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さぁ、はじめようか
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「なんであんな女助けたの?」
フェリシーの元から去り帰り道、不満そうにリオが声を上げた。
「姉さま、あの女嫌いって言ってたよね?助けを呼ぶ必要ないよね?嫌いなんでしょ?」
「そうね、嫌いね」
「だったら何で助けたの?」
不思議そうに首を傾げると、イザークも興味深そうにリディアを見た。
「確かに嫌いだわ、でも…」
「?」
「彼女の正義感や行動力は、それなりに認めているの」
「僕には考え無しの馬鹿にしか見えないけど?」
「そこね」
「そことは?」
イザークも首を傾げる。
「彼女がもう少し自分で考えることが出来たら…、そしたら彼女なら沢山の人を本当の意味で助けられると思う、それだけの素質があるのに…そこが一番腹立たしい所ね」
「自分で考える…ですか」
「一見、正義感溢れた行動に見えるし、”人の命は大事“という道徳観も正しいと思えるわ、けど一般常識やよくある道徳観、または正義に思える言葉、それを自分の中でもう一度考えてみれば今回の事だってこんな事にはならなかった、それを最初に唱えた人がどういう状況でこれを言ったかで見え方は変わってくる、状況がとか元々の前提が違えば正しい事も間違いになることもあるわ、どうしてこれを重要視するかって言うと、悪意ある人なら彼女のように自分の考えを持たない人に如何にも正義だと思わせれば思い通りに動かす事だって出来るってこと、怖いでしょ?」
「確かに…」
「そうだとしても姉さまには関係ないよ、ほっとけばよかったのにあんな女」
「私がそれは嫌なのよ、こうなると解ってて放っておくのも胸がもやもやってするし、だからわざわざサディアスに知らせたわけだし」
「?」
「それも!姉さま、何で手柄まで渡しちゃうのさ」
「私が助けたとなったらまた”リディアはやっぱり優しい子ね!私信じていたわ!”とか何とか言い出して付きまとわれるに決まってるじゃない、それはごめんだわ」
「フェリシー様ならあり得ますね…」
容易に想像が出来て苦笑いを零す。
「話し戻すけど、そこを狙ってレティシアも擦り寄ってるわけで、それも自分でもう一つ先や、もう少し掘り下げて考える事が出来れば、レティシアの狙いも解ると思うのよね…、今回の事で少し考えるようになってくれるといいんだけど…」
「レティシアの狙いって?ああ、そか、思い通りに動かそうとしてるってことか…」
リオがさっきのリディアの言葉を思い出し、ポンと手を打つ。
「そう、言わば彼女はレティシアのディープスにしようとしているのよ」
「でぃー…?」
「本人が自覚なく刷り込まれた善意を正義と勘違いして主張する人の事よ、要はまぁ騙されやすいというか、よく言えば純粋、悪く言えば馬鹿ね」
「レティシアの思想の代弁者になってしまうという事ですね」
「そう、今回の場合だと悪人の筈なのに戦争が悪とすり替えられた、そのような事を人為的に状況を作ることが出来る、人殺しや犯罪者をちゃんと裁かなければ無秩序になり国は崩壊するでしょ、なのに庇う事が優しさとか、人の命は大事とか、一見耳障りの良い正義に聞こえる言葉を主張すると人はなびく、人は自分をいい人と思いたいし見せたいのだから、だけどそれでは悪を裁けなくなり、その意見が力を持つと国は崩壊する、弱者は永遠に弱者で被害者になってしまう、しかも被害者は一般では加害者と認識されるという恐ろしい世界が出来上がってしまう」
「集団心理を操るということですね‥‥」
「ええ」
「バカばっかり、この世界」
「バカな状態、目覚めさせない世界を作り上げられているのよ、集団心理や教育を使って」
「ふーん」
リオの言葉にリディアとイザークが苦笑いをこぼす。
「そういう人達に適当に敵をでっち上げれば、こういった正義感溢れる考え無しのお人好しが見事に引っかかって利用されてしまうわ、そうして利用されているとも知らずに正義の味方と意気揚々声高々に上げ皆を巻き込み全員で加害者の味方をするという、この間抜けぶりを発揮しているのを見て仕掛けたやつらは嘲笑ってるわけ、本人は騙された人で被害者でもあるけど、でもまぁ騙されて可哀想とは思わないわね、はた迷惑だとしか思えない、賛同した者達もね、少し考えたり調べれば気づく事なのに、自分でちゃんと調べたり考えようとしないから人の言葉を鵜呑みにして、質が悪いことに正義だと言い張って善意を装った攻撃してくるんだから」
「正義だと思い込んでいる時点で厄介ですね…」
「それね、ホントそう思う、まぁ政治で仮想敵を作るなんて当たり前に行われているし、団結すべき者達を分断させるにはいい策でもあるから策としてはありだし、あちこちで使われている業だけど、ただフェリシーの場合、色々と問題がでてくるわね」
「聖女は政治にかなり深く絡んでいますからね…、このままフェリシー嬢が聖女になるのはアナベル派優位になる可能性が高いという事で心配です」
イザークの言葉にリディアが頷く。
「レティシアがフェリシーに近づいたのはそのためね、万が一フェリシーが聖女になっても大丈夫なように仲の良い友達を演じているってところね…、まぁ今回の件でサディアスもフェリシーの首に縄つけただろうし、サディアスに眼をつけられれば下手に行動や発言も出来なくなるから大丈夫とは思うけど…」
「それも考えてサディアス様に知らせたのですか?」
「それもあるけど、もう付きまとわれるのは勘弁して欲しいって気持ちが一番大きい、はーっ疲れた!帰って早くゆっくりしたいわ」
そう言うとうんっと伸びをする。
「まぁ、でも、ここまで言っといて何だけど、私はフェリシーが一番聖女に向いていると思うわ、ある意味レティシアもね」
「え…?」
「ん?リディア?」
「?」
不意に聞き覚えがある声に振り返ると、そこにディーノが立っていた。
「丁度、この先の宿に居ると情報を得て会いに行こうとしてたんだ、まさかこんな道中で会うとは…なんかあったのか?」
「まぁ、ね…」
言葉を濁すリディアに、それ以上追究するのを止めると辺りを見渡した。
誰もいないのを確認すると声を潜めた。
「ちょっときな臭い情報がある」
「どうしたの?」
「前に言ってたナハルに居たアグダスの者がナハルの隣にあるクルルに行商人装って向かっているとか」
「!」
「その行商人を装った中にナハルの者も居るって聞いてな、それだけじゃなくおかしな話に全員、顔とか体中包帯グルグル巻いてお面をつけているとか怪しいさ満載なんだが、お面や着物はお洒落で包帯巻いてるのも違和感よりは人の目には格好よく映っているって話だ」
「何でそんな恰好で? …クルルに何かあるの?」
「うーん…クルル地方と言えば芋ぐらいしかないと思うんだが」
「もしかしたら‥」
そこでイザークが口元に手を当てる。
「何か思い当たる事でも?」
「確か、クルルを管轄しているのはサディアス様の御父上かと…」
「そうなの?!」
「だとすると、ナハルのアグダスの者はアナベル派だとしたら」
「でもだとしてもサディアスのお父さんを殺した所で、ジーク派が一人減るぐらいでしょ?そのサディアスのお父さんって何かそんなに邪魔な人物なの?」
「サディアス様の父君ヴィルフリート様は現陛下の腹心だと聞いております、元々農民だった彼が侯爵になったのも、戦の際、敵の罠に嵌ってしまわれた陛下を助け、それを縁にそこからずっと陰で支えていて今もそうだと言われております、またヴェストハウゼン侯爵家の娘と恋仲になったのを陛下がヴィルフリート様の後見人となり侯爵家への婿入りの後押しをなさったとか」
「かなりの信頼を置いているのね」
「うーん、だが陛下は良くてもジーク派の者に陛下が熱く信頼寄せているとなるとアナベルは気に食わないだろうな」
「ええ、アナベル王妃がヴィルフリート暗殺を企ててもおかしくはないかと、父ヴィルフリート様がもし亡くなったとしたら陛下の腹心ヴィルフリート様の息子という肩書がなくなってしまいます」
「サディアスの力が弱まるのはジーク派としては痛いわよね」
「はい」
「なるほど、命を狙うのに十分に値する人物だという事か」
(それで、アナベル派が行商人装ってサディアス父暗殺に向かって‥‥!)
その様子を脳裏に浮かべた時にふと一つの虚覚えのスチルを思い出す。
「‥‥父暗殺… あれは失敗スチル…もしかしたらこれって…」
「リディア様?」
「おい?どうした?」
不意にブツブツ呟き出すリディアを怪訝な表情で見る。
そんな二人を他所に何か必死に考え込む。
(間違いないわ、サディアスの抱える問題だわ…、てことは攻略チャンス!)
今まで思い出せなかったリディアの脳裏に『自分が居ない間に父暗殺』というワードで思い出したスチル。
朧気だが水色の髪をした男が悲嘆にくれるといったもの。これはきっとサディアスのスチルだ。
記憶が定かでないが、確かこれを攻略出来たらスチルはなく、そのままEDまで一気にいけたはず。
(という事は、この父暗殺を止めれば、好感度を上げずに攻略成功ってわけね)
ニヤ―っと口元がひき上がる。
「リディア?」
「となると、まずは状況をまとめないと」
「状況?」
「えーと、確かアナベル派が行商人装って…」
「ああ、ナハルの者も連れてクルルへ向かっている」
「ナハル…ナハル…」
(そう言えばナハルの事、ディーノは確か前に疫病が流行っているとか…)
そこでハッと顔を上げる。
「バイオテロ!」
「バイ…?」
「確か疫病が流行っているんでしょ?」
「あ、ああ」
「もしそのナハルの者が疫病に掛かっていたら?」
「!」
「ヴィルフリート様に疫病をうつすために?!」
「十分考えられる、一瞬で町全体に広がったって話だからな」
「空気感染力が強いのね」
「ああそうか!」
ディーノが今度は思いついたように顔を上げる。
「顔や体中包帯でぐるぐる巻きなのは感染しているのを隠すため、もしくは自分が感染するのを防ぐためか!」
思惑が合致する。
「ねぇ、その話を聞いたのはいつ?」
「一昨日だ、もうクルルに着いててもおかしくない」
「…早く、サディアスに知らせないと!」
「ええ」
「姉さま、僕に命令して!僕ちゃんと知らせてくるから」
「リオは先に行って、その行商人一行を探して」
「解った!ふふ、姉さまが命令してくれる…嬉しい」
リオが喜んで飛び跳ねる。
「じゃ、すぐに―――」
「待て、俺もいく!仲間に聞いて場所を探す方が早いだろ?」
「じゃ、ディーノと一緒に先に行ってて」
「解った」
「ねぇ、見つけるだけでいいの?」
その問いに言葉が詰まる。
本当は殺した方がいい。感染力が強いバイオテロだ。
相手は死ぬ気で大量殺戮を企てているのだから。
変な情を掛ければ下手すればこっちが死ぬ。
(だけどもしこの憶測が間違えていたら?)
罪もない人を殺してしまう事になる。
(どうすれば…)
しかし、もしバイオテロだった場合、殺しておかないと大変なことになる。
この国の人間を殺すのが目的なのだから。
サディアスの父だけでない、その地方全体が危うくなる、下手するとこの国全体が危険な状態になる。
リオを見る。
(‥‥リオの才能に掛けるしかない…か)
「リオが、この人たちは危険と判断したら殺していいわ、後の責任は私が取る」
リオはリディアの命令に絶対だ。
リオに命令するという事は、自分がしているのと同じこと。
もし罪もない人を殺したとしたら、リオに責任を取らすわけにはいかない。
(この子は何も知らない…、解っていないのだから… これでは私が加害者のようね…)
フェリシーに言った言葉が自分に突き刺さる。
(解っててこの子にそれをさせる私の方が罪深いのかもしれない…)
自分の命令を嬉しそうに顔を輝かせているリオに胸が詰まる。
「ではリディア様」
リディアが頷くとイザークが抱き上げる。
「あ」
「どうした?」
「あなた達もマスク…えーと、包帯でも布でも口だけでなく鼻まで隠れるようにしておいて、あと何か触った後は手は絶対、鼻や口元、目を触っちゃだめよ、手を洗ってからならいいけど、とにかくこまめに嫌って言うほど手を洗って」
「お、おう?」
「うん、解った」
「じゃ、気を付けて」
「ああ」
そこで二手に別れ、リディア達は今来た道を駆け出した。
フェリシーの元から去り帰り道、不満そうにリオが声を上げた。
「姉さま、あの女嫌いって言ってたよね?助けを呼ぶ必要ないよね?嫌いなんでしょ?」
「そうね、嫌いね」
「だったら何で助けたの?」
不思議そうに首を傾げると、イザークも興味深そうにリディアを見た。
「確かに嫌いだわ、でも…」
「?」
「彼女の正義感や行動力は、それなりに認めているの」
「僕には考え無しの馬鹿にしか見えないけど?」
「そこね」
「そことは?」
イザークも首を傾げる。
「彼女がもう少し自分で考えることが出来たら…、そしたら彼女なら沢山の人を本当の意味で助けられると思う、それだけの素質があるのに…そこが一番腹立たしい所ね」
「自分で考える…ですか」
「一見、正義感溢れた行動に見えるし、”人の命は大事“という道徳観も正しいと思えるわ、けど一般常識やよくある道徳観、または正義に思える言葉、それを自分の中でもう一度考えてみれば今回の事だってこんな事にはならなかった、それを最初に唱えた人がどういう状況でこれを言ったかで見え方は変わってくる、状況がとか元々の前提が違えば正しい事も間違いになることもあるわ、どうしてこれを重要視するかって言うと、悪意ある人なら彼女のように自分の考えを持たない人に如何にも正義だと思わせれば思い通りに動かす事だって出来るってこと、怖いでしょ?」
「確かに…」
「そうだとしても姉さまには関係ないよ、ほっとけばよかったのにあんな女」
「私がそれは嫌なのよ、こうなると解ってて放っておくのも胸がもやもやってするし、だからわざわざサディアスに知らせたわけだし」
「?」
「それも!姉さま、何で手柄まで渡しちゃうのさ」
「私が助けたとなったらまた”リディアはやっぱり優しい子ね!私信じていたわ!”とか何とか言い出して付きまとわれるに決まってるじゃない、それはごめんだわ」
「フェリシー様ならあり得ますね…」
容易に想像が出来て苦笑いを零す。
「話し戻すけど、そこを狙ってレティシアも擦り寄ってるわけで、それも自分でもう一つ先や、もう少し掘り下げて考える事が出来れば、レティシアの狙いも解ると思うのよね…、今回の事で少し考えるようになってくれるといいんだけど…」
「レティシアの狙いって?ああ、そか、思い通りに動かそうとしてるってことか…」
リオがさっきのリディアの言葉を思い出し、ポンと手を打つ。
「そう、言わば彼女はレティシアのディープスにしようとしているのよ」
「でぃー…?」
「本人が自覚なく刷り込まれた善意を正義と勘違いして主張する人の事よ、要はまぁ騙されやすいというか、よく言えば純粋、悪く言えば馬鹿ね」
「レティシアの思想の代弁者になってしまうという事ですね」
「そう、今回の場合だと悪人の筈なのに戦争が悪とすり替えられた、そのような事を人為的に状況を作ることが出来る、人殺しや犯罪者をちゃんと裁かなければ無秩序になり国は崩壊するでしょ、なのに庇う事が優しさとか、人の命は大事とか、一見耳障りの良い正義に聞こえる言葉を主張すると人はなびく、人は自分をいい人と思いたいし見せたいのだから、だけどそれでは悪を裁けなくなり、その意見が力を持つと国は崩壊する、弱者は永遠に弱者で被害者になってしまう、しかも被害者は一般では加害者と認識されるという恐ろしい世界が出来上がってしまう」
「集団心理を操るということですね‥‥」
「ええ」
「バカばっかり、この世界」
「バカな状態、目覚めさせない世界を作り上げられているのよ、集団心理や教育を使って」
「ふーん」
リオの言葉にリディアとイザークが苦笑いをこぼす。
「そういう人達に適当に敵をでっち上げれば、こういった正義感溢れる考え無しのお人好しが見事に引っかかって利用されてしまうわ、そうして利用されているとも知らずに正義の味方と意気揚々声高々に上げ皆を巻き込み全員で加害者の味方をするという、この間抜けぶりを発揮しているのを見て仕掛けたやつらは嘲笑ってるわけ、本人は騙された人で被害者でもあるけど、でもまぁ騙されて可哀想とは思わないわね、はた迷惑だとしか思えない、賛同した者達もね、少し考えたり調べれば気づく事なのに、自分でちゃんと調べたり考えようとしないから人の言葉を鵜呑みにして、質が悪いことに正義だと言い張って善意を装った攻撃してくるんだから」
「正義だと思い込んでいる時点で厄介ですね…」
「それね、ホントそう思う、まぁ政治で仮想敵を作るなんて当たり前に行われているし、団結すべき者達を分断させるにはいい策でもあるから策としてはありだし、あちこちで使われている業だけど、ただフェリシーの場合、色々と問題がでてくるわね」
「聖女は政治にかなり深く絡んでいますからね…、このままフェリシー嬢が聖女になるのはアナベル派優位になる可能性が高いという事で心配です」
イザークの言葉にリディアが頷く。
「レティシアがフェリシーに近づいたのはそのためね、万が一フェリシーが聖女になっても大丈夫なように仲の良い友達を演じているってところね…、まぁ今回の件でサディアスもフェリシーの首に縄つけただろうし、サディアスに眼をつけられれば下手に行動や発言も出来なくなるから大丈夫とは思うけど…」
「それも考えてサディアス様に知らせたのですか?」
「それもあるけど、もう付きまとわれるのは勘弁して欲しいって気持ちが一番大きい、はーっ疲れた!帰って早くゆっくりしたいわ」
そう言うとうんっと伸びをする。
「まぁ、でも、ここまで言っといて何だけど、私はフェリシーが一番聖女に向いていると思うわ、ある意味レティシアもね」
「え…?」
「ん?リディア?」
「?」
不意に聞き覚えがある声に振り返ると、そこにディーノが立っていた。
「丁度、この先の宿に居ると情報を得て会いに行こうとしてたんだ、まさかこんな道中で会うとは…なんかあったのか?」
「まぁ、ね…」
言葉を濁すリディアに、それ以上追究するのを止めると辺りを見渡した。
誰もいないのを確認すると声を潜めた。
「ちょっときな臭い情報がある」
「どうしたの?」
「前に言ってたナハルに居たアグダスの者がナハルの隣にあるクルルに行商人装って向かっているとか」
「!」
「その行商人を装った中にナハルの者も居るって聞いてな、それだけじゃなくおかしな話に全員、顔とか体中包帯グルグル巻いてお面をつけているとか怪しいさ満載なんだが、お面や着物はお洒落で包帯巻いてるのも違和感よりは人の目には格好よく映っているって話だ」
「何でそんな恰好で? …クルルに何かあるの?」
「うーん…クルル地方と言えば芋ぐらいしかないと思うんだが」
「もしかしたら‥」
そこでイザークが口元に手を当てる。
「何か思い当たる事でも?」
「確か、クルルを管轄しているのはサディアス様の御父上かと…」
「そうなの?!」
「だとすると、ナハルのアグダスの者はアナベル派だとしたら」
「でもだとしてもサディアスのお父さんを殺した所で、ジーク派が一人減るぐらいでしょ?そのサディアスのお父さんって何かそんなに邪魔な人物なの?」
「サディアス様の父君ヴィルフリート様は現陛下の腹心だと聞いております、元々農民だった彼が侯爵になったのも、戦の際、敵の罠に嵌ってしまわれた陛下を助け、それを縁にそこからずっと陰で支えていて今もそうだと言われております、またヴェストハウゼン侯爵家の娘と恋仲になったのを陛下がヴィルフリート様の後見人となり侯爵家への婿入りの後押しをなさったとか」
「かなりの信頼を置いているのね」
「うーん、だが陛下は良くてもジーク派の者に陛下が熱く信頼寄せているとなるとアナベルは気に食わないだろうな」
「ええ、アナベル王妃がヴィルフリート暗殺を企ててもおかしくはないかと、父ヴィルフリート様がもし亡くなったとしたら陛下の腹心ヴィルフリート様の息子という肩書がなくなってしまいます」
「サディアスの力が弱まるのはジーク派としては痛いわよね」
「はい」
「なるほど、命を狙うのに十分に値する人物だという事か」
(それで、アナベル派が行商人装ってサディアス父暗殺に向かって‥‥!)
その様子を脳裏に浮かべた時にふと一つの虚覚えのスチルを思い出す。
「‥‥父暗殺… あれは失敗スチル…もしかしたらこれって…」
「リディア様?」
「おい?どうした?」
不意にブツブツ呟き出すリディアを怪訝な表情で見る。
そんな二人を他所に何か必死に考え込む。
(間違いないわ、サディアスの抱える問題だわ…、てことは攻略チャンス!)
今まで思い出せなかったリディアの脳裏に『自分が居ない間に父暗殺』というワードで思い出したスチル。
朧気だが水色の髪をした男が悲嘆にくれるといったもの。これはきっとサディアスのスチルだ。
記憶が定かでないが、確かこれを攻略出来たらスチルはなく、そのままEDまで一気にいけたはず。
(という事は、この父暗殺を止めれば、好感度を上げずに攻略成功ってわけね)
ニヤ―っと口元がひき上がる。
「リディア?」
「となると、まずは状況をまとめないと」
「状況?」
「えーと、確かアナベル派が行商人装って…」
「ああ、ナハルの者も連れてクルルへ向かっている」
「ナハル…ナハル…」
(そう言えばナハルの事、ディーノは確か前に疫病が流行っているとか…)
そこでハッと顔を上げる。
「バイオテロ!」
「バイ…?」
「確か疫病が流行っているんでしょ?」
「あ、ああ」
「もしそのナハルの者が疫病に掛かっていたら?」
「!」
「ヴィルフリート様に疫病をうつすために?!」
「十分考えられる、一瞬で町全体に広がったって話だからな」
「空気感染力が強いのね」
「ああそうか!」
ディーノが今度は思いついたように顔を上げる。
「顔や体中包帯でぐるぐる巻きなのは感染しているのを隠すため、もしくは自分が感染するのを防ぐためか!」
思惑が合致する。
「ねぇ、その話を聞いたのはいつ?」
「一昨日だ、もうクルルに着いててもおかしくない」
「…早く、サディアスに知らせないと!」
「ええ」
「姉さま、僕に命令して!僕ちゃんと知らせてくるから」
「リオは先に行って、その行商人一行を探して」
「解った!ふふ、姉さまが命令してくれる…嬉しい」
リオが喜んで飛び跳ねる。
「じゃ、すぐに―――」
「待て、俺もいく!仲間に聞いて場所を探す方が早いだろ?」
「じゃ、ディーノと一緒に先に行ってて」
「解った」
「ねぇ、見つけるだけでいいの?」
その問いに言葉が詰まる。
本当は殺した方がいい。感染力が強いバイオテロだ。
相手は死ぬ気で大量殺戮を企てているのだから。
変な情を掛ければ下手すればこっちが死ぬ。
(だけどもしこの憶測が間違えていたら?)
罪もない人を殺してしまう事になる。
(どうすれば…)
しかし、もしバイオテロだった場合、殺しておかないと大変なことになる。
この国の人間を殺すのが目的なのだから。
サディアスの父だけでない、その地方全体が危うくなる、下手するとこの国全体が危険な状態になる。
リオを見る。
(‥‥リオの才能に掛けるしかない…か)
「リオが、この人たちは危険と判断したら殺していいわ、後の責任は私が取る」
リオはリディアの命令に絶対だ。
リオに命令するという事は、自分がしているのと同じこと。
もし罪もない人を殺したとしたら、リオに責任を取らすわけにはいかない。
(この子は何も知らない…、解っていないのだから… これでは私が加害者のようね…)
フェリシーに言った言葉が自分に突き刺さる。
(解っててこの子にそれをさせる私の方が罪深いのかもしれない…)
自分の命令を嬉しそうに顔を輝かせているリオに胸が詰まる。
「ではリディア様」
リディアが頷くとイザークが抱き上げる。
「あ」
「どうした?」
「あなた達もマスク…えーと、包帯でも布でも口だけでなく鼻まで隠れるようにしておいて、あと何か触った後は手は絶対、鼻や口元、目を触っちゃだめよ、手を洗ってからならいいけど、とにかくこまめに嫌って言うほど手を洗って」
「お、おう?」
「うん、解った」
「じゃ、気を付けて」
「ああ」
そこで二手に別れ、リディア達は今来た道を駆け出した。
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もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
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