでも、昨日も会っていたかのような軽口を叩ける気安さが感じられて、隼人は少し嬉しくなった。
「それにしても久しぶりだな、隼人」
呼び方も中学の時のままだ。中学の頃、なぜか隼人は下の名前で呼ばれることが多かった。きっと覚えやすかったのだろう。
「中学の時以来だもんな」
「いや、高校の時、一回合コンしただろ?」
高梨の言葉に、隼人は自分の記憶の底をさらう。
「ああ、そんなことあったな。久しぶりに連絡がきたかと思えば合コンの誘いだったんだよな。あれ以来だから……じゃあ、十年ぶりか」
運ばれてきたビールを受け取りながら言う。
「とりあえず、再会ってことで」
高梨はそう言って、ジョッキを持ち上げた。
「乾杯」
軽くジョッキを合わせると、高梨は喉を鳴らしてビールを半分ほど空けた。
隼人も口をつける。冷たい炭酸と苦味が喉を刺激し、ほどよく乾いた体に染み渡る。
「それで、取材の調子はどうだ?」
「まあまあ順調かな。今日は郷土資料館に行ってきたよ」
「へえ」
高梨は、お通しで運ばれてきたきんぴらごぼうに箸を伸ばしながら、隼人の顔に視線を向けた。
「行くようには言われてなかった場所だけどさ」
「そうだな」
「建物はすごく良いんだけどな」
隼人が言うと、高梨は頷いてみせた。
「そうなんだよな。展示に見るべきものがないんだよ」
「矢隈市にも歴史がないはずはないのに」
郷土資料館で見つけた『六守谷の信仰』には、モリサマへの信仰のことだけでなく、古代から中世、近世にかけての六守谷の歴史についても触れられていた。資料の貸し出しは行っていなかったので、拾い読みではあるが最初から最後まで目を通した。熟読とは言えなかったので、後日また読みに行くつもりでいた。
「それにしても、よく郷土資料館なんて知ってたな」
高梨はラミネート加工されたメニューをめくりながら言う。
「ああ、取材しろと言われてたKUUKIで、地元のおじいさんに教えてもらったんだ」
写真に写った森の影について、高梨に話すことにためらいがあった。彼がオカルト話を快く思っていなさそうなこともあるが、それよりも美月に対する未練をおおっぴらにしたくない気持ちが強かった。
「KUUKIか。葵さん、何か言ってたか?」
隼人は手を挙げて店員を呼び、高梨の分もまとめて料理の注文をした。ビールを一口飲んでから、高梨との会話に戻る。
「あの人、お前の知り合いなんだな」
「美人だろ? あの店をオープンするにあたって、役所に何度も来てたから印象に残ってたんだ。それで近くまで行った時に店に寄ってみたんだよ。いい店だからな。常連とまでは言わないけど、たまにランチを食べに行ってるよ。それでまあ、軽い世間話ぐらいはするようになってさ」
あの店に高梨が通っているのなら、美月とも顔を合わせたのだろうか。しかし、それを聞いて何になるのだろう。そして、どう訊けばいいかも分からなかった。
しかしひと呼吸の間の後に、高梨の方から言及があった。
「あの店で、何度か藤原にも会ったよ」
高梨はカウンターの方に目を向けて言った。
歯切れの悪いその言葉に、隼人も曖昧に頷いてみせた。
「そうなんだな」
「……藤原のことは、残念だったな」
「うん」
説明のしようがなかった。説明をすべきかどうかも分からなかった。
短い沈黙の後、高梨は口を開いた。
「そういえば、電話で話したオカルト話だけどな――」
話題を変えようとしているのが丸わかりだった。不器用なやつだなと隼人は思ったが、その気遣いはありがたかった。
「何か噂話があるんだったか?」
続きを促すと、高梨はジョッキを口に運び、喉を湿らせた。
「むつもりヒルズにある火事で焼けた家に、侵入したYouTuberがいたんだ。で、その生配信中に、心霊現象が映ったとかで、かなり話題になったんだ」
「なるほど」
SNSや配信動画の拡散力は、隼人も分かっているつもりだ。
人気YouTuberの動画ともなれば、タウン誌などの地味な広報活動の効果など一瞬で霞んでしまう影響力があるだろう。
「しかも、生配信の後にそのYouTuberが行方不明になってる」
「なんだって?」
思わず声を上げていた。
それは事件ではないのか。
「市としても、動画を削除するようにいろいろ働きかけたし、その家の所有者であるデベロッパーは、YouTuberの所属する事務所に対して不法侵入と信用毀損、業務妨害などで訴訟を起こして、動画の削除請求を通してる」
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