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奥様 危機一髪
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空港に近づくと夏目は銃を座席に残して車を乗り捨て、出発便案内で日本行きの便を探した。
「乗り継ぎになるんやな。まあ、ええか」
フライトを選んでカウンターで予約を入れた。数時間前に到着したときと同じように、巨大な空港では機体が絶え間なく離発着し、複数の言語でアナウンスが流れる中、多くの人々が行き交っていた。
違うのは、
「土砂降りやんか、間一髪やったな」
突然スコールが降り始め、瞬く間にネオンがぼやける。
「夏目」
待合ロビーで座って待っていた塔子は混乱した。
「信じられない、午前中は香港にいたのに」
「そうやな」
もう深夜だ。
「何なの、この指輪…」
塔子の左手に光る巨大な指輪は恐怖心と驚愕と色んな思いが詰まってきらり存在感を放つ。
「ちょっとドラマチックすぎたか」夏目は苦笑いした。
「ドラマチックどころか!」
血の気が引くレベルだ。
「お義父様は私が気に入らないのね…」
言葉の後涙が伝った。
「そんなことないわ」
「でしょうね、こんな女」塔子は首を振って否定した。「やっぱり無理たい」
「何言うてんの。今更弱音はいてどうすんねん」
気に入る気に入らない以前に異常事態なのだ、飼いならされた大型犬が我も忘れて本能に戻るなどと。さぞ総帥は驚いただろう。何か対処するとしたらまず犬の方だ、きっとあの犬は改めて手直しされるのだろう。
「あんたすごか。…唯一絶対レベル」
「なんや、それ」
「なんていえばよか、終身名誉?」
「あんたなあ、地味に毎度おもろい(寒い)言い回しするよな」
夏目はふざけたような笑顔を浮かべながら、塔子の肩に手を置いて言った。
「あんなの…そう言うしかなかとよ」
「そうか…それはすまんかった」
顔をあげさせると塔子の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。朝、どんな服を着ていたのか知らないが、今とは全然違うだろう。男物のTシャツにショートパンツとマリンシューズ。誰が見てもラフなリゾート帰り風だが、彼女にはとんでもなくハードな一日だったろう。
舅も舅なら嫁も嫁。さすがに懲りただろう、さすがに。「普通じゃなか、絶対…」
「まあな…」それは否定できない。普通に暮らしていたらまずありえない、確かに尋常じゃない。取引など茶番であって、敢えて指輪がギャングに渡るよう仕組まれた、こんなことができるのも大金持ち限定だろう。
塔子は夏目に抱きついてわんわん泣く。「どげんことね~~~」
「そんなこと言うなや。俺が守ってやるから」
「え?」
「俺が守ったるわ、あのじいさんから」
総帥=都筑父=じーさんは今も監視しているのかもしれないが。
――けったいなお人やで。スパイ衛星で覗き見て。どんだけ高性能やねん。
「おい、じーさん、まだ見てんのやろ? 何を思うてんのか知らんけど、調子乗ってると、そのうち息子にも孫にも相手にされん、さみし~い後期高齢者なるで!」夏目は天を仰ぎ叫んだ。
えー加減にせーよ、俺はおもちゃやないで…。
工作員でも、諜報部員でもないんですけど?
…まあ思う存分見てくれや。俺はもう知らんわ。
夏目は心の中で自嘲の笑みを浮かべる。
「わー、何、撮影?」
「……なわけない、目立つー」
その様子を離れた場所から女性三人組が見ていた。
「関空かな」
「そうでしょ、あんなことするの絶対関西人じゃん」
「大阪って、本当に文化が違う」
「ちょっと羨ましい」
3人はスーツケースを傍らに置き、口々に囃した。
大阪行きフライトのアナウンスが流れる。
「しゃーないわ、金がすべて言うたんは俺やしな」
夏目は優しく塔子の頭を撫でた。
塔子を待ち構えているのは、幸せで優しい金持ちの暮らし…だけではなさそうだ。
いくとこまでいくしかねーわ。
決まってしまったからにはな。
「はーあ、俺の仕事やしな。お守りしますよ、奥様」
「守ってくれんでよかと」
「あ?」
「負けとられんばい。見られたっちゃしゃーない」
つえ―女。やっぱあの舅にこの嫁アリや。絶妙な人選なわけやね。
おもろくなりそーやん。にや。
「…そろそろ行くか」
「ところでどこ行くと、関空?って大阪?」…もしかしてお盆の帰省?「いやいや」話しながら二人は搭乗ゲ―トに向かう。
「ほらね、やっぱり関空じゃん」それを見てまた3人は囁いた。
「あんな人、大阪しかいないよね」
「仲良く腕組んでさ」
「まあ、関西人って言えばそうかもね」
「うん、イチャコラして仲良く腕組んで空港を歩くなんて、無理無理、できないわ――」
3人はもう少し時間をつぶさなければならなかった。それがイチャコラかどうかは別として、最後に彼女らの視界に入ったのは、夏目と塔子が笑顔で歩いていく姿だった。
いつのまにか、雨はやんでいた。
「乗り継ぎになるんやな。まあ、ええか」
フライトを選んでカウンターで予約を入れた。数時間前に到着したときと同じように、巨大な空港では機体が絶え間なく離発着し、複数の言語でアナウンスが流れる中、多くの人々が行き交っていた。
違うのは、
「土砂降りやんか、間一髪やったな」
突然スコールが降り始め、瞬く間にネオンがぼやける。
「夏目」
待合ロビーで座って待っていた塔子は混乱した。
「信じられない、午前中は香港にいたのに」
「そうやな」
もう深夜だ。
「何なの、この指輪…」
塔子の左手に光る巨大な指輪は恐怖心と驚愕と色んな思いが詰まってきらり存在感を放つ。
「ちょっとドラマチックすぎたか」夏目は苦笑いした。
「ドラマチックどころか!」
血の気が引くレベルだ。
「お義父様は私が気に入らないのね…」
言葉の後涙が伝った。
「そんなことないわ」
「でしょうね、こんな女」塔子は首を振って否定した。「やっぱり無理たい」
「何言うてんの。今更弱音はいてどうすんねん」
気に入る気に入らない以前に異常事態なのだ、飼いならされた大型犬が我も忘れて本能に戻るなどと。さぞ総帥は驚いただろう。何か対処するとしたらまず犬の方だ、きっとあの犬は改めて手直しされるのだろう。
「あんたすごか。…唯一絶対レベル」
「なんや、それ」
「なんていえばよか、終身名誉?」
「あんたなあ、地味に毎度おもろい(寒い)言い回しするよな」
夏目はふざけたような笑顔を浮かべながら、塔子の肩に手を置いて言った。
「あんなの…そう言うしかなかとよ」
「そうか…それはすまんかった」
顔をあげさせると塔子の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。朝、どんな服を着ていたのか知らないが、今とは全然違うだろう。男物のTシャツにショートパンツとマリンシューズ。誰が見てもラフなリゾート帰り風だが、彼女にはとんでもなくハードな一日だったろう。
舅も舅なら嫁も嫁。さすがに懲りただろう、さすがに。「普通じゃなか、絶対…」
「まあな…」それは否定できない。普通に暮らしていたらまずありえない、確かに尋常じゃない。取引など茶番であって、敢えて指輪がギャングに渡るよう仕組まれた、こんなことができるのも大金持ち限定だろう。
塔子は夏目に抱きついてわんわん泣く。「どげんことね~~~」
「そんなこと言うなや。俺が守ってやるから」
「え?」
「俺が守ったるわ、あのじいさんから」
総帥=都筑父=じーさんは今も監視しているのかもしれないが。
――けったいなお人やで。スパイ衛星で覗き見て。どんだけ高性能やねん。
「おい、じーさん、まだ見てんのやろ? 何を思うてんのか知らんけど、調子乗ってると、そのうち息子にも孫にも相手にされん、さみし~い後期高齢者なるで!」夏目は天を仰ぎ叫んだ。
えー加減にせーよ、俺はおもちゃやないで…。
工作員でも、諜報部員でもないんですけど?
…まあ思う存分見てくれや。俺はもう知らんわ。
夏目は心の中で自嘲の笑みを浮かべる。
「わー、何、撮影?」
「……なわけない、目立つー」
その様子を離れた場所から女性三人組が見ていた。
「関空かな」
「そうでしょ、あんなことするの絶対関西人じゃん」
「大阪って、本当に文化が違う」
「ちょっと羨ましい」
3人はスーツケースを傍らに置き、口々に囃した。
大阪行きフライトのアナウンスが流れる。
「しゃーないわ、金がすべて言うたんは俺やしな」
夏目は優しく塔子の頭を撫でた。
塔子を待ち構えているのは、幸せで優しい金持ちの暮らし…だけではなさそうだ。
いくとこまでいくしかねーわ。
決まってしまったからにはな。
「はーあ、俺の仕事やしな。お守りしますよ、奥様」
「守ってくれんでよかと」
「あ?」
「負けとられんばい。見られたっちゃしゃーない」
つえ―女。やっぱあの舅にこの嫁アリや。絶妙な人選なわけやね。
おもろくなりそーやん。にや。
「…そろそろ行くか」
「ところでどこ行くと、関空?って大阪?」…もしかしてお盆の帰省?「いやいや」話しながら二人は搭乗ゲ―トに向かう。
「ほらね、やっぱり関空じゃん」それを見てまた3人は囁いた。
「あんな人、大阪しかいないよね」
「仲良く腕組んでさ」
「まあ、関西人って言えばそうかもね」
「うん、イチャコラして仲良く腕組んで空港を歩くなんて、無理無理、できないわ――」
3人はもう少し時間をつぶさなければならなかった。それがイチャコラかどうかは別として、最後に彼女らの視界に入ったのは、夏目と塔子が笑顔で歩いていく姿だった。
いつのまにか、雨はやんでいた。
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