会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
96 / 153
5話 天敵とモール

20

しおりを挟む
「さて、食事もチェックしとくか」

 やったー。ディナーだ――。
 喜んで付いて行く。が!
 魚介ダメ、アレルギー表示がないからダメ、ダメダメダメ・・行く店行く店次々ダメ出しが入る。

「ここは全成分表示がしてあるな」

 と、会長が立ち止まった先は・・・。

【 MacDonald 】

 正式な発音、生で初めて聞いた。

「これとこれ。飲み物はこれ」

 さっさとオーダーしてスマホで決済。

 マックかーい。
 わざわざ高速降りて食事がこれ?
 しかも・・・、

「ポテトは当分やめた方がいいよ。油が酸化してるだろう」

 えーー、そんなに几帳面にしなくても。
 ポテトなしのマックバーガーって。

「念には念を入れないとな。キミだって少しでも早く回復したいだろう」

 ああ、思い知ったわ…。
 私、めちゃくちゃ恵まれてたんだ。
 アレルギー持ちってこんなに大変なんだ・・・。泣けるわ。

「不本意だが致し方ない。寿司はヘルシーだが魚介アレルギーだと全滅だね」

 簡易な席に向かい合って座って食す。会長・・不本意ならやめてよ。
 私のせい?
 確かにアレルギー別に分類してあって、これもちゃんとえびかに対応になってる。

「キトサン除けに添加物の多いジュース類は止めておいた方がいいな。コーヒー紅茶は最低限・・・」
 
 というわけでサイダーを合わせている。

「キトサンという抗酸化物質がダメなんだから、体にいいものと悪いものと紙一重だね」

 相変わらずきれいに食べるわ。
 不本意かどうか知らないけどアメリカでさんざん食べてたんだろうな。
 指をナプキンでフキフキ・・・。 

「アメリカでも食べられてたんですよね・・」
「え? …手軽に食べられるからだよ。他にバーガーの店はあるがソースがたっぷりかかってて手が汚れるのがな・・」
 やっぱりね…。フッ。潔癖だから。
「大体パック入りのもので済ませてたね。すぐに食べられる」
 ですよね…。会長、アメリカだとまあまあ普通だったんだ。それがいつのまにか『コーヒーにうるさい』とか『美食家』ってことになってたのだが。
 会長が✖なのはラーメン、餃子、カレー、そば、牛丼、とんかつ・・・そっち系なのよ。おじさんが大好きな。

「これからしばらく外食じゃなくて手作りして食べてみます・・・」バーガーはポテト、チーズ抜きかー。
「その方がいいな」

 そういうのもコミュニケーション不足なんだろうな。
 色々気の毒。
 何とかしたい。

「大事な部下が海老ごときにやられたんじゃ元も子もないからな」
 え。

 





「フードコートを見てみたい」

 会長の希望でフードコートでコーヒーを頼んだ(私はうっすいレモンハーブウォーター)。

「こんなところで食べるのか。にぎやかすぎないか」会長はあたりを見まわした。広いフロアにテーブル席カウンター席いろいろあり、ソファでだべって本を読んでる人もいる。
「それがいいんです、大声でしゃべっても気にしなくていいし」
「なるほど」
 私はいつものホテルのラウンジがいいけどな。
 すっかりぜいたくになっちゃったわ。
 地元に帰省すると友達と喜んでモール巡りしちゃうんだけど。
「この開放感がいいんですよー、ひとりひとり違うお店のものが食べれるし」一人はカレー、一人はちゃんぽん、とかね。
「ああ、そうか・・・」
 会長とモールでこうしてるなんて、想像したこともなかった。たぶん新しいモール建設のための見学なんだろうけど‥似合わないなー。


「それにしても広いな」

 再び歩いてると吹き抜けの広場に人だかりができていた。
 ーーレトロヒーローショー?
 看板をよけようと回り込むと背中に何かが当たった。
 ぱっと振り返って目が飛び出そうになった。




「 ぎゃああああ!!! 」



「市川くん!」

 


 絶叫しながら逃げ回る。追っかけてくるなーあ・・・。

 なぜなぜ…こんなところにバルタン星人がーーー。



 えびのばけもんがいるの!







 気が付くと車の中だった。
 さすがに日は暮れてた。
 窓の外はもう都心・・・。

「気が付いたか」会長の低い声。
「えーと私・・・」
 記憶をたどると恐ろしい映像がよみがえった。ぎゃー。
 なんであんなとこにあやつがいるのー。消えろ!
「ついてないねえ、あんなのに出くわすとは」
 会長またもやあきれ顔で。
「しかし君には驚かされるねえ、まさかあんな着ぐるみにも反応するとは」
 くくっと笑って、「ザリガニだよな?」
 あーっはっは…大声で笑い始めた。額とおなかを抱えて笑われてしまい、私は見てるしかなかった。
 (バルタン星人だけど?)
 ようやくおさまって、
「ショーが終わって、子供と記念撮影してたそうだよ」
 そうすか。せめてウルトラマンの方だったらよかったのに。ついてないわ。
「子供の面前で着ぐるみ脱げないし、結果追っかけるような形になってしまって申し訳ないだとさ」
 バルタン星人てザリガニかい。今はじめて気づいたわ。そうよね、はさみがついてるもんね・・。
「…大変だな、きみ、一人で歩けるのか? 繁華街を歩いていて今みたいなことがおきたらどうなるんだろうな。救急車呼ばれて大騒ぎになるぞ」
 そんなことあるかい。
「さっきも救護室に誘導されそうになって逃げてきたしな」
 え?
「そういえばどうされたんですか」
「とっさに運んだよ。遅くなるし、たぶんショックを受けただけだろうと思って、運んだ」

 え?

「す、すみません、ご迷惑おかけしました」
「瀕死の状態じゃなかったからな。まだましだ」

 あの人ごみの中を運ばれた?
 え・・・?

「私も驚きましたよ。何か事件でもあったのかと」運転手さんがちらと振り返った。
「…撒いてきたからな。印象はよくなかったかもしれんな」
「もしかしてまたあの正面玄関まで・・・」私は青ざめる。
「ええ、そうですが。車をお付けして」
 えー・・・。
 ちょっとやめてよ。
 目立つーー! せめて駐車場の出入り口にするとか。…誘拐犯と間違われちゃうかな。
「生モノ以外でもダメなんだな。ひどいアレルギーがあったものだ」
「お言葉ですが、出張に行かなければアレルギーになってなかったですよね」私はきつめに反論した。
「結果論ではね。だが半分以上キミの不注意だ。海老の食べすぎは接待だから仕方ないにしても、池に落ちたのも、キトサン入りの飲料を一気に飲んだのも」ううう…。「あれがなければ食べすぎによる疑似アレルギー状態はだんだん落ち着いていただろう。不運というべきか…。だが池はねえ、子供じゃないんだからねえ…。施設の人間も驚いただろうねえ」言わないで! もう一生キトサンは口にしません!
「私がいればまだ何とか対処できるが、一人だと危険だな。誰か助役がいた方がいいんじゃないか。ああいうモールくらいなら付き合えるが、いつもというわけにいかないしなあ」
「あ、それは間に合ってるからいいです」会長にモール付き合ってもらおうなんて思ってないし。
「・・・・・え?」
 しかし会長の顔はそこで固まり、それから無言になった。じっと窓の外を向いて腕組みしたまま動かない。

 しーん…。

 
 え? え?
 なにかまずいこと言っちゃった?
 モールなんて地元の知り合いで十分、て意味で言ったんだけど。
 
 どうしよう……気に障った? またやっちゃった……。
 
 突然会長にカメラ向けて『撮っていいですか?』なんてやったら空気変わりそうだけど、無理。


 空気がぴんと張り詰める。
 やっぱ修正しようぜ、その性格。
 



 静まり返る車内…、
 会長は全然別なことを考えていた。

(うーん、どうしようかな・・・)






 車はオペラシティを過ぎ幡ヶ谷で高速を出た。アパートの外観が見えて一気に現実に戻り、外に出るとむわっと暑い。
「どうもありがとうございました」
 同じく車を降りて目の前に立つ会長に頭を下げた。
「ふっ、気を付けてくれよ。またあんな騒動起こしてくれたんじゃたまらないからな」
「はっ、はい」
 良かった…。笑顔が戻ってる。

「じゃあ、おやすみ」

 ほっとしたのもつかの間、会長はさっさと車に乗り込み去って行った。

 ・・・・・見送る。

 え、それだけ?

 レオさんとアランさんには親友らしい熱き抱擁を。
 ルリカさんと、仲が悪いはずのエリザベスさんでさえ、
 頬を合わせてハグっぽいことしてた・・・よね。


 してた、してた、してましたよね!!


 それにくらべてえらいあっさり……『あー、疲れた』みたいな引き揚げ方。この差は何。

 私だって走り回って気絶して疲れた!

 そもそも会長が似合いもしないモールなんか行くからあんな目に遭ったのに!
 モールなんて全然興味なさそうだったのに。なのに、なのに…。

 
 もやもやするー。
 私はぶつけようのない薄暗い思いを消化しきれず、朝まで悶々としたのだった。



 


 終





しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...