私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人

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17.パパ、王女殿下にうんざりする

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 才能ある男なら、どんな禿親父でもいい!! なんて思っていましたけれど。 あらあらコレは! とても素敵な方ではありませんか。

 なんてミモザは彼女の持つ嗜虐的な趣味を含めて心が歓喜にざわついていた。

 怒りをあらわに表れたのは、繊細な顔立ちをしながらも苛立ちを隠しきれない様子の美少年。 下手すれば息子どころか娘よりも若く見えるが、確かに2人の子の父親である。

「えっと、アナタが、ドナ・モルコ?」

 ソワソワとした様子で、ミモザが応接室へと誘導すれば、大きな溜息と共にドナは後についていく。 その溜息すら愛らしいとミモザは、この美しい顔をどう苦痛で歪めようかと本来の目的、ドナからの金銭的搾取を忘れて考え出していた。

「そうですよ」

 視線を伏せれば、長い睫毛が揺れ、憂いを帯びた瞳が陰る。

 ふぉおお。 やばい!! コレはヤバイ!!

 と言うのはミモザの心の叫びだった。





 ドナは困惑していた。

 バラデュール伯爵から情報をもたらされ、不当な代金請求をされると言う状況を事前に忠告されていたにもかかわらず、対処しなかったのは悩んでいたから。

 娘の幸運を……では当然ない。

 損失の最小化を狙い早めに切るか?
 王女殿下の後ろ盾が利用できるか?

 どちらが得か?

 オラール伯爵が貧乏なのは、シシリーを迎え入れるにあたり、屋敷の体裁を整えたいと相談を受けた際に分かった。 恥じらうように告げるオラール伯爵は、気の毒なほどに純粋な男に見えた。 反面、これなら利用できると思ったのだ。

 とは言え、反抗的な娘の嫁入りに全面協力と言うのは面白く無かった。 だから、改装工事も家具の搬入も全部任せてくれるなら、娘の持参金として対応しようと言った。 彼の望む改装は、工夫次第でいくらでも安くすることができたから……。

 それに対してオラールは、

『シシリーに対して恰好つけたい、見栄を張りたい、こんな無茶に応じて頂きありがとうございます』

 心から彼は感謝を示した。 もし、これがバラデュール伯爵であれば、まずは持参金いくら払える? オマエは娘にどれほどの価値を見出している。 その価格を提示してもらおうか? から始まった事だろう……。

 時間をかけ大層な仕事をしているように見せておいてくれと言う改装工事は、かなり安く収めたし、家具も他の貴族からの下取り品を適当にリメイクして搬入した。 貴族への嫁入りどころか、一般庶民の嫁入り程度の持参金に抑えた。

 大した損失でないからこそ、バラデュール伯爵の忠告に対して、ドナ・モルコは悩む余地があったのだ。



 だが、自分が段取りし、手配したはずの改装工事に対して、職人の請求が法外であったために、ドナ・モルコは重い腰を上げオラール伯爵邸に訪れたのだった。

 応接室の扉が閉められると同時に、ドナ・モルコは席に座ることなく訴えた。

「アナタに言っても仕方のない事は分かっております。 ですが、アナタも夫を持つ身でオラール伯爵と良い仲となっているのですから、全く無関係とはいえないでしょう。 オラール伯爵への伝言をお願いします」

 丁寧ではあるが、尊大な態度での願いだった。 ソレに対してミモザは困ったように笑い、そして頭を下げた。

「誤解ですわ。 私と彼は古くからの友人であるだけ、過去も今も、そして未来も、彼の恋人になることなどありません。 誤解を与えてしまいました? そうであったなら、とても申し訳ないことをしてしまいました。 シシリー様にも謝罪の機会を設けて頂けませんでしょうか?」

 そして、罪悪感はあるのだとばかりに、ミモザは涙を流して見せた。

「そのように伝えておきましょう。 ですが、アナタの事を抜きにしても、私の娘は、オラール伯爵から大勢の人前でプロポーズを受け、婚約を誤認させられた。 初心な娘に期待を持たせ、持参金を要求したことは釈明の余地もないでしょう」

「あら、彼ったら……忙しくて大切なことを忘れておりましたのね。 彼は未だにシシリー様を愛しておりますわ。 そして、私も2人の恋を応援しておりますの。 来月には結婚式も控えている状態、それでも婚約と言う手続きを必要とするなら、彼にそのように伝えておきますわ」

 ドナは、憂いた表情で視線を伏せ考え込む。

 彼女は、何を考えているんだ? 彼女はすべてを持っている王女。 ……ただ……彼女の男には金がないだけ。 それも、王女であれば、なんとかできるだろう?

 ドナの中の、王族と貴族の認識などは、搾取する側の人間で、ソレを更に搾取するのが自分であると言う考えが根底にある。 それでもミモザには近寄らない方がいいと、彼の本能が告げていた。



 ドナ・モルコは、目的を最初に戻し考えた。

 そもそも、私が指示した以上の改装は見られません。 明らかな詐欺行為。 ただ、オラール伯爵は頼りなく、職人との付き合いは長い、どちらもそんな大胆なことを出来るとは思えません。 ……となれば、犯人は目の前の王女殿下と言うことですか……。

 まぁ、いいです……。 コチラは当初通り話を勧めましょう。

 ドナが考えていたのは、

・幾度も通う事で、誠実な対応の実績作り。
・無視するのは相手という印象付け。
・最終的には職人味方にした罪の確定。
・詐欺行為を裁判に訴える。

 この国の裁判所は事実よりも、印象や感情に左右されがちだ、やりすぎるほどに誠実なふりをしなければいけない。 ソレさえすれば、オラール伯爵家の持つ領地をもって損失以上の回収が可能となる。

「オラール伯爵には、私の所に送られてきた不当な請求について話がしたいと伝えて頂きたい。 では、失礼させていただ」

 結局、席に座ることなく言いたい事のみを言ってドナ・モルコは応接室をさろうとした。

「お待ちください!! アレは、アナタにお会いしたが故に私が、企てた事でございます」

 ミモザは、ドナが感動すると思っていた。 そしてそうあるべきだと考えていた。 だが、実際は、

「アナタは何を考えているのですか! いくら王女殿下とはいえ、人を弄ぶのは大概にしていただきたい」

 金銭の回収目途が全て消え去った瞬間、ドナ・モルコは立場を超えて声を荒げた。 そして、この女は使えないと判断した。

 王女殿下というブランドを持ってはいても、贅沢で軽率で、浅はか……、関わればコチラが振り回されるだけ振り回され、責任と面倒の全てを押し付けられかねない。

 仕方ない、かかった金銭は損切しよう!

「コチラが持参金として提案した費用は、コチラが持ちましょう。 娘にも婚礼道具は諦めるよう伝えます。 今後一切、私と私の家族に関わらないでいただきたい!!」

 怒りのままに、部屋から出ていこうとすれば、ミモザは叫んだ。



「きゃぁあああああああああああ、いやぁああああああ」



「はぁ?」

 ドナは振り返る。

「帰ると言うなら、ここで私はドレスを裂き、アナタに襲われたと訴えます。 私はそれほどの覚悟をもって、アナタをお呼びしたのです」

 流石に……ソレは回避したい状況で、本気で2度と関わるもんかと言う決意と共に、ドナはソファに戻り腹だたしい様子でといかけた。

 ドタバタと駆け付ける使用人達に、大きな虫がいてビックリしたのだと訴えるミモザ、

「ドナ様が助けて下さいましたのよ」

 そう笑顔で告げて、話の途中だから席を外すようにと使用人達に訴えた。 再び2人キリになった応接室でドナは問う。

「で? 私に何のようだと言うんです?」

「アナタのことが好きなの、そう言ったらどうします?」

 甘ったるい言葉。
 男を誘う慣れたしぐさ。

 不快……。

 貴族達が、彼女を避ける理由をようやく理解した。 そして彼女は自分にオラール伯爵しか残らなかった理由を理解してないらしい。

「おふざけも程々になさってください」

「これでも本気ですのよ?」

「アナタは、自分の地位と立場を理解し、アナタのお優しいご友人を大切になさるべきです。 それが、私達の落としどころとなるでしょう」



 ミモザが、ドナ・モルコに抱き着きさめざめと泣きだした。 

「ですが、お父様が……」

 うんざりした。

 それでも小柄なドナ・モルコが、ミモザに抱き着かれれば、腕に中に押しつぶされそうになり、逃げることもかなわない。 見た目は少年だが、体力的にも素早さ敵にも中年男性なのだ。

「それで、アナタは私をどのような理由で呼び出したのですか……」

 ミモザは……少しだけ考えこみ。 幼い無邪気そうな表情を作って微笑んだのだろう……だが、ソレはとても醜悪なものだった。

「私を振り回す貴族を、引っ掻きまわしてやりたいの」

 面倒くさいし、自分に利益がないし、最悪だと思った。 だが、ドナ・モルコは自分が逃げるために思考を巡らせた。

「では、こういうのはどうでしょう。 人は自分に他人に序列をつけ喜ぶ者がいます」

「そうね」

「ソレを利用します。 女王殿下は、自分が新しい生活を送るにあたって、貴族社会に挨拶をしたいから茶会を開くと招待状を送ってください」

「ですが私は……」

「では、私の娘の婚姻の前祝でも構いません」

 どうせ、シシリーが出てこなければ、誰がしたかすぐに周知されるから問題ないでしょう。

「そして、それぞれの資産に応じたプレゼントを要求するんです。 1つ目はその方が出来る最も高価な価格設定で、2つ目はこれぐらいなら許容できると言うもので、3つ目はその方が手土産として持ってくるには恥をかくレベルのものを。 そうして、そのようなプレゼントを要求するなんてあり得ないと貴族達を怒らせ、自分が何を要求させたかを悲劇的に語らせるように誘導させます」

「誘導してくれるような人など、私にはいませんわ」

「では、私の方から手配しましょう」

「要求するプレゼントの内容さえ間違わなければ、貴族達の関係はぎくしゃくし、なおかつアナタは欲しいものが手に入ると言う仕組みになっております」

 そして、ドナ・モルコは一つの言葉を飲み込んだ。 是非うちで購入するようにお勧めくださいと言う言葉を……。 それほどにドナ・モルコは懲りたのだった。
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