101 / 128
さぁ、はじめようか
99
しおりを挟む
「粘りますね」
サディアスがジークヴァルトに馬を近づけ敵軍を見ながら口にする。
長時間の戦に兵達の顔に疲れの色が見える。
「こちらは波状攻撃を繰り返していますがここまで粘るとは…、ミクトランが加わったと言え数も体力もこちらが上だというのに」
「何か引っかかるな…」
「ジーク様?」
「ミクトランも加わり遅滞戦…、国土が死に聖女のシールドに守られ生きている土地欲しさにこの場所を狙ったと一見思えるが、それならなぜ先に協定や条約を結ぼうとしない?交渉すらなかったはず…」
「アナベルにいったのやもしれません、そうであれば揉み消された可能性も考えられます」
「‥‥」
「それより、ミクトランが邪魔ですね、ナハルの南方に揺動戦を仕掛けましょう」
「そうだな、これでは埒があかん」
「おい、伝令兵をこちらに」
「はっ」
「全くこの地形は厄介ですね、こちらから協定を用いてもいいのですが、準聖女(元聖女候補)が住まう地だけに外でなく内が煩い、本当に難儀な土地です」
サディアスの近くに伝令兵が馬を寄せてくる。
「お呼びですか?」
「至急ナハルの南方で揺動戦を――――」
「ジークヴァルト殿下はどちらにいますか!!」
そこで早馬で駆けてくる伝令兵に振り返る。
「ここだ!」
伝令兵はジークヴァルトを見つけると急いで駆けつける。
「どうした?」
「殿下にキャサドラ隊長とリディア嬢から伝言です、ここは囮、狙いは『城』、敵はウラヌを横切り我が城に向かっていると」
「何ですって?!」
「?!‥‥そうか!それで遅滞戦かっ!!」
ジークヴァルトとサディアスが目を見張る。
「ウラヌを横切るなど…だが、リディア嬢が言うならばもしや…」
「まずいな、援護をやりたい所だがそれでは間に合わん」
「横切っているとなると、既にももう城の近く…これはマズいですね」
「伝言はまだあります」
「言え」
「はっ、リディア嬢がオズワルドとイザークを連れてウラヌ横切る軍へと向かわれたと」
「リディアが?!」
「オズワルドをですって?!」
「はっ、片付ける間、持ち堪えて欲しいと」
唖然として伝令兵を見る。
「本当にそう言っていたのですか?」
「はいっ!」
「信じられません…そんな、まさか…」
「確かにそうキャサドラ隊長より直接給わりました!!」
「…解った、下がれ」
「はっ」
伝令兵が下がる。
「まさか…オズワルドを…、よくレティシアが許したものですね」
「は‥ははっ、やってくれる!」
ジークヴァルトとサディアスの瞳に光が戻る。
「オズワルドにイザークですか…、確かにあの二人なら何とかしてくれそうです、…念のため城へどこかの部隊を向かわせたい所ですが…」
「西はこれ以上は手薄になる、南では来たとてもう終わった後だろう」
「はぁ~‥、早く派閥のねじれを何とかしたい所ですが今は嘆いている時ではない、リディア嬢の戦略に掛けるしかないでしょう」
「オズワルドもいるなら、十分に勝機はある」
「はい」
「一体何が起こっている?!」
「何も見えないっ」
「風魔法でも全く消えない」
急に闇に包まれたと思ったら前方から何かが向かってくるのを感じる。
兵が次々なぎ倒されていく音と悲鳴だけが暗闇に響く。
あまりに不気味で恐怖を駆り立てられる。
「ひっひえぇぇ」
「ば、馬鹿!弓を引くな!!」
弓を引く音に慌てて叫ぶ。
「イヴァン王子、ここは危険です、引き返しましょう」
あっという間に殺気と共になぎ倒されていく音が近づいてくる。
「ああ、殺気でこのわしすら震えがきとる、わしが壁になるので引き返す命令を」
「いや、これはもう無理だな」
「!」
――――ガキィィ―――ンッッ
間一髪で剣をかわす。
「王子!お逃げください!」
「ぐぁっっ」
何かが岩壁に吹き飛ばされぶち当たる音を聞く。
「デイモンド?!」
「そこかっ」
――――ガキィィ―――ンッッ
「くっっ」
(この男、強過ぎる)
「イヴァン王子!このっっ」
「よせっバイロニー!」
「うぁっっ」
「バイロニー!!」
(おかしい、この動き…こちらの動きが全て丸見えの様だ‥‥)
「このぉおおっっ」
(そうか…これは魔法!しかしこの闇を消せないとなれば打つ手なし‥‥)
「デイモンドっ待て!」
「しかしっ」
(仕方ない…)
「参った!降参だ!!」
「イヴァン王子?!」
イヴァンの言葉に皆が驚き動きを止める。
また自分を狙っていた敵の動きも止まった。
(動きが止まった…交渉は可能か?これなら何とかなりそうだ)
「約束する!今すぐ撤退すると!だからこの闇を消してくれ!!」
暫くの沈黙の後、スーッと闇が消えていく。
(素直だな、だが助かった)
そして闇が完全に消えた所で前を見る。
「お、お前はオズワルド?!戦闘員から外され爵位剥奪されたのではないのか?!」
目の前に立つ大男に驚く。
そして見晴らしが良くなった視界で前を見、唖然とする。
たくさんの兵が前にいた筈が皆倒れ地面に転がっていた。
その先に美しい淡い金色の髪を靡かせた美女に目を細める。
「なるほど…あれが今回の聖女か‥‥美しいな」
その隣の紅い眼に全てを把握する。
「参った、闇魔法とオズワルド相手に1対1とはこりゃ勝てねぇわ」
額に手を当て、ははっと苦笑いを零す。
(闇を消しても勝算はなし…か、こりゃ惨敗だな…仕方ない)
「イヴァン王子‥‥」
ヨタヨタと立ち上がる臣下のバイロニーを見、頷く。
「我はヨルムの王子、名はイヴァンと申す!聖女!あなたの名は?」
イヴァンの声掛けに、リディアも応える。
「私の名はリディア、今すぐ撤退してください!でないと次は容赦しない」
「勇ましいな、大丈夫、安心しろ!我らの完敗だ!すぐに撤退する!」
リディアがホッと胸を撫で下ろす。
「今回は負けたが、次はあなたを浚いに参ります!聖女リディア」
「え…?」
「では、さらば!」
イヴァンの命令と共に皆が今来た道を引き返していく。
ヨルム軍が去るのをじっと見届ける。
「もう大丈夫かな?」
最後尾もほぼ姿が見えなくなった。
「ああ、心配ないだろう」
「よかった…」
オズワルドの言葉にホッと息を吐く。
「おいっ」
「リディア様!」
よろけたリディアをオズワルドが受け止める。
「!」
リディアを受け止めた手がぬるっと濡れて思わず見るその手が血で濡れていた。
「…血?」
「傷口が開いていたのですか?!何故すぐに言って下さらないのです!」
「…いやぁ、闇魔法使ってる時に声掛けらんないでしょ」
「私にはリディア様の方が大事です!」
「だから言わなかったの」
「オズワルド様ならば一時なら十分に持ちます、ああ動かないでじっとして下さい、すぐに止血し直します」
(負傷していた?全く気取れなかった…大した女だ、しかし…)
オズワルドの腕の中でじっとする中、イザークが手際よく開いた傷を止血しなおしていく。
「これは?」
「レティシアの所に向かう途中で刺客にやられたのです、レティシア様やあなたの士気が下がらないように戦前に気づかれないよう口止めされていました」
あのアナベルやレティシアが相当の手練れを幾人も呼び寄せていた。
そんな刺客、キャサドラとイザークだけでは到底庇い切れるはずがなかった。
そのため敢え無く傷を負ってしまったのだ。
「回復は使えないのか?」
「それが自分には使えないみたいなの、ホント使えないわ~この魔法」
「さ、出来ました」
「それより、すぐにジークに連絡しないと!」
そこに早馬がこちらに向かってくる。
「ここにいましたか!」
「丁度いい所に来たな」
「オズワルド団長!」
伝令兵が驚いたようにオズワルドを見る。
そして目を潤わせた。
「ハーゼルゼット様が見たらお喜びになられたでしょう…、ああ、ハーゼルゼット様も助けられれば…」
ハーゼルゼットの息子であるオズワルドが復活している姿を見、伝達兵が皆が憧れた元団長ハーゼルゼットを思う言葉を口にする。
「すぐにジークヴァルト殿下に伝えろ、敵はヨルム、そして撤退したと」
「ヨルム?!…はっ!すぐに知らせて参ります!」
今来た伝令兵がすぐに引き返していく。
「これで安心ね」
「ええ、では戻りましょう」
「その前に、オズワルド」
「何だ?」
リディアがオズワルドを見上げる。
「前は少ししか伝えられなかったから、今のうちに言っとくわ」
「?」
「ジークの母の無罪の証拠は、あなたが教えてくれたアナベルの寝室の大きな絵画の裏に隠されているわ」
「!」
「あの部屋が空になるのはアナベル誕生祭だと思うの」
「‥‥その隙に侵入するのか」
「ええ、それで位置も把握しているオズワルド、あなたが侵入役に適していると思うの」
「! …なるほど」
「お願いできるかしら?」
「解った」
(よし、これでオズワルドの約束が果たせる…)
ホッと息を吐くとふらっと頭がふらつく。
「リディア様!」
「…帰ったら肉が必要ね」
「幾らでもご用意致します、ではそろそろ帰りましょう」
(あとは、逃亡のみ‥‥もう一息ね)
イザークがリディアを抱き上げる。
「オズ、ありがとう、あなたが協力してくれたおかげで助かったわ」
「利害が一致しただけだ」
「それでも助かったわ、イザークもね、ありがとう」
「当然です、それより早く戻って城の皆も安心させてあげましょう」
「そうね、帰ろう、もうへとへとよ」
「はい、マイレディ」
そう言ってリディアを乗せた馬が走り出す。
その背を見、オズワルドは自分の手を見下ろす。
「‥‥」
「オズ?」
「ああ、今行く」
そうして戻るとキャサドラに抱きつかれ、また傷口を開くことになったリディアがいた。
――――あれ?ここはどこ?
喉がガラガラなのに気づく。
――――水‥水・‥‥
「…ア様、リディア様、大丈夫ですか?」
――――誰? リディア? ここはどこ?
微睡む目に映る男から視線を逸らす。
―――それより水‥‥
「水ですか?」
コクリと微かに頭を動かす。
すると男の手から水球が浮かび上がる。
それを男が口にすると自分の唇が塞がれた。
そこから水が線の様に流れ込んでくるのが解る。
それを乾ききった口から一生懸命飲み込む。
「まだ欲しいですか?」
首を微かに横に振る。
「汗を掻いていますね、すぐに体を拭きましょう」
男にされるまま服を脱がされ背を預け抱きしめられる形で身体が冷たいタオルで優しく拭かれていく。
―――― 心地良い
火照った体に冷たいタオルが気持ち良くて目を瞑る。
その目がまた開く。
「‥‥れ?…のじゃな‥」
「リディア様?」
「私の…身体…どこ?」
「?」
自分の目に映った自分の体が見たことのない白い美しい体になっている事に一気に恐怖が沸き起こる。
「や…、私の…身体…どこ?!」
「リディア様?」
「いっ」
横腹に激痛が走る。
そんなリディアを背から抱きしめる。
「大丈夫です…、あなたは傷を負い今高熱が出ているのです」
「傷?」
「はい」
「傷‥‥」
そこでやっと記憶が戻ってくる。
「あ、ああ…、私、夢を見ていたのね」
(現世に戻っている夢を)
「夢ですか?」
「いつ倒れたの?」
「部屋に戻ってすぐに」
「そう‥力尽きたのね…」
「無理をし過ぎです」
「迷惑かけたわね」
「迷惑かけられるのが私の仕事です」
「ほんと、言うようになったわね」
「ふふ、さ、服を着ましょう、このままでは風邪を引いてしまいます、ああ、動かなくて大丈夫です」
イザークが器用にネグリジェを着せると、もう一度リディアを背から抱きしめた。
「もう少し、こうしていた方がいいですか?」
「積極的ね」
「積極的にもなります、こんなに震えているのに…気づいていないのですか?」
「え‥‥?」
驚き自分の手を見るとふるふると震えていた。
「あ…れ?止まらない‥‥」
「大丈夫です、このまま抱きしめていますから、もう一度ゆっくりお休みください」
イザークの腕の中は心地よく瞼を閉じる。
「そうです、そのままゆっくり体の力を抜いて」
イザークに言われるまま体の力を抜く。
「もうここは安全です、安心しておやすみ下さいませ、マイレディ」
そのまままた深い眠りについた。
サディアスがジークヴァルトに馬を近づけ敵軍を見ながら口にする。
長時間の戦に兵達の顔に疲れの色が見える。
「こちらは波状攻撃を繰り返していますがここまで粘るとは…、ミクトランが加わったと言え数も体力もこちらが上だというのに」
「何か引っかかるな…」
「ジーク様?」
「ミクトランも加わり遅滞戦…、国土が死に聖女のシールドに守られ生きている土地欲しさにこの場所を狙ったと一見思えるが、それならなぜ先に協定や条約を結ぼうとしない?交渉すらなかったはず…」
「アナベルにいったのやもしれません、そうであれば揉み消された可能性も考えられます」
「‥‥」
「それより、ミクトランが邪魔ですね、ナハルの南方に揺動戦を仕掛けましょう」
「そうだな、これでは埒があかん」
「おい、伝令兵をこちらに」
「はっ」
「全くこの地形は厄介ですね、こちらから協定を用いてもいいのですが、準聖女(元聖女候補)が住まう地だけに外でなく内が煩い、本当に難儀な土地です」
サディアスの近くに伝令兵が馬を寄せてくる。
「お呼びですか?」
「至急ナハルの南方で揺動戦を――――」
「ジークヴァルト殿下はどちらにいますか!!」
そこで早馬で駆けてくる伝令兵に振り返る。
「ここだ!」
伝令兵はジークヴァルトを見つけると急いで駆けつける。
「どうした?」
「殿下にキャサドラ隊長とリディア嬢から伝言です、ここは囮、狙いは『城』、敵はウラヌを横切り我が城に向かっていると」
「何ですって?!」
「?!‥‥そうか!それで遅滞戦かっ!!」
ジークヴァルトとサディアスが目を見張る。
「ウラヌを横切るなど…だが、リディア嬢が言うならばもしや…」
「まずいな、援護をやりたい所だがそれでは間に合わん」
「横切っているとなると、既にももう城の近く…これはマズいですね」
「伝言はまだあります」
「言え」
「はっ、リディア嬢がオズワルドとイザークを連れてウラヌ横切る軍へと向かわれたと」
「リディアが?!」
「オズワルドをですって?!」
「はっ、片付ける間、持ち堪えて欲しいと」
唖然として伝令兵を見る。
「本当にそう言っていたのですか?」
「はいっ!」
「信じられません…そんな、まさか…」
「確かにそうキャサドラ隊長より直接給わりました!!」
「…解った、下がれ」
「はっ」
伝令兵が下がる。
「まさか…オズワルドを…、よくレティシアが許したものですね」
「は‥ははっ、やってくれる!」
ジークヴァルトとサディアスの瞳に光が戻る。
「オズワルドにイザークですか…、確かにあの二人なら何とかしてくれそうです、…念のため城へどこかの部隊を向かわせたい所ですが…」
「西はこれ以上は手薄になる、南では来たとてもう終わった後だろう」
「はぁ~‥、早く派閥のねじれを何とかしたい所ですが今は嘆いている時ではない、リディア嬢の戦略に掛けるしかないでしょう」
「オズワルドもいるなら、十分に勝機はある」
「はい」
「一体何が起こっている?!」
「何も見えないっ」
「風魔法でも全く消えない」
急に闇に包まれたと思ったら前方から何かが向かってくるのを感じる。
兵が次々なぎ倒されていく音と悲鳴だけが暗闇に響く。
あまりに不気味で恐怖を駆り立てられる。
「ひっひえぇぇ」
「ば、馬鹿!弓を引くな!!」
弓を引く音に慌てて叫ぶ。
「イヴァン王子、ここは危険です、引き返しましょう」
あっという間に殺気と共になぎ倒されていく音が近づいてくる。
「ああ、殺気でこのわしすら震えがきとる、わしが壁になるので引き返す命令を」
「いや、これはもう無理だな」
「!」
――――ガキィィ―――ンッッ
間一髪で剣をかわす。
「王子!お逃げください!」
「ぐぁっっ」
何かが岩壁に吹き飛ばされぶち当たる音を聞く。
「デイモンド?!」
「そこかっ」
――――ガキィィ―――ンッッ
「くっっ」
(この男、強過ぎる)
「イヴァン王子!このっっ」
「よせっバイロニー!」
「うぁっっ」
「バイロニー!!」
(おかしい、この動き…こちらの動きが全て丸見えの様だ‥‥)
「このぉおおっっ」
(そうか…これは魔法!しかしこの闇を消せないとなれば打つ手なし‥‥)
「デイモンドっ待て!」
「しかしっ」
(仕方ない…)
「参った!降参だ!!」
「イヴァン王子?!」
イヴァンの言葉に皆が驚き動きを止める。
また自分を狙っていた敵の動きも止まった。
(動きが止まった…交渉は可能か?これなら何とかなりそうだ)
「約束する!今すぐ撤退すると!だからこの闇を消してくれ!!」
暫くの沈黙の後、スーッと闇が消えていく。
(素直だな、だが助かった)
そして闇が完全に消えた所で前を見る。
「お、お前はオズワルド?!戦闘員から外され爵位剥奪されたのではないのか?!」
目の前に立つ大男に驚く。
そして見晴らしが良くなった視界で前を見、唖然とする。
たくさんの兵が前にいた筈が皆倒れ地面に転がっていた。
その先に美しい淡い金色の髪を靡かせた美女に目を細める。
「なるほど…あれが今回の聖女か‥‥美しいな」
その隣の紅い眼に全てを把握する。
「参った、闇魔法とオズワルド相手に1対1とはこりゃ勝てねぇわ」
額に手を当て、ははっと苦笑いを零す。
(闇を消しても勝算はなし…か、こりゃ惨敗だな…仕方ない)
「イヴァン王子‥‥」
ヨタヨタと立ち上がる臣下のバイロニーを見、頷く。
「我はヨルムの王子、名はイヴァンと申す!聖女!あなたの名は?」
イヴァンの声掛けに、リディアも応える。
「私の名はリディア、今すぐ撤退してください!でないと次は容赦しない」
「勇ましいな、大丈夫、安心しろ!我らの完敗だ!すぐに撤退する!」
リディアがホッと胸を撫で下ろす。
「今回は負けたが、次はあなたを浚いに参ります!聖女リディア」
「え…?」
「では、さらば!」
イヴァンの命令と共に皆が今来た道を引き返していく。
ヨルム軍が去るのをじっと見届ける。
「もう大丈夫かな?」
最後尾もほぼ姿が見えなくなった。
「ああ、心配ないだろう」
「よかった…」
オズワルドの言葉にホッと息を吐く。
「おいっ」
「リディア様!」
よろけたリディアをオズワルドが受け止める。
「!」
リディアを受け止めた手がぬるっと濡れて思わず見るその手が血で濡れていた。
「…血?」
「傷口が開いていたのですか?!何故すぐに言って下さらないのです!」
「…いやぁ、闇魔法使ってる時に声掛けらんないでしょ」
「私にはリディア様の方が大事です!」
「だから言わなかったの」
「オズワルド様ならば一時なら十分に持ちます、ああ動かないでじっとして下さい、すぐに止血し直します」
(負傷していた?全く気取れなかった…大した女だ、しかし…)
オズワルドの腕の中でじっとする中、イザークが手際よく開いた傷を止血しなおしていく。
「これは?」
「レティシアの所に向かう途中で刺客にやられたのです、レティシア様やあなたの士気が下がらないように戦前に気づかれないよう口止めされていました」
あのアナベルやレティシアが相当の手練れを幾人も呼び寄せていた。
そんな刺客、キャサドラとイザークだけでは到底庇い切れるはずがなかった。
そのため敢え無く傷を負ってしまったのだ。
「回復は使えないのか?」
「それが自分には使えないみたいなの、ホント使えないわ~この魔法」
「さ、出来ました」
「それより、すぐにジークに連絡しないと!」
そこに早馬がこちらに向かってくる。
「ここにいましたか!」
「丁度いい所に来たな」
「オズワルド団長!」
伝令兵が驚いたようにオズワルドを見る。
そして目を潤わせた。
「ハーゼルゼット様が見たらお喜びになられたでしょう…、ああ、ハーゼルゼット様も助けられれば…」
ハーゼルゼットの息子であるオズワルドが復活している姿を見、伝達兵が皆が憧れた元団長ハーゼルゼットを思う言葉を口にする。
「すぐにジークヴァルト殿下に伝えろ、敵はヨルム、そして撤退したと」
「ヨルム?!…はっ!すぐに知らせて参ります!」
今来た伝令兵がすぐに引き返していく。
「これで安心ね」
「ええ、では戻りましょう」
「その前に、オズワルド」
「何だ?」
リディアがオズワルドを見上げる。
「前は少ししか伝えられなかったから、今のうちに言っとくわ」
「?」
「ジークの母の無罪の証拠は、あなたが教えてくれたアナベルの寝室の大きな絵画の裏に隠されているわ」
「!」
「あの部屋が空になるのはアナベル誕生祭だと思うの」
「‥‥その隙に侵入するのか」
「ええ、それで位置も把握しているオズワルド、あなたが侵入役に適していると思うの」
「! …なるほど」
「お願いできるかしら?」
「解った」
(よし、これでオズワルドの約束が果たせる…)
ホッと息を吐くとふらっと頭がふらつく。
「リディア様!」
「…帰ったら肉が必要ね」
「幾らでもご用意致します、ではそろそろ帰りましょう」
(あとは、逃亡のみ‥‥もう一息ね)
イザークがリディアを抱き上げる。
「オズ、ありがとう、あなたが協力してくれたおかげで助かったわ」
「利害が一致しただけだ」
「それでも助かったわ、イザークもね、ありがとう」
「当然です、それより早く戻って城の皆も安心させてあげましょう」
「そうね、帰ろう、もうへとへとよ」
「はい、マイレディ」
そう言ってリディアを乗せた馬が走り出す。
その背を見、オズワルドは自分の手を見下ろす。
「‥‥」
「オズ?」
「ああ、今行く」
そうして戻るとキャサドラに抱きつかれ、また傷口を開くことになったリディアがいた。
――――あれ?ここはどこ?
喉がガラガラなのに気づく。
――――水‥水・‥‥
「…ア様、リディア様、大丈夫ですか?」
――――誰? リディア? ここはどこ?
微睡む目に映る男から視線を逸らす。
―――それより水‥‥
「水ですか?」
コクリと微かに頭を動かす。
すると男の手から水球が浮かび上がる。
それを男が口にすると自分の唇が塞がれた。
そこから水が線の様に流れ込んでくるのが解る。
それを乾ききった口から一生懸命飲み込む。
「まだ欲しいですか?」
首を微かに横に振る。
「汗を掻いていますね、すぐに体を拭きましょう」
男にされるまま服を脱がされ背を預け抱きしめられる形で身体が冷たいタオルで優しく拭かれていく。
―――― 心地良い
火照った体に冷たいタオルが気持ち良くて目を瞑る。
その目がまた開く。
「‥‥れ?…のじゃな‥」
「リディア様?」
「私の…身体…どこ?」
「?」
自分の目に映った自分の体が見たことのない白い美しい体になっている事に一気に恐怖が沸き起こる。
「や…、私の…身体…どこ?!」
「リディア様?」
「いっ」
横腹に激痛が走る。
そんなリディアを背から抱きしめる。
「大丈夫です…、あなたは傷を負い今高熱が出ているのです」
「傷?」
「はい」
「傷‥‥」
そこでやっと記憶が戻ってくる。
「あ、ああ…、私、夢を見ていたのね」
(現世に戻っている夢を)
「夢ですか?」
「いつ倒れたの?」
「部屋に戻ってすぐに」
「そう‥力尽きたのね…」
「無理をし過ぎです」
「迷惑かけたわね」
「迷惑かけられるのが私の仕事です」
「ほんと、言うようになったわね」
「ふふ、さ、服を着ましょう、このままでは風邪を引いてしまいます、ああ、動かなくて大丈夫です」
イザークが器用にネグリジェを着せると、もう一度リディアを背から抱きしめた。
「もう少し、こうしていた方がいいですか?」
「積極的ね」
「積極的にもなります、こんなに震えているのに…気づいていないのですか?」
「え‥‥?」
驚き自分の手を見るとふるふると震えていた。
「あ…れ?止まらない‥‥」
「大丈夫です、このまま抱きしめていますから、もう一度ゆっくりお休みください」
イザークの腕の中は心地よく瞼を閉じる。
「そうです、そのままゆっくり体の力を抜いて」
イザークに言われるまま体の力を抜く。
「もうここは安全です、安心しておやすみ下さいませ、マイレディ」
そのまままた深い眠りについた。
82
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる