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冬の日々
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武蔵市最後の冬休みは、あまりイベントにも恵まれず、スイミングも年末年始休暇に入った。よっていつも通り新聞配達と、家では母の手伝いをしていた。でも、ダンボールへ物を詰める作業は断固として手伝わなかった。やるだけで辛くなるからだ。僕の使っている遊び道具と本の一部だけダンボールに入れて、それで知らん顔をしていた。夏と違い、冬休みは、プールの自主練も出校日の図書整理もない。手伝いをしない日は、社宅の中にいる友達とファミコンをしたり、雪がふれば雪合戦をした。こんなに学校に行きたい長期休暇は本当に初めてだった。しかし、待ちに待った3学期が始まると、今まで予想していなかった事態が起きてしまう。…その3学期の記憶が強いせいか、武蔵市最後の冬休みがほとんど記憶にないのかもしれない。よく言えばつかの間の平穏な日々だった。
平穏な日は、3学期の第3週目まで続いた。僕は将棋クラブで活動していたが、学年末のトーナメント戦で対戦相手に恵まれ、準決勝まで進んだ。第三小学校は週一のクラブ活動があり、将棋クラブは球技クラブの次に男子の部員が多く、学年の異なる友人もできた。いつも優勝する6年の荻原くんには一度も勝てなかったが、彼は惜しげも無く自分の戦術を僕に伝授してくれた。…そういえば。将棋を覚えたきっかけは、小2の時によく遊んでくれた小野くんのお父さんが作ってくれた手製の将棋のルール表だった。この武蔵市でいろんな友人と出会い、いろんな大人の支えを受けた。転校へのタイムリミットは確実に進んでいたが、この時期は不思議とそれを意識することはなかった。
準決勝で当たる相手は、武田という3組の男の子だった。この少年は、無口でおとなしいが、欠落の少ない子で、通信簿で言うなら、どんなクラスに入ってもオール4を取れるような子だった。将棋の腕もなかなかで、荻原くんに教わった棒銀線法を試すには絶好の対戦相手だったと言える。しかし、準決勝は、2週間順延される。彼が出席するまで僕は準決勝を行えなかった。
この武田とはよく遊んだ仲だった。だが、去年の夏は一味違った。スイミングに明け暮れて、自由研究のネタが思いつかず悩んでいた僕に、「お茶の銘柄を研究しよう」と共同で自由研究をやることを持ちかけてくれたのだ。彼の家族のツテでお茶の製茶所にも行かせてもらった。そういう意味では、いろいろと助けてもらうことが多かった友人だった。2回も準決勝が延期した日の将棋クラブの解散後、僕は顧問の先生に聞いてみた。「…武田くん、2週間欠席しているんだ」僕はびっくりした。健康優良児の彼が、重い病気になることは想像がつかなかった。「武田くん、重い病気なんですか?」顧問の先生は、奥歯にものが挟まったような言い方だった。「…。5年3組の担任の村本先生からも、なんで休んでいるかの説明がないんだ。だから、先生にも、欠席の理由がわからない。」
「なんか、重い病気とかなってなければいいが…。」
武田のお母さんと僕の母は知り合いだったが、引っ越し作業で忙殺される母に、武田家の事情を詮索する余裕はなかった。母親からの情報はなかった。
小2の頃、クラスメイトの女の子が重い肺炎にかかり、命が危ぶまれたことがあった。当時担任の小峰みゆき先生のお気に入りの女子で、先生の発案で千羽鶴を折って彼女の回復を祈った事があった。その女子は1ヶ月休んだが、無事に退院できた。
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