モブ令嬢アレハンドリナの謀略

青杜六九

文字の大きさ
11 / 34
アレハンドリナ編

次の一手を打つしかないでしょ

しおりを挟む
結局、医務室にはお父様が迎えに来てくれた。
二週間学校を休んで復帰すると、怪我の元凶のクラウディオが心配して、かいがいしく世話を焼いてくれた。
 「アレハンドリナ、階段は無理してはいけないよ」
 「大丈夫ですよ。すっかり良くなりましたから」
 「しかし……まだふらついているように見える。僕の腕に掴まって?」
優しいなあ、クラウディオ。攻略対象キャラなんだろうけど、驕ったところもないし普通にいい人に見える。ビビアナ嬢も優しいと評判だけど、兄もいいじゃないか。
 誰だ、こんないい人をツンデレだなんて言っているのは。

    ◆◆◆

怪我から三か月。
休み時間はクラウディオと行動することが多くなった。
クラスに友達がいないと相談したら、
「それなら僕が友達になるよ」
と言ってくれたのだ。もしかして、人生で初の友達かもしれない。

図書室で本の話をしたら、結構趣味が似ていることが分かった。
男だけど女性向けの恋愛小説も好きなんだって。妹が集めているのを借りて読んでるって言ってたから、ビビアナ嬢の趣味も分かって、ファンとしてはうれしい限り。
てっきり難しい本ばかり読んでいるのかと思ってたよ。話が分かる奴でよかった。

 「僕はここの台詞はおかしいと思う」
 「何でですか?」
 「二年ぶりに会った恋人に冷たい仕打ちじゃないか」
 「そうですか?だって、『結婚しよう』って言ってから二年も放置されたんですよ?もっとブチキレてもいいくらいだと思います」
 「アレハンドリナ、君は放置されたら怒るのかい?」
 「当たり前でしょう?」
 「一途なんだね。……ほら、放っておかれると浮気する女性もいるから」
 「べ、別に……一途とか、考えたことがないですわ、ほほほほ」
 悪かったな、恋愛経験値が低すぎるって言いたいんだろう?
 経験なさすぎて、上手に浮気できるスキルもないからね!
ってか、浮気も何も、本命もいないからね。どうだ、参ったか!

 堂々とふんぞり返っていると、クラウディオはくすくすと笑った。
 「面白いね、君は。……イルデフォンソの気持ちが分かった気がするよ」
どうしてそこでイルデの名前が出てくるかなあ?

    ◆◆◆

イルデがキラキラ王子+ルカ+ビビアナ嬢のトリオに加わっても、違和感がなくなった。王子と仲良くしているようで何よりだ。そろそろ次の段階に進もう。

『セレドニオ王太子はイルデフォンソを溺愛している』

この噂を広めたいんだよなー。
だよなー。よなー。なー……。
空しく響くわ。本当に。だって広めようがないじゃない。
女子同士の噂話なんてできないのよ、友達いないし?

試しにクラウディオに
「王子とイルデのこと、どう思う?」
って聞いてみたら、
「殿下は王として素晴らしい素質をお持ちだし、イルデフォンソも将来有望だね」
と当たり障りない回答が帰ってきた。

違う!そうじゃないの!
「あの二人、ちょっと仲が良すぎるよね」
とか、
「昨日見つめ合っているところを見たよ」
とかさ。
妖しい雰囲気だったって言って欲しかったのよ。

まあ、無理か。
クラウディオはバカがつくほど真面目だもんね。
休んでる間に私の分のノートを書いてくれていたっけ。字が綺麗すぎて、ちょっとどうなの?って思うレベル。主に私が。
こっちなんかミミズがのたくってるとは言わないまでも、所々半分寝てるから字になってないし。もし、クラウディオが学校を休んで、ノートを写させてくれって言っても貸さない。絶対貸すもんか。恥ずかしくて穴掘って埋まるわ。

やはり、ここは。
二人に『恋人の聖地』に行ってもらうか。
恋人達が愛を語らうような場所に二人だけでいるところを、誰かに見つけてもらえばいいのよね。噂好きな奴が通りかかればいいけど、そればっかりは運次第か。

ところで、この学校に『恋人の聖地』ってあるのかな?
クラスのバカップルを追跡して確かめようとしたら、私って人ごみでも目立つみたいで、めちゃくちゃ気味悪がられた。もう、本当、ぐっさぐさにハートにナイフが突き刺さったわ。二度とやらないから許して。

クラウディオに訊いたら知ってるかな。
「……『恋人の聖地』ですか?」
「正確にそういう名前でなくても、それらしいところをご存知ですか?」
知ってるだろ?あんなにモテるんだからな。
じっと相手の出方を見る。おっと、狼狽えてるな。

「僕に聞いて、どうするの?」
え……。
まずい、全然言い訳を考えてなかったわ。
王子とイルデをBLカップルに仕立てようとしてるだなんて、知られたら死活問題だ。
王族の名誉を傷つけたとか何とか言われて、どこか遠くの修道院送り、下手すりゃ死罪よ。
……ちっとも考えたことなかったけど、実はかなり危ない橋を渡ろうとしてるんじゃ?

「アレハンドリナ、……君、もしかして」
「え、と、……い、言わないでくださいっ!」
「むうぐ」
何か言いかけたクラウディオの口を手で塞いだ。息苦しかったのか真っ赤になっている。
「……ごめんなさい。クラウディオ様にお聞きすることではありませんでしたね」
可愛い令嬢ブリッコをして、視線を逸らして俯いた。
これで会話は終了だ。令嬢が恥らったんだから、紳士たるもの突っ込んでくるなよ?
「その……西の庭園は……花々が見事だと聞いたんだ。今度、一緒に行ってくれないかな」

   ◆◆◆

いいぞ、クラウディオ。流石モテる男は違うわ。
西の庭園ってどんなところかしら?ってんで、放課後にこっそり見に行ってみた。

予想通りだ。
どこを見てもイチャイチャバカップルしかいない。
手作りだか何だか知らないけど、怪しい菓子を食べさせ合ってる。こっちでは、完全に二人の世界で見つめ合ったまま動かない。あんたら銅像ですか?それとも地蔵ですか?って感じ。

独り者には目の毒でしかなかったわ。チッ。
舌打ちしながら迎えの馬車に乗り、従者に街に寄るよう告げた。行き先は高級文具店だ。
作戦には投資が必要よね。
色とりどりのペンや可愛~いレターセットが買える。白地に縁がピンクの花柄で、これまたピンクのリボンが罫線部分を囲んでいる便箋と、開け口の部分にレースの型抜きがあるピンクの封筒を選んで買った。こんな乙女チックな物、前世でも買ったことないや。
もう一種類は、クリーム色でハートの透かし模様が入っている便箋と、アクセントに金色の鳥が飛んでいる白い封筒にした。

よし。
あとは書くだけだ。
手紙につられて、奴らが庭園に来れば……。
ふふ、ふふふふふふ。
大勢のバカップルに『逢引』を目撃されて、一躍公認カップルになるはず。

待っててね、ビビアナ嬢。
これであなたは、円満にあの王子と別れて、ルカとの愛を貫けるわ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...