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アレハンドリナ編
話が分かる幼馴染って貴重よね
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「どうしたらいいと思う?イルデ」
テーブルにぐっと身を乗り出し、彼の紫の瞳を覗き込む。
幼馴染のイルデフォンソはこうやって押されると弱い。絶対に私の策に嵌ってくれる。
「どうするもこうするもありませんよ、リナ。あなたが何かしたところで、セレドニオ殿下とビビアナ嬢の関係は揺るぎません。無駄な足掻きです」
「ちっ……ダメか」
「令嬢が舌打ちなんかするものではありませんよ」
「煩い。解決策もないくせに、私の相談に乗るだなんてよく言えたものね」
「そっちが勝手に相談してきたんじゃないですか。私がそんなに暇に見えますか?」
イルデの分際で上から目線とは、いい度胸じゃないの。
「やっぱり、私の作戦しかなさそうに思えるわ」
イルデは私の幼馴染。一つ年下なので、所謂子分みたいなものだ。
この国の中央神殿の大神官を多く輩出している名家・アレセス家の長男で、神官をしているイルデの叔父とうちの父が学校の同級生だった縁で、ちょくちょく我が家に遊びに来ていた。
イノセンシア国立学園高等部に進学してからも、学年が違うというのに休み時間を私と一緒に過ごしている。同級生に友達がいないのかと思ったがそうでもないらしい。
どうしてかと理由を尋ねると、
「あなたを監視するためです。放っておくと何をやらかすか分かりませんから」
と真顔で言われたのには結構堪えた。
そんなにひどいのか、私?
確かに、前世の一般庶民だった記憶が邪魔をして、令嬢らしい所作は上手にできないけれど、人並みには……人並みの七割、いや五割は……。
やめよう。思い出すと胃が痛む。
「リナ。何を考えているんです?」
テーブルの上で腕を組んでぼんやりしていたら、イルデが鋭く突いてきた。
「……別に」
あんたに小言を言われた記憶を消そうとしていたのよ。
「嘘はいけませんよ。悪事は必ず露見するのです」
「悪事なんか企ててないから」
「本当ですか?神に誓って?」
神官になるからって、いちいち神に誓わせないでよ。鬱陶しいったら。
「はいはい、誓いますよ。イルデフォンソ大神官様!」
べしっとテーブルを叩いて立ち上がり、私は何か言いかけた彼を置いて部屋を出た。
「待ってください!リナ」
後ろから追いかけてくるイルデを振り切り廊下を走り出す。
あー、制服のスカートが長くて邪魔!何で足首まであるわけ?
裾をたくし上げて振り返る。青ざめたイルデが視界に入り、通りがかりの男子生徒達もこちらを見ている。
「何をやっているんですか、あなたは!」
猛スピードで追いつき、私の手からスカートの裾を奪うと、ささっと直してしまった。
「ちぇ。イルデ、走るの早すぎ」
「令嬢の足に追いつけないわけがないでしょう?私の方があなたより歩幅が大きいですし」
「何それ、脚が長いって言いたいの?」
「違います。……はあ、どうしてあなたはそうなんですか。少しは年頃の令嬢だという意識を持って」
「お説教は要らないわよ。お父様とお母様から、毎日たーっぷりいただいてますからね。そうね、あなたがさっきの話を呑むって言うなら、少しはおとなしくしていてもいいわ」
ツンとそっぽを向く。こうして無視すれば、イルデは諦めて帰るか、私の要求を呑むに違いない。
「分かりました……あなたの言う通りにしましょう」
「やった!」
チョロいわ。こんなんで将来、大神官になれるのかしら?
「セレドニオ殿下に取り入って、殿下が男色家だと噂を流せばいいのですよね?」
「そ。ありがと、イルデ!あなたって最高よ!」
戸惑うイルデの首に抱きつき、彼の頬に軽く触れるだけのキスをする。
「――っ!!」
「……ん?」
「あなたは、……殿下とビビアナ嬢との婚約が破談になれば、嬉しいのでしょう?」
「うん。よく分かってるじゃない」
話が分かる使いっ走り……もとい、幼馴染って貴重よね。
笑顔を浮かべてイルデの顔を覗きこむ。紫の瞳が優しく悲しげに細められた気がした。
テーブルにぐっと身を乗り出し、彼の紫の瞳を覗き込む。
幼馴染のイルデフォンソはこうやって押されると弱い。絶対に私の策に嵌ってくれる。
「どうするもこうするもありませんよ、リナ。あなたが何かしたところで、セレドニオ殿下とビビアナ嬢の関係は揺るぎません。無駄な足掻きです」
「ちっ……ダメか」
「令嬢が舌打ちなんかするものではありませんよ」
「煩い。解決策もないくせに、私の相談に乗るだなんてよく言えたものね」
「そっちが勝手に相談してきたんじゃないですか。私がそんなに暇に見えますか?」
イルデの分際で上から目線とは、いい度胸じゃないの。
「やっぱり、私の作戦しかなさそうに思えるわ」
イルデは私の幼馴染。一つ年下なので、所謂子分みたいなものだ。
この国の中央神殿の大神官を多く輩出している名家・アレセス家の長男で、神官をしているイルデの叔父とうちの父が学校の同級生だった縁で、ちょくちょく我が家に遊びに来ていた。
イノセンシア国立学園高等部に進学してからも、学年が違うというのに休み時間を私と一緒に過ごしている。同級生に友達がいないのかと思ったがそうでもないらしい。
どうしてかと理由を尋ねると、
「あなたを監視するためです。放っておくと何をやらかすか分かりませんから」
と真顔で言われたのには結構堪えた。
そんなにひどいのか、私?
確かに、前世の一般庶民だった記憶が邪魔をして、令嬢らしい所作は上手にできないけれど、人並みには……人並みの七割、いや五割は……。
やめよう。思い出すと胃が痛む。
「リナ。何を考えているんです?」
テーブルの上で腕を組んでぼんやりしていたら、イルデが鋭く突いてきた。
「……別に」
あんたに小言を言われた記憶を消そうとしていたのよ。
「嘘はいけませんよ。悪事は必ず露見するのです」
「悪事なんか企ててないから」
「本当ですか?神に誓って?」
神官になるからって、いちいち神に誓わせないでよ。鬱陶しいったら。
「はいはい、誓いますよ。イルデフォンソ大神官様!」
べしっとテーブルを叩いて立ち上がり、私は何か言いかけた彼を置いて部屋を出た。
「待ってください!リナ」
後ろから追いかけてくるイルデを振り切り廊下を走り出す。
あー、制服のスカートが長くて邪魔!何で足首まであるわけ?
裾をたくし上げて振り返る。青ざめたイルデが視界に入り、通りがかりの男子生徒達もこちらを見ている。
「何をやっているんですか、あなたは!」
猛スピードで追いつき、私の手からスカートの裾を奪うと、ささっと直してしまった。
「ちぇ。イルデ、走るの早すぎ」
「令嬢の足に追いつけないわけがないでしょう?私の方があなたより歩幅が大きいですし」
「何それ、脚が長いって言いたいの?」
「違います。……はあ、どうしてあなたはそうなんですか。少しは年頃の令嬢だという意識を持って」
「お説教は要らないわよ。お父様とお母様から、毎日たーっぷりいただいてますからね。そうね、あなたがさっきの話を呑むって言うなら、少しはおとなしくしていてもいいわ」
ツンとそっぽを向く。こうして無視すれば、イルデは諦めて帰るか、私の要求を呑むに違いない。
「分かりました……あなたの言う通りにしましょう」
「やった!」
チョロいわ。こんなんで将来、大神官になれるのかしら?
「セレドニオ殿下に取り入って、殿下が男色家だと噂を流せばいいのですよね?」
「そ。ありがと、イルデ!あなたって最高よ!」
戸惑うイルデの首に抱きつき、彼の頬に軽く触れるだけのキスをする。
「――っ!!」
「……ん?」
「あなたは、……殿下とビビアナ嬢との婚約が破談になれば、嬉しいのでしょう?」
「うん。よく分かってるじゃない」
話が分かる使いっ走り……もとい、幼馴染って貴重よね。
笑顔を浮かべてイルデの顔を覗きこむ。紫の瞳が優しく悲しげに細められた気がした。
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