初恋エンジン‼︎ー武蔵社宅の少年少女の日々ー

藤沢 南

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電子オルガンとエレクトーン

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  居眠りの癖は、だいぶ改善されてきた。根岸先生との、あの日の涙の約束もさる事ながら、隣に満川がいる事が結構プレッシャーになった。アッコは起きろ、と後ろからでも蹴りを入れてくるようなところがあったが、満川は心配そうな目で、こちらをじっと見てくる。「津山君、ちょっと消しゴム貸して。」そういいながら、船をこぎかけた僕を突っつくこともあった。しっかり者の彼女が消しゴムを忘れるなんてありえない。気遣いにあふれた、彼女の起こし方だった。そして僕は、隣に座った彼女に色々な事を教えてもらう事になった。

   夏休みが近づく7月のとある音楽の授業。5人グループに分かれて、宇宙をテーマにした曲を演奏するという事があった。曲は忘れた。唯一覚えている事と言ったら、満川が電子オルガンに細工をして、リズミカルなベース音を響かせながらその曲を演奏した事だった。「カッコいい…」僕は彼女の演奏にすっかり夢中になってしまった。その授業が終わった後、彼女のオルガンに駆け寄った。「満川さん、すごい音がしたけど、このオルガン改造したの?!」

「改造」という言葉に反応して、何人かの男子がわらわらと寄ってきた。この頃、モーターを積んだプラモデルの車の改造が男子の間で流行っていたからだろう。「そんなんじゃないよ。」満川は寄ってきた男子に、オルガンの右側のツマミをいじって音を出してみた。
「ね、こんな音が出るのよ。」「へーえ」誰もそのツマミの使い方を知らなかったのだ。なぜ、彼女は知っているのだろう。そこに気づいた僕は、彼女に聞いて見た。「…うちにエレクトーンがあるのね。そのエレクトーンと同じメーカーだから…。」
   満川は、明らかに、僕と目を合わせてその「エレクトーン」という言葉を発音した。他の男子は、改造ではないと分かった時点で、なーんだ、と散らばっていった。でも僕は、満川の側で、しばらくそのオルガンの鍵盤をいじっていた。不意に、満川が鍵盤に載せた僕の手に彼女の手のひらを乗せてきた。僕は、初めて触れる満川の手のひらに、限りない優しさを感じた。彼女はそのまま、オルガンのペダルを踏んで、ツマミを動かした。陽気な音が、ぽっぽこぽっぽこ出た。

「ね、たとえオルガンが弾けなくても、指を動かさなくても、こんな音が出るんだよ。」

  彼女はにっこりと笑って、僕の手の甲から彼女の手のひらを離した。なんて事はない、2秒ほどの出来事だった。その日から、僕の心の中に、何か暖かいものが育っていった。
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