つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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序章

20

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「はぁ~、もう無理だわー」
「僕も―姉さまぁ」

 ソファに座り込む二人を呆れた眼差しが見下ろす。

「よくぞこれだけ食べられましたね、しかも一番高い高級肉ばかり…」

 食堂から場所を変え、リビングのソファでぐったりする二人。

「はぁ~、これじゃ、話ができんな」

 久しぶりのしっかりした食事に血圧が上ってヘロヘロ状態なリディア達にため息をつく。

「きっともうすぐ身元は判明するでしょうし、それからでも遅くはないでしょう」
「うむ、そうだな、この状態じゃ暫く放っておいても問題なかろう」
「そうですね、これではまともに動けないでしょうから逃げることもないでしょう」

 二人の状態を見て判断したジークヴァルトが席を立つ。
 それに続いてサディアスも、見張りを置いて部屋を後にした。

(これは思わぬところで時間稼ぎが出来てしまったわ)

 食べ過ぎて話せないというなかなかに情けない状況だったがリディアには好都合だった。
 二人と見張りの者だけになったリビング。
 今が逃げるチャンスなのかもしれないが、

「食べ過ぎたわ…」

 残念ながらジークヴァルトたちの判断は正しかった。
 動くのすら大変なぐらいに食べ過ぎてしまったために、逃げられない。
 走ったりしたなら食べたもの全部吐きそうだ。
 ふぅーっと息苦しい息を吐き出すと、リビングを見渡した。
 流石王子の別邸というだけに調度品も全てが豪華だ。

(それにやっぱドストライクだわ)

 どれも全て自分の好みドストライクなだけに、ここで眺めているだけでも至福に感じる。
 とはいえ、聖女として面倒ごとに巻き込まれるのも、聖女の仕事を一生するのもごめん被りたい。

(さて、どうやって逃げ延びるか…)

 そんな瞳にキャンドルライトの火が映る。

(そういや、…魔法があったわ)

 徴が出ているのだ。
 そしてピカーっと光る魔法も出せた。
 自分にはもう魔法が使えるのだ。
 それを利用して逃げ切ることが出来るかもしれない。
 リオの身体能力と自分の魔法が加われば、隙を作り逃げられる可能性が高い。
 自分の手を見る。

(とはいえ、魔法の使い方とかもう少し詳しく知りたいわね…)

 適当に言って魔法が出てくれたのはいいけれど、呪文を知ればもっと早く魔法を出せるかもしれない。
 魔法が出るまでにタイムラグがあるとやはり不便だ。
 そのタイムラグの間に、あのジークヴァルトとサディアスに捕まる可能性がある。

(使い方を知る方法はないかしら…)

 といっても、聞けば怪しまれるに決まっている。

(説明書とか魔法の本とかあればいいのに‥‥)

「っ、あ!もしかしたら…」

 何か閃いたリディアがソファから体を起こす。

「姉さま?」

 リオがキョトンとリディアを見る。

(身元判明までにはまだ時間がある、その間に…)

「上手くいけば…」
「姉さま?どうしたの?」

 リディアがすっと立ち上がったことで、見張りの兵がこちらを見る。

「どうした?トイレか?」
「いえ、一つお尋ねしたいのですが」
「何だ?」
「この屋敷に図書室もしくは、本が置いてある場所ってありますか?」
「どうしてそんな事を聞く?」

(あら?)

 雑いそしてチョロいと思っていたゲームだったから、ここはすんなり間抜けな兵が答えてくれるものだと思っていた。
 乙女ゲームに限らず、ゲームでも漫画、ドラマでも、「お前普通そこ答えるか?」という所で教えてくれるのがこういうモブの役割だと思っていたからだ。

(意外とちゃんとしているのね…仕方ないわ)

「お恥ずかしい話なのですが、お腹がつらいので違う事に意識を向けたいのです…」

 少し頬を染め伏目がちに答える。
 確認のためもう一度言うが、リディアは見た目は華奢で儚げな美しい聖女なのだ。
 ヤリ盛りの…ゴホン、若い兵が頬染めはにかむリディアに一瞬で落ちる。

「そ、そんな事は…!と、図書室ですよねっ、あ、あります!あります!ですが、その、確認を取らないと…」
「では、その確認を取って頂いても?」
「もちろんです、少々お待ちください」

(やはりチョロいわ)

 俯いたリディアの口がニヤッと引き上がる。

(この姿、結構使えるわね)

 あのサディアスに鍛えられていようとも、リディアの頬染めて俯く姿は若い兵には堪らない。
 華奢で儚げでつい守ってあげたいと気を許してしまう容姿なのだ。

(あとは、ジークが許可を出すかどうかよね)

 別邸ならば、重要な本は置かれてもいないだろう。
 それならばOKを出してもらえる可能性は高い。
 それにリディアが求めているのは魔法の基礎だ。
 そんな基礎編程度ならば、もしかしたら置かれている可能性は十分ある。
 しばらくすると見張り兵の元に一人の召使がやってきた。

「図書室を使っていい許可が下りました、こちらへどうぞ」

 リディアは心の中でガッツポーズを決めた。




「さてと」

 見張りの兵士に案内された図書室に入る。
 図書室は密閉された空間なので逃げる心配はないと踏んだのだろう。
 見張り兵は中には入らずドアの外で立っている。

「意外と多いわね…」

 高い本棚がずらりと並ぶ図書室を見渡す。
 別邸とは言え、流石王子の所有する図書室だと感心する。

(感心している場合じゃないわ、これはちょっとマズいわね…)

「姉さま、僕は何をすればいい?」

 リディアに何か考えがあるのだろうと察したリオが首を傾げ聞く。

(ここはリオの身体能力を使おうか…)

 身元調査が判明する前に、魔法の事が書かれた本を探さなければならない。
 これだけの本の数の中から魔法の本を探すのは至難の業だ。
 リオの能力を使っても探し切れるかどうか怪しいところだ。
 でもどうにかしてでも見つけ出さなければならない。

「そうね、探して… え?」

 この中から魔法の本を探してと言おうとして、何となく手に触れた本の内容がスーッとリディアの中に入り込んでくる。

(これって‥‥)

「姉さま?」

 確かめるように手近な別の本に手を当てる。
 また内容がスーッとリディアの中に入ってくる。

(これってチート機能?!やったわ!これなら…)

 図書室を見渡す。

「上手くいけば…」
「?」

 リディアはトコトコと図書室の中央に足を歩め止める。

(イチかバチかよ、でも設定雑いならいけるはず!)

 両手を広げる。
 そして目を瞑る。



―――― 全ての本の知識よ、私の中に入りなさい!!



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