つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 バンっと机を叩く音に皆が恐れをなしササ―っと逃げるように部下達が部屋を出て行く。

「あんの野郎ぉぉ~~」
「お気持ちは解りますが、落ち着きください」
「ふんっ」

 荒々しく椅子へ座るジークヴァルトの元に幾つもの影が落ちる。

「その様子だと今回もダメだったみたいね」

 キャサドラが肩を上げる。
 その隣で暗い顔をするイザークと様子を見守るオズワルド。

「ふん、役立たず」

 よっぽど姉であるリディアが心配なのだろう、珍しくリオまでが姿を現した。
 リディアがオーレリーに拉致されて随分経つというのに何一つ進展もリディアに関する情報も出てこない。もちろんリオも動いている、皆もそれぞれに動いているがそれでも何一つ手掛かりがない。だからこうしてここに集まった。今まで姿を現さなかったリオも流石に焦ってきたのだろう。

「全くこうも手掛かりがないとはな…オーレリーめ」

 あのリディアを拉致られた後、城に戻るとオズワルドも戻ってきた。
 そして言った。

『リディアの気配が消えた』

 と。

 リディアが伝説の聖女のシールドを空に張ったあの日以来、魔物は現れることはなかった。
 お陰で国の復興が一気に進んでいる。
 また長年悩まされていた紛争やら外交的問題もこれもまた一気に落ち着いた。
 この世界の魔物が消えたのだ。
 今や自分の国の復興に皆が目をむいているような状態だ。
 全てはリディアのお陰だった。

「このままではマズいですね、聖女の復活で教会勢力が凄まじい勢いで増しています」

 サディアスの眉間の皺が深まる。

 伝説の聖女の奇跡をこの世界の人間が生き物全てが目の当たりにしたのだ。
 その聖女が消えたという事になっていたが、それが復活したとなったら世界中の民が熱狂するのは当然の事。
 完全に神格化されてしまった。
 信仰は手怖い。だからお布施など禁止し、国の提言への効力も失くした。
 民の信仰は大きくても、そこで何とか留まらせることは出来ていた。
 だが、伝説の聖女の復活の意味は大きい。
 折角、難民受け入れも受け入れずに全てが終わったと思ったら、今度は聖女の言葉は神の言葉だと蔑ろにしてはいけないという外圧が掛かってきた。
 伝説の聖女が居る教会の地位を上げよと外からも内からも抗議の声が上がる。

「全くこれでは前と変わらん‥‥」
「まったくです」
「いっそ、教会を潰すか」
「それでは民の心が離れてしまいます、リディア嬢とその体に詳しいオーレリーを手に納めてもまた利権が動きます」
「そんな事より!姉さまの件話せよ!」

 リオがイライラしながら声を上げる。
 皆もそれに反応する。

「ああ、いつもの通り『聖女は今神殿に入り祈りに入っている』と、『その後は眠りに入るので誰一人会う事も許されない』と、国王であろうと神の聖域だからだとか神聖な儀式のためだと言い張り居場所も何も教えず門前払いだ」
「こちらが聖女の事を何も知らないため、どれが嘘か本当かの判断が難しい、お陰でこちらも下手に手を出すことができません」
「リディア様の状態が解ればいいのですが…」
「そうね、大事にされているとは思うけれど、心配だな」
「神聖な儀式?いつだ」

 皆がリディアの状況を心配する中、オズワルドが口を挟む。

「そう言えば、神聖な儀式のためって何?」
「そんなもん知らん、何を言っても口を割らん」
「いつだ?」
「それも調査中です」
「何一つ解ってないじゃないか!使えない奴らばっか」
「そうは言ってもですね、ちゃんと調査もしているのですが全くといって動きがないのです」
「全く?」
「ええ、全く」

 サディアスがはぁっとお手上げという様に手を上げる。

「普通なら儀式があるなら何かしらの動きが起こる、例えば儀式用の備品を取り寄せるなどといった物流の動きや金、人の動き、些細な変化が起こるものです、だけど表上全くひとっつも動きがないのです」
「それはそれで怪しいわね」
「儀式自体が嘘という事は?」
「儀式はあるようです、信徒が口にしていましたから、ですが信徒も儀式がいつかは知らされていない様子」
「末端には何一つ教えられていないという事ですね」
「ええ、内部までは何かのシールドが張られ入る事はできません、完全お手上げ状態です」
「オズワルドのリディアの気配が消えたというのも気になる、シールド内に入ったからか…?それも別の場所に移動したのか?」
「ああ!もぉ!!姉さまに会いたい!会いたい!会いたい!」

 リオが叫ぶ。

「そうですね、リディア様の無事さえ確認できれば少しは安心なのですが」
「どこに居るかもわからんのじゃ話にならん、せめて何か手掛かりが見つかるといいんだが…」
「儀式の場所と日付が解ればいいのですが…、とはいえ、あのオーレリーの事です、顔さえ見れずに終わるやもしれませんが…」
「何でもいい、お前らも情報はないのか?」

 ジークヴァルトが皆を見渡すが、皆目線を逸らす。

「ダメか‥‥」
「だろうね」
「!」

 第三者の声に皆がバッと振り返る。

「うわっそんなに一斉に怖い顔で振り返らないで下さいよ~怖いじゃないっすか~」
「あなたは!」
「ディーノ様?!」
「あのヴィルフリートの件で言っていた男か」
「はい」

 皆がディーノを見る。

「あ~一応声を掛けようとしたんですよ~?だけど皆真剣に話をしてらっしゃったからその~声かけそびれたっちゅーかなんちゅーか」
「御託はいい、それより情報が得られない理由をお前は知っているのか?」
「それは~あれですよ、表に出ないのは地下を使ってるから~みたいな」
「!」

 思わぬ発言に目を見張る。

「それは本当ですか?」
「ああ、信頼する御方の言葉だ、確かだろう――――で」
「?」

 今までのほほんとした面を見せていた表情が一変する。

「事は急ぐから前置きはなしだ」
「リディア様の身に何かあったのですか?!」

 イザークが焦るように声を上げる。
 そんなイザークにディーノが黙って頷く。

「今話していた通りさ、儀式が行われる」
「!」
「儀式とは一体何なのです?」
「さぁ、ただ光の聖女の力は無限の可能性を秘めていて、詳しくは過ぎた知識と教えてくれなかったんだが…、その信頼置くお方曰く奴らは前の聖女の時に何らかの実験データを持っているのだろうと言っていた、何に利用する気かは知らないが光の聖女を使った儀式だと予想は出来る」
「光の聖女の力…」
「あ~今はその光の力についてはどうでもいい、それよりも急がないと!儀式は今日だ!」
「?!」
「はぁ?!きょ、今日?!」

 ギョッとにしてディーノに詰め寄る。

「その情報は確かなのですか?!」
「侵入は出来なかったが、リディアの簪を使ってやっと一瞬だけだが状況を覗けたんだ、その時今日の儀式の事を話していた、すぐに感づかれそうになり切断したから詳しくは解らない、ただ何か儀式のような場所が見えた、恐らくは地下、顔ぶれには教会本部で見た顔が幾人か居た、簪が示す場所も教会だったから、てことは教会の地下で何らかの儀式が行われるという事だけは解った」
「それだけ解れば上等です」

 皆が顔を見合わせる。

「姫奪還に向かうぞ」








 微睡む視界。

(―――あぁ 何で望んじゃったんだろ)

 怠い体をベットに沈みこませる。
 だらんと下した腕。
 その先の手首、足首には鎖が繋がれていた。

(こんなの意味ないのに‥‥)

 そんなもの繋がなくとも動く体力も気力もない。
 疲弊した体。
 重たい瞼をうっすらと開けボーっとする。

(これって…そうだ、宇宙人の気分だわ‥‥)

 未知の存在への興味からの人体実験。
 今まさにリディアは人体実験真っ最中だった。
 あれこれ得体のしれない液体を飲まされたり、採血されたり、いろんな魔具や聖具を使って光の力の実験を繰り返しされた。
 解剖までされていないだけまだマシだろう。
 いやこの先、解剖されてもおかしくない。
 この世に一人しか存在しない貴重な生きた未知の存在だ。
 解剖はまだ先だろうがいずれされるかもしれない。
 
(うげ…そんなのやだな…そういや私地球人だし、ここだと宇宙人か…)

 そんなしょうもない事を考えるのも幾度も眠らされ実験体にされ、微睡む時間が長いからだろう。

(教会がこんな所だったなんてね…)

 聖女の仕事は祈りを捧げ光の魔法を世界にそそぐ―――みたいな感じなんだと漠然と思っていた。
 大概乙女ゲームならそんな感じだろうと。
 なのに、一体どういう事だ。

(仕事が人体実験… ふざけんな作者)

 これを考えたシナリオライターに怒りを覚える。
 リアル体験している自分にしてみたらふざけんなである。
 こんなもの物語で見ている側なら楽しいさ。
 実際やられたら堪ったもんじゃない、の、堪ったもんじゃないが今現在進行形なのだ。

(このままいずれ解剖され死ぬのかな…?)

 そう思うも実感が沸かない。
 微睡んでいるからなんだろうか。
 普通なら恐怖が襲うだろうに、白昼夢の中に居る気分だ。
 もしかしたら恐怖の先を行っちゃったのだろうか。

(思考停止しちゃったのか…?自分)

 どう足掻いたって魔法や薬で体は動かない。
 逃げるのは不可能。
 ただ人体実験を繰り返されいずれこのまま死ぬ。

(そうだ、私ここに来たときは恐怖していたはず)

 オーレリーに連れられてここに来た当初は怖かった。
 この先主人公補正が効くかどうかも解らない状態での人体実験。
 怖かった。
 何度も助けを求めた。
 何度もあの時会う事を望んでしまった自分を後悔した。

(けど、誰も来ないのよね~これ詰んだよね‥やっぱ…)

 彼らならばきっと今必死に助けに来ているはずだ。
 だが来ないのは、力が及ばない。
 そういう事だ。

「聖女リディア、さぁ、体を拭いて差し上げましょう」

 いつの間にか傍にやって来ていたオーレリーがその美しい顔を近づけ手の甲にキスを落とす。

「今日も麗しい、私の聖女」

 本来ならこういうシチュエーションも萌えるところだ。
 だが、ぐったりと疲れ果て朦朧とする虚無空間が長く続き今では萌える心も沸かない。
 萌えがなければ―――

(はぁ~キモイ)

 あれからこの部屋にやってくるのはこの男ただ一人。
 オーレリー枢機卿もとい、今は教皇だ。
 何か言う気力も失せた私を人形のように扱う男。

(光の魔法を知っていた…もっと警戒すべきだったわ‥‥)

 躊躇すべきでなかった。
 あの時、すぐにでもリオとイザークを使って逃げるべきだった。
 何もできないリディアを楽しそうに世話をするオーレリー。

(はぁ…思考停止もしたくなるわ…)

 皆が助けに来れないとなると、先は絶望しかない。

(いいわもう…何も考えない感じない…そうした方が楽‥‥もう詰んだんだ)

 瞼を閉じる。

(昔のように…何でもないと思えばいい‥‥)



「さぁ、眠りなさい、次目覚めるときはあなたは私のモノだ」
 


(え…?)

 オーレリーを見上げようとした目が真っ白くなっていく。
 私は眠りに落ちた。







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