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コーヒーとCEOの秘密 (完)
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「何をしているの?」
「・・・・・・」
村上は無言で手を離した。何か言いたげに後ずさりする。
とたんに、木々の囁きがよみがえった。平日の夜の控え目な雑踏とともに。
「よくここがわかりましたね…」
村上は罰悪そうに姿勢を崩し、すっかり口調が変わっていた。
「向こうであなたを見かけたから…来てみたらいなくなって、こんなところに…通報でもされたらどうするの」
向こうとは彼女が視線を向けた都庁側か。
「もういいわ、私がこちらの方のお相手します。帰って頂戴」
終始冷静だった。足早に立ち去るのを見届け、
「大丈夫ですか? お怪我は」
少し脇によると彼女の顔が薄暗い街灯にかぶった。
ほっそりときれいな人だ。
淡い色のフリル衿のトップス、下はすらっとしたパンツ。三津子にもなじみの組み合わせだ。
長い黒髪に目は丸みを帯びマスカラが映える。しおらしいがかわいらしくもある顔。女性らしい透明な音質のよくとおる声。
…会長の元婚約者。
「ありがとうございました」
慌てて呼吸を整えた。だが別の鼓動が鳴り始める。
まさかこの人に会うなんて思わないからーーー。
「こんなところを女性一人で‥危ないわ。人通りが多そうでそうでもないのよ」
「ええ。知り合いだと…油断していました」
「あら、知り合い?」
「はい。前に同じ会社にいらした方です」
「そう……あなた、T商事にお勤めなの?」
「はい」
社名を認めてよかったのか、口にした後で少し迷う。
「…ご自宅までお送りしましょうか。どちらかしら」
「いいえ、もう大丈夫です」
今すぐ家に帰りたいような何か聞きだしたいような…。だが、余計なことを口走ってしまう可能性もある。
ーーーダメよね、元は私があんな調査なんか依頼するから…。
安易な行動だ。なぜあんな軽率なことをしたんだろう。情報屋こそどちらにも転がる根無し草のようなものなのに。あの男から漏れたのだ。
「村上さんをご存じなのですね、S物産の方ですか?」
「…ええ、そうです」
無造作に長い髪を流した左手にキラッと何か光った。
「よかったらどこかお店に入りません? 少し落ち着かれた方が」
「ええ、でも…。今あそこの店から出てきたばかりなので」ちらっと今来た道に視線を投げる。
「そうですか。じゃあ、駅までお送りしますわ。歩けば和むかも」
「はい……」
この道を渋谷方面に流せばすぐなのだが、そういう気にもなれなくて横切って新宿駅まで歩くことにした。
まさか会長の元婚約者にでくわすなんて、この先もないだろう。
「村上さんの部下だったの」
「いいえ、違います。話をしたことはありますが」
「そう」
引き抜きだったのでしょう?この人も関わってるようなニュアンスだったけど。
「とてもあんなことをする方には思えません。村上さんが今どうしてらっしゃるのかご存じではありませんか」
「…どうでしょうか。よくやってくれている…とはお世辞にも言えませんわ」
「・・・・・・」
村上は無言で手を離した。何か言いたげに後ずさりする。
とたんに、木々の囁きがよみがえった。平日の夜の控え目な雑踏とともに。
「よくここがわかりましたね…」
村上は罰悪そうに姿勢を崩し、すっかり口調が変わっていた。
「向こうであなたを見かけたから…来てみたらいなくなって、こんなところに…通報でもされたらどうするの」
向こうとは彼女が視線を向けた都庁側か。
「もういいわ、私がこちらの方のお相手します。帰って頂戴」
終始冷静だった。足早に立ち去るのを見届け、
「大丈夫ですか? お怪我は」
少し脇によると彼女の顔が薄暗い街灯にかぶった。
ほっそりときれいな人だ。
淡い色のフリル衿のトップス、下はすらっとしたパンツ。三津子にもなじみの組み合わせだ。
長い黒髪に目は丸みを帯びマスカラが映える。しおらしいがかわいらしくもある顔。女性らしい透明な音質のよくとおる声。
…会長の元婚約者。
「ありがとうございました」
慌てて呼吸を整えた。だが別の鼓動が鳴り始める。
まさかこの人に会うなんて思わないからーーー。
「こんなところを女性一人で‥危ないわ。人通りが多そうでそうでもないのよ」
「ええ。知り合いだと…油断していました」
「あら、知り合い?」
「はい。前に同じ会社にいらした方です」
「そう……あなた、T商事にお勤めなの?」
「はい」
社名を認めてよかったのか、口にした後で少し迷う。
「…ご自宅までお送りしましょうか。どちらかしら」
「いいえ、もう大丈夫です」
今すぐ家に帰りたいような何か聞きだしたいような…。だが、余計なことを口走ってしまう可能性もある。
ーーーダメよね、元は私があんな調査なんか依頼するから…。
安易な行動だ。なぜあんな軽率なことをしたんだろう。情報屋こそどちらにも転がる根無し草のようなものなのに。あの男から漏れたのだ。
「村上さんをご存じなのですね、S物産の方ですか?」
「…ええ、そうです」
無造作に長い髪を流した左手にキラッと何か光った。
「よかったらどこかお店に入りません? 少し落ち着かれた方が」
「ええ、でも…。今あそこの店から出てきたばかりなので」ちらっと今来た道に視線を投げる。
「そうですか。じゃあ、駅までお送りしますわ。歩けば和むかも」
「はい……」
この道を渋谷方面に流せばすぐなのだが、そういう気にもなれなくて横切って新宿駅まで歩くことにした。
まさか会長の元婚約者にでくわすなんて、この先もないだろう。
「村上さんの部下だったの」
「いいえ、違います。話をしたことはありますが」
「そう」
引き抜きだったのでしょう?この人も関わってるようなニュアンスだったけど。
「とてもあんなことをする方には思えません。村上さんが今どうしてらっしゃるのかご存じではありませんか」
「…どうでしょうか。よくやってくれている…とはお世辞にも言えませんわ」
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