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コーヒーとCEOの秘密 (完)
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「まあ、会長室を二階に移せ!?」
驚いて思わずおうむ返ししてしまった。
「そんなスペースありませんわ! 喫茶室を執務室になさるおつもりですか」
朝のスケジュール確認の前に何を言い出すのかと思えば。
三津子は深いため息をつく。
目の前の会長兼CEO……。朝の一服、ひと時のたわいない会話をするわけでもなく常に臨戦態勢……一体何と戦っているのか。
「面倒なんだよ、何度も行ったり来たり…とりあえずだ」
嫌そうに頰をひきつらせる。
皮肉にもその渋い表情に細いシルバーフレームの眼鏡が最高に決まっている。
通常の二倍以上高い天井まであるガラス窓からは都庁を含む西新宿ビル群および新緑をたたえた街路樹の並木道が見える。
(確かに52階を行き来するのは面倒かもね……なんて言うと思います!?)
「会食の予定がある日は階下に移せないかと言っているんだ。この部屋は篭って執務に没頭するには適している」
そんな絶景を一度も目に留めることなくニヒルに言い切るこの男、悔しいが完璧といってもいいクールビューティー…。スッキリと切れ長な瞳、高い鼻筋、上品かつセクシーな引きのある口元、不覚にも胸の奥が反応する。
(黙っていればいい男なのに)
……セクシーな低い声も毒舌で台無しだ。
「広すぎるしな」
(それはソファセット取っ払っちゃったからでしょ)
来客セットなどいらないと就任早々廃棄してしまった。ただでさえ広い空間がだだっ広く間抜けに見える。オークの重厚なドアを開けて会長の机まで何歩で辿り着くか測ってみよう、そう思っていつも忘れてしまう。
この部屋がこんなにスペースを割いているのは、ここが社交の場でもあったから。客人を招いてパーティ形式の会合を開くこともあった。
前の部屋主とは逆に、現当主は誰も招き入れたくないようだ。
ついでに言うとドア付近に秘書用と思われるデスクと椅子があるが、着席したことはない。
「できません。構造上無理です。諦めてください」
不服そうなその顔に構わず三津子は本日のスケジュールを読み上げる。まだ何か言いたそうだ。
(会長職が気に入らないんでしょうけど、仕方ないわよ。権限を握るにはそれしかなかったんですもの)
新卒人気企業ランキング常に上位、ホワイト企業の代名詞とも言われたT商事グループだったが、この一年で状況が一変した。
他企業と進めていた合併交渉の情報が漏れ、ライバル社に手を回された。社内に情報を漏らした人物がいたのだ。買収騒動がスキャンダラスに報じられ株価にも影響した。
そこでやってきたのが前会長の息子、九条成明(くじょうなるあき)30歳、あれこれ揉めた末ライバルS物産の赤字部門を吸収という形で決着を図った。
「コーヒーお入れしましょうか」
「いやけっこう」
財務調整、急場凌ぎの職務についた彼の名は極力出さず、社員の前に出ることもない。任期は5年。
(かわいくないったらーー)
彼の笑顔を見るときは来るのだろうか。このまま氷のCEOで人知れず去っていくなんてさすがにないだろうが…。
驚いて思わずおうむ返ししてしまった。
「そんなスペースありませんわ! 喫茶室を執務室になさるおつもりですか」
朝のスケジュール確認の前に何を言い出すのかと思えば。
三津子は深いため息をつく。
目の前の会長兼CEO……。朝の一服、ひと時のたわいない会話をするわけでもなく常に臨戦態勢……一体何と戦っているのか。
「面倒なんだよ、何度も行ったり来たり…とりあえずだ」
嫌そうに頰をひきつらせる。
皮肉にもその渋い表情に細いシルバーフレームの眼鏡が最高に決まっている。
通常の二倍以上高い天井まであるガラス窓からは都庁を含む西新宿ビル群および新緑をたたえた街路樹の並木道が見える。
(確かに52階を行き来するのは面倒かもね……なんて言うと思います!?)
「会食の予定がある日は階下に移せないかと言っているんだ。この部屋は篭って執務に没頭するには適している」
そんな絶景を一度も目に留めることなくニヒルに言い切るこの男、悔しいが完璧といってもいいクールビューティー…。スッキリと切れ長な瞳、高い鼻筋、上品かつセクシーな引きのある口元、不覚にも胸の奥が反応する。
(黙っていればいい男なのに)
……セクシーな低い声も毒舌で台無しだ。
「広すぎるしな」
(それはソファセット取っ払っちゃったからでしょ)
来客セットなどいらないと就任早々廃棄してしまった。ただでさえ広い空間がだだっ広く間抜けに見える。オークの重厚なドアを開けて会長の机まで何歩で辿り着くか測ってみよう、そう思っていつも忘れてしまう。
この部屋がこんなにスペースを割いているのは、ここが社交の場でもあったから。客人を招いてパーティ形式の会合を開くこともあった。
前の部屋主とは逆に、現当主は誰も招き入れたくないようだ。
ついでに言うとドア付近に秘書用と思われるデスクと椅子があるが、着席したことはない。
「できません。構造上無理です。諦めてください」
不服そうなその顔に構わず三津子は本日のスケジュールを読み上げる。まだ何か言いたそうだ。
(会長職が気に入らないんでしょうけど、仕方ないわよ。権限を握るにはそれしかなかったんですもの)
新卒人気企業ランキング常に上位、ホワイト企業の代名詞とも言われたT商事グループだったが、この一年で状況が一変した。
他企業と進めていた合併交渉の情報が漏れ、ライバル社に手を回された。社内に情報を漏らした人物がいたのだ。買収騒動がスキャンダラスに報じられ株価にも影響した。
そこでやってきたのが前会長の息子、九条成明(くじょうなるあき)30歳、あれこれ揉めた末ライバルS物産の赤字部門を吸収という形で決着を図った。
「コーヒーお入れしましょうか」
「いやけっこう」
財務調整、急場凌ぎの職務についた彼の名は極力出さず、社員の前に出ることもない。任期は5年。
(かわいくないったらーー)
彼の笑顔を見るときは来るのだろうか。このまま氷のCEOで人知れず去っていくなんてさすがにないだろうが…。
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