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第一章「あたしが再び羽ばたくために」
【私と組んでダブルスやろうよ?】
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バドミントンを始めたのは小学二年生の頃だった。
母親がバドミントンのクラブでコーチをしていたので、その影響で始めた。
才能はあったと思う。始めてすぐ、同年代の子どもたちの中で頭角を現したし。小五のとき初めて全国大会に出た。小六でベスト八、中二ではベスト四、と順調に勝ち星を重ねていった。
北海道地区では、シングルスで中学時代に二連覇した。
スポンジみたいに技術を吸収するのが早い。相手の癖を見抜くのがうまい。さまざまな評価をされたが、一番の武器は心が言うように運動量とスマッシュだ。
そんなあたしを見ていつか誰かがこう呼んだ。『風をまとう者』と。
それなのに、中三の夏に交通事故に遭って、その事故ですべてを失ってしまった。事故の後遺症で、肩が上がらなくなってしまったんだ。
「それで、唐突に表舞台から消えたんだ」
心の問いに頷く。
「中三のとき、紬が全中(全国中学校総合体育大会)への参加を辞退したと噂が流れて、私の学校でも結構騒ぎになったんだよ」
「だろうね」
「思えば、乱打をしない、と言い出した時点で違和感はあった。勝つことに対してあれほど貪欲だった紬が、乱打すらしない? と。違和感は、試合が始まったあとも消えなかった。むしろ、濃くなるばかりだった。だからわざと甘めのロブを上げてみたの。ジャンプして落下点に入った紬が選択したのは、しかし、ドリブンクリアだった。試合中に使ったクリアも、ほとんどがドリブンだったし」
滞空時間を稼ぐクリアには、低めの弾道で放つドリブンクリアと、高く打ち上げるハイクリアとがある。オーバヘッドストロークができないあたしは、ハイクリアがうまく打てない。
「さすがだね。よく見ている」
「誰だって気づくよ。紬のプレースタイルを知っている人なら」
左肩を軽くもんでみる。痛みはない。痛みはないのに、手は上がらないんだ。
「去年からずっとラケットを握ってなかったからね。でも、久しぶりにシャトルを打ったらなんか楽しかった。……どう? これでわかったでしょ? そんなわけで、あたしはバドミントンをやるつもりはないから」
じゃあ、と言って去りかけたところを、「それでいいの?」と心に呼び止められる。
「このままバドミントンをやめて、それで紬は納得できるの?」
「するしかないでしょ。この肩じゃどのみちやれないんだし」
「じゃあ、どうしてバドミントン部の見学にきていたの?」
「それは――」
紗枝ちゃんに誘われたから、と言いかけて口をつぐんだ。
誘われた。だから行った。そこまでは確かだ。けど、断ることだってできたはずだ。そうしなかったのは、未練があるからじゃないの? 自分のことなのにわからない。
紗枝ちゃんが、神妙な顔でこっちを見ている。
「スマッシュが打てない。ハイクリアが打てない。確かにそうかもしれない。それでも、私から十三点も取ってるでしょ」
「結果としてはそう。今はね。……けど、スマッシュなしで勝てるほどバドミントンが甘くないのは、心だってわかっているでしょ? 勝てなかったら、意味ないでしょ?」
全国の舞台を経験したあたしだからこそわかる。片翼を失った鳥が羽ばたけるほど、全国は甘くない。
――全国の舞台で頂点に立つ。
母と交わした約束が胸をよぎる。全国の頂点が、絵に描いた餅となってしまったあたしに、バドミントンを続ける意味なんて。
「私とダブルスをやろう」
「ダブルス……?」
ダブルスという選択肢は、今の今まであたしの中になかった。
「スマッシュなら私が打つ。ハイクリアなら私が上げる。だから――」
――私と組んでダブルスやろうよ。
◇ ◇ ◇
母親がバドミントンのクラブでコーチをしていたので、その影響で始めた。
才能はあったと思う。始めてすぐ、同年代の子どもたちの中で頭角を現したし。小五のとき初めて全国大会に出た。小六でベスト八、中二ではベスト四、と順調に勝ち星を重ねていった。
北海道地区では、シングルスで中学時代に二連覇した。
スポンジみたいに技術を吸収するのが早い。相手の癖を見抜くのがうまい。さまざまな評価をされたが、一番の武器は心が言うように運動量とスマッシュだ。
そんなあたしを見ていつか誰かがこう呼んだ。『風をまとう者』と。
それなのに、中三の夏に交通事故に遭って、その事故ですべてを失ってしまった。事故の後遺症で、肩が上がらなくなってしまったんだ。
「それで、唐突に表舞台から消えたんだ」
心の問いに頷く。
「中三のとき、紬が全中(全国中学校総合体育大会)への参加を辞退したと噂が流れて、私の学校でも結構騒ぎになったんだよ」
「だろうね」
「思えば、乱打をしない、と言い出した時点で違和感はあった。勝つことに対してあれほど貪欲だった紬が、乱打すらしない? と。違和感は、試合が始まったあとも消えなかった。むしろ、濃くなるばかりだった。だからわざと甘めのロブを上げてみたの。ジャンプして落下点に入った紬が選択したのは、しかし、ドリブンクリアだった。試合中に使ったクリアも、ほとんどがドリブンだったし」
滞空時間を稼ぐクリアには、低めの弾道で放つドリブンクリアと、高く打ち上げるハイクリアとがある。オーバヘッドストロークができないあたしは、ハイクリアがうまく打てない。
「さすがだね。よく見ている」
「誰だって気づくよ。紬のプレースタイルを知っている人なら」
左肩を軽くもんでみる。痛みはない。痛みはないのに、手は上がらないんだ。
「去年からずっとラケットを握ってなかったからね。でも、久しぶりにシャトルを打ったらなんか楽しかった。……どう? これでわかったでしょ? そんなわけで、あたしはバドミントンをやるつもりはないから」
じゃあ、と言って去りかけたところを、「それでいいの?」と心に呼び止められる。
「このままバドミントンをやめて、それで紬は納得できるの?」
「するしかないでしょ。この肩じゃどのみちやれないんだし」
「じゃあ、どうしてバドミントン部の見学にきていたの?」
「それは――」
紗枝ちゃんに誘われたから、と言いかけて口をつぐんだ。
誘われた。だから行った。そこまでは確かだ。けど、断ることだってできたはずだ。そうしなかったのは、未練があるからじゃないの? 自分のことなのにわからない。
紗枝ちゃんが、神妙な顔でこっちを見ている。
「スマッシュが打てない。ハイクリアが打てない。確かにそうかもしれない。それでも、私から十三点も取ってるでしょ」
「結果としてはそう。今はね。……けど、スマッシュなしで勝てるほどバドミントンが甘くないのは、心だってわかっているでしょ? 勝てなかったら、意味ないでしょ?」
全国の舞台を経験したあたしだからこそわかる。片翼を失った鳥が羽ばたけるほど、全国は甘くない。
――全国の舞台で頂点に立つ。
母と交わした約束が胸をよぎる。全国の頂点が、絵に描いた餅となってしまったあたしに、バドミントンを続ける意味なんて。
「私とダブルスをやろう」
「ダブルス……?」
ダブルスという選択肢は、今の今まであたしの中になかった。
「スマッシュなら私が打つ。ハイクリアなら私が上げる。だから――」
――私と組んでダブルスやろうよ。
◇ ◇ ◇
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