つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

文字の大きさ
51 / 128
さぁ、はじめようか

50

しおりを挟む
「それより、お腹空いたわ」
「では、改めて…」
「チッ、お前なぜこんな所にいる」
「嘘でしょ…」

 今度はジークヴァルトがひょこっと現れる。
 やっとご飯にありつけると思ったのにと睨みつけようとしたリディアをひょいっと持ち上げると思いっきり草むらへと放り投げられた。

「うわっ」
「リディア様っっ」

 追ってイザークが草むらに入ったところで、カツカツカツっと甲高いヒールの靴音を聞く。

(今度は何よーっっ!!)

 またご飯にありつけなかったリディアが怒りながら草むらから顔をのぞかせる。

「!」

 そこにはゴージャスな衣装に煌びやかな装飾を身に纏った気の強そうな貫禄のある女性が立っていた。

「あら、国王を裏切った女の子供がこんな所で何しているのかしら?代理になったのをいい事にまた悪巧みでも練っているのかしら」
「これはこれは今日もまた目が眩むほどに美しい装いですね、アナベル王妃」

(この女がアナベル…レティシアの母か…)

 宝石だらけのその装いに、確かに目がチカチカする。
 『目が眩むほど』とは正にそのままねと苦笑する。

「王妃様ほどのお方が、この様な場所に何用か?」
「娘を訪問するのに王妃も立場もないでしょう?」
「レティシアの所ですか」
「ええ、娘より偽物が紛れ込んでいると聞いて心配で赴いたの、偽者かどうかこの目で確かめてそれ相応に処分をしないといけないでしょう?」
「権限は国王代理である俺にある、口出しは無用」
「ああ、そうだったわね、国王を騙して手に入れた権利あなたが持っていたわね、国王を裏切った女の子だけあって狡賢い事」
「何とでも、そういう事でお引き取り願おう」

(なるほど、それで私を草むらに隠したわけね)

 そういやここは権力争いの真っただ中だったと思い出す。
 重要なテストでダントツ一位を取ったリディアはアナベルにとってとても邪魔な存在だ。
 ジークヴァルトはそんなアナベルからリディアを遠ざけたいのだろうと納得する。

「そう、…じゃぁ見物するだけにするわ、娘に会いに行くぐらいは良いでしょう?」
「‥‥ええ、もちろん」

 娘に会いに行く王妃を止めることはできない。
 仕方ないとジークヴァルトが道をあけようとした時だった。

「リディアー!」

(あちゃ~、また間の悪い…)

 フェリシーがその場に駆け込んでくる。
 その後を追ってフェリシーの執事ユーグも続く。

「っ、アナベル様!…それに殿下」

 驚き急いで首を垂れるフェリシーとユーグ。
 そんなフェリシーの登場にジークヴァルトも心の中で舌打ちする。

「今リディアと言ったわね、そう言えばジークヴァルトが連れて来た聖女候補の名も同じリディアと言ったかしら?」
「は、はい、リディアは殿下がお連れになった聖女候補生で、共に学ぶ私のお友達です」
「あら、あなたも聖女候補生だったのね、それでどうしてここへ?」
「あの、先ほどここにリディアが居たので、その…庭園の花が素晴らしく綺麗だったのでやっぱり一緒に見ようと誘いに戻ってきたのです」
「先ほどまでここに?」
「はい、そこに」
(チッ)

 そこにリディアが尻に敷いていたハンカチがあった。
 聞こえないようにまた舌打ちをするジークヴァルト。

「あら?ハンカチ忘れたのかしら?」
「そう言えば、彼女には優秀なローズ家の執事がついているとか…」
「はい!イザークは目は紅いですけど、とても優秀な執事でお茶も凄く美味しくて、本当に何でも完ぺきで凄いんです!流石ローズ家の執事だといつも感心しています!」

 正義感が強いフェリシーがイザークの誤解を解くために、ここぞとばかりに売り込み株を上げようと鼻息荒く答える。

(あちゃー)

 フェリシーとアナベル勢以外、頭を抱える。

「そう、そんなにも優秀なのにハンカチを忘れるなんて、よっぽどの事があったのかしら?ねぇ、ジークヴァルト」
「‥‥」
「殿下?」

 ここで少しでも何か答えれば良い様に持っていかれるとジークヴァルトが押し黙る。
 返事を返さないジークヴァルトに首を傾げ見るフェリシー。
 そんなフェリシーが閃いた様に顔を上げる。

(ジークヴァルト殿下はアナベル王妃が苦手なのだわ!なら私が何とかしてあげなければ!)

 また正義感をたぎらせたフェリシーがアナベルの方を見る。

「あのぉ…、人間ですもの、忘れ物一つぐらいする事だってありますわ!」

 その一言にアナベルの眼がスッと細まる。

(余計な事を…)

 ジークヴァルトとリディアが心の中でぼやく。

「…頂けませんわね、王家に仕える執事家系の者が忘れ物をするなどもっての外…報告では魔物と耳にしたわ、魔物ではローズ家でも劣化してしまうのかしら?」
「イザークは魔物じゃありません!」

(あーあ…)

 まんまとのせられるフェリシーに更にジークヴァルトとリディア、そしてイザークも頭を抱える。
 その目の前で扇子を広げ口元をニヤつかせる。

「まぁ、ここにも魔物に誑かされた聖女候補生が居るとは大変だわ」
「え…?」
「まだ近くにいるかもしれないわね…、すぐにこの辺りに魔物が居ないか探しなさい!」
「はっ」

 アナベルの臣下が一斉に動き出す。

(ヤバイっっ)

「リディア様こちらに」

 イザークに手を引かれその場を抜け出し駆け出す。

「待ってください!イザークはっっ―――ひっ」

 じろりと睨まれ、その余りにも冷淡な瞳に震えあがりフェリシーが黙り込む。

「誑かされたのよねぇ?それとも、私をあなたが謀ったのかしら?王妃である私を謀るなど聖女候補であっても国を脅かす存在には変わりはない、国を脅かす聖女候補など要らぬ存在、ここで処分してもよろしくてよ?」
「な‥‥」
「失礼ですが、王妃!フェリシー様は人を謀るようなお人ではございません」

 執事のユーグがフェリシーを庇う様に前に立つ。

「そう、城が用意した執事にも信頼してもらっているとは…信じてあげてもよろしくてよ…」

 その言葉にユーグとフェリシーがホッと胸を撫で下ろす。

「そうそう少し耳にしたのだけれど、そのイザークとやらは黒魔法を使ったとか」
「!」

 フェリシーが驚き胸に手を当てる。
 
(チッ…刺客がいたか…)

 ジークヴァルトがマズいなと背に汗を流す。

「嘘…、イザークが黒魔法なんて…」
「紅い眼に黒魔法、魔物以外の何物でもなくてよ」
「そんな…、イザークは本当に魔物…?リディアが嘘をついていたの?」
「誑かされていたのも気づいていなかったのね、可哀そうに…」
「フェリシー様…」
「わ、私、イザークのお茶を飲んじゃった…」

 吐き気を催し口元を抑える。

「ううっ…」
「フェリシー様!大丈夫ですかっっ」
「気にし過ぎだ、あいつの茶なら俺も飲んだがほれ、ピンピンしているわ」
「殿下‥‥」

 安心させるように言い放つとフェリシーはジークヴァルトの優しさに目を潤ませる。

「ピンピンねぇ…、元気そうにしている割には顔色がよろしくなくてよ?何かご存じなのかしら?」
「い~や全く初耳だな、それよりこの聖女候補を許したのならもう開放してやってもいいだろう?」
「ええ、さっさと消えなさい、田舎臭くて鼻が曲がりそうだわ」
「っ…、し、失礼いたします」

 体を震わせ頭を下げるとユーグに連れられその場を去る。

(よし、邪魔ものはいったか…)

 やれやれと気取られぬように息を吐くと、どう切り抜けようかとジークヴァルトはアナベルを見た。
 
 そんな中、リディア達は必死に逃亡を図る。
 だが王妃に仕える臣下だ、見事に逃げ場を失くすような動きで四方八方からやってくる。

「マズいですね…」

 行く手が阻まれ行き場を失くす。

「とにかくこちらに身を潜めるしか」

 背後の生い茂った茂みを見る。

(ここに隠れたところで時間の問題よね…)

 相手はここに追い詰めるように探しているのだ。
 草むらに隠れたとしてもすぐにバレるだろう。

「私が囮になります、リディア様はこちらに隠れてください」
「いいえ、それではダメ…、私が囮になるわ」

 魔物が誑かしたという事になったのだ。
 今イザークが出ていく方がイザークの命が危険だ。
 何だかんだ言ってその場で処刑されてしまうかもしれない。

「ですがっ」
「いい?私が囮で駆け抜ける間に、安全な場所で身を潜めていなさい」

 どうみても自分の執事を自分の命に代えて守るようないいことを言っているように見えるが、皆さまお忘れではないだろうか。リディアがそんなこたぁ思うはずがない。リディアの思考はこうだ。

(イザークが死んだらぐーたら生活に支障大ありよっ)
 
 いいことを言っているようで中身は相変わらずゲス思考を巡らすリディア。

(死亡エンドがないなら、絶対私、死なないし、雑い設定なら何とかなるでしょ)

 お得意の短絡志向も、もれなく発揮していた。

「いけません、あなたを危険にさらすなどできません!」
「大丈夫、聖女候補生だとなっている今、何もしでかしていない私はそうそう簡単に処分などできないわ、でもイザークは違うでしょ?」
「っ…」
「魔物ならば簡単に処分できる、いいこと?時間を稼げばジークがイザークも処分できないように手は打ってくれるはずだから今は身を隠しておきなさい」

 足音が近づく。

「さぁ、早く!!」
「‥‥リディア様、‥‥すみません!」
「え…」

 リディアの体がトンと押され、茂みへと倒される。

(そんな‥‥)

 倒れていく中、驚き振り返る。
 スローモーションのように映る瞳にイザークが優しい笑みを浮かべその場を駆け出していく。

「待って!イザークっ」

 倒れた体を慌てて起こし、その背を追おうとして立ち上がりかけた瞬間、辺りが光に包まれる。

「?!」

 何が起こったのかと地面を見たその目に古代文字のような石板が茂みの下にありそれを自分が踏んでいる事に気づく。

(これは一体?――――っ)

「ちょっっ」

 次の瞬間、ぽっかりと穴が開く。

(穴?!やばっ落ちる!!)

 地面がなくなった足元に焦るもどうしようもなく、その穴へと落ち行く。

「ひゃぁぁっっ」

(どうなってんのよっっこれっっ!!この大変な時に!!)

 リディアの心の叫びも虚しく穴の底へと落ちていった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...