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コーヒーとCEOの秘密 (完)
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会長は無論のこと、三津子、T不動産社長、部長…一斉にそちらを向いた。
「君は…確か」
さすがに『ん?』と表情を崩し、先に口を開く。
「はい、(株)HIS、社長秘書兼広報担当の、佐伯かおるです!」
姿を見せたのは…ボブヘアーの平均身長の女性。黒いスカートのスーツ姿。
静まり返った会長室、4人がモニターを見ていたのは部屋の中央より入口よりなので、普段よりはたやすく会長のいる場所に声が届く。
「しゃ…社長が消えちゃったんです!」
かおるは鬼気迫る顔で叫んだ。
「消えた? ラボとか言うのに籠っているんじゃないのか。どこにあるのか知らんが」
「…そうなんですが…そのラボから消えちゃったんです!」
「……待ってりゃ帰ってくるだろう。仮にも社長だぞ」
会長の対応はもっともらしく、突然部屋の空気を乱された残りの3人はわけもわからず彼らのやり取りを見つめるしかなかった。
「そうじゃないんです。そのラボで、私が見てる前で消えちゃったんです!」
「どういうことだ」会長は立ち上がり、1歩2歩かおるに近寄る。そして腕を組んだ。
「えーと、新作の試作運転中に、煙が上がって…目の前で消えちゃったんです!」
「誘拐でもされたのか」
「…じゃないです、とにかく来てください! 九条会長、他に頼める人がいないんです~~」
かおるは身振り手ぶりで状況を伝えようと必死に訴えた。
「警察には言ったのか」
「警察…」かおるは首を振った。
「頼みようがないじゃないですか!……タイムマシーンなんて」
「タイムマシーン?」
そこで間があいた。
他の者もぽかーんと表情を緩めた。
・・・・・・・・・・・・。
何秒過ぎただろうか。なんだ、という顔で会長は首を少しだけ傾けた。
「まだそんなことをやっているのか、あいつは」
険しい表情に変わっていた。「タイムマシーンだと?」
「は、はあ…」ああ、ついに言ってしまった…口にするのも相手に言わせるのも恥ずかしい。
会長の友人…家電メーカー(株)HISの緑川社長は、とにかくメカいじりが大好物で、社長兼任技術者でもあり、長年の夢であるタイムマシーン製作にこっそり取り組んでいた。会社の研究施設…という名のレンタル倉庫を利用して、である。それが、今明るみに出てしまった。
「本気で言っているのか」
「そうですよ! 言っておきますが、社長が、ですよ。私は止めたんですが」ーーああ、社長ったら! かおるはこぶしを握って訴える。
「許可はとっているのか」
「多分なしですー」
あるわけない…。よく考えたら…よく考えなくても、なんて稚拙なんだ、社長! タッ、タイムマシーン…こんなところで言わなきゃならないなんて。自分だってこんな大きな会社のよりによって会長室のミーティングだか何だかの最中に飛び込みたくはなかった。しかし、他に頼れる人間が思い当たらない。警察を呼んだとして、なんて説明すればいいのか、逆に取り調べを受けそうだ、救急車なんてもってのほか、対象者が目の前で消えたのだから。
――社長、よく考えてから実行してよね! せめて、もっと現実的なものにしてよ、残された者が恥ずかしくない程度のね!! ……チッ!
舌打ちが聞こえたとしても無理はない。
「……しょうがないな」と小さな声で、腕を解くと同時に会長は振り返り、
「赤石くん。このあとの予定は立食だけだったな」
「は、はい」三津子も立ち上がる。
「六本木で18時からだったな」
「 はい 」
「それまで時間があるな。ちょっと出てくるから、あとの調整をしておいて。車は手配しなくていいよ、直接向かう」
「かしこまりました」
会長は三津子に告げ、続いて社長と部長に、
「すまないが、今の件、彼女に説明しておいてくれ。私は急用で出かける」
「はい。お気を付けて」
社長、部長は立ち上がり頭を下げた。
「九条会長、ありがとうございます!」かおるの顔がぱっと明るくなる。
「案内して」
「はい!」
3人に軽い会釈をして体をターンさせ、会長の先頭に立った。
早足で、二人の姿がドアの向こうに消える。
閉じたドア。斜め横の壁には未来予想図が投影されたままだ。
『……タイムマシーン?』
残った3人は茫然と心の中でつぶやいた。
「君は…確か」
さすがに『ん?』と表情を崩し、先に口を開く。
「はい、(株)HIS、社長秘書兼広報担当の、佐伯かおるです!」
姿を見せたのは…ボブヘアーの平均身長の女性。黒いスカートのスーツ姿。
静まり返った会長室、4人がモニターを見ていたのは部屋の中央より入口よりなので、普段よりはたやすく会長のいる場所に声が届く。
「しゃ…社長が消えちゃったんです!」
かおるは鬼気迫る顔で叫んだ。
「消えた? ラボとか言うのに籠っているんじゃないのか。どこにあるのか知らんが」
「…そうなんですが…そのラボから消えちゃったんです!」
「……待ってりゃ帰ってくるだろう。仮にも社長だぞ」
会長の対応はもっともらしく、突然部屋の空気を乱された残りの3人はわけもわからず彼らのやり取りを見つめるしかなかった。
「そうじゃないんです。そのラボで、私が見てる前で消えちゃったんです!」
「どういうことだ」会長は立ち上がり、1歩2歩かおるに近寄る。そして腕を組んだ。
「えーと、新作の試作運転中に、煙が上がって…目の前で消えちゃったんです!」
「誘拐でもされたのか」
「…じゃないです、とにかく来てください! 九条会長、他に頼める人がいないんです~~」
かおるは身振り手ぶりで状況を伝えようと必死に訴えた。
「警察には言ったのか」
「警察…」かおるは首を振った。
「頼みようがないじゃないですか!……タイムマシーンなんて」
「タイムマシーン?」
そこで間があいた。
他の者もぽかーんと表情を緩めた。
・・・・・・・・・・・・。
何秒過ぎただろうか。なんだ、という顔で会長は首を少しだけ傾けた。
「まだそんなことをやっているのか、あいつは」
険しい表情に変わっていた。「タイムマシーンだと?」
「は、はあ…」ああ、ついに言ってしまった…口にするのも相手に言わせるのも恥ずかしい。
会長の友人…家電メーカー(株)HISの緑川社長は、とにかくメカいじりが大好物で、社長兼任技術者でもあり、長年の夢であるタイムマシーン製作にこっそり取り組んでいた。会社の研究施設…という名のレンタル倉庫を利用して、である。それが、今明るみに出てしまった。
「本気で言っているのか」
「そうですよ! 言っておきますが、社長が、ですよ。私は止めたんですが」ーーああ、社長ったら! かおるはこぶしを握って訴える。
「許可はとっているのか」
「多分なしですー」
あるわけない…。よく考えたら…よく考えなくても、なんて稚拙なんだ、社長! タッ、タイムマシーン…こんなところで言わなきゃならないなんて。自分だってこんな大きな会社のよりによって会長室のミーティングだか何だかの最中に飛び込みたくはなかった。しかし、他に頼れる人間が思い当たらない。警察を呼んだとして、なんて説明すればいいのか、逆に取り調べを受けそうだ、救急車なんてもってのほか、対象者が目の前で消えたのだから。
――社長、よく考えてから実行してよね! せめて、もっと現実的なものにしてよ、残された者が恥ずかしくない程度のね!! ……チッ!
舌打ちが聞こえたとしても無理はない。
「……しょうがないな」と小さな声で、腕を解くと同時に会長は振り返り、
「赤石くん。このあとの予定は立食だけだったな」
「は、はい」三津子も立ち上がる。
「六本木で18時からだったな」
「 はい 」
「それまで時間があるな。ちょっと出てくるから、あとの調整をしておいて。車は手配しなくていいよ、直接向かう」
「かしこまりました」
会長は三津子に告げ、続いて社長と部長に、
「すまないが、今の件、彼女に説明しておいてくれ。私は急用で出かける」
「はい。お気を付けて」
社長、部長は立ち上がり頭を下げた。
「九条会長、ありがとうございます!」かおるの顔がぱっと明るくなる。
「案内して」
「はい!」
3人に軽い会釈をして体をターンさせ、会長の先頭に立った。
早足で、二人の姿がドアの向こうに消える。
閉じたドア。斜め横の壁には未来予想図が投影されたままだ。
『……タイムマシーン?』
残った3人は茫然と心の中でつぶやいた。
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