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さぁ、はじめようか
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しおりを挟む―――― 起きなきゃいけない
真っ暗闇の中、リディアは一人そこに居た。
そう思うのに身体が動かない。
―――― なぜ、頑張るの?もうゆっくりしようよ
それでもいいかなと思う自分が居る。
―――― 起きなきゃ
も一人の自分が首を振る。
―――― もういいじゃん、疲れたよ
もう一人の自分がだらける。
―――― でも起きた方がいい気がする
もう一度奮起しようと力を入れる。
―――― どうせ変わらないよ、今も過去も未来も、異世界でも
そう思うと力が抜ける。
―――― 誰にも何処にもどの世界にも
暗闇を見上げる。
―――― 私は居ない
重たい瞼が開く。
眩しくて目を顰める。
その目が世界を映し出した時、見知った男のシルエットを見つけた。
「‥‥ジーク?」
「おはよう、リディア」
少し目を擦る。
「おはよ…」
そこで辺りを見渡す。
見知らぬ天井、部屋。
「ここ…は…?」
「俺の部屋だ、覚えてないのか?」
のんびりとリディアの隣で頭を腕で支えながら横になりリディアを優しい笑みを浮かべ眺め下ろすジークヴァルトを見る。
そこで、毒の事を思い出した。
「そうだ、毒魔法…浄化できなくて…」
「毒魔法?あれは魔法でなく、ただの毒だ、超強力なな」
「え‥‥」
(ああ、そうか、それで光魔法が効果なかったのか…)
あの時思ったのは魔法解除、回復だけを考えてれば浄化作用のある光魔法なら消せたかもしれない。
「どこかおかしい所はないか?」
「?」
「毒を飲んでからずっとお前は眠ったままだったんだ」
「ずっと?」
「ああ」
「体に何か違和感とかないか?」
自分の重く怠い手を上げ見る。
「ただ怠い…かな」
「そうか、医師を呼ぼう」
ジークヴァルトが体を起こすとベットから起きる。
「そろそろ、行かなくては」
「あ、私も―――」
自分がジークヴァルトの部屋に居続けるのは色々マズいし後が面倒だ。
「‥れ?」
全く体が動かないどころが頭がくらっとする。
「馬鹿、動くな、今はじっと寝てろ」
「でも、ここ‥‥」
「いいから今は俺の言う通りにしろ」
「‥‥解った」
動きたくても体が動かなければどうしようもない。
素直にジークヴァルトの言う通りベットに横たわり沈み込む。
「はぁ…、ちょっと動いただけなのに、疲れる」
「当然だ」
「こう回復魔法とかポーションで、ぽぽんと簡単に元気になれないの?」
「なれれば苦労しない」
そういうと頭をぐしゃっと掴む。
「また合間見つけて見にきてやる、今はゆっくり休め」
「う、うん」
「ではな」
軽く額にキスを落とすとジークヴァルトが部屋を出て行った。
その後イザークが駆け込んできて、続いて顔だけ見てすぐに去ったがサディアスもやってきて、その後医師が現れ、その後遠征から帰って来たリオが血相変えてやって来て、あっという間に騒がしくなった。
「ちょっといい?」
ドアの方を見やるとキャサドラが立っていた。
静まり返る部屋に、相変わらず黙り込むロレシオとそれに対面する形で立つサディアスとジークヴァルトが居た。
「どうした?」
「リディア嬢の診断が出た」
「っ、結果はどうだったのですか?」
「!」
ジークヴァルト達よりも早くに反応を示したのはロレシオだった。
それに驚き振り返る。
「ロレシオ殿下、ご安心ください、彼女の体に異常はなしとの事です」
「よかった‥‥」
長い安堵の息を零す。
「ええ、本当に彼女が無事で何よりです、次はあなたの無事です、ロレシオ様」
「‥‥」
「どうして何も話して下さらないのですか?」
「あなた達に話す事は何も…」
「噂も広まってきました…、これ以上はもう内々にするのは難しいでしょう」
「‥‥」
「ですが、まだ、今ならばギリギリ何とかする事が可能です!お願いです!どうか、動機を教えてください!ロレシオ様!」
それでも口を割らないロレシオに焦燥に眉を歪ませる。
「…もう時間がないのです、ロレシオ様…」
サディアスの言葉に首を振るロレシオ。
「どうして…」
「‥‥仕方がない」
「ジーク殿下っ」
「ロレシオを城の奥へと幽閉する!」
「っ…」
噂が広まってきた以上、ロレシオを表に出しておくわけにはいかない。
サディアスもキャサドラも口噤む。
ジークヴァルトの判断にロレシオがギリっと奥歯を噛み締め、服を強く握りしめる。
「数日後、準備が整い次第幽閉する」
「はっ」
ジークヴァルトの臣下達が幽閉準備をするために動き出す。
「俺がお前にしてやれるのはここまでだ、ロレシオ」
「‥‥生き地獄を私に味わえと?」
ロレシオがジークヴァルトを睨み上げる。
「ロレシオ殿下、違います!ジーク殿下は―――」
「何と思われようと、俺はお前を殺す気はない」
「っ、殺せばいい!慈悲などいらない!要らない者を切り捨てるのは兄上の得意とするところでしょう?」
「ロレシオ殿下!ジーク殿下は本当にあなたを思って!」
「信じられません」
「たった一人の兄弟なのです、ジーク殿下はいつもあなたを心配していらした、ましてや生き地獄を味合わせたいなんて思う筈はございません!」
「信じられません」
「ロレシオ殿下っ…お願いです、少しでも耳をお傾け下さい!ジーク殿下は――――」
「もういい、ドラ」
キャサドラを制し、ジークヴァルトがロレシオを真っすぐに見る。
「少しの頭を冷やす猶予をやる」
「‥‥」
「次に会う時はお前を幽閉する時、それまでにどうするか決めよ」
「私は変わりません」
「ロレシオ殿下!」
「ドラ、もういいと言っている」
「‥‥しかし…」
肩を落としジークヴァルトを見る。
「行くぞ、しっかり見張っておけ!」
「はっ」
ジークヴァルトに続きサディアスも出て行く。
それに続き後ろ髪を引かれながらキャサドラも部屋を後にした。
あちこちで囁かれる噂を背に、淡々とアナベル派の刺客であるだろう者を始末する。
(これはマズいな‥‥)
キャサドラが今倒した刺客を見る。
アナベル派があからさまに動きを見せている。
ロレシオを手に入れ、公開処刑を行いたいのだろうことは容易に想像が出来る。
一気にジーク派を追いやるチャンスなのだ。
「そちらにも居ましたか…やれやれ」
サディアスがキャサドラの足元に刺客だろう男が転がっているのを見る。
「なりふり構わずって感じね」
「千載一遇のチャンスです、当然でしょう」
「こうなってはもう…」
アナベルが何が何でもロレシオを手に入れようと動き出した、噂もさらに大きく広められるだろう。
そうして皆の支持を得、ロレシオを引き渡せと言ってくる前に幽閉させなくては、ロレシオの命はアナベルの意のままに屈辱の死を迎える事になる。
「口を割って下さるかしら?」
「…難しいでしょうね、あの御様子だと」
「‥‥あれ程までに心を痛められていたとは…」
「ええ、もっと早くに気づけていれば…」
「ジーク殿下も悲しまれるだろうな…」
「…そうですね、ですが、仕方のない事もあります」
「人の心だけは、ね」
それ以上、言葉を交わすこともなかった。
お互い言葉を胸に仕舞い、アナベルの差し向けた刺客を探しにその場を後にした。
「まだ、手に入れられないの!?」
アナベルがイライラと声を荒げる。
「申し訳ございません!尽くジーク派の者に…」
「全く、情けないですわね」
「レティシア様っ」
そこへレティシアがアナベルの部屋へと訪れる。
「そっちはどうなの?」
「お母さま、私を誰だと?」
「ふふ、流石我が娘、その様子なら順調そうね」
「噂は城中、そして聖女施設中に広めたわ、有力者たちが動くのも時間の問題」
「そう、ならそちらから攻める手はずを整えなくては…」
アナベルが思案するように口元に手を置く。
「そうね、その前に‥私達が捉える前に幽閉されてしまえば手を出せなくなる、幽閉場所になりそうな場所を急いで抑えなさい!」
「はっ」
「ハーゼルゼットの時の様に幽閉なんてさせてやらないわ!アナベル派の意地を掛けて幽閉場所を探すのよ!」
「はっ」
アナベルとレティシアの言葉に臣下が慌ただしく部屋を駆け出していく。
「もう一息、もう一息よ」
「ええ、お母さま、必ずやジーク派を壊滅させてみせましょう」
―――バタンッ
荒々しくロレシオのいる部屋のドアが開くと、ジークヴァルトらがづかづかと入り込んでくる。
その形相にすぐにロレシオは状況を理解する。
「アナベルが幽閉場所を抑え込もうとしている、もう待てぬ」
最後通告を受け、ロレシオはスッと立ち上がる。
「最後だ、口を割る気は?」
首を横に振る。
「そうか…」
その様にジークヴァルトはぐっと拳を握りしめる。
「仕方ない…」
息を一つ吐く。
「これより――――」
「兄上」
「っ―― ?」
最後を告げようとした瞬間、ロレシオが止めた事に期待を込めて振り返る。
「…最後に一つ、お願いがございます」
「何だ?言ってみよ」
「最後に…、彼女に、リディア嬢にお会いする事を許可頂けませんか?」
「リディアに?」
「はい、幽閉されてしまえば謝罪することももう叶いません、幽閉される前に彼女に謝りたい…」
監禁されて以来目を合わせなかったロレシオが、真っすぐにジークヴァルトの目を見る。
「‥‥よかろう、サディアス」
「はい、道を確保致します」
サディアスがキャサドラを見る。
キャサドラもうんと頷く。
「ドラ!何としてでもアナベル派を抑えておけ!」
「はっ」
キャサドラが部屋を飛び出す。
そしてロレシオに向き直る。
「時間がない、行くぞ!」
ロレシオが頷くのを確認するや否や、ジークヴァルトが部屋を出る。
それを追って足早に部屋を後にした。
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