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第5話 少女が優しく微笑んだ
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影に視線を向けると巨大な黒毛の猛獣と目が合う。
「魔物?」
「魔物じゃないわ。普通に猛獣よ」
後退りながら『たっくん、頑張って』、とささやくような声援。
「いやいや、無理だろ。動物園でも見たヒグマの三倍はあるぞ、あれ。だいたい武器の一つもないのにどうやって戦うんだよ」
「錬金工房で武器は作れないの?」
「無理だ。使い方が分からない」
「魔力で身体強化を図りましょう。武器はその辺の岩で大丈夫なんじゃないかしら? あ、怪我しても光魔法で治してあげるから安心して」
明るく振舞っているが声が切迫している。
これはかなりヤバい状況だ。
「属性魔法が使えるって言ったよな? 魔法でチャチャっと片付けられないのか?」
「それこそ無理よ。力がほとんど失われているんだから、属性魔法なんて申し訳程度のことしかできないわ」
「それじゃ怪我したって直せないんじゃないのか?」
「それは大丈夫。光魔法だけは健在よ」
どこまで信じていいのか怪しいな。
だが、いまはそんなことを気にしている場合じゃない。
突如、猛獣が駆けだした。
速い!
距離が一気に詰まる。
「魔力による身体強化ってどうやるんだ?」
ユリアーナが傍らに駆け寄る。
まずい!
百メートルを切った!
「身体強化の方法を教えてくれ!」
俺の言葉が終わらないうちに、彼女の左手が俺の背中に触れた。
刹那、身体中に何かが流れ込んでくる。
「分かる? いま、強制的に魔力を身体中に循環させて身体強化を図ったわ」
猛獣が咆哮を上げた。
鼓動が早まる。
全身から汗が噴きだしたような錯覚を覚える。
巨体が眼前に迫った。
五十メートル。
間に合わない!
そう思った瞬間、身体強化とは別の力を感じる。
その力に意識を集中すると自分が持つ力を一瞬で理解した。
「これが、俺の力……」
高揚感が湧き上がる。
自然と口元が綻ぶのが分かった。
「……錬金工房」
「たっくん? ちょっと、大丈夫なの!」
迫る巨体と凶悪な眼光に女神が悲鳴にも似た声を上げた。
「安心しろ。ただの猛獣なんて俺の敵じゃない」
恐怖心と高揚感がない交ぜとなって襲ってくる。
「来るわよ!」
巨体に似合わぬスピード。
瞬く間に距離が詰まる。
眼前に迫った猛獣が咆哮を上げて後ろ足で立ち上がった。
刹那、膨れ上がる高揚感が恐怖心を飲み込んだ。
「問題ない」
自分のものとは思えない程落ち着いた声が静かに響いた。
凶悪な前足が俺へと向かって振り下ろされるタイミングで錬金工房を発動させる。
「消えた!」
俺たちの眼前から脅威が消えた。
驚きの声を上げたままその場で硬直するユリアーナに声をかける。
「さ、片付いたぞ」
「何を、したの……?」
疑問と狼狽がない交ぜとなった表情がうかがえる。
「錬金工房の中にクマみたいなヤツを収納した。さっきユリアーナが口にした異空間収納も同じような機能なんじゃないのか?」
錬金工房の能力を理解した瞬間、ゲームによくある『アイテムボックス』や『ストレージ』と呼ばれる機能を連想していた。
更に意識を集中することでそれ以上の機能があることも瞬時に分かった。
「異空間収納は生きたまま収納することはできないけどね」
「生きたまま収納できるのは珍しいのか?」
「あたしが知る限り、たっくんの錬金工房以外にないわ」
生きたまま収納できるというだけでも驚愕に値するようだな。
俺だけが使える能力。
俺だけの力。
額に汗を浮かべたユリアーナが続ける。
「錬金工房のスキルで何ができるのか、実験してみる必要がありそうね」
「賛成だ。色々と試してみたいこともあるしな」
錬金工房の持つ他の能力に思いを馳せながら俺はそう口にした。
「魔物?」
「魔物じゃないわ。普通に猛獣よ」
後退りながら『たっくん、頑張って』、とささやくような声援。
「いやいや、無理だろ。動物園でも見たヒグマの三倍はあるぞ、あれ。だいたい武器の一つもないのにどうやって戦うんだよ」
「錬金工房で武器は作れないの?」
「無理だ。使い方が分からない」
「魔力で身体強化を図りましょう。武器はその辺の岩で大丈夫なんじゃないかしら? あ、怪我しても光魔法で治してあげるから安心して」
明るく振舞っているが声が切迫している。
これはかなりヤバい状況だ。
「属性魔法が使えるって言ったよな? 魔法でチャチャっと片付けられないのか?」
「それこそ無理よ。力がほとんど失われているんだから、属性魔法なんて申し訳程度のことしかできないわ」
「それじゃ怪我したって直せないんじゃないのか?」
「それは大丈夫。光魔法だけは健在よ」
どこまで信じていいのか怪しいな。
だが、いまはそんなことを気にしている場合じゃない。
突如、猛獣が駆けだした。
速い!
距離が一気に詰まる。
「魔力による身体強化ってどうやるんだ?」
ユリアーナが傍らに駆け寄る。
まずい!
百メートルを切った!
「身体強化の方法を教えてくれ!」
俺の言葉が終わらないうちに、彼女の左手が俺の背中に触れた。
刹那、身体中に何かが流れ込んでくる。
「分かる? いま、強制的に魔力を身体中に循環させて身体強化を図ったわ」
猛獣が咆哮を上げた。
鼓動が早まる。
全身から汗が噴きだしたような錯覚を覚える。
巨体が眼前に迫った。
五十メートル。
間に合わない!
そう思った瞬間、身体強化とは別の力を感じる。
その力に意識を集中すると自分が持つ力を一瞬で理解した。
「これが、俺の力……」
高揚感が湧き上がる。
自然と口元が綻ぶのが分かった。
「……錬金工房」
「たっくん? ちょっと、大丈夫なの!」
迫る巨体と凶悪な眼光に女神が悲鳴にも似た声を上げた。
「安心しろ。ただの猛獣なんて俺の敵じゃない」
恐怖心と高揚感がない交ぜとなって襲ってくる。
「来るわよ!」
巨体に似合わぬスピード。
瞬く間に距離が詰まる。
眼前に迫った猛獣が咆哮を上げて後ろ足で立ち上がった。
刹那、膨れ上がる高揚感が恐怖心を飲み込んだ。
「問題ない」
自分のものとは思えない程落ち着いた声が静かに響いた。
凶悪な前足が俺へと向かって振り下ろされるタイミングで錬金工房を発動させる。
「消えた!」
俺たちの眼前から脅威が消えた。
驚きの声を上げたままその場で硬直するユリアーナに声をかける。
「さ、片付いたぞ」
「何を、したの……?」
疑問と狼狽がない交ぜとなった表情がうかがえる。
「錬金工房の中にクマみたいなヤツを収納した。さっきユリアーナが口にした異空間収納も同じような機能なんじゃないのか?」
錬金工房の能力を理解した瞬間、ゲームによくある『アイテムボックス』や『ストレージ』と呼ばれる機能を連想していた。
更に意識を集中することでそれ以上の機能があることも瞬時に分かった。
「異空間収納は生きたまま収納することはできないけどね」
「生きたまま収納できるのは珍しいのか?」
「あたしが知る限り、たっくんの錬金工房以外にないわ」
生きたまま収納できるというだけでも驚愕に値するようだな。
俺だけが使える能力。
俺だけの力。
額に汗を浮かべたユリアーナが続ける。
「錬金工房のスキルで何ができるのか、実験してみる必要がありそうね」
「賛成だ。色々と試してみたいこともあるしな」
錬金工房の持つ他の能力に思いを馳せながら俺はそう口にした。
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