10 / 111
電子オルガンとエレクトーン
しおりを挟む
居眠りの癖は、だいぶ改善されてきた。根岸先生との、あの日の涙の約束もさる事ながら、隣に満川がいる事が結構プレッシャーになった。アッコは起きろ、と後ろからでも蹴りを入れてくるようなところがあったが、満川は心配そうな目で、こちらをじっと見てくる。「津山君、ちょっと消しゴム貸して。」そういいながら、船をこぎかけた僕を突っつくこともあった。しっかり者の彼女が消しゴムを忘れるなんてありえない。気遣いにあふれた、彼女の起こし方だった。そして僕は、隣に座った彼女に色々な事を教えてもらう事になった。
夏休みが近づく7月のとある音楽の授業。5人グループに分かれて、宇宙をテーマにした曲を演奏するという事があった。曲は忘れた。唯一覚えている事と言ったら、満川が電子オルガンに細工をして、リズミカルなベース音を響かせながらその曲を演奏した事だった。「カッコいい…」僕は彼女の演奏にすっかり夢中になってしまった。その授業が終わった後、彼女のオルガンに駆け寄った。「満川さん、すごい音がしたけど、このオルガン改造したの?!」
「改造」という言葉に反応して、何人かの男子がわらわらと寄ってきた。この頃、モーターを積んだプラモデルの車の改造が男子の間で流行っていたからだろう。「そんなんじゃないよ。」満川は寄ってきた男子に、オルガンの右側のツマミをいじって音を出してみた。
「ね、こんな音が出るのよ。」「へーえ」誰もそのツマミの使い方を知らなかったのだ。なぜ、彼女は知っているのだろう。そこに気づいた僕は、彼女に聞いて見た。「…うちにエレクトーンがあるのね。そのエレクトーンと同じメーカーだから…。」
満川は、明らかに、僕と目を合わせてその「エレクトーン」という言葉を発音した。他の男子は、改造ではないと分かった時点で、なーんだ、と散らばっていった。でも僕は、満川の側で、しばらくそのオルガンの鍵盤をいじっていた。不意に、満川が鍵盤に載せた僕の手に彼女の手のひらを乗せてきた。僕は、初めて触れる満川の手のひらに、限りない優しさを感じた。彼女はそのまま、オルガンのペダルを踏んで、ツマミを動かした。陽気な音が、ぽっぽこぽっぽこ出た。
「ね、たとえオルガンが弾けなくても、指を動かさなくても、こんな音が出るんだよ。」
彼女はにっこりと笑って、僕の手の甲から彼女の手のひらを離した。なんて事はない、2秒ほどの出来事だった。その日から、僕の心の中に、何か暖かいものが育っていった。
夏休みが近づく7月のとある音楽の授業。5人グループに分かれて、宇宙をテーマにした曲を演奏するという事があった。曲は忘れた。唯一覚えている事と言ったら、満川が電子オルガンに細工をして、リズミカルなベース音を響かせながらその曲を演奏した事だった。「カッコいい…」僕は彼女の演奏にすっかり夢中になってしまった。その授業が終わった後、彼女のオルガンに駆け寄った。「満川さん、すごい音がしたけど、このオルガン改造したの?!」
「改造」という言葉に反応して、何人かの男子がわらわらと寄ってきた。この頃、モーターを積んだプラモデルの車の改造が男子の間で流行っていたからだろう。「そんなんじゃないよ。」満川は寄ってきた男子に、オルガンの右側のツマミをいじって音を出してみた。
「ね、こんな音が出るのよ。」「へーえ」誰もそのツマミの使い方を知らなかったのだ。なぜ、彼女は知っているのだろう。そこに気づいた僕は、彼女に聞いて見た。「…うちにエレクトーンがあるのね。そのエレクトーンと同じメーカーだから…。」
満川は、明らかに、僕と目を合わせてその「エレクトーン」という言葉を発音した。他の男子は、改造ではないと分かった時点で、なーんだ、と散らばっていった。でも僕は、満川の側で、しばらくそのオルガンの鍵盤をいじっていた。不意に、満川が鍵盤に載せた僕の手に彼女の手のひらを乗せてきた。僕は、初めて触れる満川の手のひらに、限りない優しさを感じた。彼女はそのまま、オルガンのペダルを踏んで、ツマミを動かした。陽気な音が、ぽっぽこぽっぽこ出た。
「ね、たとえオルガンが弾けなくても、指を動かさなくても、こんな音が出るんだよ。」
彼女はにっこりと笑って、僕の手の甲から彼女の手のひらを離した。なんて事はない、2秒ほどの出来事だった。その日から、僕の心の中に、何か暖かいものが育っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
契約結婚!一発逆転マニュアル♡
伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉
全てを失い現実の中で藻掻く女
緒方 依舞稀(24)
✖
なんとしてでも愛妻家にならねばならない男
桐ケ谷 遥翔(30)
『一発逆転』と『打算』のために
二人の契約結婚生活が始まる……。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる