しずめ

山程ある

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藤原美月3

和鏡

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──鎮守の森……モリサマ。

 鎮守の森という言葉は聞いたことがあったが、実際にどういったものを指すのかを美月は知らなかった。しかしどうやらモリサマとも関係がありそうだと思い、食い入るように続きを読む。


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「鎮守の森」は、一般的には神社の背後に広がる森のことを指します。 しかし鎮守という言葉にフォーカスすると、それは幾つかの意味を持ちます。鎮守神といえばその土地を守護する地主神のことであり、転じてその神を祀る社=神社のことを意味します。 また寺院に付属して建てられる神社のことを鎮守社と呼びます(ちなみに神社に付属して建てられる寺のことは神宮寺といいます)。 総じて鎮守とは、集落などを守護する神霊が宿る場として定義できるといえるでしょう。これは、神が宿るとされる、あるいは神そのものとされる山や森林、滝や巨石などの自然物――いわゆる「神奈備かんなび」を、集落内に取り込んだもので、いわば人工神奈備といってもよいかと思います。 鎮守の森は、地域ごとに異なる呼び名や信仰形態をもって受け継がれてきました。 矢隈市内には、こうした「鎮守の森」が大小合わせて20ヶ所以上あり、それぞれに地元の人々の手によって守られてきた歴史があります。

 また、神社や祠とともに伝えられる「産土神(うぶすながみ)」は、その土地に生まれた者を生涯にわたって守るとされる神格です。これは鎮守神・地主神と、氏神(その一族を守護する祖先神)が融合した概念と考えられます。 産土神は、神社が統合や廃止されていく過程にあっても、個別の集落で大切に祀られ続けている例が見られます。

 本企画展では、こうした矢隈地域の鎮守と産土信仰の多様性に注目し、各地区に伝わる祭祀、神社の変遷、伝承、そして失われつつある信仰のかたちについて、写真・文献・口承記録を通して紹介しています。 小さな展示ではありますが、この地に生きた人々の想いや、自然と共にあった暮らしの一端に触れていただければ幸いです。

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 パネルの文字を読み終えた美月は、展示物へと目を向けた。 挨拶文の内容を完全に理解できたとは思えなかったが、それでも六守谷のモリサマについての資料があるかもしれないという期待が高まっていた。

 展示は地域ごとに区分けされているようで、掲示されたパネルの中に「六守谷町」の文字を見つけると、美月は迷わずそこへ足を向けた。

 ガラスケースの一角に、銅鏡が展示されていた。 他にも古地図や漆器などが並べられていたが、美月の目はまっすぐにその鏡へと引き寄せられた。

 テレビなどで見たことのある、古墳から出土するような銅鏡とは少し違っていて、柄のような部分が付いている。「和鏡」と呼ばれるものだと、解説文に書かれていた。

 美月はガラスケースぎりぎりに顔を近づけて、仔細に観察する。 食い入るようにその解説文を読んだ。



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 蓬莱文様柄鏡(六守谷町)
 江戸後期~明治初期
 六守谷町・個人蔵

 本資料は、六守谷町の旧家にて保存されている柄付きの和鏡である。青銅ではなく、銅を主成分に、錫および鉛を加え、さらにごく微量の砒素を混ぜた合金を高温で溶解し、鋳型に流し込んで作られたものと考えられる。
 裏面には、二羽の鶴と亀、松と流水、岩山が配置された、おめでたい蓬莱文様ほうらいもんようが表現されている。江戸時代の婚礼調度の鏡には、蓬莱文様が多く用いられていた。

 六守谷町には、かつてモリサマと呼ばれる六つの鎮守の森が存在し、それぞれの森ごとに年中行事として小規模な祭祀が行われていた。そのうちの一つ、「シズメのモリサマ」では、神田しんでんにその年の最初の田植えをする際に、「鎮め女(しずめめ)」と呼ばれる娘を嫁に出す儀式が行われていたとされる。
 本鏡は、その祭祀において娘とともにシズメのモリサマに奉納される婚礼調度として用いられたものと伝えられており、この鏡をシズメのモリサマにある鏡池に沈めることで婚礼の儀式としたと考えられている。

 明治以降、こうした祭祀は急速に廃れ、この鏡も長らく村家の蔵に秘蔵されていたが、本企画展のためにご厚意によりお貸しいただいた。

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