猫、時々姫君

篠原皐月

文字の大きさ
42 / 66
第4章 思惑渦巻く王宮

10.ささやかな応酬

しおりを挟む
 現在ラウールと自称している彼が、護衛らしい騎士に目配せをして少し離れた所で待機して貰ってから、シェリル達が居るテーブルに歩み寄った。そしてにこやかに三人に声をかけてくる。

「やあ、こんな所で奇遇だね、シェリル。姉弟仲良く、お茶会中なのかな?」
「え、ええ……、こんにちは、ディオン。今日は良いお天気ね」
(うわ……、なんだかミリアから、『何馴れ馴れしく挨拶してるのよ!』的な視線で睨まれている気がするわ)
 何とか笑顔を取り繕い、以前顔を合わせた時同様に「ディオン」と呼びかけたシェリルだったが、テーブルを挟んで斜め向かいに座るミリアから向けられる視線が、顔に突き刺さってくる心地がした。その為怖くてそちらの方向に顔を向けられないまま、どう話を繋げようかと必死に頭を働かせていると、微妙な沈黙を打ち消す様にミリアから声が上がる。

「シェリル姉様。私達に、こちらの方を紹介して頂きたいのですけど?」
 口調だけは穏やかな、少女らしい可愛らしい物言いではあったが、それに含む物を感じ取れない程シェリルは鈍く無かった。その為、幾分怖じ気づきながら、茶番だとは思いつつ紹介の言葉を口にする。

「あ、えっと……、ごめんなさい、ミリア。こちらは、この前から離宮に滞在している、ハリード男爵の息子さんのディオンで」
「目下、アルメラ様がお産みになった第一王子のラウール殿下の可能性が濃厚と、巷では言われている方ですよね?」
「……ええ。それでね? ミリア」
(分かってるならわざわざ聞かないで。それに、その喧嘩売る気満々の表情は止めて。お願いだから)
 自分の説明を遮って嫌味っぽく言及してきたミリアに、シェリルは泣きたくなってしまった。しかし彼女のそんな心情には構わず、ミリアは堂々と自己紹介した。

「初めまして。お噂は色々な筋から伺っていますが、噂が真実なら異母妹に当たりますミリアです。以後、お見知りおき下さい」
「ラミレス公爵の主張が真実だと認められたなら、あなたの異母弟になるカイルです。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく。レイナ様の所で姿を見かけなかったから残念に思っていたら、こんな所で二人に遭遇できたなんて嬉しいな」
 カイルもミリアと調子を合わせ、「真実」とか「認められたら」とかの部分に微妙に含みを持たせながら自己紹介を済ませた為、シェリルは溜め息を吐きたくなった。しかしその場の険悪な空気を感じている筈のラウールは、全く気にしない風情で話を続ける。

「二人はシェリルと仲が良いんだね? できれば私とも、同じ様に仲良くしてくれたら嬉しいな」
 それにミリアとカイルは、冷ややかとも言える笑顔で返す。
「シェリル姉様はれっきとした私達の姉ですから、仲良くするのは当然ですわ」
「勿論、あなたも僕達と血の繋がりがあると認められたら、それなりの対応はするつもりです」
「勿論そうね。私達、礼儀知らずでも恥知らずでも無いのだし」
(ちょっと二人とも! お願いだから、こんな所で揉めないで!)
 下手に口を挟むと変に状況を悪化させそうで、内心で動揺しながらシェリルが三人のやり取りを見守っていると、いきなりミリアが椅子から立ち上がった。

「それではシェリル姉様。私達、そろそろ失礼しますね?」
「え? ミ、ミリア?」
 お茶会の終了予定時間はまだまだ先の為、シェリルは慌てて声をかけたが、それと同時にカイルも立ち上がりながら、別れの挨拶を口にする。
「お茶もお菓子も、とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ちょっと待って、カイル。もう帰るの?」
「はい。そろそろ勉強の時間になりますので」
「私も、来月の即位記念式典用のドレスが仕上がって来たから、合わせてみる事にしてたんです」
「お邪魔しました。ディオンさんはどうぞごゆっくり」
「ミリア……、カイル……」
 笑顔の二人が、この場に自分を置き去りにするつもりだと分かって、シェリルは盛大に顔を引き攣らせたが、ラウールは余裕の笑みで応じた。

「そうか。是非ご一緒したかったけど、予定があるなら仕方がないね。残念だけど、話はまたの機会に」
(ちょっと待って二人とも! 私だけ置き去りって酷くない? それは滅茶苦茶不愉快なのは、私にだって分かるけど!?)
 自分付きの侍女達を引き連れて、颯爽と立ち去って行く二人の背中に向かって、シェリルは心の中で精一杯文句をぶつけた。そんな中、のんびりとした声がかけられる。

「シェリル、せっかくだから、ここでお茶を一杯貰っても良いかな? 高貴な方と顔を合わせてきて、緊張して喉が渇いてしまってね」
 その申し出を無碍に断る事もできず、シェリルはテーブルの向かい側を手で示しながら促した。
「それじゃあ、そちらに座って下さい」
「ありがとう」
(あまり関わり合いになりたくないのは山々だけど……、ここで追い返す訳にはいかないわよね)
 そして少し離れた場所で待機している、リリスに視線を向ける。

「リリス」
「……畏まりました」
 短く声をかけると、色々思うところは有るにせよ、リリスは恭しく頭を下げてラウールの為のお茶を淹れ始めた。
 その間、何となくテーブルで無言のまま向かい合っていた二人だったが、彼の前にカップが差し出された事を契機に、会話が始まる。

「どうぞ」
「ありがとう」
 出されたカップに口を付け、中身を一口味わったラウールは、周囲をゆっくり見回してから、感心した様に言い出した。

「うん、やっぱり王宮で使われている最高級の茶葉だ。美味しいね。それにクレムリアの花が見事だ。こまめに手をかけないとここまでの大木にならない筈だから、さすがは王宮の庭園だと思わされるよ」
「そう、ですね」
(うぅ、どういう話をして、どういう感じで切り上げれば良いのか、全然見当が付かないわ。どうしよう……)
 余裕綽々でお茶を味わっているラウールとは裏腹に、シェリルは内心で途方に暮れた。そんな心の内を読んだ様に、彼がカップ片手に笑いを堪える様な表情で言い出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...