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序章
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次の日から大変だった。
幽閉され続けた僕には初めてのことだらけだったからだ。
お手伝いさんのエリーゼに朝一番から蹴り飛ばされ起こされ、ぞうきん掛けやら水くみやら靴磨きやらと、初めてでのろまな僕は何度蹴られ殴られ罵られただろう。
ボロボロになって夜、屋根裏部屋に戻ると彼女は決まって蝋燭の灯の元、本を読みながらクッキーを食べていた。
僕は痣だらけの体を這わせ、彼女の元のクッキーに近づくと無我夢中で貪り食べる。
いっぱい働かされパン一個なんかじゃ全く足らない。
彼女が怒らない事を良い事にクッキーを口いっぱいに頬張った。
こんな毎日が続いた。
彼女は怒らない。
何も言わない。
言うまでもなくリディアはまるっとリセットしているだけなのだが。
この屋根裏部屋だけが唯一僕の安息できる場所となった。
ここがなければ、生きていられた自信はない。
どうにかして自殺を図ったと思う。
暴力があっても幽閉されているだけの生活の方が、ここよりは遥かにマシだった。
義兄弟達は、たまに来て暴力を振るうだけだが、ここは四六時中毎日暴力を振るわれる。
それに仕事量が半端ない。嫌な仕事汚い仕事を次々と押し付けられ、新しい生活は前の幽閉生活よりもさらに酷い環境に絶望感にさらされた。
(だけど…)
ベットの中で彼女の背にそっと手を当てる。
この温もりを知ってしまったから、もう少しだけこの温もりを感じていたいと思った。
そしてもう一つ、自分の中で叶えたい欲望が出来た事、それが絶望の中でも結局死ねずにいた理由。
(姉さま…)
そう呼んでみたいという欲望。
この屋敷の者たちの話を聞いて、彼女、いやリディア姉様もまた自分と同じような境遇の子なのだと知った。
両親を失い、義理の家族の元で迫害を受けてきたのだ。
リディアはここの養子、僕もここの養子だからリディアは僕の新しい姉様なのだ。
兄弟や家族というものの温もりも知らない自分にとって、もしかしたら初めて手に出来るかもしれない存在。
そう思うと、当に忘れた”期待”する気持ちというものが湧き上がってくる。
(いつか、呼んでみたいな…)
喋ることを許されない自分には無理かもしれないけれど。
それでも期待してしまう自分が居た。
でもまた寝て起きれば残酷な日常が始まる。
(いつまでも夜が続けばいいのに…)
そう毎日願いながら、疲れ切った体はすぐに深い眠りにつくのだった。
そんな残酷な生活を送ってどれぐらい経っただろうか。
仕事にも慣れてはきていたが、上手くやったつもりでいても何かかにか理由をつけてやっぱり暴力は止まらなかった。
リオは全く気づいていないが、身体能力がチートなだけに押し付けられる初めての仕事もあっという間に熟なしまくっていた。だから上手くやったつもりじゃなく、かなり上手くやっていたのだがそれが気に食わなくて暴力を振るわれるという仇となってしまっていたのだ。
手は既にあかぎれだらけだ。
早くここを拭き終わらないとまた怒られると思って、その沁みる手で床をぞうきんで一生懸命拭く。
夢中になっていたため気づかなかった。
背中に何か当たったと思ったら、誰かが扱ける。
(しまった!怒られる!)
「ご、ごめんなさっっ」
そう思って相手を見て目を見開く。
そこに居たのは姉さまだった。
ここに来て以来、夜だけしか顔を見たことがなかった。
こんな昼間に姉さまに出くわしたことがなかったのだ。
姉さまも驚いたように僕を見る。
(姉さまの瞳の色きれいだな‥‥)
僕は初めて昼間、真正面から姉さまとバッチリ目が合った事で胸が高鳴る。
思わず姉さまをじっと見ていると、またいつもの様に姉さまは僕を気にとめるでもなく、もちろんリディアリセット完了しただけなのだが、床に落ちた袋を確認していた。
(あれはクッキーだ!)
姉さま、また買ってきてくれたんだ!
リオの目が輝く。が、次の瞬間、聞きたくない足音を聞く。
(あ、これは長女の足音――― ?!)
刹那、姉さまが僕の背を飛び越えていく。
僕は何が起こったのか、固まってそれを凝視する。
姉さまは迷わずソファの後ろに行くと慣れた動きでソファの下へ潜っていった。
それがどういう意味か、僕もすぐに理解する。
それは無意識に動いていた。
『姉と同じ場所が安全だ』と、何故か思ってしまったのだ。
その下が二人隠れるかどうかも解らないし、一緒に隠れることで姉さまに怒られるかもしれないのに、その時はただそう思ったら行動していた。
ソファの下で姉さまと目が合うと驚き眼を見開いていたけど、怯む余裕がなかった。
僕は思い切ってそのまま姉さまの胸に飛び込むようにソファの下にもぐる。
暫くしてドアが開く音がして怖くて、姉さまの胸にしがみ付き目を瞑る。
こんな隠れるとか初めてで、凄くドキドキした。
義妹は気づかずリビングを通り過ぎてくれた。
ホッとしたら、姉さまが機敏な動きでソファから出るとあっという間にどこかに行ってしまった。
方向からして屋根裏部屋にクッキーを置きに行ったのだろう。
僕は手を見る。
思わず胸にしがみ付いた手。
姉さまは何も言わなかった。
(姉さま‥‥)
姉さまの優しさに感動に震える。
言っておくが、これもリディアがリオをまるごとリセットしただけだ。大体リオを置き去りに自分だけ隠れた事自体もツッコミどころ満載なのだが、見事にリオは勘違いしていた。
幽閉され続けた僕には初めてのことだらけだったからだ。
お手伝いさんのエリーゼに朝一番から蹴り飛ばされ起こされ、ぞうきん掛けやら水くみやら靴磨きやらと、初めてでのろまな僕は何度蹴られ殴られ罵られただろう。
ボロボロになって夜、屋根裏部屋に戻ると彼女は決まって蝋燭の灯の元、本を読みながらクッキーを食べていた。
僕は痣だらけの体を這わせ、彼女の元のクッキーに近づくと無我夢中で貪り食べる。
いっぱい働かされパン一個なんかじゃ全く足らない。
彼女が怒らない事を良い事にクッキーを口いっぱいに頬張った。
こんな毎日が続いた。
彼女は怒らない。
何も言わない。
言うまでもなくリディアはまるっとリセットしているだけなのだが。
この屋根裏部屋だけが唯一僕の安息できる場所となった。
ここがなければ、生きていられた自信はない。
どうにかして自殺を図ったと思う。
暴力があっても幽閉されているだけの生活の方が、ここよりは遥かにマシだった。
義兄弟達は、たまに来て暴力を振るうだけだが、ここは四六時中毎日暴力を振るわれる。
それに仕事量が半端ない。嫌な仕事汚い仕事を次々と押し付けられ、新しい生活は前の幽閉生活よりもさらに酷い環境に絶望感にさらされた。
(だけど…)
ベットの中で彼女の背にそっと手を当てる。
この温もりを知ってしまったから、もう少しだけこの温もりを感じていたいと思った。
そしてもう一つ、自分の中で叶えたい欲望が出来た事、それが絶望の中でも結局死ねずにいた理由。
(姉さま…)
そう呼んでみたいという欲望。
この屋敷の者たちの話を聞いて、彼女、いやリディア姉様もまた自分と同じような境遇の子なのだと知った。
両親を失い、義理の家族の元で迫害を受けてきたのだ。
リディアはここの養子、僕もここの養子だからリディアは僕の新しい姉様なのだ。
兄弟や家族というものの温もりも知らない自分にとって、もしかしたら初めて手に出来るかもしれない存在。
そう思うと、当に忘れた”期待”する気持ちというものが湧き上がってくる。
(いつか、呼んでみたいな…)
喋ることを許されない自分には無理かもしれないけれど。
それでも期待してしまう自分が居た。
でもまた寝て起きれば残酷な日常が始まる。
(いつまでも夜が続けばいいのに…)
そう毎日願いながら、疲れ切った体はすぐに深い眠りにつくのだった。
そんな残酷な生活を送ってどれぐらい経っただろうか。
仕事にも慣れてはきていたが、上手くやったつもりでいても何かかにか理由をつけてやっぱり暴力は止まらなかった。
リオは全く気づいていないが、身体能力がチートなだけに押し付けられる初めての仕事もあっという間に熟なしまくっていた。だから上手くやったつもりじゃなく、かなり上手くやっていたのだがそれが気に食わなくて暴力を振るわれるという仇となってしまっていたのだ。
手は既にあかぎれだらけだ。
早くここを拭き終わらないとまた怒られると思って、その沁みる手で床をぞうきんで一生懸命拭く。
夢中になっていたため気づかなかった。
背中に何か当たったと思ったら、誰かが扱ける。
(しまった!怒られる!)
「ご、ごめんなさっっ」
そう思って相手を見て目を見開く。
そこに居たのは姉さまだった。
ここに来て以来、夜だけしか顔を見たことがなかった。
こんな昼間に姉さまに出くわしたことがなかったのだ。
姉さまも驚いたように僕を見る。
(姉さまの瞳の色きれいだな‥‥)
僕は初めて昼間、真正面から姉さまとバッチリ目が合った事で胸が高鳴る。
思わず姉さまをじっと見ていると、またいつもの様に姉さまは僕を気にとめるでもなく、もちろんリディアリセット完了しただけなのだが、床に落ちた袋を確認していた。
(あれはクッキーだ!)
姉さま、また買ってきてくれたんだ!
リオの目が輝く。が、次の瞬間、聞きたくない足音を聞く。
(あ、これは長女の足音――― ?!)
刹那、姉さまが僕の背を飛び越えていく。
僕は何が起こったのか、固まってそれを凝視する。
姉さまは迷わずソファの後ろに行くと慣れた動きでソファの下へ潜っていった。
それがどういう意味か、僕もすぐに理解する。
それは無意識に動いていた。
『姉と同じ場所が安全だ』と、何故か思ってしまったのだ。
その下が二人隠れるかどうかも解らないし、一緒に隠れることで姉さまに怒られるかもしれないのに、その時はただそう思ったら行動していた。
ソファの下で姉さまと目が合うと驚き眼を見開いていたけど、怯む余裕がなかった。
僕は思い切ってそのまま姉さまの胸に飛び込むようにソファの下にもぐる。
暫くしてドアが開く音がして怖くて、姉さまの胸にしがみ付き目を瞑る。
こんな隠れるとか初めてで、凄くドキドキした。
義妹は気づかずリビングを通り過ぎてくれた。
ホッとしたら、姉さまが機敏な動きでソファから出るとあっという間にどこかに行ってしまった。
方向からして屋根裏部屋にクッキーを置きに行ったのだろう。
僕は手を見る。
思わず胸にしがみ付いた手。
姉さまは何も言わなかった。
(姉さま‥‥)
姉さまの優しさに感動に震える。
言っておくが、これもリディアがリオをまるごとリセットしただけだ。大体リオを置き去りに自分だけ隠れた事自体もツッコミどころ満載なのだが、見事にリオは勘違いしていた。
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