夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有

文字の大きさ
1 / 65

第1話 異世界

しおりを挟む
 巨大な影が動き、樹木が折れる乾いた音が辺りに響いた。
 名も知らぬ鳥が飛び立ち、力のない小動物が算を乱して逃げだす。
 
 距離にして二百メートル。
 樹々の間から姿を現したのは巨大な黒毛のクマのような猛獣。

 
 その鋭い眼光が真っ先に捉えたのは、ゴスロリに身を包んだ十二、三歳のたおやかな少女。
 次いで、学生服を着た十五、六歳の華奢きゃしゃな少年に視線が映る。

「魔物?」

 少年の端正な顔が恐怖に引きつる。

「魔物じゃないわ。普通に猛獣よ」

 続く、少女のささやくような声援に少年が無意識に後退る。

「いやいや、無理だろ。動物園で見たヒグマの三倍はあるぞ、あれ。だいたい武器の一つもないのにどうやって戦うんだよ」

 クマに襲われたジープが容易く破壊されるニュース映像が少年の脳裏をよぎる。

「錬金工房で武器は作れないの?」

「無理だ。使い方が分からない」

 無力さを口にした瞬間、少年は自分が何の力もない獲物なのだと改めて自覚した。
 心臓を鷲掴みにされたような息苦しさをと恐怖が少年を襲う。

「魔力で身体強化を図りましょう。武器はその辺の岩で大丈夫なんじゃないかしら? あ、怪我しても光魔法で治してあげるから安心して」

「属性魔法が使えるって言ったよな? 魔法でチャチャっと片付けられないのか?」

 猛獣は少年と少女を視界に捉えたまま、樹木の間を抜けて川沿いの広い空間へと移動する。

「それこそ無理よ。力がほとんど失われているんだから、属性魔法なんて申し訳程度のことしかできないわ」

「それじゃ怪我したって直せないんじゃないのか?」

「それは大丈夫。光魔法だけは健在よ」

 恐怖の元凶が少年に向かって、突如、駆けだした。

 樹々をなぎ倒し、地面を揺らす。
 全身に伝わる振動が恐怖心を増幅させる。

「魔力による身体強化ってどうやるんだ!」

 意を決した表情で少女が少年の傍らに駆け寄る。

 瞬く間に距離が詰まる。
 少年との間に残された距離は百メートル!

「身体強化の方法を教えてくれ!」

 切迫した声が響く中、彼女の左手が少年の背中に触れた。

「分かる? いま、強制的に魔力を身体中に循環させて身体強化を図ったわ」

 咆哮ほうこうが空気を震わせた。

 少年の心臓が跳ねる。
 鼓動が早まる。
 
 五十メートル!
 迫る巨体が少年の視界一杯に広がる。

 全身から汗が噴きだしたような錯覚を覚える。

 同時に身体強化とは別の力を感じていた。
 少年は身体の奥底に感じる力に意識を集中する。

 自分が持つ力を瞬時に理解した。

「これが、俺の力……」

 高揚感が少年の中で急速に膨れ上がった。


―――― 少し時間をさかのぼる。


「ハーイ」

 ゴスロリファッションに身を包んだ十二、三歳の美しい少女がにこやかに微笑んだ。
 その笑顔に心臓が激しく脈打つ。

 ダークブラウンの大きな瞳が俺を真っすぐに見つめていた。
 穏やかな風がウェーブのかかった黒髪をさらうと、腰の辺りまで伸びた髪が大きく揺れる。

 少女の涼やかな声が耳に届く。

「あなたは誰?」

神薙拓光かんなぎたくみ

 自分の発した声で我に返った俺は、意識を少女から周囲へと移した。
 彼女の背後には陽光を反射して輝く小川が流れ、周囲には新緑を茂らせた樹木が群生している。

 周囲の景色を認識した途端、疑問が湧き上がった。

 何で森の中にいるんだ?
 俺は……、つい先ほど高校の校門をくぐったはずだ。

「ようこそ、神薙拓光さん。あたしはユリアーナ。あなたの居た世界とは異なる世界の女神よ。あなたは、あたしの助手としてこの世界に召喚されました」

「女神様が俺を異世界に召喚した……?」

「その理解で正しいわ。それとあたしのことは『ユリアーナ』と呼んで。あたしもあなたのことを『たっくん』って呼ぶから」

 いきなり『たっくん』かよ。
 いや、些末なことは後回しにしよう。

「ここはどんな世界なんだ?」

「ここは科学の代わりに魔法が発達した世界で、最も進んだ文明レベルでも地球の中世ヨーロッパ程度と考えてもらっていいわ――――」

 そこから女神様の説明が始まった。
 
 国家形態は君主制がほとんどを占め、王国や帝国が点在し身分制度が存在する。
 教育レベルも国家により多少の差はあるが、こちらも中世ヨーロッパ程度と考えて問題ないようだ。

 地球との最も大きな違いは住民と魔物の存在。

 この世界には人間の他にエルフやドワーフ、幾種類もの獣人が存在し、多少の確執はあるが共存している。
 そして、彼らの共通の敵として魔物が存在した。

「――――あとは各地にダンジョンがあるわよ」

 魔法のあるファンタジー世界確定だ!
 何とも魅力的な世界じゃないか。

 彼女の話を聞いているときから胸が高鳴っていたが、拭いきれない不安もあった。

「元の世界に帰ることはできるのか?」

「いますぐは無理よ。でも、あたしが力を取り戻せば元の世界に帰ることは可能よ」

 つまりは、彼女に協力するしか選択肢はないということか。

「何れ帰れるならそれでいい。そんなに未練がある訳じゃないからな」

「うわー、寂しい人生を送ってたのね」

 彼女の憐れむような眼差しが、イジメられていた中学時代の記憶と入学して間もないが孤独に過ごす高校生活の記憶とをフラッシュバックさせた。
 眼差しと蘇った記憶が俺の胸を抉る。

「俺の過去よりもこの世界でのこれからの方が大切だろ!」

「前向きじゃないの。理由は聞かないで上げるわね」

 一言多いな、この女神様。
 それよりも気になる魔法だ。

「魔法がある世界と言っていたが、俺も魔法を使えるのか?」

「使えるわ。たっくんからは強大な魔力を感じるもの」

 魔法が存在する世界でも俺自身が使えなければ意味がない。
 だが、それは杞憂きゆうのようだ。

 文明レベルが地球の中世ヨーロッパ程度というのも魅力に拍車を掛ける。
 俺は心の中でガッツポーズをした。

「それで助手ってのは? 俺は何をしたらいい?」

「実はこの世界はいま未曽有の危機に直面しているの――――」

 彼女が言うには、神聖石しんせいせきと呼ばれる神の力を秘めた石が、天界の事故によりこの異世界の各地に散らばってしまったそうだ。

 散らばった神聖石は百余。
 その一つ一つに世界のパワーバランスを崩すほど力が秘められている。
 この世界のパワーバランスを崩さないためにも早期に回収する必要があった。
 
「――――人や魔物の手にあまる力よ。可能なら人や魔物が手にする前に、最悪でも崩れたパワーバランスを修復しながら、世界に散らばった神聖石を回収するのが目的よ」

 その目的を果たすために女神である彼女が降臨し、助手として俺を地球から召喚したということだ。

 想像した以上に危険な状況じゃないのか、これ……。
 孤独ではあっても、平和で怠惰な地球での日常が、とても大切なもののように思えてきた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...