【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

ヲダツバサ

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第2章 手帳

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 今更ですが、私は自分が場違いな気がして、席を外した方が良いのではと思いました。ですが、こっそり弦介さんに目配せすると、彼は人差し指を唇に当てて「静かに」と合図しました。

 明子さんはモモコに訴えます。

「もし本当に、あなたが付喪神なら……神様なら、何とかしてよ」

「それは出来ないの。私達はあやかしに近い存在。人間と共生する現象みたいなものなの。それに、たとえ神様でも、あなたの我儘を叶える訳にはいかないの」
「何故そんな事言うの? 祐美だって今頃、何か大変な事があって心細い思いをしているかも。東京は治安が悪いのよ。祐美に会いたい……」
「きつい事言うけど……会ってどうするの? 会ったら何か変わるの? 悲しんで恋しがってばかりの粘着質な母親に会ったって、祐美にメリットは無い」
「あなたは人間でもなく、子供を持った事も無いから、私の気持ちが分からないのよ! もう一度抱きしめたい、会って言葉を交わしたいと思うのは、親として当然じゃない。愛しているのだから。家族は一緒に暮らした方が幸せなのよ!」
「……祐美は全く、そう思ってないの。手帳を読んだなら知っているでしょ? 二度と帰りたくないと思っているの」

 明子さんは、何も言えませんでした。涙が一粒、目尻からこぼれ落ちました。

 ふと、障子越しに誰かの気配を感じました。それが誰なのか、姿が見えなくても分かります。美雲丸だ、と安心感に包まれました。本人が言った通り、来てくれたのです。

 モモコは思いの丈を伝えました。

「手帳を、私を置いて行ったのは、過去を捨てるため。家族というしがらみを鬱陶しく感じていたの。だけどね、祐美は不幸じゃない。祐美が今まで京都で過ごした日々は、彼女の財産になっているの。手帳に記された、後悔も苦しみも罪悪感も、幸福も喜びも充足感も、全部眩しい」

 モモコが明子さんに言っている言葉なのに、私の方が、涙がこみ上げて来ました。
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