会長にコーヒーを☕

シナモン

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3話 はじめての課題

19

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 おひめさまだっこ……だと!?

「それにしてもすごいよなあ、やっぱ見てる人は見てるんだねーー。秘書室の男って相当エリートなんだろうなあ。お茶って女の子のたしなみだよね。……実はさ」

 目の前で調子よくしゃべる佐野さんの胸元が、なぜかなるあきくんのそれに重なった。

 あ、あ、あ……あの胸に抱えられて?


 わあああーーマジか?


 オーマイガー!


 会長室で抱きしめられた感触がよみがえって、いきなり胸がボンと火を噴いた。
 それが体中に引火。
 そう。よく特撮でやってる、あんな感じでボンボン派手に暴発したのだ。

 あの日。
 どうやって52階から11階の医務室まで移動したんだろう? 確かに疑問には思っていた。

 お姫さま抱っこ。なんて結婚式の余興、もしくはハネムーン先での花嫁むけのパフォーマンス、くらいの認識だ。
 やるとしてもよほどテンション高いヤツか、おっさんのジョークか、そんなところだろう。

 少女の願望か何か知らないが、まだ現実を知らないうちはいい。
 実際問題、特に衝撃度、はずかし度において、

 お姫さま抱っこ>>>>>その他もろもろ

 だよね?

 それが……よもや会社でやられるとは!?

 よほど手段がなかったのだろうか。
 エレベーターのボタン押すときどうしたんだろ? 秘書の人に出くわさなかったのかな? 特に何も言われてないけど。それにそのあとは? ホテルまで……。まさかまた抱えられて?
 うわ、ちょ、マジやめて。
 いや、担架を呼ぶより手っ取り早いか。
 いやいや、そういう問題じゃなくて。

 会長自ら?

 それがポイントなのだ。

 うわぁぁぁ~~。ハズいどころの話じゃないっ。もっと早く知れよ、わたしっ。


「……その話聞いてさ、長谷部のヤツがつい言っちゃたんだよなあ、女相手にさ……。そっから全面戦争が勃発したわけなのよ。


『すげーなあ、やっぱ女子は基本『料理』だよなあ。掃除とかもさ。市川さんってさ、棚の整理とか給湯室の掃除とかさりげなくしてくれてたじゃん? 気が利くってああいうのを言うんだよ。彼女いなくなってまた乱れちゃったじゃん。家事全般基本が身についちゃってるんだよなあ。お前らも見習えば? てかさ、女子は一度カフェでバイトすべきだよ、ウン。お客様の立場に立ってコーヒー入れて、テーブル磨いて。バイトしながら基本が身について、一石二鳥、手っ取り早いじゃん。お前らもひょっとしたら市川さんみたいになれたかもしれないよ?』

言いすぎじゃね? 内心そう思ったんだけどさぁ、もう出ちゃったもんはどうしようもないじゃん? 誘発剤っつーか着火剤っつーか、オレマジ戦争ってこんなどうでもいいことで始まるんだ~って実感したわ。すごかったな~女子の反撃。いやもう女子じゃなかったな、ありゃ~。ウンウン……」


――失礼な! お前らこそ宅配でバイトしてこいや! 女一人抱きかかえるどころか、ダンボールひとつまともに運べねーくせに。たかが資料室から資料持ってくるのにぜいぜい息切らしやがって、耐久力なさすぎだっつーの!

――何だと! ちょっとコーヒー入れてくれてもいいって話だろ。はしょりすぎ。

――だーかーらー。お前らに奉公するために入社したんじゃないって言ってんだよ。ねー? 課長、そうですよねー? 茶なんて飲みたいやつが飲みたいときに各々いれればいいからって、そう言いましたよねーー?

――あ、ああ。

――ちょ、課長、ばしっと言ってやってくださいよ。

――う、うん。


……課長の情けないこと。はぁーー……」

 オーバーに、彼らになりきって、佐野さんの話は相当長く続いた。時間はたっぷりあったのだから。
 だけどそれらは耳を素通りしていくだけで、私は多分相槌すら打ってなかったと思う。
 いや。それだけじゃない。
 その後どうやって搭乗したのか、席についてどうだったとか、いつ富士山越えをしたのか……などなど全然覚えてない。
 ただひたすら体が熱くて、頭の中はなるあきくんの姿で一杯で、匂いまで蘇ってすっかり別世界の住人だった。
 よくこれで広島までこれたものだ。
 きっと全てANAの人が誘導してくれたのだろう。
 ストロングミントガムも睡眠導入剤も口にすることはなかったのだ。

 ああ、今知った。
 恐怖を克服するにはそれをはるかに凌駕するパニックに陥ればいいのだ。
 まさに毒をもって毒を……式である。

「かな~~。久しぶりっ!」

 私を異次元から引き戻してくれたのは懐かしい同郷の友の声だった。
 ぽんと肩をたたかれ、あれ、ここどこ? 
 そこが広島空港であることに気づくまで数秒かかった。


「あっき」
「大丈夫~? なんかぼーっとしてない? そういえばかな飛行機ダメじゃなかったっけ?」
「う、うん。何とか平気」
「そう。よかった」

 かなりの荒療治。
 超限定今回限りだ。


「うふふ、彼氏のみっくん。後藤くんで~~す」

 友達(=あっき、本名あきえ)は、早速隣の彼氏を紹介してくれた。
 その彼氏に目を合わせて更に私は目を覚ますのである。


 カッコイ~~~……。


「ども。後藤です」

 ちょこんと軽く会釈して、長めの前髪から覗く目がすごく穏やかでやさしそう~~な。
 普通にかっこいいカジュアルな服装。程よい長身。
 今までの彼氏とは全然違う。
 やんちゃ系の男とばかり付き合ってた。
 私もそうだけど、元彼が続かない。
 そのせいですれちゃってた感は歪めない。
 歌がメッチャうまくて、十八番は『めちゃくっちゃすきやっちゅーねん』て歌。本人かと思うほどうまい。お母さんが三味線の先生で小さい頃から祭りのお囃子や民謡系歌わされてた。声が太くてこぶしがきいてる。

「どうする? 先に昼にするか? 店調べとんのやろ?」

 おっと思った。久々に耳にする関西弁だ。

「うん。ね、かな、おなかすいた?」
「え? うーーん、まだ……」
「そう。ねー、みっくん、やっぱいつものいっちゃう?」
「そやなあ……」

 この素敵な彼氏、あきえの長文メールによると、
(長いので要約だけ)
 神戸出身の年はひとつ上。大学は九州、今年の春広島に転勤、桜の季節、ぶらっと出かけた公園で桜を撮っていたところ、あきえと遭遇したのだという。
 その出会い方がちょっとすごい。
 桜を見上げて、(何にか知らないが)黄昏ていたらしいあきえの姿が、何故か彼氏には大好きな某芸能人に見えたのだそうだ。(似てないし…)
 つい、『ーーちゃん?』と声をかけた彼氏。目が合った瞬間二人とも一目ぼれ……。
 絵にかいたような少女漫画的展開だ。かつて、『温泉旅行なんて金もったいない』とかほざいてた女が。嘘のような変貌。こんなかっこいい人と……。

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