【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

ヲダツバサ

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最終章

エピローグ3

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 夕方。あかり堂。

 今までと違って、ゆっくりここで過ごしています。平日は弦介さんと一緒に夕飯を食べよう、となりました。食べれなくても、美雲丸とルリナもいます。

「美味い! こがねさんの料理は本当に美味い! 特にこのハンバーグ。肉汁が堪らないね。コクのあるデミグラスソースと合っているよ」

 私が作った目玉焼きハンバーグ、きんぴらごぼう、茹でたブロッコリー、そして白米と味噌汁を、私達は食べていました。

「目玉焼きがやや半熟なのが満点! そう、卵ってのはね、黄身が最も美味い訳で……これがデミグラスソースと混ざると、化学反応でさらに美味くなる。とろける。卵の甘さが肉を引き立てる。完璧」
「いちいち食レポしなくて良いんですよ……?」

 毎回、大げさです。ブロッコリーにマヨネーズを付けてモシャモシャ食べながら、私は言いました。

「弦介は昔からこうなんどす」

 ルリナがクスクス笑いながら言いました。

「食べる事が好きなんや。嫌いなもんもあらへんし」
「辛い物も大丈夫なの?」
「そうどす」
「じゃあ次は麻婆豆腐とか作ろうかな」

「ふふっ、こがねはん、通い妻みたいやね」
「えっ!」

 素っ頓狂な声を上げた私。ブッと飲んでいた味噌汁を吹き出した弦介さん。大混乱です。

「ちょっ!」
「ゴホゴホッ!」
「台ふきん、どこ? ティッシュは?」
「ルリナ、何を言って……」
「あそこにある手拭いは?」
「あれは売り物!」

 五分後。

「ルリナ! 気まずくなる冗談を言うな」

 弦介さんはルリナに怒りました。ルリナも流石に謝ります。

「悪かったどす。ただ、ほら……ねぇ?」
「言いたい事は分かるけど、言うな」

 ふたりにしか分からない暗黙の了解、ってやつですかね。

「ただの確認だが」

 唐突に、美雲丸が口を開きました。弦介さんに聞きたい事があるみたいです。

「こがねがこれからも、ここに通う必要はあるのか? 私は当初、こがねに付喪神達と交流させ、失くし物屋の役に立つ事で自信を持たせたいと思っていた。それに夏の例の件に関して、気が紛れるだろうと」

「そんな事、考えていたのかい? やっと本心が知れたな。まあ、それはこがねさんの自由だよ。頻繁に遊びに来ても良いし、頻度を減らしても良いし、全く来なくなっても良い」

 私の意思に任せてくれるようです。

 ルリナが付け足しました。

「なんなら正式に、ここの従業員になってもええんよ。アルバイトとか。大歓迎や」

 私はそのつもりでしたし、美雲丸も「それなら頼む」と答えました。

「しかし、ひとつ……」
「ん? もしかして美雲丸はん、やっぱ気になるどす? こがねはんは年頃の女の子、弦介は年上の男。ふたりっきりにするのは少し……おっと」

 言うなと言われた事をまた口を滑らせてます、この付喪神。

 弦介さんがルリナに本気で怒っているのを流し聞きながら、私は美雲丸に前から気になっていた疑問をぶつけました。

「結局、ルリナが持っている不思議な力は何なの? 他の付喪神は持ってないの?」

 美雲丸も首を傾げます。

「分からない。私もあんな力は初めて見たよ。そうだな……ルリナを作った人間や、彼女の過ごして来た日々に、何かあったのだろう。あるいは、この場所に強力な力があるのかもしれないな。ただ、他の付喪神にはあんな力は無い。探せばいるのかもしれないが……」

「とにかく、ルリナが特別なんだね」

 いつか、分かるかもしれない。ルリナの秘密が。失くし物屋の始まりが。

 そう考えると、不確定な未来もワクワクします。

「なに? うちの話どす?」

 ルリナがこちらに振り向きました。

「ルリナの事は無視して良いから、こがねさん、いつでも失くし物屋に来てよ。もちろん美雲丸も」

 弦介さんがそう言って、ハンバーグと白米をかきこみました。

「こがね」

 美雲丸は、

「お前の居場所はどんどん増えていく」

 今日も涼やかに笑っていました。

「うん。分かってる」

 私は言いました。

「ありがとう」





 いつか、楽しい思い出しか思い出せなくなる日が来るはずです。

 嫌な事、切ない記憶、報われない想いも、無かった事にはならないけど……色褪せていく。

 私達は出会いながら、別れながら、生きていく者だから。

 沢山の人、物、出来事に。



 京都の失くし物屋は、それを私達に教えてくれているようでした。



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