夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有

文字の大きさ
53 / 65

第53話 カール・ロッシュ、再び

しおりを挟む
 事件が落着したので証拠品として騎士団が預かっていた、第一部隊に横取りされた盗賊からの押収品の返却をする。
 ついては騎士団の詰所まで来て欲しいとの連絡を受けたのが昨夜。

 騎士団の第一部隊と第二部隊が揃って捕縛されていから五日後のことだった。

『意外と早かったですね』、とは孤児院の医院長』、『騎士団だからこそ、厳しくしなきゃって、ってのはさすがだよね』、とは宿屋のおかみさんの言葉だ。
 街中の噂話に耳を傾けても、現職の騎士団に対して、速やかに厳しい裁定を下した代官のカール・ロッシュに対する評価はうなぎ登りだ。

「ロッシュ代に恩を売り過ぎたかしら」

 騎士団の詰所に向かう道すがら、すれ違いざまにカール・ロッシュを褒めそやす声を耳にしたユリアーナが苦笑した。

「大丈夫じゃないか? あの代官のことだ、お膳立てしたのが俺たちだなんてもう忘れているさ」

「それもそうね。都合の悪いことはさっさと忘れるタイプだったわ」

「それどころか、押収品の受け渡しのときにわざわざ出てきて恩着せがましいことを言いそうじゃないか?」

 あれは、借りた金のことはすぐに忘れても、貸した金のことは返済後も忘れないタイプだ。

「恩着せがましいことを言ったらガツンと言ってやりましょう」

「ロッシュも立場があるだろうし、騎士たちもいるだろうから、そこは適当に濁して伝えるくらいの配慮はしよう」

 俺とユリアーナの会話を聞いていたロッテが心配そうに口を開いた。

「穏便にお願いしますね、穏便に」

「やーねー、あたしは慈愛に満ちた女神よ。敬虔《けいけん》な信者や協力した者に不利益なようなことはなるべくしないわよ」

 何とも微妙な言い回しだな。
 ロッテもその微妙なニュアンスを理解したか乾いた笑いを力なく漏らすと、懇願するような顔を俺に向けた。

「シュラさん、くれぐれもよろしくお願いします」

「分かってるって」

 最後は俺を頼る当たり、可愛らしいじゃないか。

「証拠の捏造《ねつぞう》を頼まれてもやっちゃダメよ」

 ささやかな幸せに浸っている俺にユリアーナの冷ややかな一言が浴びせられた。

 騎士団捕縛事件の夜だけでなく、ロッシュからは何度も証拠の捏造ができないかと問い掛けられた。
 それも巧妙なことに捏造という言葉は使わないし、こちらから証拠品の捏造を持ち掛けやすいよう、言葉巧みにだ。

 ユリアーナ曰く。
『あたしたちが証拠品の捏造をする、或いは、簡単にできると証明されれば、ロッシュはあの鏡の魔道具に記録した自白を捏造だと主張するつもりよ』

 ロッシュの口車に乗って、迂闊《うかつ》に証拠の捏造を申し出ようとした自分が恨めしい。

「分かってる」

「目的も悟られないようにお願いね」

「慎重に対応する」

 ロッシュの目的は押収品の受け渡しとロッシュの自白が記録されている鏡の魔道具が表にでないようにとの念押し。
 あわよくば鏡の魔道具を入手するなり、記録された自白の信憑性《しんぴょうせい》に疑いが生じる言質を俺から取ることだろう。

 こちらの目的は新たに赴任してくる司教の排除にロッシュが自発的に動くようにけしかけること。最悪でも排除に協力させることだ。
 盗賊からの押収品の受け取りは口実でしかない。

「あ、第三部隊の騎士様ですよ」

 詰所の門の前で待っていた騎士にロッテが笑顔で手を振った。

 ◇

 俺たち三人は騎士団の詰所の一室に通された。
 対応するのはカール・ロッシュ一人。

「押収品の返却が遅くなってしまい申し訳なかった」

 人払いを済ませたその部屋でロッシュが書類の束をテーブルの上に置くと、

「押収品の目録だ」

 と告げた。

「わざわざ目録まで作成くださったんですね。ありがとうございます」

「書類の確認はいいのか?」

 目録の確認をせずに錬金工房へと収納するとロッシュが驚いた顔をした。押収品はそれなりの金額になる。当然確認すると思っていたのだろう。

「第一部隊に掠め取られたのは盗賊のアジトに放置してきた品々です。私たちにとっては大した価値はありません」

「なるほどな。あれだけの魔道具を気前良く献上するくらいだ、盗賊の盗品程度には価値を見出せないと言うことか」

「そこでご提案があります」

「提案?」

 ロッシュがたちまち警戒する表情を浮かべた。
 鏡の魔道具を使って騙し討ちのように自白させたんだから警戒もするか?

『そう警戒しないでください』と前置いて話を切り出す。

「押収品ですが、この街の住人の品物、遺品と分かる代物については無償で返却いたします」

「何を企んでいる?」

 狡猾そうに目が輝く。
 記憶にある罠を眼の前にして、どうやってエサのニワトリだけを取ってやろうかと、思案しながら罠の周りをうろつく狐のような目つきだ。

「それを赴任してきたばかりのフランツ・オットー助祭の嘆願に心を打たれた私たちが聞き入れた、とう体で実現させたい。ロッシュ代官にはその仕切りをお願いしたいのです」

「益々意味が分からないな」

 ロッシュが探るように俺からユリアーナ、ロッテへと視線を巡らせる。
 ロッテの表情からも何も読み取れなかったのだろう、諦めたような顔をみせると視線で俺に先を促した。

「フランツ・オットー助祭はとても評判がいいようですね」

 赴任して直ぐは神聖石を使って『女神の奇跡』と噂になるほどの治癒魔法を使っていた。富裕層にはそれなりの金額を請求するが、貧困層に対しては無償で対応していた。
 それは神聖石を返してもらう代わりに、女神の祝福の名の下、彼の持つ光魔法と魔力の底上げをした今も変わらずに行われていた。

「最初こそ富裕層から少なくない反発はあったが、今では富裕層も理解を示しているよ」

 助祭は、スラムや貧困層の住民が疫病にかかり、そこから街全体に蔓延することの方が恐ろしいのだと言うことを、中流層を中心に説いて回った。

 そしてその成果が現在では富裕層にまで広がってる。
 陰ながら後押しをしたのが代官のカール・ロッシュなのだが、見事に素知らぬ顔を決め込んでいた。

「彼のような人材が教会内で力をつけ、発言力を持ってくれるのは、ご領主様や代官様としても望ましいでしょうね」

「陰から応援したくなる人材ですよね」

 俺に続くユリアーナの笑みで、

「そう、だな……」

 ロッシュの警戒心がマックスになった。

「逆に今度赴任してくる司教。名前は忘れてしまいましたが、彼のような人物が教会の上層部に居座ると苦労しそうですよね?」

 俺の言葉にロッシュの顔が歪んだ。
 司教もオットー助祭同様、『女神の奇跡』を行えると人々の口の端に上っている。

 為人に問題があっても高い治癒能力と政治力を有しているとなれば、赴任後ほどなく教会内での地盤が固まり強大な発言力を有するのは想像に難くない。

「その司教の力を削ぐことができるかもしれないと言ったら……?」

「その手の苦労はやむを得ないと心得ている。だが、しなくていい苦労なら避けたいとも思っている」

 ロッシュの顔から警戒心が薄れ、初めて会った夜に見せた爽やかな笑みが戻ってきた。

「詳しいお話を――」

「聞こうか」

 ロッシュが身を乗り出した。
 司教を排除ないしは失脚させる提案を持ってきたと受け取ったようだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...