タイムリミット 💍

シナモン

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タイムリミット

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「何言ってんの、あほ! もういい、じゃあ、このまま帰る」

 なんとかバランスをとって立ち上がり男の手を振り払った。
 
「まてって、そんな恰好で…冗談言うなや」
「しょうがないじゃない」
「本気かいな」
「誰か親切な人がTシャツくらいめぐんでくれるでしょ」

 隠すのやーめた! もうどうにでもなれーー。小走りにドア間際にかかる。あのハイヒールの時もそうだけど後先考えない。よくない病気だけどーー仕方ないわ。

 こんな奴の餌食になるよりマシだー!

「あー、もう、わーったよ。服、きーや」

 男は慌てて衝立の向こうに行って私の服を取り出した。
 服! あるんかい! バッグも靴も。私は鬼スピードで受け取ると逆に衝立の向こうに下がった。

「ーー強情な女やな。て、俺、恩人なんやけどな」

 しばらくして、声が近づいてきたと思ったら、男は衝立から覗き込んで、私を抱き寄せた。私はなんとか下着と服ーシャツワンピを着て、あとは靴……というところだった。

「っ……」

 すごい速さでキスされた。
 吸い付くようなキス。舌を絡めてくる。
 こんなキス、今までのどの男とも違う。

「やめ……」
「これでおあいこ」

 冗談……! きつく抱きしめられて股に足を差し込まれた。「あ!」私を刺激する。右手で後頭部を押さえ込まれ、一層深く口腔を弄られた。瞬間すごい衝撃が走る。

「ええ体してんねんな、顔かてきれいやし」
「ダメっ……」

 力こめて男の胸を押した。

 ……! すかさず腕を掴まれる。

「やーめーろー!」

 トウッ…。空手風に払いのけ離れた。シャツのボタンを閉じて、髪をかきあげる。

「かっこええやん」

 狼みたいに男の目がギラついた。強い野生的な瞳。照明を映してギラギラ光を放つ。

「そんなヘロヘロのシャツで家に二人きりで、そりゃあ、おっさんもぐらっとくるわな」
 ヘロヘロ!? 高かったんですけど。
「こんな時にお世辞?……悪かったわね、可愛い子じゃなくて」
「は? なんで」
「男はかわいい子が好きでしょ!」
「そんなん好き好きやんか」
「つまんないわ、どいつもこいつもかわいい、かわいい連発で! キモ」
「……あんたなんかあったん」
 男は呆れたような顔をして、少し間が空いた。そしてふっと笑って、
「それでも女には変わりないで、気をつけなあかん」再び手首をつかまれる。
「はなして…」
「……『未遂』でしょうね?」かろうじて腕をつかんで抵抗を試みる。
「知らんわ。やったのおっさんやからな。とりあえずあの状態やったで」

 信じられない!

「……おじさん、家族が帰って来るかもしれないから退去できないって。占有?なんてあるわけないわ」

 私が知ってるおじさんは確かに家族思いという感じではなかったけど、部屋での様子はさみしそうに見えた。
 そんな人が@/ピーほにゃららするかっての。

「あのなあ、そもそもあの辺一帯こっちのもんなの。正式には古くからの国の直轄領。不法占拠者が出ていくんは当たり前のことなんやで」
「うそ……」
「あんたにはあのおっさん、まともな人間に見えるん?」
 聞かれてドキッとした。
「家の中見てみいな。ーー競馬競輪パチスロ……。どっぷりギャンブルに浸かっとるやろ。不動産でせこいことしだしたらまずまともな職には戻れんよ。そういうおっさんやから家族が出ていったんやろ」

「それは……」おじさんちの廊下に積まれてた新聞、赤い丸印が見えた。

「家賃滞納してバックレるんも困るけどな。おっさんは違う、その筋のプロや」
「なんね、あんた、妙に詳しいけど」
「だからー、俺は地上げ屋やないで。強いて言えば立ち退かせ屋」
「やっぱり! その手の輩じゃない」

 体を振りほどき、急いでドアに向かった。男はさっと手を伸ばして遮る。

「まあ待てや、九鬼塔子さん」
「なんで、名前っ」やだ、名刺見られた?
「そら飛んだハプニングやもん。上に報告せなあかんし」
「……報告って、まさか誰かに名前をさらすの?」
「そりゃそうやん、対象物件でナニされてたわけやし」
「何言ってんの、やったのあんたでしょうが」
「俺やない」
「目が覚めたら別の部屋で裸で寝てましたって完全に犯罪じゃん。……仮に本当だとしてさっさと服着せるでしょ、普通」
「そうしよう思うてたとこで、あんたが目覚ますから」
「調子のいいこと言うな!」

 しばらく見つめあう。
 ……これはやっぱりそうでしょ、こういう場合は絶対に、

「警察に行く」

「しゃーないなあ」

 男は顔をしかめた。

「落ち着いて話さんか? どこか店で。そしたら、黙っといたるわ」
「はあ?」

 コノヤローと手を伸ばしたらバシッと掴まれた。

「助けられといてそれはないやろ。……何なら俺と付き合わへん?」
「ええー? あんた頭おかしいの?」
「何でや。ええやろ別に、相性ええと思うんやけどな」

 きさん……、と言いそうになって本気で突っかかろうとしたがびくともしない。

「ええやんか、日を改めて会いに行くんは自由やろ。それで始めたらええねん」
「何を始めるとーー? 私にだって付き合ってる人」

 はっとそこで口をつぐんだ。

「え、そうなんや、残念」

 男がぱっと手を離したのでまたまたバランスを崩してこけそうになる。

「まあええわ、何も見なかったことにする。もう関係ないおっさんの罪状増やしてもしゃあないわ」
「何言ってんの、証拠がないでしょ」
「ふっ、ええもん拝ませてもらってラッキーやったわ♪」

 うってかわってあっさり、男は私の肩を抱きドアのところまで促した。

「はい、おつかれさんでしたー」

 私はきっと振り向き、

「未遂でもなんでも訴えたらこっちの勝ちだからね」
「だからちゃうねんて……気の強いねーちゃんやな~、彼氏おるんやったらなおさらあんなとこにいてたらあかんやろ。まあまた会おうな」
「しつこいっ」

 強い輝きを放つ目は、それが必ず実現すると物語っていた。 
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