つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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「はぁ~~~~」

 何度目のため息だろう。

「リディア様、そろそろご準備を…」

 イザークが目の前に現れる。

「はぁ~~~~~」
「何度溜息をついたとて、状況は変わりません」
「はぁ~~~~、解ってるわ、でも、行きたくない」

 この前、想定外のダントツトップで総合1位になってしまった事で落ち込んでいるのに。

(なんでこんなに立て続けに試験をするのよ!)

 まだその傷が癒えてないうちに次の試験当日となった。

「もう時間がございません」
「行きたくない」

 少し困り果てた表情をするイザークの微妙な心情を察知すると余計に拗ねてしまう。

「…そんな期待しても、絶対失敗して見せるわよ?」
「っ‥‥」

 リディアの落ち込みとは真逆にイザークの瞳に微かな希望の光を宿しているのに気づいていた。

(イザークは私にここに居て欲しいモノね、だから当然ね…)

 後2つ勝てば聖女が私に決まってしまう。
 今回のでもし、ダントツとなるような事になったら加算点が加わり、聖女になってしまう。

(聖女になってしまったら、監視も強まり注目を浴び過ぎて逃亡には不利…)

「想定外の事が起こらなければ、ですね」
「あなたも言うようになったわね」
「あなた様に鍛えられましたから」
「それはそれで少しうれしく思ってしまうから複雑だわ」
「ふふ…、さ、行きましょう」

 背に手を当て、私の手を取り誘導するイザークに従い、ため息交じりに立ち上がる。

「はぁ~~~、やっぱり行きたくない」
「なら、抱き上げて連れて参りましょうか?」
「それは恥ずかしいから嫌」
「では参りましょう」

 私の扱いにすっかり慣れたイザークに負け、もう一度盛大にため息を零すと、仕方なく部屋を後にした。







 レティシアの登場に試験会場が沸く。

「レティシア様~!頑張って下さい!」
「リディアをやっつけて下さいまし!」

 試験には参加しなくていいはずの聖女候補生達や、貴族から教団側まで色んな人々が観戦に訪れ会場には人だかりが出来ていた。
 たくさんの声援の中、一瞬立ち止まる。

「‥‥これは」

 レティシアが会場入りして目を見張る。 

「一体…、これはどういう事?」
「‥‥私にも解りません、確かにアナベル妃殿下にお聞きしたのは『調合魔法』だと…」

 どう見てもここは『調合魔法』を使うような会場ではない。
 『戦闘用』に使う会場だ。
 試験がかなり早まり焦ったが、流石お母さま、母アナベルがロドリゴ教皇に情報をちゃんと聞き出してくれていた。
 アナベルは過去の試験を全て検証し全てにすぐに対応できるように準備を整えていた。お陰で調合魔法に用いる素晴らしい素材も既に用意されていて、それを持参し隠し持っていた。
 これでリディアに完全に勝てるという算段だった。
 なのに―――

「偽の情報をつかまされた…ということね」
「その様ですね」

(恐れ多くも教皇に偽を掴ますなど…できそうなのはあの枢機卿か…)

 オーレリーを思い浮かべ手にした扇子を握りしめる。
 手を打っていないわけではなかった。
 枢機卿もこちらに引き込もうと色々手練手管を行使した。
 だが、最後まで落とす事は出来なかった。
 
(あの阿呆な豚が一応教皇だと思って甘く見過ぎていましたわ…)

 教皇は教団のトップだ。
 その教皇が母アナベルにベッタリだ。
 枢機卿より上である教皇がこちらについていれば問題ないかと思っていた。
 現に、今までの試験は教皇の横流し情報で悠々と上位をキープできていた。
 フェリシーは優秀だったため食らいついてきたのは計算外だったが、前回の試験より前までは何も問題はなかった。

(油断したわ…、あの枢機卿何としてでも落としておくべきでしたわ)

 本来の聖職者らしい中立を保とうとするオーレリー枢機卿。
 フェリシーの時も王妃の娘という配慮は一切なかった。
 どちらも聖女候補生として同等に扱われた。
 自分の軸を持ち、揺さぶられない人間は厄介だ。
 会場がまたざわめく。

(この女も、また厄介な人間…)

 あの魔物執事と共にリディアも会場に姿を現した。
 そんなリディアを睨み見る。

(後々もっと厄介になる、今のうちに排除しておかないと…)





 一方、リディアの方も会場を見渡し冷や汗を背中に流していた。

「ねぇ…、これって戦闘用の会場よね?」
「はい」
「という事は、バトルとか?」
「可能性はあるかと」
「ちょっとどうしよう?」
「‥‥」

 魔法が使えないリディアにとって、レティシアとのバトルは瀕死に値する。
 部屋を出るときと打って変わってイザークの表情も険しい。

「もしもの時は、必ずお守りします」
「でもここで黒魔法使うのは厳しいわよ?」

 これだけのギャラリーが居ては、黒魔法使ってないという体はもう通用しない。
 だがレティシア相手だ。普通の魔法威力程度で太刀打ちできるとは思えない。

「覚悟はできております」
「私は覚悟できてない」

(どうしよう?)

 イザークは私の身の危機となったらきっと黒魔法使ってしまうだろう。
 そうなれば、アナベルに確実にイザークは殺されてしまう。
 黒魔法と紅い眼、もう魔物をうやむやにして逃れることは不可能だ。
 しかもここはアナベル派ばかりのギャラリーな上、これだけの沢山の人の前で黒魔法を使ってしまえば、いくらジークヴァルトやサディアスは頭が切れると言っても流石にどうしようもないだろう。
 下手すりゃ、そのままジークヴァルトが連れて来た執事という事でジークヴァルトまで罪を押し付けてくるかもしれない。
 ジークヴァルトの母と同様、反逆罪を煽れば、母の前科があるために皆簡単に信じ込むことは容易に想像できる。

(光魔法以外が使えたらなぁ…)

 光魔法の攻撃技は対魔物に有効だ。人間には意味がない。
 せいぜい光で目をくらます程度だ。

(武術とか体術も習得しておけばよかったわ…)

 そこはリオやイザークが居るから大丈夫かと頭になかった。
 どんなに考えても一つも策が思いつかない。
 そんなリディアの耳に歓声が届く。

「アナベル様だわ!」
「ジークヴァルト殿下まで!サディアス軍師様と一緒だわ!」

 バッと観客席を見る。
 そこにはアナベル一行とジークヴァルト一行の姿があった。

(マズいわ…マズ過ぎる…アナベルまで来るなんて…)

 厳しい表情でその一行を見上げた。





「こりゃちとマズいな…」
「情報では『調合魔法』と聞いておりましたが…」

 ジークヴァルト達も会場を見て険しい表情を作る。
 ちらりと見たアナベルも扇子をギリギリと握りしめていた。

「あっちも偽を掴まされたか」
「枢機卿の仕業ですね」
「あの男しかありえん」
「ですね」

 アナベルの情報は間違いなくロドリゴ教皇だろう。

「教皇に、アナベル、そして我らまで騙すとは…なかなかに曲者」

 扇子を口元にサディアスが会場を睨み見る。

「しかしよりによって『戦闘』とは…あの男何を考えているのか…」
「あの男も彼女を聖女にしたがっていると思ったが…」

 バトルとなったら魔法が使えないリディアは不利だ。
 後のないレティシアは最初から全力で容赦なく攻撃魔法を繰り広げるだろう。
 体術も何もしていないだろう身のこなしのリディアにそれを避けることは不可能。

「ただのバトルとは考えない方がいいのかもしれません」
「ん?」
「前回の『量』と言い、あの男には何か算段がある、どうやら我々よりも彼女の力に詳しい…と考えれば」
「『戦闘』にしたのは彼女が勝つ算段があると…」

 サディアスが頷く。

「教皇やアナベル、そして私達までも偽を掴ませ騙すような男です、ただの『戦闘』ではないかもしれません」
「ふむ、確かに…」
「それに、彼女を今まで保護してきた、そんな男がみすみす目の前で死ぬやもしれないようなことをするでしょうか?」
「‥‥となると」

 ジークヴァルトが口元に手をやる。

「今回の試験でやはりあの男、リディアを聖女にするつもりか」

 会場に佇む険しい表情のリディアを見下ろす。
 その時、会場が一気に湧いた。
 オーレリー枢機卿の登場だ。

「これは見物だな」
「こんな時まであなたは面白がってどうするのです」
「面白いものは面白い、仕方なかろう」
「私は到底、そういう心境になれそうにもありませんが」
「もしもの時は、止めに入ればい―――――!」

 瞬間。
 会場の観客席の前に大きな頑丈な柵が出来る。

「これは一体…」

 観客がざわめく。

「これではもしもの時に助けに行くことも…」
「チッ、ご丁寧に魔法も遮断するようになっていやがる」

 さっきまで余裕だったジークヴァルトも少し表情が強張る。

「あの男、一体何を考えて‥‥」

 二人の目は静かに佇むオーレリー枢機卿を睨み見る。

「会場の中にはこれでは誰も入る事はできません」
「誰も手出しはできないように仕組んでいたか」
「ここまで周到に…、ですが逆を言えばアナベル派も手を出せません」
「だが不利なのはリディアだ、くそっ、これでは守れん」
「‥‥」

 二人の目が会場に向く。

「リディア‥‥」

 イザークが離れ、レティシアと二人だけ取り残され不安気に佇むリディアを心配そうに見下ろした。





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