氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依

文字の大きさ
12 / 70
第1章 レアスキルは偉大

11話 帝国領を出る事にした

しおりを挟む
 ショウは朝市から帰りホッと一息をつきちゃぶ台の前に座る。すると、すぐにシスティナがお茶を淹れて持ってきてくれた。

「ご主人様のおかげでだいぶん体力も戻ってきましたよ」
「そうだな。これからはハウスの外に出て運動をしても大丈夫なんじゃないか」
「わかりました。この広場で体力をつけたいと思います」

 その日から、システィナはハウスの前で腕立て伏せや腹筋運動をする事にした。

「おいおい!亜人奴隷がこんな所で何やってんだよ」
「だな?誰の許可を得てこの場所で運動をしているんだよ」
「えっ・・・ここは領主様が好意で解放してくださっている広場ですよね」
「「「「「ああそうだ!」」」」」
「ここは領主様がヒューマン族に解放してくださっている広場なんだ。お前のような亜人に解放されてはいないんだよ」
「だけど、私のご主人様はヒューマン族です」
「そうだ。ヒューマン族はいいんだよ。お前のような亜人は駄目と言っているんだ」
「「「「そうだそうだ!亜人はそのテントの中に入ってろ」」」」

 そのヒューマン族は、広場を利用している低ランクの冒険者だった。その冒険者達は、帝国出身の人間のようで亜人であるシスティナが目障りのようだった。

「だ、だけど・・・私はご主人様に指示を受けて毎日の日課である運動をしなくてはならないんです」
「だから、言っているだろうが!ここはヒューマン族が利用できる広場なんだよ。亜人がいるのは目障りなんだ」
「お願いします。この一角だけでいますので」
「「「「「駄目だ!」」」」」
「亜人がいるのは認めねぇ!」

 そこに、広場の見回りをする衛兵が駆け寄ってくる。

「こらぁ!何をやっているんだ!騒ぎを起こすとここを出禁にするぞ!」
「衛兵さん違うんですよ。ここを亜人がうろついていたからこいつにテントに入らせようとしてただけなんですよ」

 低ランク冒険者は、広場を警備する衛兵に丁寧に説明をして、自分達には非がないことを訴えた。

「亜人がだと。ま、まさかお前達・・・この奴隷に何かやったのではないだろうな?」
「そんな事をすればただじゃ済まないのはお前達の方だぞ」

 衛兵は必ず二人一組で行動が義務付けられているのだが、二人の衛兵は、システィナの顔を見て顔面蒼白になる。

「何を言っているんですか?こいつは亜人ですよ。それに奴隷がここをうろついていたんです」
「「馬鹿者共が!」」
「この奴隷の主人が誰なのか知らんのか?領主様からの掲示板にあっただろうが!」
「「「「「はっ?」」」」」
「どういう事ですか?なんで亜人ごときにそんな気を使うのですか?」
「馬鹿者共が!我等が奴隷になんか気を使うはずないだろうが!気を使うのはコヤツの主人だ」
「こいつの主人がどうしたのですか?広場を使うような低ランクの冒険者でしょ」
「確かにそやつの主人は冒険者ギルドにも登録はしておらんよ」
「「「「「はぁあ!?」」」」」
「だったら、生産ギルドか商人ギルドのどちらかに?」
「それならまだ良かったんだよ。お主達のせいで空間魔導士様がこの町を離れるかもしれんのだぞ。これがどれだけ町の損失になるかわかっているのか?」
「「「「「「く、空間魔導士様ぁ!?」」」」」」
「ああ・・・コヤツの主人は空間属性魔法の使い手だ。この事で我が主人ルーデンバッハ様が掲示板で声明を出されたのだ。空間魔導士様の奴隷はエルフ族の女だが、決して手を出さず誹謗中傷も認めないとな。それをお前らは・・・」
「そ、そんな・・・俺達は知らなかっただけなんです・・・まさか、そんなお人が広場を利用しているなんて思わなかったんです」
「そんな言い訳が通るはずがないだろうが!」

 領主はショウの存在を知っていた。それはショウが初めてこの町に訪れた時の門番の兵士と、この広場を利用した時の衛兵の二人が領主に報告をあげていたからだ。領主はショウに屋敷まで来てほしいとコンタクトをとっていたのだが、ショウはそれをずっと断わっていた。システィナがいるので、近々この町を去るつもりでいたからしがらみを作りたくなかったのだ。
 領主の謁見を簡単に断れるほどに、レア属性魔法所持者は力がある世界なのだ。これが基本属性魔法所持者ならば、領主の謁見を断れなかっただろう。それ以上に帝国領は人至上主義者が多く、システィナのような種族は住みにくい国だった。
 
「システィナどうしたんだ?何かあったのか?」

 そこにちょうどよくショウが帰ってきて、騒ぎを目にしたのだ。

「「ショウ様!」」
「申し訳ありません。コヤツ等があなたの奴隷に悪さをしたみたいで!」
「「「「「俺達は知らなかったんだ」」」」」
「あなたのような人の奴隷なら絡まなかったんだ!」
「システィナ、こいつらに何をされたんだ?」

 ショウは冒険者であろう男達は無視して、システィナに何があったか聞いた。それを見て冒険者達はシスティナに余計な事は言うなよとアイコンタクトを必死に送ったが、それは無理と言うものである。

「あ~・・・お前達に言っておくが、システィナは俺の奴隷だから嘘はつけないよ。だから、システィナを睨んでも心象が良くないからやめたほうがいい」
「「「「「「ぅぐ!」」」」」」
「そうだ!お前達は我が主人ルーデンバッハ様に裁かれるがいい!」
「そ、そんな・・・俺達はただ!」
「それでシスティナ、何をされたんだ?正直に言ってみな」
「えーっと、暴力はされていません。ただ、亜人はこの広場を使うなと暴言を・・・」
「「「「「「うっ・・・」」」」」」
「俺達はただ、亜人がいやエルフ族がうろついていたから」
「はぁあ!?だからなんなんだよ?システィナは誰にも迷惑をかけていないだろ?」
「それは、亜人・・・いやエルフ族がいたら迷惑に・・・」

 ショウは冒険者達の言い訳に腹が立った。自分達の立場ばかりの言葉でシスティナに謝罪すらしなかったのだ。

「ご主人様・・・私なら大丈夫です。だから・・・」
「システィナ。お前は何も悪くないだろ?だから、そんな事を言ったら駄目だ」
「奴隷がいいって言っているじゃないか」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」
「俺達は悪くないだろ?なぁ、奴隷のお前もそう言ってくれよ」
「システィナは本当にそれでいいのか?」
「は、はい・・・これ以上ご主人様の迷惑にはなりたくないです」
「わかった・・・お前の意見を尊重しよう。俺もこんないざこざに巻き込まれたくないからな」
「ショウ様本当によろしいのですか?こいつ等はあなたの奴隷を蔑まれたのですよ」
「システィナがもういいと言ったからもういいよ」
「「そ、そうですか。」」
「なら私達も何も言えませんね」

 ショウがそう言うと、冒険者達6人は急いでこの場から離れようとするが、衛兵達には大目玉をくらっていた。その際6人はギルドカードを確認されて要注意人物に認定されてしまった。今回の事は当然、領主のルーデンバッハにも報告されたのだった。
 そして、ショウとシスティナは、もう関係ないとばかりにハウスの中に入ってしまう。

「システィナ、ちょっとそこに座りなさい」
「ご、ご主人様・・・」

 システィナはショウの低い声に身体がぴくっと跳ね上がりおずおずとちゃぶ台の前に座る。

「俺はお前の態度にも問題があると思うぞ」
「・・・」
「システィナ」
「は、はい!」
「俺は怒っているわけじゃないんだ。だからそんなに緊張するな」
「で、ですが・・・」
「いいか?お前達他種族にも問題があると思うのは、ヒューマン族に舐められていると自覚する事が必要なんだよ」
「うっ・・・」
「これは大前提として種族差別する人間が一番悪い」
「は、はい」
「だけどな。それを受け入れては駄目だ。俺がシスティナに伝えたいのはそれだけだ。この町の領主様は種族差別は駄目だと公言してくださる立派な貴族様なんだよ。そう言った貴族様もいるんだから理不尽を受け入れては駄目だ。わかったな?」
「はい!」

 この数日ショウは、町に買い物や酒場に繰り出し町の情報を集めていた。神様がこの町の近くに転移させた理由がよくわかったのだった。確かに、システィナがいなければショウにとって住みやすい町なのは確かだったのだ。しかし、種族差別する人間は帝国には少なからずいるのである。王国領に近い町ですら、宿に泊まれなかったり先程のように絡まれるのは日常茶飯事なのだ。
 ショウはこの数日、町でシスティナのように他種族の奴隷を見てきた。その扱いは犯罪奴隷じゃないのに使い潰すのが当たり前の扱いだった。それに飽きたら棄てる事も当たり前で拐われても気にしない主人もいるくらいだった。

「この数日で、帝国ではお前と暮らすのは厳しいと思い知らされたよ」
「ご、ご主人様!私を捨てないでください!」
「馬鹿な事を言うな!お前を捨てるつもりはないからな」

 その言葉を聞いたシスティナは、ホッと一息をつき勢いよく立ち上がった腰を下ろす。

「だから、少し早いがこの町を出て、王国領に向かう事にする。いいな?」

 システィナはショウに捨てられないとわかり、その瞳に涙を溜めて何回も頷くのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...