54 / 65
【前日譚】都筑家の事情
14
しおりを挟む
香港に滞在し、改めて思うことがある。
香港には風水師の監修の下、あちこちに奇妙な建て方をしているビルが存在する。
香港だけでなく中国の大都市はどこも基本風水に基づいて計画がなされているが香港は特に際立つ。
大きな空洞のあるビルや、複雑な形状をしたビル。気の流れをよくするためにあえてそうデザインされているのだ。
もっとも有名なのは中国銀行ビルと香港上海銀行ビル、統治時代の政府関連のビルだろう。
後に建立した中国銀行のビルは鋭利なカッターをほうふつさせる形をしており、刃先がそれらのビルに向けられているのだ。
明らかに敵対心満々のデザインだが、それに対抗して後年香港上海ビルの屋上に砲台が付け加えられた。
もちろん照準は中国銀行ビルだ。砲台とは…。冗談のような事実である。
香港上海銀行のシンボルと言えば堂々たる獅子像である。
そしてこの部屋にも大きな獅子の顔が4体埋め込まれている。
獅子に囲まれたメインエリアの長いソファに寝そべり見上げるとまるで獅子に守られているようにも思える。
ひょっとしてこれも何か意味があるのか…。
「君は風水を信じる?」
ライオンの壁の裏側にあるバーコーナーから出てきたシンイーに聞いてみた。
「もちろんよ。気の流れが悪そうな場所にはいかないわ」
「わかるのか」
「なんとなくね。あと調子悪いとき、病院じゃなくて風水師のところに行く人もいるわ」
「へえ」
「よくなるんだって。私はさすがに病院へ行くけど」
はい、と飲み物を渡された。
抹茶リキュールのカクテルと緑茶にヤクルトを混ぜた台湾式のジュースだ。
「なに? カクテルにカルピス入れるの初めて見た。甘党だった?」と彼女は隣のソファに腰かけた。
「たまに飲みたくなるんだよ」
起き上がり薄いグリーンのメロンのような色をしたふわふわの飲み物に口をつけた。今日はバーテンダーを呼んでいる。
「どんな味?」
「そのままだよ、抹茶とカルピスの味」
ミントやら果汁は混じってるがおおむねそうだ。
子供のころ母が色んなミックスカルピスを作ってくれた。
奇妙なことに風邪気味の時濃いめのカルピスを飲むとすぐによくなった。
それが身体に沁みついているのだろう。
「…風水と言えばこの部屋も最強よね。風水的に」
「え?」
「獅子の像が4つも…。四神じゃないけど、やっぱり聖獣でしょう。それに私獅子座だし」
「ああ、占いの話」
「すごいパワーをもらえる気がする。出来たらずっとこの部屋にいれたらいいな」
「それはどういう意味」
「仲良く出来たらいいなってこと。わがままは言わないわ」
やっぱり部屋目当てなんじゃないか。
守り神ねえ。
そんな見方をする人間もいるんだな。
獅子に守られているのだろうか…。
なんだか守られすぎてつまらない男になってやしないか。
「ねえ、カルピスって全色揃ってるの」
「ああ、味が? たぶんね」
「何か作ってもらおうかな。美味しそうね」
「半分薬のつもりで飲んでるんだけどね」
「是因为它是乳酸菌吗?」
なんだ、いきなり。
「ああ」
「私はマミーが好きなの。日本へ行くと必ず買って帰るわ」
「日本のものは大概上海にも売ってるんじゃないか」
「あるかもしれないけど見たことない」
というかマミーってなんだ?
「ヤクルトみたいなジュースもあるでしょ、日本にはいろんな種類があるわ、乳酸菌」
乳酸菌が言いにくいのか。そこだけ中国読みになってる。
「きれいな夜景…」
ずっといたいと言われて少しざわっとした。
いよいよ結婚を意識しだしたか。
…あれ以来、茂木から連絡はなく、趣味もきっぱりやめたのか何も知らない。
もしも茂木が結婚するなんてことになれば、すぐにも話が回ってくるだろう。
茂木の父親とうちの父は非常に親しい。
香港には風水師の監修の下、あちこちに奇妙な建て方をしているビルが存在する。
香港だけでなく中国の大都市はどこも基本風水に基づいて計画がなされているが香港は特に際立つ。
大きな空洞のあるビルや、複雑な形状をしたビル。気の流れをよくするためにあえてそうデザインされているのだ。
もっとも有名なのは中国銀行ビルと香港上海銀行ビル、統治時代の政府関連のビルだろう。
後に建立した中国銀行のビルは鋭利なカッターをほうふつさせる形をしており、刃先がそれらのビルに向けられているのだ。
明らかに敵対心満々のデザインだが、それに対抗して後年香港上海ビルの屋上に砲台が付け加えられた。
もちろん照準は中国銀行ビルだ。砲台とは…。冗談のような事実である。
香港上海銀行のシンボルと言えば堂々たる獅子像である。
そしてこの部屋にも大きな獅子の顔が4体埋め込まれている。
獅子に囲まれたメインエリアの長いソファに寝そべり見上げるとまるで獅子に守られているようにも思える。
ひょっとしてこれも何か意味があるのか…。
「君は風水を信じる?」
ライオンの壁の裏側にあるバーコーナーから出てきたシンイーに聞いてみた。
「もちろんよ。気の流れが悪そうな場所にはいかないわ」
「わかるのか」
「なんとなくね。あと調子悪いとき、病院じゃなくて風水師のところに行く人もいるわ」
「へえ」
「よくなるんだって。私はさすがに病院へ行くけど」
はい、と飲み物を渡された。
抹茶リキュールのカクテルと緑茶にヤクルトを混ぜた台湾式のジュースだ。
「なに? カクテルにカルピス入れるの初めて見た。甘党だった?」と彼女は隣のソファに腰かけた。
「たまに飲みたくなるんだよ」
起き上がり薄いグリーンのメロンのような色をしたふわふわの飲み物に口をつけた。今日はバーテンダーを呼んでいる。
「どんな味?」
「そのままだよ、抹茶とカルピスの味」
ミントやら果汁は混じってるがおおむねそうだ。
子供のころ母が色んなミックスカルピスを作ってくれた。
奇妙なことに風邪気味の時濃いめのカルピスを飲むとすぐによくなった。
それが身体に沁みついているのだろう。
「…風水と言えばこの部屋も最強よね。風水的に」
「え?」
「獅子の像が4つも…。四神じゃないけど、やっぱり聖獣でしょう。それに私獅子座だし」
「ああ、占いの話」
「すごいパワーをもらえる気がする。出来たらずっとこの部屋にいれたらいいな」
「それはどういう意味」
「仲良く出来たらいいなってこと。わがままは言わないわ」
やっぱり部屋目当てなんじゃないか。
守り神ねえ。
そんな見方をする人間もいるんだな。
獅子に守られているのだろうか…。
なんだか守られすぎてつまらない男になってやしないか。
「ねえ、カルピスって全色揃ってるの」
「ああ、味が? たぶんね」
「何か作ってもらおうかな。美味しそうね」
「半分薬のつもりで飲んでるんだけどね」
「是因为它是乳酸菌吗?」
なんだ、いきなり。
「ああ」
「私はマミーが好きなの。日本へ行くと必ず買って帰るわ」
「日本のものは大概上海にも売ってるんじゃないか」
「あるかもしれないけど見たことない」
というかマミーってなんだ?
「ヤクルトみたいなジュースもあるでしょ、日本にはいろんな種類があるわ、乳酸菌」
乳酸菌が言いにくいのか。そこだけ中国読みになってる。
「きれいな夜景…」
ずっといたいと言われて少しざわっとした。
いよいよ結婚を意識しだしたか。
…あれ以来、茂木から連絡はなく、趣味もきっぱりやめたのか何も知らない。
もしも茂木が結婚するなんてことになれば、すぐにも話が回ってくるだろう。
茂木の父親とうちの父は非常に親しい。
1
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる