つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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「それは本当なの?」
「はい、今リディア嬢はジークヴァルト殿下の部屋で養生し、ロレシオ様は監禁されております」

 驚き、レティシアは報告する部下に振り返る。
 傍で聞いていたオズワルドもピクリと反応し、密兵を見る。

「解ったわ」
「では」

 報告してきた密兵が姿を消す。

「弟君のロレシオ様が謀反を起こされるとは…驚きですね」

 デルフィーノがまだ戸惑いを隠せない表情で言葉にする。

「問題はそこではないわ」
「?」
「ロレシオは弱い男、こういう事を犯してもさほど驚く事ではないわ」
「では何が問題なのでしょう?」
「問題は、あの女が夜更けにジークヴァルトの部屋にいた事よ」
「!… ジークヴァルト殿下とリディア嬢はそういった関係…?」
「‥‥」
「あの女、聖女だけでなく王妃も狙っているの‥‥?」

 手に持っていた扇子がギシギシと音を鳴らす。

「試験最下位を連発し油断させておき、最後に美味しいところすべて持っていくつもりね」
「確かに…、サディアス様がフェリシーを捨て、リディア嬢を押してきた、更に殿下の嫁となればジーク派が天下を取ったも同然」
「そうはさせないわ!」

 バキッと扇子が折れる。

(果たして、それだけか…?)

 そんなやり取りの中、オズワルドが思案する。

(あの女の目的…、聖女と王妃でこの国の政権を全て手に入れ…それからどうするつもりだ?)

 あの魔物執事を見た瞬間、得体の知れない大きな力を感じた。

(あの執事…只者ではない、それに…あの弟)

 あの女の弟に対しても、同じように感がこの男は危険と告げる。
 今動けるジーク派だけでアレに対応するのは難しい。

(あの身体能力常人を逸している…、面倒なのが二人、厄介だ…)

 そんな二人をペットの様に懐柔している女だ。
 しかもフェリシー嬢の事件の時見せた聡さ。
 たかが政権を取りたいがためだけとは考えにくい。

(それに…)

 あのいつも自分を見るにやけた目。
 行動も奇怪で何考えているのか読めない。
 目の前で怒りを露わにしているレティシアを見る。
 こいつの方が手練手管は上手いが目的は解りやすい。
 だがアレは解りづらい。
 大体最初からおかし過ぎる。

(なぜ、この施設に入るように仕向けたのか)

 オズワルドは気づいていた。
 『ジークヴァルト』という名を使うことにより、施設から出られなくなるという事を。
 どうしてそう、施設から仕向けたのか。
 殿下が連れてきたと聞いた瞬間引っかかった問いだ。
 実際目にして、ジークヴァルト殿下が好みそうな奇抜な行動をする女だった。
 きっと殿下好みの大胆さを見せ、殿下と軍師をそそのかしたのだろう。
 目的は殿下の妃か?
 聖女を狙っている風でもない。
 殿下の妃、狙いはそれだけだろうか…?
 そんな単純な狙いだけで動く女にも見えない。
 このまま放っておくには、あの得体の知れない魔物と弟を飼っているあの女は危険だ。
 
(何が狙いか…)

 ロレシオも懐かせていたと聞く。
 今回の殿下を助けたのもわざとかもしれない。
 だから解毒剤も容易に手に入ったのだろう。
 これで殿下を落とし、王妃の座を手に入れたとて何がしたい?
 王妃の座だけが目的の女が、あんな魔物や弟を飼うのか?
 オズワルドの脳裏にイザークに靴を舐めさせるリディアが、そしてサディアスとの情事や弟の情事がぽんぽんと浮かぶ。男を翻弄させていくリディアが次に起こしたのが、今回のジークヴァルト殿下の件だ。

(なかなかの獲物だな)

 手あたり次第や愚かな男を体で使って落とすなら、欲が強く政権を狙っている可能性は高い。
 だが、愚かでない男達を次々とその聡さと美貌を使って落としていくあの女。
 たかが政権狙いとは思い難い。




「聖女だけでも絶対阻止して見せますわ!そしてあの女、潰してあげますわ!」




 レティシアの言葉にハッとする。


――――― 内部からの破壊、もしくは混乱が目的?


(聖女と王妃を手に入れれば、実質一番の権力を得る…そうなればいかようにも出来る…)

 あの女が外と繋がっていたら?
 容姿から見て、種族は違うだろう事は容易に想像できる。
 あの美しい容姿、幻の種族と言われる血筋の者だろう。
 このアグダスの人間ではない可能性が高い。
 となると外部と繋がっている?
 そう言えば、キャサドラが前に5日も行方不明になっていたがどこに居たか不明と言っていた。
 聖女を狙ってる風ではないと思ったが、考えようによってはフェリシーを落とし自分が楽に聖女になれる状況を作ったともいえる。
 それに混乱が目的なら誰に媚びる必要もない。
 どう見ても聖女候補生や貴族、教会側など関わる者達と慣れ親しもうとしていない。
 親しくなるのを避けているようにすら見える。

(そうか!内側から壊すため聖女と王妃の座を‥内部破壊か混乱を狙っているのか!)

 オズワルドの目がギロリと光る。

(やはり、あの女、危険)

 腰に下げた剣をギュッと握りしめた。

 不運は重なるものだ。
 大丈夫だと楽観視した毒で死にそうな時に、よりにもよって一押しキャラにリディアの行動全てがまるっと裏解釈された瞬間だった。








 監視の兵達が幾人もいる部屋の中で、長い沈黙が流れていた。

「ロレシオ様…、何故犯行に及んだのか?どうしても教えて頂けませんか?」
「‥‥」

 サディアスの顔にも疲労が浮かぶ。
 一切何も話さないロレシオに悲壮の表情が浮かぶ。

「いい加減、話せ?俺をお前は嫌がってたのは何となく解っていた、だが、殺そうとするまでの動機が解らん、それに賢いお前が俺を殺害すればどうなるかは解っていたはずだ、なのにどうして?」
「‥‥」

 隣りで椅子に座り指先をトントンとイラつかせながら、ジークヴァルトが問う。

「どうか教えて頂けませんか、今のままではあなたを保護できません」
「何も、話す事はございません」
「ロレシオ様…」

 ただ静かに座り同じ返答を繰り返すロレシオに焦りの色を見せるサディアス。

「ロレシオ様、動機も何も見つからなければ、国に仇成す行為として反逆罪に掛けられてしまいます、今ならば私が何とか手を打ち命をお助けすることも出来ます」
「構いません、最初からどちらにせよ死ぬつもりでおりました」
「!」

 ロレシオの言葉に言葉を失う。
 ジークヴァルトの椅子がカタンと音を立てる。

「それ程にまで覚悟されて‥、その動機は一体?」

 考えるように一点を見つめていたジークヴァルトが口を開く。

「‥‥あの時、お前は聖女制度に俺が何かしでかすのではないかと怒っていたな、あれがお前のきっかけか?」
「‥‥」

 ほんの微かだがロレシオの身体がピクリと動く。

「きっかけはそれか、なら、動機は?」
「あなたにお答えする事は何もありません」
「ロレシオ…、いい加減意地を張るな、俺はお前を助けたい、ただそれだけだ」
「兄上に助けていただく必要はございません」
「ロレシオ!」
「‥‥」

 また黙り込むロレシオにはぁ~っと大きなため息をつく。

「ジーク様、これ以上は…、余りここに居ては変な噂が広まってしまいます、そうなっては…」
「ああ、解っている」

 あの騒ぎ、既にアナベルに知れ渡っているだろう。
 それをあのアナベルが利用しないわけがない。
 このままではロレシオは死刑は必死。
 母だけでなく弟までもが反逆罪の罪で死罪となれば、ジークヴァルトの立場はかなり危うい状態と陥る。
 ロレシオを助けるには、少しでも時間を作り口を割らせることだ。
 動機が解らなければ、下手に動くのは危険だ。
 見落としていた所があれば、そこをアナベルが拾わないはずがない。
 動機が解れば、全てに手が打てる。

「自害しないように見張っておけ!」
「はっ」

 もう一度ロレシオに向き返る。

「また来る」

 そう言うとサディアスと共に部屋を後にした。







 教室の入口の所で空席の席をちらりと見る。

「またリディア欠席なの?」
「そのようでございますね」
「もう5日目よ?そんなに体調が悪いのかしら?」

 フェリシーが教室に入る。
 そしていつものように近くの聖女候補生に声を掛ける。

「おはよう」
「フェ、フェリシー嬢、おはようございます」
「?」

 挨拶を交わすと、他の聖女候補生達がそそくさと自分の席へと戻る。

(一体どうしたのかしら?)

 いつもと何か様子が違う事にフェリシーが首を傾げながら、自分の席に座る。
 すると他の聖女候補生のひそひそ話が耳に入る。

「未だ信じられませんわ、あの子が殿下とだなんて…」

(?)

 何の事だろうと、耳を傾ける。

「噂では殿下の部屋で、しかも殿下のベットで養生なさっているとか…」

(!)

 その衝撃の言葉に瞠目し、一瞬くらりと身体が揺れる。

「ということは夜も…」
「殿下はリディア嬢を奥方にお迎えするつもりかしら?」
「今まで女を誰ひとり寄せ付けなかった殿下が自室に迎え入れているのよ、そうとしか考えられないわ」
「私初めから少し怪しいと思っていましたの、殿下が自ら彼女をここに連れてきた時から」
「あらどうして?」
「殿下は見初めた彼女を聖女候補にして箔をつけ、自分の妃にするために連れてきたのだと」
「まぁ、そういうことでしたの…、確かにそれだと今まで解せなかった行動全てが理解できますわ、それで彼女は授業もテストも怠けてばかりですのね、彼女は聖女になれなくともいいのだわ、ジークヴァルト殿下の妃が約束されているのですもの」

(!)

 信じられない言葉に衝撃を受ける。

(リディアをジークヴァルト殿下の妃に…?)

「フェリシー様…」

 マズいという表情を浮かべるユーグ。

「ユーグ、あなた、知っていたの?」
「‥‥はい」

 申し訳ないという様に頭を下げる。
 できるだけフェリシーの耳に入らないようにしていたが、噂は広まり、聖女候補生達の耳にまで届いてしまった。

(これ以上は噂を耳にされないようにするのは不可能…)

「フェリシー様、お気を落とさないでください、あくまで噂は噂にございます」
「‥‥そうよ…ね」
「ええ、私が聞いたところによると、ジークヴァルト殿下が殺されそうになったのを庇い倒れた彼女を動かすのは危険との判断で、それで近くにあった殿下の部屋のベットにてご養生なさっていると伺っております」

(ジークヴァルト殿下を庇って?!)

「…ではお妃にするつもりはないかもしれないの?」
「はい、ジークヴァルト殿下がそれだけでお妃を選ぶような方ではないと、私見ではありますが、私はそう思います」

 その言葉に少しホッとする。
 だけどジークヴァルト殿下を庇ったのがリディアであると思うと胸がざわざわする。

「しばらくはフェリシー嬢と距離を置いた方がよさそうね」

(!)

 そんなフェリシーの耳に聖女候補生の言葉が耳に入り胸を刺す。

(どうして?リディアの事で私と距離を置こうとするの?)

 真っ青になるフェリシーにユーグが耳打ちする。

「‥‥もしもリディア嬢がお妃になられたとしたら、次期国王ジーク様のお妃、次なる王妃となります、そうなると下手にリディア嬢を悪く言う事は後々問題が出てくるかもしれないと思ったのでしょう」
「! そんなまだ決まったわけではっ」
「ええ、でも”もしも“は考えるでしょう、自分の身が危ないのです、貴族ならば家の権威にも関わります、彼女達がそう選択するのも無理もない話にございます」
「そんな‥‥」

(リディアのせいで友達から嫌われるなんて…)

 胸が軋む。

「大丈夫です、フェリシー嬢の事を嫌って避けられているのではありません、あんなに皆フェリシー嬢に優しく、応援なさってくれていたではないですか」
「‥‥そうね、そうよね、嫌ってるんじゃなくて、そうせざるを得ないもの…ね」
「ええ、そうです、そうせざるを得ないだけです」

 その言葉にホッとまた胸をなでおろす。
 だけどいつもなら授業が始まるまで皆、自分を取り囲み談話するのに、誰ひとり寄ってこないのは寂しいし、何だかとてもみじめに感じた。

(リディアのせいで友達からも引き離されるなんて…独りぼっちにさせられるなんて…)

「どうして…、リディアは私にこんな酷い事ばかりするの?そんなに私が妬ましいの?」
「フェリシー様…」

 いつも私の周りには友達がたくさんいた。
 私が皆に愛され、困った時には手を貸してくれた。
 私に期待して貢物もとてもたくさん貰えるようになった。
 そんな私を見て、澄ました顔をして全く気にしていない風なリディア。

(本当は私がチヤホヤされるのが凄く嫌だったんだわ!だからこんな酷い事を…)

 だから独りぼっちになるように私に仕向けたのだわ。

(だって養生なら自分の部屋ですればいいのに、殿下の部屋に居座るなんて!)

 殿下は自分のもだと言わんばかりに部屋に居座り、教室で独り座る私を見て心で笑おうと思っているのね!

「私は可哀そうなリディアがこの場所で心地よくいられるようにって…そう思っていただけなのに…」
「‥‥」
「酷い…酷いと思わない?」
「確かに、リディア嬢にフェリシー様は尽くしておられました」
「そうでしょう?なのにこんな仕打ちって‥‥酷い‥」
「フェリシー様…」

 ユーグは言葉を失くし、酷く落ち込むフェリシーを心配そうに見つめ下ろす。

(何を言っても解ってくれない、解らせるために独りにしてもこんな仕打ちを仕掛けてくるなんて…)

「どうすれば…、あの子に解らせることが出来るのかしら…」
「?」
「言葉で言っても、何をしても、リディアは私の想いを解ってくれない…、どうすれば…」
「聖女試験」
「え?」
「聖女試験で見返すのです、聖女になれば聖女の言葉ならば彼女も心を開くやもしれません」
「!」

(聖女になれば‥‥ そうだわ、聖女に!)

 聖女の言葉は神の言葉ともされている。
 誰よりも尊い神の言葉。
 皆が神の言葉である聖女の言葉に耳を傾ける。
 その言葉ならリディアに届くかもしれない。

「聖女になれば…」

 そうなれば流石のリディアも私の言う通りに聞いてくれるはずだ。
 それでも反抗したとしても、この世の全ての人がリディアを咎めるだろう。

(それに…、そうよ、もともと…)

「聖女になってジークヴァルト殿下の妃になるのだったわ!」

 顔を上げ、瞳に力が戻ったフェリシーにユーグが安心したようにホッと息を吐く。

「フェリシー様、その意気です、一緒に頑張りましょう」
「ええ、ユーグ、私、負けないわ!」






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