コーヒーとCEOの秘密🔥他

シナモン

文字の大きさ
31 / 58
瀬尾くんの秘密 (完)

1

しおりを挟む
「やっちゃん、今日はお客さんの日だから、早めに帰ってね」
「うん、わかってる」
「今日寒いよ、コート着なくて大丈夫?」
 一番上の姉、華代はスウェット上下にダウンベスト姿で寒そうに腕を組んで、「うーさむっ」
「大丈夫、大丈夫」
「やっちゃん、青いマフラー似合うわぁ。……行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「お兄ちゃんーー」
 バタバタ音がして、すぐ下の妹が走ってきた。マスク姿で二つに分けて結んだ髪がボサボサ……セーターにジャージ、厚手のソックス、分厚い半纏を羽織り、誰が見ても病人だ。
「こら。寝てないとダメだろう」
「もう治ってるもん。ゴホッ……」
「ほら」
 軽く頭を撫でて諭すとりさこは名残惜しそうに上目遣いでこっちを見る。中学二年、風邪で休んで二日目だ。
「……行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」
「行ってきます」頰を撫でると熱い。熱があるのだろう。
「お兄ちゃんーー」潤んだ目を向けて訴えてる。だから早く帰るって。
「寝てろって」
 ガチャン、ドアが閉まる音と同時に早足で庭を出た。



 俺の家は代々神社の神主、俺は上から四番目、下に妹一人、上の三人は全員姉、親父は婿養子…と完全なる女系一家に育った。米子市某所のうちの家から俺の通う高校までは徒歩圏内なのでいつも通り歩いて向かう。吐く息が白い。一月。よく晴れて寒い朝だ。

「おい、瀬尾」

 黒いダッフルコートのポケットに手を突っ込んだ男子学生が横に並んできた。クラスの大牟田だ。
「なあ、お前志望校どうする?」
「……変わってないよ」
 センター試験終了後、新聞に載った問題を解いて模擬受験も済み、来年はいよいよ俺らの番だ。
「鳥大?」
 首を横に振った。
「鳥じゃなくて島」
「えーなんでよ」
「近いじゃん」
「ていうか、鳥でも島でもなく東大だろ」
 大牟田は口をひねって白い息を吐き続ける。
「もったいねーじゃん、全国模試上位だったんだろ」
「オレ家を出る気ないし」
「面談でセンセーに懇願されたらどうすんの」
 懇願なんてしねーだろ。
「いやー、でも出る気ないんだよな」
「親がうるさいんだ?」
「そういうわけじゃないけど……」
「でも東大なら出してくれるんじゃね?」
「う……ん」
「ほらさ、センセーもさ、一人でもいいから東大受かる確率高い奴薦めたいんじゃね? 国公立難関大合格者数命だからさ」
「それならなおさら確実なところ薦めるだろ」
「島大に首席で入ってどうすんの? 松江だぜ? お前だって都会に行きたいだろうに」
「そうでもないなあ」
「嘘やろ」

 ……正門に近づくにつれ周りが騒々しくなって、教室に入るまでその調子であれやこれやえらくしつこく聞いてくる。

「おはよー、瀬尾くん」「おはよ」「あれ、なんで瀬尾だけ呼んでんの。俺もいるんだけど」「…うっせ」

「ねーねー、瀬尾くーん、志望校どうするーー?」

「…………」またそれ。

 志望校……家を出る気は無いと言うより、家業が……。まだ親に言えてないんだ。神社の手伝い、どうするかってこと。
 神主は一番上が継ぐって決まっているので跡取りの必要はないが、俺の仕事は俺にしかできない特殊な仕事なんだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

まだまだこれからだ!

九重
恋愛
温泉が大好きなOLの暖(うらら)。今日も今日とて山奥の秘湯にひとり浸かっていたのだが……突如お湯が流れ出し、一緒に流されてしまった。 気づけば異世界で、なんと彼女は温泉を召喚した魔女の魔法に巻き込まれてしまったらしい。しかもそこは、異世界でも役立たずとされた病人ばかりの村だった。――――老いた関節痛の魔女と、腰を痛めた女騎士。アレルギーで喘息持ちの王子と認知症の竜に、うつ病のエルフなどなど―――― 一癖も二癖もある異世界の住人の中で、暖が頑張る物語。 同時連載開始の「勇者一行から追放されたので異世界で温泉旅館をはじめました!」と同じプロローグではじまる物語です。 二本同時にお楽しみいただけましたら嬉しいです! (*こちらのお話は「小説家になろう」さまサイトでも公開、完結済みです)

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

前世の記憶なんていらなかった……

ミカン♬
恋愛
日本から西洋風の異世界に転生したローゼリアの物語です。幸か不幸か、前世の記憶は彼女に何をもたらせてくれたのか。 ヒロインのローゼリアは前世の『香帆』の記憶を持って生まれ消せないでいた。過去の恋人への恋慕と今世の婚約者への好意。揺れ動く中で彼女に待っていたのは婚約の解消という悲運だった。 自由奔放な妹ミゼットに全て奪われたローゼリアに婚約者候補が二人現れた。それは年下の少年ハーシェルとオッドアイの青年デミアン。傷ついたローゼリアの心を癒すのはどちらなのか。ハッピーエンドです。 さくっと進みます。 小説家になろう様にも投稿。5/27

処理中です...